はじめに
「第一性の遡及的成立」では、これまで構造内部における個体性・同一性・第一性の成立を検討してきた。第一論文では、あるものが特定の構造において個体として成立し、さらに第一のものとして位置づけられるためには、そのものの内在的性質だけではなく、それを成立させる構造的な依存秩序を考慮する必要があることを論証してきた。
一方、第二論文では、この考え方を時間的な領域に拡張している。すなわち、ある構造が成立する以前に存在していた過去の履歴が、後続する構造の成立によって、その構造の構成的な前史として確定するという問題である。
しかし、ここには重要な問題が残されていた。
過去の出来事と後続する構造との関係が、単に私たちの認識や歴史的な記述の変化によって明らかになるだけならば、歴史的遡及性は存在論的な理論ではない。それは、過去の出来事を後から新しい観点で解釈する認識論的な理論にとどまる可能性がある。
本理論が目指すのは、そのような解釈の変化ではない。
後続する構造が成立することによって、過去の履歴がその構造の構成的前史であるという存在論的な資格そのものが成立することを示したいのである。
そこで今回は、次の問題を検証する。
- 過去の構成的資格は、認識論的・言語的な変化ではなく、存在論的な成立として説明できるのか。
- 過去の出来事と後続構造との関係は、構造の成立時点で新たに成立するのか、それとも時間的全体における関係として成立しているのか。
- この説明は、現在主義と永遠主義のどちらかを前提にしなければ成立しないのか。
- 第一論文の構造的遡及性と第二論文の歴史的遡及性は、同一の存在論的原理によって統一できるのか。
以下では、これらの問題を順に検討する。
1.歴史的遡及性に残されていた根本的な問題
第二論文では、歴史的遡及性を次のように考えてきた。
実在する後続構造 S が成立することによって、それ以前に実在していた過去の履歴 H(t₀) が、その構造の構成的な前史として確定する。
ここで重要なのは、後続構造が過去の出来事を因果的に生み出すわけではないということである。
過去の出来事は、あくまで過去に実際に生じた出来事である。その出来事が後続構造によって変化するわけではない。
変化するのは、その出来事が後続構造に対して持つ構成的な資格である。
しかし、この説明には二つの解釈が可能である。
1-1.認識論的解釈
第一の解釈では、過去の出来事と後続構造との関係は、すでに成立していたと考える。
後続構造の成立によって、私たちがその関係を認識できるようになるだけである。
この場合、歴史的遡及性は、既存の関係を後から発見する過程として理解される。
例えば、ある会社が成立した後、その会社の創業に関係する過去の活動が発見されたとする。この解釈では、活動と会社との関係は以前から成立しており、後になってそれが認識されたにすぎない。
1-2.存在論的解釈
第二の解釈では、過去の履歴が後続構造の構成的前史であるという関係そのものが、構造の成立によって成立すると考える。
この場合、過去の出来事は、後から新しい名前を与えられるだけではない。
後続構造が実際に成立し、その構造の同一性条件を実現する構成的依存関係が充足されることによって、その履歴は当該構造の構成的前史としての存在論的資格を持つ。
本理論が目指すのはこちらである。
問題は、後者が前者よりも優れた説明であることを、どのように論証するかという点にある。
従来の第二論文では、過去の履歴の実在性、後続構造の実在性、構造的不変項への構成的参与、構造的同一性への実在的効果、事後的認識や命名からの独立性という条件を設定してきた。
しかし、これらの条件を列挙するだけでは、その資格がなぜ存在論的な事実なのかを十分に説明したことにはならない。
そこで、今回の検証では、資格の存在論的な身分そのものを明確にする必要があると考えた。
2.過去の出来事と構成的資格を区別する
まず、過去の出来事そのものと、その出来事が後続構造に対して持つ資格を区別しなければならない。
ここでは、次の三つを区別する。
- H(t₀):過去に実際に生じた履歴。
- S(t₁):その後に成立した構造。
- Q_S(H(t₀), t₁):H(t₀) が S にとって構成的前史であるという資格。
H(t₀) は、過去に実際に存在した出来事である。
S(t₁) は、その後に成立した構造である。
そして Q_S(H(t₀), t₁) は、H(t₀) が S の構成的前史であるという関係的な存在論的事実を表す。
ここで重要なのは、Q が H の内在的性質ではないということである。
ある出来事が、それ自体の性質として「特定の構造の構成的前史である」という属性を持っているわけではない。
その資格は、過去の履歴と後続構造とのあいだに成立する関係に属する。
したがって、次の三つは同一ではない。
- 過去の出来事が存在すること。
- 後続構造が存在すること。
- その出来事が後続構造の構成的前史であること。
第三の事実は、第一の事実にも第二の事実にも還元できない。
過去の履歴が存在するだけでは、まだ特定の後続構造の構成的前史であるとはいえない。
また、後続構造が存在するだけでも、任意の過去の出来事がその構成的前史になるわけではない。
両者のあいだに実際の構成的依存関係が成立していることが必要なのである。
この区別によって、歴史的遡及性の核心を、過去の出来事の変化ではなく、関係的な資格の成立として説明できるようになる。
3.構造的不変項によって歴史的資格を根拠づける
では、過去の出来事が後続構造の構成的前史であるかどうかは、何によって判定されるのだろうか。
ここで重要になるのが、これまでの研究で確立してきた構造的不変項 K_D(S) である。
本理論では、構造の個体性や同一性を説明するために、その構造を構造として成立させている不変項を特定する必要があると考えてきた。
この不変項は、説明したい過去の履歴から逆算して設定してはならない。
先に対象となる構造の同一性水準 D を明示し、その構造が何によって他の構造と区別され、どのような条件によって同一性を維持するのかを検討しなければならない。
そのうえで、過去の履歴がその不変項の実現にどのように参与していたのかを判定する。
この判定では、次の点が重要になる。
- 構造の同一性に対して実際に関与しているか。
- 個別の出来事が置き換え可能であっても、その出来事が担う構成的役割が不可欠か。
- その履歴を除いた場合、対象の同一性や構成的依存秩序にどのような違いが生じるか。
- 構成的条件が相互にどのように連関し、補償し合っているか。
- その判定が対象の存続条件と整合しているか。
ここで、因果的影響と構成的依存の区別が重要になる。
例えば、ある会社の創業者が海外旅行をしたことが、その後の会社設立に影響を与えたとしても、その旅行が会社の同一性を構成しているとは限らない。
一方、会社の基本的な意思決定規則や権限関係を形成した過去の活動が、その会社の同一性を成立させているならば、その活動は構成的な前史となりうる。
したがって、単に過去の出来事が後続構造の成立に影響したというだけでは不十分である。
その履歴が構造的不変項を実現する実際の構成的依存関係に参与していなければならない。
また、特定の人物や出来事が代替可能である場合にも注意が必要である。
ある人物の活動が別の人物の活動に置き換えられたとしても、同じ組織が成立しえたとする。この場合、特定の人物による個別の活動は代替可能である。
しかし、その活動が担っていた基本規則の形成という役割が組織の同一性にとって不可欠であったならば、その役割を実現した履歴は構成的前史に含まれうる。
つまり、本理論が問題にするのは、特定の出来事を無条件に歴史的に特権化することではない。
構造的不変項を実現する構成的依存秩序を明らかにすることなのである。
4.認識論的解釈Aではなく、存在論的解釈Bを採用する理由
ここで、今回の中心問題に戻ろう。
AとBの違いを明確にするため、同一の過去に対して異なる後続構造が成立する可能性を考えてみる。
時点 t₀ において、ある複数の人物が組織の設立に向けた活動をしていたとする。
しかし、この段階では、まだ組織 S は成立していない。
その後、二つの可能性がある。
ケースA:組織が成立しなかった場合
時点 t₀ に設立準備活動 H が存在する。
しかし、その後、組織 S は成立しなかった。
この場合、H は実際に生じた過去の出来事であるが、実在する S の構成的前史にはならない。
ケースB:組織が実際に成立した場合
時点 t₀ に、ケースAと同じ設立準備活動 H が存在する。
その後、H の活動が構成的に寄与する組織 S が実際に成立した。
この場合、H は S の構成的前史としての資格を持つ。
重要なのは、両ケースにおいて時点 t₀ の出来事は同一であるということだ。
過去の活動そのものは変化していない。
しかし、後続する構造が実際に成立したかどうかによって、H が S の構成的前史であるという関係は異なる。
この違いは、後から誰かがその活動をどのように評価したかによって生じるものではない。
実際に成立した構造と、その構造の同一性を実現した履歴との関係によって生じるのである。
ここから、資格の成立と認識の成立を明確に区別できる。
| 時点 | 成立する事実 |
|---|---|
| t₀ | 過去の出来事 H が生じる |
| t₁ | 後続構造 S が成立し、Hとの構成的関係が充足される |
| t₂ | 人間がその関係を認識する |
t₁ と t₂ は必ずしも一致しない。
構造 S が成立した後、長い間誰もその歴史的関係を認識していなかったとしても、H が S の構成的前史であるという関係は成立している。
反対に、誰かが誤って特定の出来事を創業の起源と呼んだとしても、実際の構成的依存関係が存在しなければ、その資格は成立しない。
したがって、歴史的資格は人間による認識や言語的命名に依存しない。
ここでの結論は次のとおりである。
歴史的な構成的資格は、後続構造についての認識によって成立するのではなく、その構造の実在と、構造的不変項を実現する構成的依存関係によって成立する。
これが、存在論的解釈Bを採用する理由である。
4-1.関係的変化とケンブリッジ変化
この議論は、ケンブリッジ変化をめぐる議論とも接続できる。
ケンブリッジ変化とは、対象の内在的性質が変化しなくても、他の対象との関係が変わることによって、その対象について変化を認める考え方である。
本理論の場合、過去の出来事 H の内在的性質は変化しない。
しかし、後続構造 S が成立することによって、H はその構造の構成的前史であるという関係的資格を持つ。
ただし、単に対象間の関係が変わるというだけでは、本理論の主張を十分に説明できない。
本理論が問題にするのは、その関係が後続構造の同一性条件を成立させる構成的な関係であるという点だ。
すべての関係的変化が存在論的な構成を意味するわけではない。
構造の同一性を実現する構成的依存関係に限定することで、歴史的遡及性の存在論的な意味が明確になる。
5.構成的資格は時間的にいつ成立するのか
次に、時間論との関係を検討する。
ここでは、二つの問題を区別する必要がある。
第一は、歴史的資格が時間的にいつ成立するのかという問題である。
第二は、その資格が時間の存在論のなかでどのような事実として存在するのかという問題である。
本理論では、歴史的資格の成立条件が充足されるのは、後続構造 S の同一性条件が実現した時点 t₁ であると考える。
時点 t₀ では、H は実際に存在している。しかし、まだ成立していない S に対する構成的前史という資格は、その時点では実現していない。
ここで注意したいのは、H が将来の構造を成立させる可能性を持っていたとしても、それだけでは構成的資格は成立しないということである。
可能性と現実の構成関係は異なる。
実際に S が成立し、その構造の同一性を成立させる構成的依存関係が充足されて初めて、H は S に対する構成的前史としての資格を持つ。
この関係を、次のように表現する。
H(t₀) → S(t₁)
これは過去の履歴から後続構造への構成的依存関係を表す。
一方、
Q_S(H(t₀), t₁)
は、その履歴が S に対して構成的前史という資格を持つことを表す。
この二つは同一ではない。
履歴は後続構造の成立に構成的に依存する役割を持つが、その履歴が何の構成的前史であるかは、後続構造の実現によって確定する。
したがって、構成的依存の方向と、資格の成立を説明する方向とは区別されなければならない。
ここに、第一論文で扱った順番の転倒と共通する構造がある。
後続構造は、その成立以前の履歴に依存している。
しかし、その履歴が当該構造の構成的前史であるという資格は、後続構造の成立によって確定するのである。
6.永遠主義と現在主義のどちらを前提にする必要があるのか
歴史的資格の成立を考えるとき、時間の存在論との関係を避けることはできない。
特に重要なのが、永遠主義と現在主義の違いである。
6-1.永遠主義の場合
永遠主義では、過去・現在・未来の出来事が、それぞれ異なる時間的位置において実在すると考える。
したがって、H(t₀) と S(t₁) は、時間的に異なる位置にありながら、同一の時間的全体に属する。
この立場では、H が S の構成的前史であるという関係は、時間的全体のなかに含まれるテンシレスな関係的事実として理解できる。
ここでは、時点 t₁ において何かが動的に新しく創造される必要はない。
重要なのは、H と S の関係が、単に私たちが後から発見したものではなく、時間的全体において客観的に成立しているということである。
つまり、永遠主義では、歴史的資格は時間の流れによって新しく生成するとは限らない。
それでも、その資格が存在論的な事実であることに変わりはない。
したがって、永遠主義は本理論の存在論的解釈と整合する。
6-2.現在主義の場合
現在主義では、現在存在するものだけが実在すると考える。
そのため、時点 t₁ において構造 S が成立していても、時点 t₀ に存在していた H は、現在の存在者ではない。
ここで問題が生じる。
H と S のあいだに実在的な関係が成立しているというためには、現在存在していない過去の出来事を、どのような意味でその関係の項として扱えるのだろうか。
通常、関係が成立するためには、その関係の両項が存在しなければならないと考えられる。
しかし、現在主義では過去の存在者の現在の実在を認めないため、通時的な関係の説明が必要になる。
本理論を現在主義のもとでも成立させるためには、例えば次のような説明が考えられる。
- 過去の出来事についての事実を、現在的に存在する事実や痕跡によって基礎づける。
- 過去の存在者との関係について、通常の存在含意的な関係とは異なる説明を採用する。
- 過去の事実が現在の事実を基礎づけるという通時的基礎づけを認める。
特に、CorreiaとMerloによる通時的基礎づけ(cross-temporal grounding)の議論は参考になる。
彼らの議論は、現在における過去についての事実が、過去の事実によって基礎づけられるという関係を検討している。
例えば、現在において「カエサルが生きていた」という事実が、カエサルが実際に生きていた過去の事実によって説明されるという関係である。
ただし、この議論と本理論は同一ではない。
彼らが主に扱うのは過去についての現在の事実の基礎づけであり、本理論が扱うのは、過去の履歴が後続構造の構成的前史としての資格を持つことである。
したがって、この議論は現在主義との整合性を考えるうえで参考になるが、それだけで本理論の主張が証明されるわけではない。
ここから、時間論との関係について一つの結論が得られる。
本理論は、現在主義と永遠主義のどちらかを最初から採用する必要はない。しかし、両者が歴史的資格の実在をどのように説明するのかについては、それぞれ異なる存在論的説明を必要とする。
したがって、時間論について完全に何も前提しないという立場は採用できない。
本理論は、時間的に異なる契機のあいだにも実在的な構成的依存関係が成立しうることを認める。そのうえで、資格の成立様式については、それぞれの時間論に応じた説明を認めるべきである。
この限定は理論の弱体化ではない。
むしろ、本理論の中心命題と、時間論に依存する追加的な説明とを区別することで、理論の射程を正確に示すものである。
7.第一論文と第二論文はどのように統一されるのか
ここまでの議論を、第一論文と第二論文の関係に戻して考えたい。
第一論文が扱っているのは、構造内部における個体性・同一性・第一性の成立である。
第二論文が扱っているのは、時間的に先行する履歴が、後続構造に対して持つ構成的資格の成立である。
両者は対象領域が異なる。
しかし、どちらも構造的不変項 K_D(S) を実現する構成的依存秩序によって、対象の存在論的資格が決まるという原理を共有している。
第一論文では、構造内部の契機 mᵢ が、構造 S のなかで特定の個体 xᵢ として成立することを説明してきた。
その関係は、次のように表される。
I(S, mᵢ → xᵢ)
これは、構造項が構造のなかでどのように個体化されるのかを示すものである。
一方、第二論文では、過去の履歴 H(t₀) が、後続構造 S(t₁) に対して構成的前史としての資格を持つことを説明する。
その関係は、次のように表される。
Q_S(H(t₀), t₁)
この二つを同一視する必要はない。
構造内部の契機の個体化と、時間的に先行する履歴の構成的資格は、異なる存在論的な問題だからである。
しかし、両者は同一の構造的存在論の異なる適用として理解できる。
第一論文では、構造的不変項を実現する構成的依存秩序によって、構造内部の契機の個体性と第一性が成立する。
第二論文では、同じく構造的不変項を実現する構成的依存秩序によって、時間的に先行する履歴の構成的資格が成立する。
このように考えると、二つの論文は次のように整理できる。
第一論文:構造内部の遡及的成立
構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存秩序によって、構造内部の契機の個体性・同一性・第一性が成立する。
第二論文:歴史的な遡及的成立
構造的不変項 K_D(S) を実現する通時的な構成的依存秩序によって、過去の履歴が後続構造の構成的前史としての資格を持つ。
ここで注意しなければならないのは、過去の履歴が後続構造の構成的前史であるということは、その出来事が後続構造の内部に時間を超えて部分として存在するという意味ではないことである。
それは、後続構造の同一性が、その履歴を含む構成的依存関係に基礎づけられているという意味である。
したがって、第一論文と第二論文は、異なる対象を扱いながらも、共通する存在論的原理によって統一できる。
8.第二論文に必要な修正
今回の検証によって、第二論文第三稿に必要な修正も明確になった。
全面的な書き直しを行う必要はない。中心となる定義、基本前提、定理の証明、時間論に関する注記を補強すればよい。
8-1.定義D12の改訂
従来の定義では、歴史的遡及性を、後続構造の成立によって過去の履歴が構成的前史として確定することとして説明していた。
しかし、その資格の存在論的な身分を明確にするため、次のように改訂する。
定義D12(改訂案):歴史的遡及性
歴史的遡及性とは、実在する後続構造 S がその構造的不変項 K_D(S) を実現したとき、S の成立以前に実在していた履歴 H(t₀) のうち、実際の構成的依存関係を通じて K_D(S) の実現に参与していた履歴が、S に相対的な構成的前史としての資格を持つことである。
この資格は、過去の履歴 H の内在的性質ではなく、H と S とのあいだに成立する、構造的不変項によって根拠づけられた関係的な存在論的事実である。
したがって、その資格の成立は、後世の認識、記述、命名、歴史的評価に依存しない。
この定義によって、資格が何に属し、何によって根拠づけられるのかが明確になる。
8-2.通時的構成可能性A3の改訂
基本前提A3は、時間的に異なる契機のあいだにも構成的依存関係が成立しうることを示す前提である。
この前提は維持しながら、その存在論的な意味を補強する。
通時的構成可能性の原理(A3改訂案)
構造の同一性を成立させる構成的依存関係は、時間的に同時に存在する契機のあいだに限定されない。ある構造の同一性条件が、その構造の成立以前に展開した実際の履歴に依存する場合、その履歴は当該構造の構成的な存在論的基礎となりうる。
この原理は、あらゆる構造が必ず歴史的な前史を持つと主張するものではない。
歴史的な依存関係を持つ構造について、その依存関係を存在論的に認めるための原理である。
8-3.定理T2の証明の補強
定理T2では、歴史的資格が成立する条件と、その資格が存在論的事実である理由を区別して証明する必要がある。
第一段階では、構成的依存関係の実在性を示す。
H(t₀)、S(t₁)、K_D(S) が実在し、H と S のあいだに、構造的不変項を実現する実際の構成的依存関係が成立していることを示す。
第二段階では、その関係から構成的資格の成立を導く。
この依存関係が成立している以上、H は S の構成的前史である。
そして、この資格は H と S の実在的な関係によって根拠づけられているため、誰かがその関係を認識することを必要としない。
したがって、次が成立する。
Q_S(H(t₀), t₁)
このように、T2は単なる定義上の帰結ではなく、通時的な構成的依存を認める存在論的前提と、実際の同一性決定関係を根拠として導かれる条件付きの定理として提示するのが適切である。
8-4.時間論に関する注記の改訂
従来の注記では、現在主義・永遠主義のどちらも前提しないと述べていた。
しかし、今回の検証によって、この説明だけでは不十分であることが分かった。
そこで、次のように改める。
注記(改訂案)
本稿は、時間の存在論について現在主義・永遠主義のいずれかを無条件に採用しない。ただし、時間的に異なる契機のあいだにも実在的な構成的依存関係が成立しうるという前提を採用する。
永遠主義においては、歴史的な構成的資格は、時間的に異なる履歴と構造とのあいだに成立するテンシレスな関係的事実として理解できる。
現在主義においては、過去についての事実が現在の構造の成立をどのように基礎づけるのかについて、現在的な真理基礎や通時的基礎づけなどの説明が必要となる。
したがって、本稿の時間論に対する中立性は、時間的な同時性を構成的依存関係の必要条件としないという意味での中立性であり、あらゆる時間論との整合性が無条件に証明されているという意味ではない。
9.今回の検証結果
今回の検証によって、歴史的遡及性の存在論的な位置づけは、以前よりも明確になった。
結論を整理すると、次のようになる。
第一に、歴史的遡及性を存在論的な成立として説明することは可能である。
過去の履歴が後続構造の構成的前史となるのは、それについての認識が変化したからではない。後続構造の同一性条件を実現する実際の構成的依存関係が存在するからである。
第二に、過去の出来事そのものが変化する必要はない。
新たに成立するものは、過去の出来事の内在的性質ではなく、その出来事が後続構造に対して持つ構成的資格という関係的事実である。
第三に、資格の成立を時間の存在論から完全に切り離すことはできない。
しかし、現在主義・永遠主義のどちらかを理論の基本前提にする必要もない。資格の実在性という中心命題と、その資格が時間論のなかでどのように説明されるのかという問題を区別すればよい。
第四に、第一論文と第二論文の理論的統一は維持できる。
第一論文は構造内部の個体性・同一性・第一性を説明し、第二論文は構造の成立以前の履歴が持つ構成的資格を説明する。両者は、構造的不変項と構成的依存秩序という共通の存在論的原理によって接続される。
ただし、ここでの結論は、現在主義との整合性まで無条件に証明されたという意味ではない。また、個別の履歴が実際に構成的前史であるかどうかは、対象の同一性水準と構造的不変項に照らして検証する必要がある。
今回の成果は、歴史的資格を単なる解釈や分類ではなく、構造の同一性条件に根拠づけられた関係的な存在論的事実として定義し、その成立条件を明確にしたことである。
おわりに――構造の成立は、その構成的前史を確定する
今回の検証で最も重要だったのは、歴史的遡及性を「過去の意味が後から変わること」として理解するのでは不十分だと確認できたことである。
本理論が問題にしているのは、意味の変更ではない。
ある構造が何によって成立しているのかという、存在論的な依存関係の問題である。
過去の出来事は、それ自体として過去に実際に生じた出来事である。しかし、それが特定の後続構造の構成的前史であるという資格は、その構造の同一性条件との関係によって成立する。
つまり、過去の履歴は、単に時間的に先行しているという理由だけで構成的前史になるのではない。
その履歴が、後続構造の構造的不変項を実現する構成的依存秩序に参与しているからこそ、その構造の構成的前史となるのである。
このことは、第一論文で検討してきた構造的遡及性とも深く関係している。
第一論文では、ある契機がそれ自体で第一のものとして成立しているのではなく、構造全体のなかで成立する個体性と依存関係によって、その第一性が確定することを論証してきた。
第二論文では、その考え方を時間的に先行する履歴にまで拡張する。
ここでは、構造の成立以前に存在していた履歴が、後続構造の成立によって、その構造の構成的前史として確定する。
第一論文が構造内部の存在論を扱うのに対して、第二論文は構造の成立を時間的に支える歴史の存在論を扱うのである。
両者を通じて明らかになるのは、存在者の個体性や優先性だけでなく、その成立を支える条件についても、構造的な依存関係から独立して説明することはできないということである。
構造は、その内部にある契機の個体性を成立させるだけではない。その構造が成立するために実際に依存していた過去の履歴についても、構成的な資格を確定する。
これが、今回の検証によって明確になった歴史的遡及性の存在論的な意味である。



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