はじめに
これまで「第一性の遡及的成立」では、構造と構造項が相互に成立条件となるという存在論的な関係を検討してきた。
本理論では、構造が構造項の個体性を成立させる一方で、構造もまた、すでに個体化された構造項によって具体的に実現されると考える。
この相互構成を説明するために導入したのが、CとIという二つの存在論的関係である。
Cは、下位水準ですでに個体化された構造項によって、上位構造が具体的に実現される関係を表す。
Iは、ある構造内部の差異的契機が、その構造における位置・役割・同一性条件を獲得し、構造項として個体化される関係を表す。
これまでの第一論文では、CとIが異なる存在論的水準に属するため、両者の相互構成は循環論法ではないと説明してきた。
しかし、改めて検討すると、この説明だけでは不十分であることが分かった。
例えば、上位水準の構造について、次の関係を考える。
C(Sₙ₊₁, {xᵢⁿ})
この場合、下位水準の構造項 xᵢⁿ は、すでに個体化されている。
その一方で、上位水準では、
I(Sₙ₊₁, mᵢⁿ⁺¹ → xᵢⁿ⁺¹)
によって新たな個体性が成立する。
しかし、ここで改めて考えなければならないことがある。
下位水準ですでに個体化されているものが、なぜ上位水準では再び個体化される必要があるのか。また、同一の対象が異なる水準で複数の個体性を持つとは、具体的にどういうことなのか。
さらに、最初の構造 S₀ はどのように成立するのか。
これらを説明できなければ、CとIの区別は単なる記号上の区別にとどまり、循環問題を本当に解決したことにはならない。
そこで今回は、次の四つの問題を中心に、理論全体の水準から再検証することにした。
- 最初の構造 S₀ はどのように成立するのか。
- 下位水準の個体性と上位水準の個体性は何が異なるのか。
- 同一の対象が異なる水準で複数の個体性を持つとはどういうことか。
- CとIはそれぞれどのような存在論的関係なのか。
今回の検証によって明らかになったのは、CとIの区別による循環回避は、単に異なる水準を設定することによって成立するのではないということである。
そのためには、下位水準における個体性と、上位水準において新たに成立する個体性を、異なる同一性条件に基づくものとして明確に区別する必要がある。
以下、その論証を整理する。
1. 最初の構造 S₀ はどのように成立するのか
最初に検討するのは、S₀の成立である。
これまでの理論では、Cを次のように定義してきた。
C(Sₙ₊₁, {xᵢⁿ})
これは、下位水準ですでに個体化されている構造項が、上位構造の具体的な実現に寄与することを表している。
したがって、Cは下位水準における個体性を前提としている。
しかし、S₀については、それより下位の構造が存在しない。もしS₀もCによって成立すると考えるなら、S₀を実現するための下位構造を別途仮定しなければならない。
そうすると、S₋₁、S₋₂というように、構造の成立を説明するための構造を無限に遡ることになる。
これは避けなければならない。
ここで必要になるのは、最初の構造の成立をCとは異なる原理によって説明することである。
1-1. 前個体的差異場 Δ
本理論では、個体化以前の存在論的基底として、前個体的差異場 Δ を導入している。
Δは、すでに個体化された複数の対象が集まった集合ではない。
それは、個体として確定する以前の差異的契機や、内在的な差異、緊張、関係可能性を含む場である。
ここで注意しなければならないのは、差異的な契機が存在することと、それらが独立した個体として存在することは同じではないという点である。
例えば、ある関係に二つの極が認められるとしても、それによって二つの極がそれぞれ独立した個体として先行していたことにはならない。
関係を構成する差異的な極は、独立した個体として確定していなくてもよい。
この区別は、これまで検討してきた「関係項が存在すること」と「関係項が独立した個体として存在すること」の区別にも対応している。
1-2. 構成的関係 Rᶜ
Δの内部にある差異的契機は、構成的関係 Rᶜ によって組織化される。
Rᶜは、すでに成立した複数の個体を外側から結びつける関係ではない。
むしろ、個体化以前の差異的契機を、一つの構造として成立させる内在的な関係秩序である。
したがって、最初の構造の成立は次のように表せる。
Δ —Rᶜ→ S₀
ここではCを使用しない。
S₀は、すでに個体化された下位構造項によって実現するのではなく、前個体的差異場に内在する差異的関係が組織化されることで成立する。
このとき、S₀の統一は、差異的契機が一つの構成的関係秩序を形成することによって成立する。
ここで重要なのは、構造の統一と、構造全体が一つの個体として成立することを区別することである。
一つの構造が関係秩序として統一されていることは、その構造全体が必ず一つの個体として成立していることを意味しない。
したがって、S₀の構造的統一を説明するために、S₀全体を統一する別の個体を仮定する必要はない。
1-3. S₀における個体化
S₀が成立した後、その内部にある差異的契機は、S₀の構成的秩序に応じて個体化される。
I(S₀, mᵢ⁰ → xᵢ^{S₀})
ここで、mᵢ⁰はS₀の内部に存在する差異的契機であり、xᵢ^{S₀}はS₀において特定の位置・役割・同一性条件を獲得した構造項である。
したがって、最初の構造の成立と、その構造内部の構造項の個体化は区別される。
その論理的な関係は次のようになる。
前個体的差異場 Δ
↓
構成的関係 Rᶜ
↓
最初の構造 S₀
↓
I(S₀, mᵢ⁰ → xᵢ^{S₀})
↓
S₀における構造項の個体化
ここでの順序は、時間的な生成順序ではなく、存在論的・説明論的な依存関係を示している。
つまり、S₀はCによって成立するのではなく、Δに内在するRᶜによって成立する。
これによって、最初の構造を説明するために、さらに下位の構造を仮定する必要はなくなる。
ただし、この説明が意味するのは、Δを本理論の個体化説明における基底として置くということであり、Δそのものの存在をさらに別のものから導出したということではない。
本理論の説明範囲は、前個体的差異場から構造と個体性がどのように成立するかという問題に置かれている。
2. 下位水準の個体性と上位水準の個体性は何が異なるのか
次に、下位水準と上位水準の個体性の違いを検討する。
これまでの議論では、下位水準で個体化された構造項が、上位水準では別の構造項として個体化されることを説明してきた。
しかし、この説明だけでは、同じ対象に複数の個体性が成立するということの意味が明確ではない。
この問題を解決するためには、個体性を一つの対象に絶対的に帰属する単一の規定として扱うのではなく、どの構造における個体性なのかという水準相対性を導入する必要がある。
2-1. 個体性は構造に相対的である
例えば、一つの細胞を考えてみる。
その細胞は、細胞としての構造的同一性を持っている。
しかし、その細胞がある組織の内部に位置づけられると、別の同一性条件が問題になる。
細胞としての個体性と、ある組織の構成要素としての個体性は同じものではない。
| 水準 | 個体性の内容 |
|---|---|
| 下位水準 | 一つの細胞としての個体性 |
| 上位水準 | ある組織における特定の位置・役割を担う構造項としての個体性 |
細胞としての個体性は、その細胞自身の構造的同一性条件によって説明される。
一方、上位水準における個体性は、その細胞が組織のどの位置を占め、どのような機能的関係に組み込まれているかによって説明される。
ここで、下位水準の個体性が上位水準によって初めて成立するわけではない。
細胞は、組織の一部になる以前にも、細胞としての個体性を持っている。
しかし、組織の構成要素としての位置・役割・同一性条件は、組織構造との関係において成立する。
つまり、個体性は一つの対象に絶対的に付随する単一の規定ではなく、異なる構造的水準に応じて異なる同一性条件を持ちうる。
2-2. 「個体化以前」の意味を限定する
ここで、mᵢについても重要な修正が必要になる。
これまでの表記では、mᵢを個体化以前の構造的契機としてきた。
しかし、この表現を無限定に使うと、ある対象が下位水準ではすでに個体であるのに、上位水準でもう一度個体化以前のものになるのはなぜか、という疑問が生じる。
この疑問への答えは明確である。
mᵢは、絶対的に個体化されていないものではなく、特定の上位構造における構造項として、まだ個体化されていないものを意味する。
例えば、ある細胞は細胞としてすでに個体化されている。
しかし、その細胞が特定の組織においてどのような位置を占め、どのような機能を果たすかは、上位構造との関係において確定する。
したがって、上位水準のmᵢは、その細胞が上位構造において担う差異的な位置・役割を表している。
この場合、
- 下位水準では、細胞はすでに個体である。
- 上位水準では、細胞がどのような構造項として成立するかは、まだ確定していない。
両者は矛盾しない。
なぜなら、個体化の基準となる構造と同一性条件が異なるからである。
つまり、「個体化以前」という表現は、絶対的な未個体化を意味するのではなく、特定の構造水準における未個体化を意味する。
2-3. K(S)との接続
この説明は、これまで研究ノートで検討してきたK_D(S)の独立判定基準とも接続する。
個体性を検討する際には、まずどの同一性水準を対象にしているのかを確定し、その水準における構造的同一性条件K_D(S)を独立に判定する必要がある。
そのうえでCとIの働きを説明する。
この順序を逆にしてしまうと、Iによって成立した個体性を使って、後からその構造の同一性条件を決めるという循環が生じる。
したがって、方法論的な順序は次のようになる。
① 同一性水準 D の確定
↓
② K_D(S) の独立判定
↓
③ 構造 S の範囲・依存関係の確定
↓
④ CとIの適用
↓
⑤ その水準における個体性・第一性の説明
ここでいう独立性は、他の構造との存在論的な孤立を意味するものではない。
CやIの結論から逆算することなく、同一性条件を方法論的に確定するという意味である。
この修正によって、下位水準と上位水準の個体性の違いを、単なる階層の違いではなく、異なる構造的同一性条件の違いとして説明できる。
3. 同一の対象が異なる水準で複数の個体性を持つとはどういうことか
前節の議論を踏まえると、次に説明すべき問題も明確になる。
一つの対象が異なる水準で複数の個体性を持つとは、同じ対象が数的に複数の存在へ分裂するということではない。
それは、同一の担い手が、異なる構造において異なる同一性条件のもとで個体化されることを意味する。
3-1. 担い手と構造的役割を区別する
ここで重要になるのが、下位水準の担い手と、上位水準における構造的役割を区別することである。
下位水準の担い手をbᵢⁿ、上位水準の差異的な位置・役割をmᵢⁿ⁺¹とする。
すると、上位水準の構造項は次のように表せる。
xⱼ^{Sₙ₊₁} = ⟨bⱼⁿ, mⱼⁿ⁺¹⟩_{Sₙ₊₁}
この式が示しているのは、上位水準の構造項が、下位の担い手と上位構造における位置・役割との関係において成立するということである。
ここで、bⱼⁿとmⱼⁿ⁺¹は、独立した二つの実体を意味しない。
bⱼⁿは実際に存在する下位水準の担い手であり、mⱼⁿ⁺¹は、その担い手が上位構造で占める差異的な位置・役割である。
そして、xⱼ^{Sₙ₊₁}は、その担い手が上位構造において位置づけられた構造項を表している。
つまり、上位水準の個体性とは、下位の担い手にもう一つ別の個体が付け加わることではない。
同じ担い手が上位構造との関係において、新しい同一性条件を獲得することなのである。
3-2. 具体例:人間とオーケストラ
一人の演奏者を考えてみる。
その人は、まず一人の人間として個体化されている。
その個体性は、人間としての身体的・生物学的・心理的な同一性条件によって説明される。
しかし、その人が特定のオーケストラに所属し、第一バイオリンを担当している場合、さらに別の構造的規定を持つことになる。
この場合、
- 下位水準:一人の人間としての個体性
- 上位水準:特定のオーケストラにおける第一バイオリン奏者としての個体性
という区別が成立する。
第一バイオリン奏者としての個体性は、その人の身体的特徴だけから決まるものではない。
そのオーケストラの編成、他の演奏者との関係、担当する役割、演奏上の位置などによって決まる。
もちろん、第一バイオリンの担当者が交代しても、その人自身が人間であることは変わらない。
つまり、上位水準のIによる個体化は、下位水準ですでに確定している個体性を消去したり、遡って作り直したりするものではない。
上位構造において、同じ担い手が別の構造的同一性を獲得するのである。
3-3. 複数の個体性は相対的であって、恣意的ではない
ここで一つ付け加えておきたい。
水準ごとに異なる個体性が成立すると言っても、どのような役割でも自由に個体性として認められるわけではない。
ある上位水準における個体性が成立するためには、その役割が当該構造の同一性条件K(S)や構成的依存関係に実際に組み込まれていなければならない。
単にある人を第一バイオリン奏者と呼んだだけでは、その構造的個体性が成立したとは言えない。
実際にそのオーケストラの編成と役割体系に組み込まれ、その構造の一部として位置づけられている必要がある。
したがって、上位水準における個体性は、単なる認識上の分類でも、外部からの恣意的な命名でもない。
それは、特定の構造的同一性条件によって成立する存在論的な規定である。
4. CとIはそれぞれどのような存在論的関係なのか
ここまでの議論を踏まえると、CとIの関係も再定義できる。
私は、両者を次のように整理するのが最も適切だと考える。
4-1. C:構造の具体的実現関係
Cは、下位水準ですでに個体化されている構造項が、上位構造の具体的な実現に寄与する関係である。
C(Sₙ₊₁, {xᵢ^{Sₙ}})
Cが説明するのは、上位構造がどのような下位の構造項によって具体的に実現されているかということである。
例えば、複数の人間が特定の関係と組織化を形成することによって、オーケストラという構造が具体的に実現される。
この場合、オーケストラという構造は、それを構成する人間たちの具体的な配置や関係と無関係に成立しているわけではない。
しかし、Cは個々の人間を人間として個体化するわけではない。
人間としての個体性は、すでに下位水準で成立している。
したがって、Cは下位水準の個体性を前提としながら、その個体たちによる上位構造の具体的実現を説明する。
4-2. I:構造相対的な個体化関係
これに対して、Iは構造内部の差異的契機に、その構造における位置・役割・同一性条件を与える関係である。
I(Sₙ₊₁, mⱼⁿ⁺¹ → xⱼ^{Sₙ₊₁})
Iが説明するのは、上位構造の内部にある差異的契機が、どのような構造項として成立するかということである。
先ほどの例で言えば、ある人間がオーケストラに参加しているという事実だけでなく、その人が第一バイオリン奏者として成立することを説明するのがIの役割である。
つまり、Cは構造を具体的に実現する側に関わり、Iはその構造における構造項の個体性を成立させる側に関わる。
両者は異なる存在論的な被説明項を持っている。
| 関係 | 説明するもの | 前提とするもの |
|---|---|---|
| C | 上位構造の具体的実現 | 下位水準で個体化された構造項 |
| I | 上位構造における構造項の個体性 | 上位構造とその内部の差異的契機 |
この区別は、単にCとIという二つの記号を与えただけのものではない。
それぞれが説明する存在論的な対象そのものが異なるのである。
4-3. CとIは時間的な二段階ではない
ここで誤解を避けるために、もう一つ重要な点を確認しておきたい。
Cが先に起こり、その後でIが起こるという時間的な過程を想定しているわけではない。
CとIは、同じ上位構造に関わる異なる存在論的関係である。
Cは、下位水準の個体による上位構造の具体的実現を説明する。
Iは、その上位構造における構造項の個体性を説明する。
したがって、両者の関係は単純な時間的順序でも、互いに逆向きの同一関係でもない。
存在論的な依存関係として整理すれば、次のようになる。
- 上位構造の具体的実現は、下位水準の個体に依存する。
- 上位構造における個体性は、その上位構造の秩序に依存する。
つまり、下位の担い手は上位構造の実現を支えるが、上位構造はその担い手の上位水準における個体性を規定する。
これがCとIの非対称性である。
5. 四つの論点を統合した形式化
ここまでの検証を、一つの形式にまとめておきたい。
5-1. 基底水準
まず、最初の構造は次のように成立する。
Δ —Rᶜ→ S₀
その構造内部の差異的契機は、次のように個体化される。
I(S₀, mᵢ⁰ → xᵢ^{S₀})
ここではCを使用しない。
5-2. 上位水準
次に、下位水準ですでに個体化された構造項が、上位構造を具体的に実現する。
C(Sₙ₊₁, {xᵢ^{Sₙ}})
その際、上位水準の構造項は、下位の担い手と上位構造における差異的な位置・役割との関係によって成立する。
xⱼ^{Sₙ₊₁} = ⟨bⱼⁿ, mⱼⁿ⁺¹⟩_{Sₙ₊₁}
そして、この上位水準の構造項を個体化するのがIである。
I(Sₙ₊₁, mⱼⁿ⁺¹ → xⱼ^{Sₙ₊₁})
ここで、bⱼⁿは下位水準ですでに個体化された担い手、または上位構造の成立に関与する複数の下位個体の配置を指す。
単純な一対一対応の場合には、bⱼⁿは下位水準の構造項xᵢ^{Sₙ}に対応する。
ただし、あらゆる上位構造項が一つの下位構造項だけに対応する必要はない。複数の下位個体の配置が、一つの上位水準の構造項を支える場合も認められる。
この組表記は、二つの独立した実体を並べたものではない。下位の担い手が、上位構造における特定の位置・役割を通じて個体化されたあり方を表している。
5-3. 全体の構造
前個体的差異場 Δ
│
│ Rᶜ
▼
構造 S₀
│
│ I
▼
下位水準の構造項 {xᵢ^{S₀}}
│
│ C
▼
上位構造 S₁
│
│ I
▼
上位水準の構造項 {xⱼ^{S₁}}
│
│ C
▼
さらに上位の構造 S₂
│
│ I
▼
上位水準の構造項 {xₖ^{S₂}}
この図で重要なのは、構造Sₙ₊₁の具体的実現が、すでに個体化された下位水準の構造項に依存している一方、上位水準の構造項の個体性は、Sₙ₊₁の内部構造に依存しているということである。
ここでは、同じ上位水準の個体性を、CとIが互いに根拠づけているわけではない。
Cが説明するのは上位構造の具体的実現であり、Iが説明するのはその上位構造における構造項の個体性だからである。
6. 循環を避けるために必要な五つの条件
今回の検証から、CとIによる循環回避が成立するためには、次の五つの条件が必要であることが分かった。
第一条件:下位水準の個体性が独立して確定していること
下位水準の個体性は、その下位水準における構造と同一性条件によって成立していなければならない。
ここでいう独立とは、あらゆる関係や構造から切り離された絶対的な独立性ではない。
上位構造から個体性を借用していないという意味である。
第二条件:上位構造の同一性条件K(S)を独立に判定すること
上位構造の同一性条件を、CとIの結論から逆算してはならない。
どの水準の同一性を説明するのかを確定し、その水準における構造的同一性条件を独立に判定する必要がある。
この点は、これまで検討してきたK_D(S)の独立判定基準と一致する。
第三条件:下位の担い手と上位の差異的契機との対応を明示すること
下位水準の担い手bと、上位水準の差異的契機mがどのように対応するのかを明示しなければならない。
これが今回発見した第一論文第三稿の重要な不足部分である。
第四条件:CとIの適用対象を混同しないこと
Cは下位個体の同一性を成立させない。
Iも下位個体の同一性を遡及的に作り直さない。
Iが成立させるのは、あくまで上位水準における個体性である。
第五条件:最初の構造を外的な個体間関係から説明しないこと
S₀の成立は、すでに個体化された対象間の外的関係に依存してはならない。
そのため、Δに内在する差異的契機とRᶜによる構造形成を、Cによる上位構造の実現から明確に区別する必要がある。
この五つの条件が満たされれば、CとIの区別は単なる記号上の区別ではなく、異なる存在論的依存関係を示す区別になる。
反対に、下位水準の個体性が上位構造に依存していたり、同じ同一性をCとIが相互に根拠づけていたりする場合には、循環は解消されない。
その場合、循環を別の水準へ移動させただけにとどまる。
7. 第二論文との接続
今回の検証結果は、まず第一論文に反映する必要がある。
第一論文では、構造と構造項の垂直的な水準間関係を説明している。
一方、第二論文では、過去の出来事がある構造の同一性条件や構成的依存関係に寄与することによって、その構造の歴史的前史として位置づけられるという問題を扱っている。
つまり、第一論文が主として構造内部の個体化関係を扱うのに対して、第二論文は歴史的・通時的な関係を扱っている。
今回のCとIの整理は、第二論文の基礎を明確にすることにもつながる。
ただし、第二論文の歴史的遡及性をCとIの議論に還元してはならない。
最終統合の際には、次の二つの軸を区別する必要がある。
- 垂直的な水準間関係:CとIによる構造の具体的実現と構造項の個体化。
- 水平的な歴史的関係:過去の出来事が構造の同一性条件に寄与することによる歴史的前史の成立。
両者は統合できるが、同じ作用として扱うことはできない。
第一論文の構造的個体化を前提にすることで、第二論文の歴史的遡及性も、より明確な存在論的基盤を持つことになる。
8. 今回の検証によって確定したこと
今回の検証によって、CとIによる循環問題について、重要な前進があった。
まず、四つの問題に対する結論を整理しておく。
| 問題 | 今回の結論 |
|---|---|
| 最初の構造S₀ | Δの内在的差異がRᶜによって組織化されることで成立する。Cは適用しない |
| 下位と上位の個体性 | 異なる構造的同一性条件に相対的な個体性である |
| 同一対象の複数の個体性 | 同一の担い手が異なる水準で異なる構造的規定を獲得すること |
| CとIの存在論的関係 | Cは上位構造の具体的実現、Iは上位水準の構造項の個体化を説明する |
今回の最も重要な成果は、個体性を一つの対象に絶対的に帰属する単一の規定として扱う必要がなくなったことである。
同じ担い手は、下位水準では下位構造の個体として、上位水準では上位構造に位置づけられた構造項として成立しうる。
そのとき、下位水準の個体性は上位水準から独立しており、上位水準の個体性は上位構造に依存する。
この非対称性こそが、CとIの循環を避けるための存在論的な根拠になる。
したがって、CとIの区別による循環回避は、単に異なる水準を設定することによって成立するのではない。
下位水準の担い手の独立した個体性と、上位水準での新たな構造的同一性の成立を区別することによって成立する。
これが今回の論証の核心である。
9. 第一論文・第二論文の最終改稿に向けて
今回の検証を踏まえると、第一論文第三稿には具体的な修正が必要である。
特に、Iの定義そのものを変更する必要はないが、上位水準の構造項がどのように成立するのかを説明する記述を補強しなければならない。
具体的には、次の式を追加する。
xⱼ^{Sₙ₊₁} = ⟨bⱼⁿ, mⱼⁿ⁺¹⟩_{Sₙ₊₁}
これによって、上位水準の構造項が、下位の担い手と上位構造における役割との関係によって成立することを明示できる。
また、CとIの循環回避を論証する箇所では、両者の適用対象だけでなく、被説明項の違いを明確にする必要がある。
そして、最初の構造S₀については、ΔとRᶜによる基底的な構造形成を、Cによる上位構造の具体的実現から区別して説明する。
これらの修正は、第一論文の定義や命題を最初から作り直すものではない。
現在の理論構成を維持しながら、その存在論的な依存関係をより厳密に表現するための補強である。
第二論文については、今回の議論を直接組み込むのではなく、第一論文で確定される構造的個体化の理論を前提として、歴史的遡及性との接続を確認することになる。
なお、今回の検証は、二本の論文全体の最終改稿を完了させたという意味ではない。残る検証課題を終えた後に、今回の修正を含むすべての定義・命題・論証を改めて照合し、二本の論文を統合的に検証する予定である。
おわりに
今回の問題は、当初考えていた以上に重要なものだった。
CとIが異なる存在論的水準に属するという説明だけでは、構造と構造項の相互構成が循環論法ではないことを十分に証明できない。
しかし、下位水準ですでに個体化された担い手と、上位構造において新たに成立する構造的個体性を区別することで、両者の関係を明確に説明できるようになった。
特に重要なのは、個体性を構造に相対的なものとして捉え直したことである。
ある対象がすでに個体であることは、別の水準において新たな個体性を獲得することを妨げない。
なぜなら、異なる水準では、異なる構造的同一性条件が働いているからである。
このことによって、構造と構造項の相互構成は、同じものを互いに根拠づける循環ではなく、異なる存在論的関係が異なる対象を成立させる関係として理解できる。
そして、この整理は「第一性の遡及的成立」の中心的な主張にもつながっている。
あるものが特定の構造において第一のものとして成立するためには、そのものが単独で先行しているだけでは十分ではない。
そのものがどの構造に属し、どのような関係と位置を占め、何を構成するのかが確定しなければならない。
その構造的な位置づけを通して、初めてそのものの個体性と第一性が確定する。
今回の検証によって、構造と構造項の相互構成を説明するための論理的な基盤は、さらに明確になった。
構造は構造項によって具体的に実現され、構造項は構造によって個体化される。しかし、両者は同じ水準・同じ意味で互いを成立させるのではない。
この非対称的な相互構成こそが、本理論におけるCとIの存在論的な意味である。



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