はじめに
これまで「第一性の遡及的成立」では、構造と構造項の相互構成を説明し、構造内部の差異的契機が個体化されることによって、構造項の個体性と同一性が成立することを論証してきた。
しかし、ここで一つ重要な問題が残されていた。
それは、構造的個体化によって成立した構造項のあいだに、どのようにして存在論的な第一性が成立するのかという問題である。
第一論文では、構造的個体化を表すIと、第一性を表す次の関係を接続している。
I(S, mᵢ → xᵢ)
A ≺_{S,d} B
前者は、構造Sにおける差異的契機mᵢが、構造項xᵢとして個体化されることを表す。後者は、同じ構造Sの規定次元dにおいて、AがBに対して存在論的に優先することを表している。
これまでの議論では、第一性が成立するためには、同一の構造に属すること、同一の規定次元に属すること、非対称的な構成的依存が成立することなどを条件としてきた。
しかし、改めて検討すると、ここには一段階の論証が不足していることが分かった。
それは、次の問題である。
なぜ、あるものの同一性が別のものによって非対称的に決定されているという事実が、その別のものの存在論的優先性を意味するのか。
例えば、AがBの特定の役割を決定しているとする。
しかし、それはAがBを説明するうえで優先しているという意味にすぎないかもしれない。また、AがBの成立に因果的な影響を与えたという意味かもしれない。
説明上の優先性や因果的優先性が、必ずしも存在論的優先性と一致するわけではない。
したがって、構造的個体化から第一性へ進むためには、非対称的な構成的依存がなぜ存在論的な意味を持つのかを、独立して論証する必要がある。
今回は、この問題を解決するため、説明上の優先性と存在論的優先性を区別したうえで、構成的同一性依存から存在論的優先性を導く原理を検討する。
1. 説明上の優先性と存在論的優先性は異なる
まず、今回の問題を考えるために、説明上の優先性と存在論的優先性を区別する必要がある。
説明上の優先性とは、あるものを理解・説明する際に、別のものを先に説明する必要があるという関係である。
例えば、ある組織について説明するとき、その組織の設立者について説明することが先行する場合がある。
しかし、その人物が組織の成立に大きな影響を与えたからといって、その人物が現在も組織の存在条件になっているとは限らない。
設立者がいなくなった後も、組織が同一の組織として存続することは可能だからである。
この場合、設立者は組織を説明するうえで重要な人物かもしれないが、組織の同一性を現在も構成しているとは限らない。
つまり、次の二つは異なる関係である。
- 説明上の優先性: Bを理解するためにAを先に説明する必要がある。
- 存在論的優先性: Bが特定の存在として成立するために、Aの実在的な規定を必要とする。
本理論が問題にしているのは、後者である。
1-1. 因果的な依存は存在論的優先性ではない
例えば、AがBの成立原因になったとする。
しかし、Aが存在しなくなった後も、Bが同じ構造的同一性を維持できるならば、AはBの現在の同一性条件を構成していない可能性がある。
この場合、AはBに対して時間的・因果的に先行しているが、存在論的に第一であるとは限らない。
したがって、因果的依存から存在論的優先性を直接導くことはできない。
1-2. 機能的な依存も、それだけでは十分ではない
同様に、ある対象が別の対象の機能を決定しているとしても、それだけでは第一性は成立しない。
例えば、ある人物が別の人物の仕事の進め方を指示していたとする。
しかし、その指示が変更されても、後者が同じ組織の構成員として成立しているならば、前者が後者の個体性を構成しているとは言えない。
一方、その機能や役割が、特定の構造において、その構造項が何であるかを決める同一性条件になっている場合には事情が異なる。
ここでは、単に機能を変化させているのではなく、構造項としての同一性そのものを成立させているからである。
1-3. 必要なのは実在的な構成関係である
以上から、AとBの関係について、次の区別が必要になる。
| 関係 | Bに対するAの作用 | 第一性の根拠になるか |
|---|---|---|
| 因果的関係 | Bを発生・変化させる | それだけではならない |
| 機能的関係 | Bの働きや活動を調整する | それだけではならない |
| 認識・説明上の関係 | Bを理解するための前提になる | ならない |
| 構成的関係 | Bが特定の構造項として成立する条件を与える | 他の条件も満たせばなる |
重要なのは、構成的関係が単なる説明の仕方ではないということである。
Aの規定が、実際にBの同一性を成立させる構成条件となっていなければならない。
つまり、誰かがBを説明するときにAを持ち出すことと、Bが実際にAによって構成されていることは区別される。
今回の論証では、後者を示す必要がある。
2. 構成的な同一性依存は、なぜ存在論的依存を意味するのか
ここが今回の検証の核心である。
この問題を解決するために、私は第一論文に独立した原理を導入することを提案する。
その名称を「構成的同一性依存原理」とする。
2-1. 構成的同一性依存原理
この原理の内容は次のとおりである。
ある構造項Bが、特定の構造Sおよび規定次元dにおいてBであるための同一性条件が、Aの実在する規定を構成的条件として必要とし、Aのその規定なしにはBが同じ構造項として成立・存続できない場合、BのS・dにおける同一性はAに存在論的に依存する。
この原理が重要なのは、説明上の依存と存在論的な依存を区別する基準を与えるからである。
2-2. Bが何であるかという条件は、Bの存在論的条件である
ここで一つの問いを考えたい。
あるものが特定の構造の内部においてBであるとは、どういうことだろうか。
それは単に、私たちがその対象をBと呼んでいるということではない。
Bという構造項が、その構造において特定の位置・役割・関係・同一性条件を実際に持っているということである。
例えば、ある法律が特定の法体系において有効な法律として成立するためには、その法体系の規範的な成立条件を満たしていなければならない。
その法律の文章が紙や電子データとして存在していることと、有効な法律として存在していることは異なる。
仮に、その法体系において憲法Aの規定が、法律Bの有効性を成立させる構成条件になっているとする。
この場合、Bは文章として存在することはできても、Aの規定が成立していなければ、その法体系における有効な法律としては成立しない。
つまり、Bの特定の構造的同一性は、Aの規定に依存している。
ここでAがBを説明するために便利だから優先するのではない。
Bがその法体系において何であるかという事実そのものが、Aの規定に依存しているのである。
この違いが重要だ。
2-3. 存在論的依存の成立
以上を整理すると、次の推論が成立する。
第一に、Bの同一性条件は、Bがその構造において何であるかを決定する条件である。
第二に、その同一性条件がAの実在的な規定を構成的に必要としている。
第三に、Aの規定が成立していなければ、Bは同じ規定次元において同一性を維持できない。
したがって、Bがその構造においてBであることは、Aの規定に依存している。
ここで成立しているのは、説明上の依存ではない。
Bが特定の構造項として成立するための存在論的依存である。
これが、構成的同一性依存原理の根拠となる。
ただし、この原理は形式論理だけから無前提に導かれるものではない。
本理論が採用している「個体性の存在論的成立には構成的根拠が必要である」という立場を、同一性と存在論的依存の関係にまで展開した形而上学的原理である。
そのため、第一論文では、この原理を単に定義として置くのではなく、Bの存在論的な規定と、Bについての認識・説明を区別することで、その妥当性を論証する必要がある。
3. 非対称的な存在論的依存は、なぜ第一性を成立させるのか
構成的同一性依存原理によって、Bの同一性がAに存在論的に依存することは説明できた。
しかし、これだけではまだ第一性は成立しない。
必要なのは、その依存関係が非対称的であることである。
3-1. 非対称性の意味
ここで、次の二つの関係を区別する。
OD_{S,d}(B,A)
これは、BのS・dにおける構造的同一性がAに存在論的に依存していることを表す。
一方、
OD_{S,d}(A,B)
これは、AのS・dにおける構造的同一性がBに存在論的に依存していることを表す。
この二つが同時に成立するならば、AとBは同じ規定次元において相互に依存している。
その場合、どちらか一方だけを第一とすることはできない。
これに対して、
- Bの同一性はAに依存する。
- Aの同一性はBに依存しない。
という関係が成立する場合、依存関係は非対称的になる。
このとき初めて、Aの存在論的優先性を認めることができる。
したがって、今回の論証を形式化すると、次のようになる。
OD_{S,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,d}(A,B)
この条件が満たされるとき、
A ≺_{S,d} B
が成立する。
つまり、Aは構造Sの規定次元dにおいてBに対して存在論的に優先する。
3-2. なぜ逆方向の依存がないことが重要なのか
例えば、AとBがある組織の内部で互いの役割を規定し合っているとする。
この場合、AがBの同一性条件を決めているとしても、同時にBもAの同一性条件を決めているならば、両者は相互依存の関係にある。
この関係には、非対称的な第一性は成立しない。
反対に、Aの規定がBの同一性条件を成立させている一方、AはBの同一性条件に依存せずに成立しているならば、AとBのあいだには存在論的な依存の方向性がある。
つまり、第一性とは、単にあるものが別のものに影響を与えているということではない。
あるものの同一性が、別のものの同一性よりも構成的に依存していないという、存在論的依存の非対称性である。
ここで初めて、説明上の順序ではなく、存在論的な順序が成立する。
4. Bの存在そのものと、Bの構造的同一性を区別する
今回の検証で、もう一つ重要な点が明らかになった。
それは、存在論的優先性という言葉を、Bの存在全体に対するAの優先性として理解してはならないということである。
この限定は、前回検証したCとIの水準相対性とも直接つながっている。
例えば、先ほどの法律Bを考えてみよう。
憲法Aの規定によって、Bが特定の法体系における有効な法律として成立しているとする。
この場合、Aの規定が失われれば、Bは有効な法律としての同一性を維持できないかもしれない。
しかし、Bという文章や文書が消滅するわけではない。
つまり、Bは別の存在論的水準では存在し続けることができる。
ここでAが優先するのは、Bの存在全体ではない。
Bが特定の構造Sの内部において、規定次元dに関する構造項として成立することに対してである。
したがって、第一性は次のように理解しなければならない。
AがBに対して第一であるとは、AがBの存在全体に先行することではなく、Bが特定の構造において特定の規定次元を持つ構造項として成立するための構成条件において、Aが非対称的に優先していることを意味する。
これは、現在の定義D10にある構造Sと規定次元dの限定を、より厳密に説明するものである。
4-1. 個体性の複数水準との接続
前回のCとIの検証では、同じ担い手が異なる水準で複数の個体性を持つことを確認した。
今回の議論も、それと同じ考え方に基づいている。
ある対象Bは、下位水準では独立した個体として存在することができる。
しかし、上位構造Sにおいて特定の役割を持つ構造項Bとして成立するためには、Aの規定を必要とする場合がある。
この場合、AはBという担い手そのものに絶対的に優先するのではない。
Bの上位水準における構造的同一性に対して優先する。
したがって、
- 個体性の成立には水準相対性がある。
- 第一性の成立には構造・規定次元相対性がある。
この二つは整合している。
そして、第一性をこのように限定することによって、存在論的優先性を過剰に主張することも避けられる。
5. 第一性の成立条件を再整理する
以上の議論を踏まえると、第一性の成立条件は、従来の議論をさらに厳密化して整理できる。
第一性が成立するためには、次の六条件が必要である。
第一条件:構造的個体化
AとBが、同一の構造Sに属する構造項として個体化されていること。
I(S, m_A → A)
I(S, m_B → B)
この段階では、まだ第一性は成立しない。
第二条件:規定次元の一致
AとBの関係が、同一の規定次元dにおいて検討されていること。
異なる規定次元における依存関係を混同してはならない。
第三条件:同一性条件の独立した特定
AとBがそれぞれSの内部で何であるかという同一性条件を、第一性の結論から逆算することなく特定すること。
これによって、Aが第一であることを前提にBの同一性を定義するという循環を避ける。
第四条件:実在的な構成的依存
BのS・dにおける同一性条件が、Aの実在的な規定を構成条件として必要としていること。
この依存は、単なる因果的影響、機能的影響、認識上の前提、事後的な命名ではない。
第五条件:構成的同一性依存原理
BがS・dにおける構造項として成立すること自体がAの規定に依存している場合、その依存関係は存在論的な依存であると認められること。
ここが今回新たに補う橋渡し原理である。
第六条件:非対称性
同じ規定次元dにおいて、Bの同一性はAに依存する一方、Aの同一性はBに依存しないこと。
この六条件が満たされる場合に限り、Aの第一性が成立する。
5-1. 反事実的判定の位置づけ
ここで、反事実的判定基準についても整理しておきたい。
Aの規定を変更・除去した場合、Bは同じ規定次元dにおける同一性を維持できるか。
また、Bの規定を変更・除去した場合、Aは同じ規定次元dにおける同一性を維持できるか。
この二つの問いは、今回の非対称性を確かめるために有効である。
ただし、反事実的な結果だけでは不十分である。
例えば、Aを取り除くとBが消滅するという事実があったとしても、それが因果的な破壊によるものならば、AがBの同一性を構成していることにはならない。
必要なのは、Aの除去によってBの同一性条件そのものが成立しなくなることを示すことである。
また、Aが別の対象によって代替可能である場合には、Aという個体そのものではなく、Aが担っていた位置・役割・規則が構成的に優先している可能性がある。
さらに、複数の契機が共同してBを個体化しているならば、それらの共同基盤を検討しなければならない。
これらの条件は、従来の第一性の判定基準を変更するものではない。構成的同一性依存原理を導入することで、それぞれの条件が何を確かめるために必要なのかを明確にするものである。
6. C・Iと第一性の関係を改めて整理する
ここまでの議論を、前回検証したCとIの関係に接続する。
今回の重要な結論は、構造的個体化と第一性の成立は、異なる論証段階に属するということである。
6-1. Iは第一性の必要条件である
まず、
I(S, mᵢ → xᵢ)
によって、構造内部の差異的契機が構造項として個体化される。
これによって、その構造項が何であるか、その位置・役割・同一性条件が確定する。
この段階で、第一性の関係に入ることのできる構造項が成立する。
しかし、ここから直ちに第一性は導かれない。
AとBがともに個体化されていても、それらが対称的な関係にある可能性があるからだ。
したがって、Iは第一性の必要条件だが、十分条件ではない。
6-2. 第一性には別途、構成的依存の証明が必要である
次に、個体化されたAとBについて、それぞれの同一性条件を検討する。
そこで、Aの規定がBの同一性条件を実際に構成していることが示された場合、構成的同一性依存原理によって、Bの同一性がAに存在論的に依存することが導かれる。
さらに、逆方向の依存が成立しない場合、第一性が確定する。
したがって、全体の論証は次のようになる。
構造 S の成立
↓
Iによる構造項の個体化
↓
AとBの同一性条件の確定
↓
AによるBの実在的な構成的決定
↓
構成的同一性依存原理
↓
Bの同一性がAに存在論的に依存する
↓
同一規定次元における非対称性の確認
↓
A ≺_{S,d} B
これによって、構造的個体化から第一性への移行が、一つの独立した論証として成立する。
重要なのは、IからA≺Bを直接導いているわけではないということだ。
Iによって成立した個体のあいだに、さらに実在的な構成的依存関係が存在することを示し、その依存の非対称性から第一性を導いている。
6-3. 構造的不変項K(S)との関係
ここで、K(S)との関係も整理しておく。
K(S)は、ある構造が同じ構造として成立・存続するための条件を示す。
これに対して、第一性は、その構造内部における特定の項の存在論的優先性を示す。
したがって、K(S)が確定したからといって、直ちに第一性が導かれるわけではない。
また、第一性が成立するからといって、その第一の項が必ず構造全体の同一性条件になるわけでもない。
この区別は重要である。
K(S)は構造全体の同一性条件であるのに対して、第一性の判定にはBという構造項に固有の同一性条件も必要になる。
構造全体の同一性と、個々の構造項の同一性は、同じものではない。
したがって、K(S)だけからBの同一性条件を導いてはならない。
K(S)は、実際の構造的同一性条件と構成的依存関係を判定するための基盤として位置づけられる。
7. 第一論文の中心定理T1をどのように修正するか
今回の検証を受けて、第一論文の中心定理T1は、論証の依存関係をより明確にする必要がある。
ただし、現在のT1の基本構成は維持できる。
修正すべきなのは、命題P3と、P3からT1へ進む部分である。
7-1. 新たに必要となる命題
私は、構成的同一性依存原理を独立した原理として導入し、そのうえで命題P3を次のように整理することを提案する。
命題P3:非対称的な構成的同一性依存による第一性の成立
ある構造Sにおいて、AとBが構造項として個体化されており、特定の規定次元dにおいて、Bの同一性条件がAの実在的な規定に構成的に依存しているとする。
この依存関係が、単なる因果的・機能的・認識上の依存ではなく、BがSの内部で特定の構造項として成立するための存在論的条件であり、同じ規定次元dにおいて逆方向の依存が成立しない場合、AはBに対して存在論的に優先する。
これを次のように表す。
OD_{S,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,d}(A,B)
したがって、
A ≺_{S,d} B
が成立する。
7-2. 命題P3の証明構造
証明の流れは次のようになる。
第一に、P2によって、AとBは構造Sの内部で構造項として個体化されている。
第二に、それぞれの同一性条件が、第一性の結論とは独立して特定されている。
第三に、Aの規定が、Bの同一性条件を構成的に決定していることが示される。
第四に、この依存関係は、単なる因果的・機能的・説明上の依存ではなく、BがSの内部で何であるかを成立させる実在的な条件であることが示される。
第五に、構成的同一性依存原理によって、Bの同一性がAに存在論的に依存することが導かれる。
第六に、同じ規定次元dにおいて逆方向の依存が成立しないことを確認する。
以上によって、Aの存在論的優先性が成立する。
ここでは、第一性を定義によって先取りしているのではない。
まず実在的な構成的依存を確認し、その依存が存在論的なものであることを正当化し、最後に非対称性から第一性を導いている。
7-3. T1への影響
この修正によって、中心定理T1の論証は次の三段階に整理できる。
| 段階 | 命題 | 論証内容 |
|---|---|---|
| 第1段階 | P1 | 差異的条件から構造Sが成立する |
| 第2段階 | P2 | IとCによって構造項の個体性が成立する |
| 第3段階 | P3 | 非対称的な構成的同一性依存から第一性が成立する |
この三つの命題が、T1の論理的な基礎となる。
特に重要なのは、P2からP3への移行が必然的なものではないという点である。
P2が成立しても、P3の条件を満たす依存関係がなければ、第一性は成立しない。
この限定は維持すべきである。
8. 第二論文との統合的な整合性
今回の修正は、第一論文だけでなく第二論文にも重要な意味を持つ。
第二論文では、時間的に先行する出来事と、後続する構造の構成的な前史になる出来事を区別している。
また、歴史的な第一性についても、時間的に早いというだけではなく、ある活動Aが別の活動Bの構成的な役割や同一性条件を非対称的に決定しているかどうかを問題にしている。
ここでも今回の橋渡し原理が必要になる。
例えば、ある組織の創設以前に、人物Aが基本規則を形成し、その規則を前提として人物Bの活動が特定の役割を持つようになったとする。
この場合、Aの活動がBの活動の歴史的な位置づけを決定しているとしても、そのことだけでは第一性は成立しない。
必要なのは、Aの活動がBの活動の構成的な同一性条件を実際に成立させていたこと、そしてその依存関係が逆方向には成立していないことである。
さらに第二論文では、創設者本人と創設的役割を区別している。
Aという人物が別の人物によって代替可能だった場合、組織の同一性を成立させているのは、その人物の個体性ではなく、その人物が担っていた規則形成や制度設計という役割である可能性がある。
この議論は、今回の第一性の判定基準とも一致する。
したがって、第二論文においても、次の四つを区別する必要がある。
- 時間的に先行していること。
- 因果的に後続する出来事へ影響を与えていること。
- 構成的な前史として位置づけられること。
- 構造内部で非対称的な第一性を持つこと。
特に、第二論文の定理T2が説明する歴史的前史の成立と、歴史的契機AとBのあいだに第一性が成立することは、別の論証として扱わなければならない。
今回の橋渡し原理は、後者を正当化するために使用する。
第一論文で確立する構成的同一性依存原理は、第二論文の歴史的な第一性を説明する際にも適用できる。
ただし、通時的な構造編入と、編入された履歴内部の第一性の判定は区別する必要がある。
9. 今回の検証によって確定したこと
今回の検証によって、構造的個体化から第一性へ進む論証の基本構造が明確になった。
まず、今回の検証結果を整理しておく。
| 検証項目 | 今回の結論 |
|---|---|
| 構造的個体化と第一性の区別 | 構造的個体化は第一性の必要条件だが、十分条件ではない |
| 同一規定次元における非対称性 | 第一性の成立に必要 |
| 因果的・機能的依存との区別 | 実在的な構成的依存を独立に確認する必要がある |
| 構成的依存と存在論的依存の接続 | 構成的同一性依存原理によって明示する |
| Bの存在全体と構造的同一性の区別 | 第一性はBのS・dにおける同一性に限定される |
| 第一論文と第二論文の整合性 | 同じ橋渡し原理を適用できる |
今回の最も重要な成果は、構造的個体化によって第一性が自動的に成立するわけではないことを、論証の構造そのものに反映できたことである。
Iによって構造項の個体性と同一性が確定した後であっても、それらのあいだに存在論的な優先関係が成立するとは限らない。
第一性を導くためには、さらに、実在的な構成的同一性依存が成立していることを示さなければならない。
そして、その依存関係が同一の規定次元において非対称的である場合に限り、存在論的優先性が成立する。
つまり、
個体化によって成立したもののあいだに、実在的な構成的依存の非対称性が成立することによって、初めて第一性が確定する。
これが今回の論証の核心である。
10. 第一論文・第二論文の最終改稿に向けて
今回の検証を踏まえると、第一論文第三稿には具体的な修正が必要である。
特に、定義D10と命題P3の論証を補強しなければならない。
最終改稿では、次の修正を行う予定である。
- 第一論文に「構成的同一性依存原理」を追加する。
- P3の証明に、構成的依存から存在論的依存を導く独立した論証を追加する。
- D10における存在論的優先性を、Bの存在全体ではなく、BのS・dにおける構造的同一性に対する優先性として明確化する。
- AとBの同一性条件を第一性の結論から独立して確定する。
- 代替可能性と共同決定を考慮し、具体的な個体と構造的役割を区別する。
- 第二論文の歴史的第一性にも、同じ橋渡し原理を適用する。
今回の修正は、第一論文の定義や命題を最初から作り直すものではない。
現在の理論構成を維持しながら、構造的個体化と存在論的優先性を接続する論証を補強するものである。
なお、今回の検証は、二本の論文全体の最終改稿を完了させたという意味ではない。
残る検証課題を終えた後に、今回の修正を含むすべての定義・命題・論証を改めて照合し、二本の論文を統合的に検証する必要がある。
おわりに
今回の問題は、第一論文の中心的な主張に直接関わるものだった。
これまでの議論では、構造内部の差異的契機が個体化されることによって、構造項の個体性と同一性が成立することを論証してきた。
しかし、個体性と同一性が確定することと、その構造項が別の構造項に対して第一であることは同じではない。
第一性を導くためには、個体化されたもののあいだに、さらに非対称的な構成的依存が成立していなければならない。
そして今回、その構成的依存が存在論的な意味を持つための原理として、「構成的同一性依存原理」を導入した。
これによって、説明上の優先性、因果的優先性、構成的依存、存在論的優先性を区別できるようになった。
特に重要なのは、あるものが別のものの同一性を構成的に成立させているということが、単なる説明関係ではないという点である。
その構成条件が実在的であり、対象が特定の構造において何であるかを成立させる条件であるならば、その依存は存在論的な意味を持つ。
そして、その依存が非対称的である場合に、初めて第一性が成立する。
つまり、本理論における第一性は、単なる時間的先行性でも、因果的な影響力でも、説明上の順位でもない。
あるものが、別のものの特定の構造的同一性を成立させる実在的な構成条件となっており、その依存が非対称的であることによって成立する存在論的優先性である。
今回の検証によって、構造的個体化から第一性へ進むために必要な論証上の橋渡しが明確になった。
これによって、「第一性の遡及的成立」は、構造と構造項の相互構成だけでなく、個体化された構造項のあいだに存在する優先関係についても、より厳密な説明を持つことになった。
構造によって個体性が成立し、その個体性のあいだに非対称的な構成的依存が成立することで、第一性が確定する。
この二段階を区別することが、今回の最も重要な研究成果である。



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