個体化根拠充足原理の正当化⑱――原始的個体性とスコトゥスのこのもの性

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はじめに

「第一性の遡及的成立」のこれまでの研究では、個体性が構造的な秩序によって成立するという構造的個体化存在論を構築してきた。その基礎には、個体性を無条件の事実として措定するのではなく、その個体性を成立させる根拠を明らかにしなければならないという原理がある。これを「個体化根拠充足原理」と呼んできた。

しかし、この原理には、なお一つの重要な問題が残されていた。

個体性をそれ以上説明できない原始的な事実として認める存在論は、本当に不合理なのだろうか。

例えば、ある個体Aが他の個体Bと数的に異なる理由は、それ以上還元できない個体的な事実にあると考えることができる。この立場は、少なくとも論理的な矛盾を含んでいるわけではない。また、スコトゥスのこのもの性(haecceitas)のように、個体化の根拠を認めながら、その根拠自体はそれ以上別の原理によって説明されないとする哲学的立場も存在する。

したがって、個体化根拠充足原理を正当化するためには、原始的個体性を認める立場を単純に否定するのではなく、個体性そのものを基礎的事実として認めることと、個体性を何らかの根拠から説明することとの違いを明確にしなければならない。

さらに、個体化の根拠を要求することと、その根拠自身にも別の根拠を要求することは同じではない。この二つを区別しなければ、個体化根拠充足原理は根拠の無限後退という問題を抱えることになる。

本稿では、まず個体化の根拠と根拠自身の根拠を区別する。次に、スコトゥスのこのもの性を検討し、原始的な個体化原理が個体化根拠充足原理に対する反例にならないことを明らかにする。そのうえで、原始的個体性を認める立場と、個体性を説明する理論との違いを確定し、個体化根拠充足原理を改訂する。

最後に、なぜ「第一性の遡及的成立」において構造的個体化を採用する必要があるのかを論証し、この原理が理論全体のなかで果たす役割を明らかにする。


  1. 1. 個体化の根拠と根拠自身の根拠は異なる
  2. 2. スコトゥスのこのもの性は、本当に原始的個体性の立場なのか
    1. 2-1. 共通本性と数的個体性
    2. 2-2. スコトゥスは個体化の根拠を要求している
    3. 2-3. このもの性は根拠であると同時に、根本的なものでもある
    4. 2-4. 個体化には統一と差異という二つの問題がある
  3. 3. 原始的個体性を認める立場は、本当に反駁できるのか
    1. 3-1. 個体性をめぐる三つの存在論的立場
    2. 3-2. 原始的個体性は存在論的な可能性として認めなければならない
    3. 3-3. しかし、説明されていないことと、説明されていることは同じではない
  4. 4. 個体化根拠充足原理の必然性を確定する
    1. 4-1. 個体化根拠の三つの条件
    2. 4-2. 改訂された個体化根拠充足原理
    3. 4-3. なぜこの原理は必然的なのか
  5. 5. では、なぜ構造的個体化を採用するのか
    1. 5-1. 数的個体性と構造的個体性は、異なる説明対象である
    2. 5-2. 構造的個体化が持つ説明上の優位性
  6. 6. スコトゥスのこのもの性を、構造的個体化存在論に組み込めるか
    1. 6-1. このもの性は個体の内部における形式的な差異である
    2. 6-2. このもの性は、構造的個体化の限界事例として理解できる
    3. 6-3. 決定的な違いは、個体化原理そのものの位置づけにある
  7. 7. 個体化根拠充足原理と第一性の遡及的成立の接続
    1. 7-1. 個体化根拠は、個体の成立する規定領域を含まなければならない
    2. 7-2. 個体化根拠と第一性の成立根拠は同一ではない
    3. 7-3. 個体化根拠充足原理が第一性の遡及的成立を支える理由
  8. 8. 結論――個体化根拠充足原理の正当化
    1. 8-1. 今回確定した個体化根拠充足原理
    2. 8-2. 今回の検証によって確定したこと
    3. 8-3. 「第一性の遡及的成立」にとって何が前進したのか
  9. おわりに

1. 個体化の根拠と根拠自身の根拠は異なる

まず、これまでの個体化根拠充足原理に含まれていた曖昧さを取り除かなければならない。

これまで、この原理は次のように定式化されてきた。

個体性を存在論的に説明する理論は、個体性を原始的な事実として無条件に措定するのではなく、その個体性を成立させる構成的な根拠を明らかにしなければならない。

この命題には、実は二つの異なる要求が含まれている。

第一は、あるものが個体であるためには、その個体性を成立させる何らかの根拠が必要であるという要求である。

第二は、その根拠自身もまた、さらに別の根拠によって説明されなければならないという要求である。

しかし、第一の要求から第二の要求は導かれない。

例えば、ある個体Aの個体性が、ある内在的な個体化原理Gによって成立しているとする。この場合、次のように表現できる。

G → I(A)

ここで I(A) は、Aが一つの個体として成立しているという規定である。

この関係が成立するために、G自身がさらに別の根拠Hによって成立している必要はない。Gがそれ以上還元できない原初的な個体化原理であっても、GがAの個体性を成立させる根拠であることに変わりはない。

つまり、

個体性の根拠が存在する

ことと、

個体性の根拠自身にも根拠がある

ことは区別されなければならない。

この区別は、現代形而上学における基礎づけ(grounding)の議論とも関係する。基礎づけの議論では、すべての事実が別の事実によって基礎づけられるという無制限の原理と、基礎づけられない根本的な事実を認める立場とは区別される。基礎的な事実が存在すること自体は、基礎づけという関係を否定するものではない。

したがって、個体化根拠充足原理が成立するために、すべての根拠について無限に根拠を要求する必要はない。

ここで、次の区別を導入する。

第一階の個体化根拠

ある個体の個体性を成立させる根拠。

第二階の根拠

第一階の個体化根拠そのものを成立させる、さらに高次の根拠。

個体化根拠充足原理が直接要求するのは、第一階の根拠である。第二階の根拠まで要求することは、この原理の必然的な帰結ではない。

この修正によって、根拠の無限後退を個体化根拠充足原理そのものが抱え込む必要はなくなる。

ただし、ここで一つ注意しなければならない。第一階の根拠が存在するということと、その根拠が構造的であるということも、まだ同じではない。

これを明らかにするために、まずスコトゥスを検討する。

2. スコトゥスのこのもの性は、本当に原始的個体性の立場なのか

スコトゥスのこのもの性(haecceitas)は、今回の問題を検討するうえで非常に重要である。

なぜなら、スコトゥスは個体性を説明対象として明確に取り上げながら、その説明原理として、個体に固有の非質的な個体化原理を認めているからだ。

2-1. 共通本性と数的個体性

スコトゥスは、共通本性(natura communis)と個体化原理(haecceitas)を区別する。

例えば、ソクラテスとプラトンは、ともに人間である。両者には、人間という共通本性が認められる。しかし、人間という本性それ自体は、ソクラテスだけに属するものではない。同じ本性は、複数の個体において実現されうる。

したがって、人間という本性だけでは、なぜソクラテスがソクラテスという一つの個体であり、プラトンとは異なるのかを説明できない。

この問題に対して、スコトゥスはこのもの性を導入する。

共通本性 + このもの性 → 数的に一つの個体

共通本性が個体において実現されるとき、その本性はこのもの性によって限定され、特定の個体として成立する。

ここでいうこのもの性は、色や形、大きさなどの質的特徴ではない。それは、あるものをまさにこの個体として成立させる非質的な個体化原理である。

2-2. スコトゥスは個体化の根拠を要求している

ここで特に重要なのが、『オルディナティオ』第二巻第三討論第一部第四問第76節である。

スコトゥスは、個体化、数的統一、単独性(individuatio sive unitas numeralis sive singularitas)を説明する際、単に種に属するものが一つであるという不定な統一ではなく、「これである」という指定された統一(unitas signata)を問題にする。

そして、次のように述べる。

quaeritur causa non singularitatis in communi sed ‘huius’ singularitatis in speciali, signatae, scilicet ut est ‘haec’ determinate.

逐語的に訳せば、

「一般的な単独性の原因ではなく、個別に指定されたこの単独性の原因、すなわち、それが決定的にこのものであるという、この指定された単独性の原因が問われる。」

という意味になる。

これは今回の検討にとって極めて重要な箇所である。

スコトゥスは、個体が個体であることを説明せずに済ませているのではない。むしろ、なぜ個体は一つなのか、なぜ個体は他の個体と数的に異なるのか、なぜこのものは、まさにこのものであるのか、という問題を明示し、その成立根拠を探究している。

さらに、スコトゥスにおいては、このもの性は共通本性とは区別される実在的な形式性として位置づけられる。

そのため、単に個体に「このもの」という名前を与えているわけではない。このもの性は、共通本性を個体として限定する実在的な構成契機なのである。

したがって、ここから重要な結論が得られる。

スコトゥスのこのもの性は、個体化根拠充足原理に対する単純な反例ではない。

なぜなら、スコトゥス自身が個体性を成立させる根拠を認めているからである。

問題になるのは、その根拠自身をどこまで説明する必要があるのか、という点である。

2-3. このもの性は根拠であると同時に、根本的なものでもある

ここでスコトゥスの理論の特徴が明確になる。

このもの性は、共通本性を個体化する。しかし、そのこのもの性自体が、別の共通本性によって個体化されるというわけではない。それは個体の内在的な究極的現実性として機能する。

スコトゥスは、共通本性と個体化原理を、同一のもののなかにある形式的に区別された実在的な現実性として考える。

ここで重要なのは、このもの性が個体を外から限定する偶有的な性質ではないということだ。このもの性は、個体の成立そのものに属する内在的な原理である。

したがって、スコトゥスの立場は次のように整理できる。

N = 共通本性

H = このもの性

x = 数的に個体化された存在者

N + H → x

ここで H は、x の個体性を成立させる根拠である。

しかし、H 自身は、これ以上別の個体化原理によって構成されるものではない。

この意味で、H は個体化における基礎的な原理である。

この構造を踏まえると、スコトゥスは「根拠のない個体性」を認めたというよりも、「それ以上還元されない個体化根拠」を認めたと理解する方が正確である。

この違いは決定的だ。

2-4. 個体化には統一と差異という二つの問題がある

さらに、スコトゥスの議論には、現在の理論にとって重要な区別がある。

それは、個体化には二つの異なる問題が含まれているということだ。

第一の問題:個体はなぜ一つなのか。

これは、個体の内的な不可分性の問題である。

人間という共通本性は複数の個体に実現されうるが、ソクラテスはその一人のなかで数的に一つの個体として成立している。

第二の問題:個体はなぜ他の個体と異なるのか。

これは、個体間の数的区別の問題である。

ソクラテスとプラトンは、同じ人間という本性を持ちながら、数的には異なる。

スコトゥスは、この二つの問題を同じ個体化原理によって説明しようとする。

ここから、個体化根拠には二つの説明機能があることが分かる。

U(x) = 個体の数的統一

D(x, y) = 他の個体との数的区別

G(x) → U(x) + D(x, y)

これは、今後の理論にとっても有効な区別になる。

ただし、スコトゥスのこのもの性は、あくまでも個体に内在する原理である。

彼が個体化の根拠を要求していることは、個体化根拠充足原理を支持する。しかし、彼がその根拠として構造的関係を採用しているわけではない。

したがって、スコトゥスの理論から、構造的個体化の必然性を直接導くことはできない。

むしろ、スコトゥスの議論から得られるのは、次の命題である。

個体性を説明するためには、個体性とは区別される何らかの実在的な個体化原理を提示する必要がある。しかし、その個体化原理自体がさらに別の原理によって成立する必要はない。

これが、今回の問題を解決するための重要な出発点になる。


3. 原始的個体性を認める立場は、本当に反駁できるのか

ここで、原始的個体性を認める立場を、もう一度正確に検討しよう。

例えば、次のような存在論を考える。

ある個体Aが存在する。

Aは他の個体Bとは数的に異なる。

しかし、AがAであり、BがBであることについて、それ以上の個体化原理は存在しない。

AとBは、それぞれそれ自体として個体である。

この立場は、論理的に矛盾していない。

なぜなら、数的に異なるものが存在することと、その数的差異がさらに別のものによって説明されることは、論理的に同一ではないからだ。

ある理論が、

A ≠ B

を原始的な事実として認めても、それだけで論理矛盾は生じない。

ここで、原始的個体性を認める立場を不合理だと断定することはできない。

では、個体化根拠充足原理には、そもそも意味がないのだろうか。

そうではない。

問題は、原始的個体性を認めること自体ではなく、原始的個体性を認める立場が、個体性の成立を説明したと主張できるかどうかにある。

この違いを明らかにするために、三つの立場を区別する。

3-1. 個体性をめぐる三つの存在論的立場

立場A:原始的個体そのもの

個体Aは、それ以上の個体化原理を必要とせず、それ自体としてこの個体である。

個体性を説明する根拠は措定されない。個体性そのものが最終的な存在論的事実となる。

立場B:原始的な個体化原理

個体Aは、内在的な個体化原理Gによって個体として成立する。

ただし、G自身はさらに別の原理によって説明されない。スコトゥスのこのもの性が典型的な候補となる。

立場C:構造的個体化

個体Aは、ある構造Sにおける位置、関係、役割、構成的秩序によって個体として成立する。

個体性は、個体に内在する孤立した原理ではなく、構造的な関係によって規定される。

この三つは、いずれも論理的な可能性として区別できる。

そして、今回の検討で重要なのは、BとCがAとは異なるということだ。

Aは、個体性そのものを説明の最終地点とする。

BとCは、個体性とは区別される何らかの個体化根拠を提示する。

ただし、Bではその根拠が原初的な内在的原理であるのに対して、Cでは構造的関係が根拠になる。

この区別によって、原始的個体性に対する批判の方向が明確になる。

3-2. 原始的個体性は存在論的な可能性として認めなければならない

まず、Aを論理的に禁止することはできない。

世界には個体が存在し、それらがそれ以上説明されないという存在論は、少なくともそれ自体として矛盾していない。

現代形而上学でも、説明や基礎づけを持たない事実(brute facts)を認める立場は、正面から検討されている。

ある事実が基礎づけられていないことを認めても、その事実が他の事実を基礎づけることはありうる。また、あらゆる事実が基礎づけられるという原理を採用するかどうかも、独立した論争になっている。

したがって、あらゆる個体性が必ず何らかの別の根拠によって説明されなければならないという無制限の原理を、今回の理論から証明することはできない。

ここは明確に認めるべきである。

3-3. しかし、説明されていないことと、説明されていることは同じではない

次に、存在論が個体性をどのように扱っているかを考える。

ある理論が、

「Aはそれ自体としてAである」

と述べるだけなら、Aの個体性が存在することを認めているにすぎない。

しかし、それによってAが個体として成立する条件を説明したことにはならない。

ここでは説明の成立条件を考える必要がある。

例えば、ソクラテスとプラトンが同じ人間という本性を持つとする。

この共通本性は、両者が人間であることを説明できる。

しかし、共通本性だけでは、なぜ二人が数的に異なる個体として成立するのかを説明できない。

ここで共通本性だけを提示し、個体間の差異を説明しようとすれば、説明対象である数的差異が説明項の内部に存在しないという問題が生じる。

この問題は、スコトゥスが共通本性だけでは個体化を説明できないと考えた理由とも関係している。

つまり、説明には、何を説明しようとしているのかに対応した差異化の根拠が必要である。

ここから、次の論証が成立する。

命題1

ある理論が、個体Aの数的個体性を説明対象として設定しているとする。

命題2

Aの個体性を説明するには、Aが単にある種に属することだけではなく、同じ種に属する他の個体とは数的に異なることを説明しなければならない。

命題3

AとBに等しく適用される共通の規定だけでは、AとBの数的差異を説明できない。

命題4

したがって、Aの個体性を説明するには、Aを他の個体から区別する実在的な差異化の根拠が必要である。

結論

個体性の成立を説明する存在論は、個体性を成立させる差異化の根拠を提示しなければならない。

ここで重要なのは、最後の結論が、個体化根拠そのものにも根拠が必要だという主張を含まないことである。

必要なのは、説明対象と説明項のあいだに、個体性を成立させる構成的な関係があることだ。

この論証は、無制限の十分理由律を前提としていない。個体性を説明するという課題そのものから、説明項に必要な条件を導いている。


4. 個体化根拠充足原理の必然性を確定する

ここまでの議論から、今回の原理を正確に定式化できる。

ただし、その前に「根拠」という言葉をさらに厳密にしておきたい。

個体化根拠は、次の三つの条件を満たさなければならない。

4-1. 個体化根拠の三つの条件

条件A:統一性の根拠

根拠は、あるものが一つの個体として成立することを説明しなければならない。

単に複数のものが集まっていることを示すだけでは足りない。なぜそれらが複数の個体の集合ではなく、一つの個体として成立しているのかを説明する必要がある。

条件B:差異性の根拠

根拠は、その個体が同じ種や同じ種類に属する他の個体と数的に異なることを説明しなければならない。

共通の性質を列挙するだけでは、この条件を満たさない。

条件C:構成的実在性

根拠は、単なる認識上の識別手段や言語上の呼称であってはならない。

例えば、ソクラテスを「ソクラテス」と呼ぶことや、ある個体を座標で指定することは、それだけでは個体性の存在論的な成立条件にならない。

個体化根拠は、その個体が実際にその個体として成立することに関わる実在的な規定でなければならない。

この三条件を満たすなら、その根拠が内在的な個体化原理であっても、外的な条件であっても、関係的な構造であってもよい。

また、その根拠自身が原初的なものであることも許される。

ここで、今回の原理を次のように定式化する。

4-2. 改訂された個体化根拠充足原理

個体化根拠充足原理(Principle of Individuation-Ground Sufficiency)

個体性の存在論的成立を説明対象とする理論は、ある存在者が数的に一つの個体として成立し、同種の他の個体から区別されることを構成する、実在的かつ差異化的な根拠を提示しなければならない。

この根拠は、内在的・外在的・関係的・構造的なものでありうる。また、その根拠自身が、さらに別の根拠によって成立することを要求しない。

ただし、個体化根拠を提示せず、個体性そのものを最終的な原始的事実として措定する理論は、個体性の成立を説明した理論ではなく、個体性を基礎的事実として採用した理論として位置づけられる。

この原理には、三つの重要な特徴がある。

第一に、個体化根拠を要求するが、無制限の十分理由律を要求しない。

第二に、原始的な個体化原理を認める。

第三に、個体性そのものを原始的事実とする立場と、個体性を何らかの根拠から説明する立場とを明確に区別する。

これによって、原始的個体性をめぐる問題は解決できる。

4-3. なぜこの原理は必然的なのか

ここでいう必然性は、すべての存在者が現実に何らかの別の存在者から個体化されているという、無条件の形而上学的必然性ではない。

そうではなく、個体性の成立を説明するという理論的課題を引き受けた以上、その説明対象に対応する個体化根拠を提示することは、説明の成立にとって必然的であるという意味での必然性である。

これは単なる研究者の好みや便宜ではない。

なぜなら、個体化を説明すると主張しながら、その個体化を成立させる差異化の条件を何も示さないなら、その理論は説明対象を説明項の内部に含んでいないからだ。

例えば、

  • Aは個体である。
  • BはAとは異なる個体である。
  • なぜ異なるのかは説明できない。
  • ただし、両者は異なる。

という説明は、数的差異を認めているが、数的差異が成立する条件を何も与えていない。

これは数的差異の否定ではない。

数的差異の説明を断念しているのである。

したがって、原始的個体性を認める立場は、論理的には許容されるが、個体化の説明理論としては不十分である。

このようにして、個体化根拠充足原理の必然性は、説明の対象と説明の条件との関係から正当化される。

なお、これは無制限の十分理由律を証明する議論ではない。十分理由律にも、対象と様相の範囲が異なる複数の定式化があり、無制限の原理と限定された原理は区別されなければならない。


5. では、なぜ構造的個体化を採用するのか

ここで、最も重要な問題に進む。

これまでの論証によって、個体性には何らかの個体化根拠が必要であることが、個体性の説明という課題に即して正当化された。

しかし、それだけでは構造的個体化の優位性は確立されない。

スコトゥスのように、個体に内在する原始的な個体化原理を採用しても、個体化根拠充足原理は満たされるからである。

それでは、なぜ「第一性の遡及的成立」は、スコトゥスのような内在的個体化原理ではなく、構造的個体化を採用するのか。

この問いに答えるには、まず、何を説明しようとしているのかを区別しなければならない。

5-1. 数的個体性と構造的個体性は、異なる説明対象である

まず、次の二つの命題を比較する。

I₁(A):Aは数的に一つの個体である

I₂(A, S):Aは構造Sにおける特定の個体である

最初の命題は、Aが他の個体とは数的に異なる、一つの存在者であることを表している。

これに対して、二番目の命題は、Aが特定の構造Sにおいて、ある位置や役割、関係的な規定を持つ個体として成立していることを表している。

ここで注意したいのは、後者が前者に単に情報を付け加えたものではないということだ。

例えば、ある存在者が数的に一つの個体であることは認められても、それが複合的な全体の構成要素としてどのような位置を占め、何との関係によってその役割を持つのかは、別の問題である。

つまり、数的個体性を説明できる原理が、そのまま構造内部の個体性まで説明できるとは限らない。

スコトゥスのこのもの性は、あるものがまさにこの個体であることを説明する。

しかし、この原理だけでは、その個体が複合的な構造のなかでどのような役割を持ち、他の構成要素とどのような関係を形成しているのかまでは決定されない。

もちろん、スコトゥスの理論に関係的な説明を追加することは可能である。しかし、その場合には、すでにこのもの性とは別の関係的な規定を導入していることになる。

したがって、ここでは説明対象を区別する必要がある。

説明対象必要な説明原理
数的に一つであること内在的な個体化原理でも説明可能
他の個体と数的に異なること個体間の差異化原理
複合的全体の一部として成立すること構造的な位置・関係・統一条件
構造内部で特定の役割を持つこと構造内部の関係的規定
構造内部で第一のものとなること非対称的な優先関係とその規定次元

ここから、今回の理論にとって重要な限定が得られる。

構造的個体化存在論は、あらゆる存在者の数的個体性を構造から説明しなければならないと主張する必要はない。構造において成立する個体性は、その構造的秩序から説明されなければならないと主張すればよい。

これなら、スコトゥスの理論を無理に否定する必要もない。

5-2. 構造的個体化が持つ説明上の優位性

では、構造的個体化には、内在的な個体化原理に対してどのような優位性があるのか。

ここでは、四つの点を挙げることができる。

第一に、複数の個体の差異を一つの関係的秩序から説明できること。

内在的個体化原理の場合、ソクラテスにはソクラテスのこのもの性、プラトンにはプラトンのこのもの性が存在する。

この説明は、それぞれの個体の数的差異を説明することができる。

しかし、複数の個体が一つの関係的秩序を形成している場合、その秩序全体を説明するには別の原理が必要になる。

これに対して構造的個体化では、個々の項の差異と、それらが一つの全体を構成することを、同一の構造的秩序から説明できる。

これは説明対象の統一という点で優位性を持つ。

第二に、構成要素の変化と個体の同一性を区別できること。

個体の同一性が構成要素の数的同一性だけに依存しているなら、構成要素が交代した時点で個体も別のものになってしまう。

しかし、個体の同一性が関係的な秩序に依存している場合、構成要素が変化しても、その秩序が維持されれば個体は存続しうる。

逆に、構成要素が残っていても、個体を成立させていた秩序が失われれば、個体性は失われる可能性がある。

これは、構造的個体化が個体の成立だけでなく、個体の持続条件まで説明できることを意味する。

第三に、個体の構造相対的な位置を説明できること。

同じ個体でも、異なる構造に属すれば、その位置や役割が異なる場合がある。

内在的なこのもの性だけでは、この変化を説明することはできない。

構造的個体化ならば、個体の数的同一性を維持しながら、その個体が異なる関係的規定を獲得することを説明できる。

第四に、第一性の成立まで説明できること。

これが今回の理論にとって最も重要である。

内在的個体化原理が説明するのは、あるものがこの個体であることだ。

しかし、あるものが別のものに対して第一であることは、個体の数的同一性とは異なる。

例えば、AとBがそれぞれ独立した個体として成立していたとしても、そのどちらがある関係構造において第一であるかは、それらの個体性だけからは決定されない。

ここには、さらに優先関係と規定次元が必要になる。

したがって、第一性の遡及的成立においては、構造的個体化が不可欠な役割を持つ。

この四つの点から、構造的個体化の優位性は、単に原始的個体性よりも説明が詳しいということではない。

個体の数的差異、全体の統一、個体の持続、構造内部の位置と第一性を、相互に関連する一つの存在論的秩序から説明できることにある。

ただし、これはあらゆる存在者に対する絶対的な優位性ではない。

数的に一つであるということだけを説明するなら、スコトゥスのこのもの性でもよい。

しかし、複合的な全体の内部において個体性と第一性が成立することを説明するなら、内在的なこのもの性だけでは十分ではない。

この説明対象の違いこそ、構造的個体化を採用する根拠になる。


6. スコトゥスのこのもの性を、構造的個体化存在論に組み込めるか

ここまでの議論を踏まえて、スコトゥスのこのもの性を改めて位置づけたい。

結論から言えば、このもの性は、個体化根拠充足原理の内部には位置づけられるが、そのまま構造的個体化原理に還元することはできない。

ただし、ここには重要な接続可能性がある。

6-1. このもの性は個体の内部における形式的な差異である

先ほど確認したように、スコトゥスは共通本性とこのもの性を、同一の存在者に属する形式的に区別された実在的契機として考えている。

『オルディナティオ』第二巻第三討論第一部の第188節で、スコトゥスは個体化原理を、複合体の単なる質料や形相とは異なる、存在者の究極的な現実性として説明している。

ここで重要なのは、共通本性と個体化原理が、二つの独立した物体として存在しているのではないということだ。

それらは同一の存在者における異なる形式的現実性である。

したがって、スコトゥスの理論には、すでに個体内部の複数の規定的契機を区別する考え方がある。

この点は、構造的個体化存在論と接続できる。

なぜなら、構造的個体化存在論も、個体を完全に無差異な一つのものとして扱うのではなく、異なる規定的契機の統一として考えるからである。

しかし、ここで両者を同一視してはいけない。

スコトゥスのこのもの性は、共通本性を特定の個体として限定する内在的な原理である。

それに対して、構造的個体化は、異なる契機が相互の関係と構成的秩序によって、それぞれの個体性を成立させる過程を問題にする。

つまり、スコトゥスでは個体化原理が特定の個体の内部にある。

構造的個体化では、個体の成立条件は、その個体を含む構造的秩序にある。

この違いは残しておく必要がある。

6-2. このもの性は、構造的個体化の限界事例として理解できる

ここで、もう一歩踏み込んで考えよう。

スコトゥスの理論を、現在の理論に完全に対立するものとして排除する必要はない。

むしろ、このもの性を個体化の根本的な構成契機として位置づければ、構造的個体化存在論が取り扱える個体化根拠の一つとして認めることができる。

ただし、そのためには「構造」の意味を拡張しすぎないことが必要である。

仮に、二つの形式的な契機が存在するだけで何でも構造と呼ぶなら、構造という概念は個体化に関するあらゆる理論を包摂してしまう。

それでは、構造的個体化存在論の固有性が失われる。

そこで、次の区別を採用する。

種類特徴スコトゥスとの関係
内在的形式構造同一の存在者の内部に異なる形式的契機があるこのもの性を位置づけられる
関係的構造複数の契機が相互の関係によって規定されるこのもの性だけでは説明できない
個体化的構造関係的秩序が構成要素の個体性を成立させる現在の理論の中心
第一性構造個体化された項のあいだに非対称的な優先関係が成立する第一性の遡及的成立に固有の問題

この区別によって、スコトゥスのこのもの性は、個体内部の形式的な差異化として理解できる。

しかし、それが直ちに複数の項からなる関係的構造を成立させるとは限らない。

したがって、このもの性は個体化根拠充足原理の有効な一例であり、構造的個体化存在論における内在的な個体化原理の可能性を示すものでもある。

ただし、構造的個体化と同一の説明原理ではない。

6-3. 決定的な違いは、個体化原理そのものの位置づけにある

ここで両者の違いを、もう一度整理しておきたい。

スコトゥスの場合、

共通本性 + このもの性 → 個体

という構造がある。

このもの性は、個体を成立させる究極的な内在的原理である。

それに対して、現在の理論では、

構造的分節 → 構造的関係 → 個体化

という方向を考える。

ここでは個体化原理が、最初から完成した個体に固有の内在的属性として与えられるのではない。

個体化原理そのものが、構造的な秩序のなかに位置づけられる。

この違いによって、両者の射程は明確に分かれる。

スコトゥスは、個体の数的単独性を説明するために、個体固有の内在的原理を必要とする。

一方、現在の理論は、ある個体が構造のなかで何として成立するのかを説明するために、その個体を成立させる構造的秩序を必要とする。

そして、この後者の説明こそが、第一性の遡及的成立に必要なのである。


7. 個体化根拠充足原理と第一性の遡及的成立の接続

ここまでの議論を、理論全体のなかに戻してみよう。

今回の検証によって、個体化根拠充足原理の位置づけは、かなり明確になった。

それは、すべての存在者を構造から説明しなければならないという原理ではない。

また、すべての個体化根拠に、さらに別の根拠が必要だという原理でもない。

それは、個体性の成立を説明する存在論に対して、個体性を成立させる実在的な差異化の根拠を要求する原理である。

ここから、第一性の遡及的成立にとって重要な論理的展開が導かれる。

7-1. 個体化根拠は、個体の成立する規定領域を含まなければならない

まず、個体化根拠が何を説明しているのかを限定する必要がある。

スコトゥスのこのもの性は、ある存在者が数的に一つであることを説明する。

しかし、構造的個体化では、ある存在者が特定の関係構造のなかで一つの項として成立することが問題になる。

したがって、個体化の根拠は、単に個体を他の個体と区別するだけでは足りない。

その個体が属する構造的領域と、その構造における規定関係も成立させなければならない。

ここでは、個体化の根拠を次のように表現できる。

Gₛ(x) = Sにおけるxの個体化根拠

この表現は、個体化の根拠が、必ずしも個体に固有の単独的な性質ではないことを示している。

ある個体の個体性が、構造Sの関係的秩序に依存するならば、その個体化根拠はSとの関係において成立する。

ここで、構造的個体化は単に説明上の選択肢ではなく、説明対象の性質によって要求されることになる。

7-2. 個体化根拠と第一性の成立根拠は同一ではない

次に、もう一つ重要な区別がある。

個体化根拠があることと、その個体が第一であることは同じではない。

例えば、構造SにおいてAとBが個体化されたとしても、AがBに対して第一であるとは限らない。

第一性を成立させるには、さらに優先関係が必要である。

Iₛ(A) ∧ Iₛ(B)

から、

A ≺_d B

は自動的には導かれない。

ここで d は時間的・因果的・同一性決定上・説明上などの規定次元を表す。

したがって、第一性を成立させるには、構造的個体化とは区別された非対称的な基礎づけ関係が必要となる。

しかし、この関係は、すでに完成した個体のあいだに後から付け加えられるだけの外的な関係ではない。

第一性の遡及的成立では、構造的秩序によって個体化された項が、その構造内部の優先関係によってさらに規定される。

この点に、個体化と第一性の接続がある。

7-3. 個体化根拠充足原理が第一性の遡及的成立を支える理由

以上をまとめると、次のようになる。

第一段階

個体性を説明する存在論は、個体性を成立させる実在的な個体化根拠を提示しなければならない。

第二段階

ある個体が構造の内部において成立する場合、その個体化根拠は、その構造的秩序に属する。

第三段階

構造的秩序は、各項の位置、役割、関係的な同一性を成立させる。

第四段階

その構造に非対称的な基礎づけ関係が存在するとき、ある項は特定の規定次元において他の項に優先する。

第五段階

したがって、その第一性は、個体の構造から独立した属性ではなく、構造的個体化と非対称的な基礎づけ関係を通じて成立する。

ここで、個体化根拠充足原理は、第一性の遡及的成立に対して基礎的な役割を持つ。

それは、第一性を説明する以前に、第一性を担う個体がどのように成立するのかを説明するための原理なのである。


8. 結論――個体化根拠充足原理の正当化

ここまでの検討を踏まえて、最終的な判断を示したい。

今回、明らかになったことは四つある。

第一に、原始的個体性を認める存在論を論理的に否定することはできない。

個体性そのものを基礎的な事実として認める立場は、論理矛盾を含んでいない。あらゆる事実に説明を要求する無制限の十分理由律を、今回の理論だけから証明することもできない。

第二に、原始的な個体化原理を認めることは、個体化根拠充足原理への反例ではない。

スコトゥスのこのもの性が示すように、個体化の根拠は、それ自身がさらに説明されなくても、個体性を成立させる根拠として機能しうる。

したがって、根拠を要求することと、根拠自身にも根拠を要求することは区別されなければならない。

第三に、個体性の成立を説明する理論には、実在的な個体化根拠の提示が必要である。

個体性を説明対象としながら、個体性を成立させる差異化の根拠を提示しないなら、その理論は個体化を説明していない。

この点で、個体化根拠充足原理は、説明理論の構成的条件として必然的に正当化される。

第四に、構造的個体化の優位性は、説明対象の違いによって正当化される。

あらゆる個体が構造から個体化されなければならないわけではない。

しかし、複合的な構造の内部において成立する個体性や、その構造における位置・役割・第一性を説明するなら、構造的な根拠が必要になる。

この限定は、理論の普遍性を損なうものではない。何を説明しようとしているのかを明確にすることで、むしろ理論の適用範囲と論証の正確さを高めるものである。

8-1. 今回確定した個体化根拠充足原理

最終的に、「第一性の遡及的成立」では、個体化根拠充足原理を以下のように採用する。

個体化根拠充足原理(改訂版)

個体性の存在論的成立を説明対象とする理論は、ある存在者が数的に一つの個体として成立し、同種の他の個体から区別されることを構成する、実在的かつ差異化的な根拠を提示しなければならない。

この根拠は内在的・外在的・関係的・構造的なものでありうる。また、その根拠自身がさらに別の根拠によって成立することを要求しない。

個体性そのものを原始的な事実として措定することは論理的に許容されるが、その場合には個体性の成立を説明したことにはならない。

必然性の所在: あらゆる存在者についての無制限の存在論的十分理由律ではなく、個体性の成立を説明する存在論における構成的必然性。

8-2. 今回の検証によって確定したこと

問題最終的な判断
原始的個体性の論理的可能性認める
原始的個体性による個体化の説明説明としては不十分
原始的な個体化根拠の可能性認める
個体化根拠自身の無限の説明要求不要
このもの性の位置づけ個体化根拠の一形態
構造的個体化の必然性構造における個体性の説明に限定して成立
第一性への接続構造的個体化を基礎として非対称的な優先関係を導入する

これで、個体化根拠充足原理の正当化について、論証上の結論を確定できる。

個体化根拠充足原理を正当化するために、原始的個体性が論理的に不可能だと証明する必要はない。また、スコトゥスのこのもの性を否定する必要もない。

むしろ、個体化の根拠と、その根拠自身の存在論的な究極性を区別することで、原理の正当性を確保できる。

8-3. 「第一性の遡及的成立」にとって何が前進したのか

今回の検証は、個体化根拠充足原理の定義を修正しただけではない。理論全体にとって、三つの重要な成果がある。

第一に、個体化の説明と存在一般の説明を区別できるようになった。

今後の理論は、何もかもを説明する究極的な存在論を最初から目指す必要がない。

問題にしているのは、個体性がどのように成立し、その個体が構造のなかでどのような位置を持つのかということである。

この限定によって、説明の射程が明確になった。

第二に、内在的な個体化原理と構造的個体化の関係を整理できた。

スコトゥスのこのもの性は、個体化根拠の一形態として認められる。

ただし、それは構造的個体化と同一ではない。

この違いによって、構造的個体化存在論は、あらゆる内在的個体化原理を否定する必要がなくなった。

その代わり、構造における個体性を説明する際には、構造的な根拠が必要であるという、より明確な主張を展開できるようになった。

第三に、個体化根拠充足原理の役割が明確になった。

個体化根拠充足原理は、個体性を説明対象として維持するための原則である。

構造的個体化存在論は、その原則を構造における個体性の説明へと適用したものである。

そして、第一性の遡及的成立は、その構造的個体化を基礎として、構造内部の非対称的な優先関係が成立することを説明する。

この三つの関係が、以前よりも明確になった。


おわりに

今回の検討によって、個体化根拠充足原理は、その射程と必然性の所在を明確にすることができた。

重要なのは、あらゆる個体性が必ず別のものによって個体化されなければならないという、無制限の原理を証明しようとしないことである。

個体性を原始的な事実として認めることは、論理的には可能である。また、スコトゥスのこのもの性のように、個体化の根拠そのものがそれ以上還元されない原理であることも認められる。

しかし、個体性の成立を説明しようとするならば、その個体性を構成する実在的な根拠を提示しなければならない。

この点において、個体化根拠充足原理は必然的な原理として正当化される。

そして、「第一性の遡及的成立」にとって重要なのは、この原理をあらゆる個体に無差別に適用することではない。

ある個体が特定の構造の内部において成立する場合、その個体性の成立根拠は、その構造的な秩序に求められる。

構造的個体化によって個体が成立し、さらにその構造内部に非対称的な基礎づけ関係が成立することによって、ある項が特定の規定次元において第一のものとなる。

したがって、個体化根拠充足原理は、第一性の成立を直接説明する原理ではない。

それは、第一性を担う項がどのように成立するのかを説明するための基礎原理である。

この位置づけによって、構造的個体化と第一性の遡及的成立との接続は、以前よりも明確になった。

今回の結論を一つの命題に集約すれば、次のようになる。

個体化根拠充足原理は、個体性の成立を説明する存在論における構成的必然性を持つ。ただし、その個体化根拠自身がさらに別の根拠を必要とするわけではない。そして、構造内部における個体性と第一性を説明する場合には、その個体化根拠は構造的秩序に求められる。

これによって、個体化根拠充足原理を「第一性の遡及的成立」の基礎原理として採用する理論的根拠が確立された。

個体性を説明することから構造的個体化へ、そして構造的個体化から第一性の成立へ。

この論理的な接続を、今後の研究においても維持していきたい。

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