構造と構造項の相互構成は循環するのか⑳――階層的個体化と構造的全体の統一・境界条件

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はじめに

「第一性の遡及的成立」において、構造と構造項の相互構成は、理論の中心をなす論点の一つである。

これまでの議論では、次の二つの関係を区別してきた。

  • C:構造項から構造の具体的実現へ向かう構成関係
  • I:構造から構造項の個体化へ向かう個体化関係

この区別によって、構造と構造項の相互構成は、同一の対象を相互に説明する単純な循環ではないと論じてきた。

しかし、この説明には、なお一つの問題が残っている。

Cに参加する構成要素と、Iによって個体化される構造項とは、存在論的にどのような関係にあるのか。

仮に、Cに参加する構造項が、すでに当該構造において個体として成立していなければならないとすれば、構造を成立させるために構造項が必要である一方、その構造項が成立するためには構造が必要であるという循環が再び生じてしまう。

したがって、問題はCとIの関係を単に区別することではない。両者に登場する項の存在論的な資格を区別し、何が構造を実現し、何が構造によって個体化されるのかを明確にすることである。

さらに、構造の統一条件についても検討しなければならない。

構成要素が連結しているというだけで、それらが一つの存在論的な秩序を形成しているとは限らない。また、どの関係を構成的な関係とみなすかによって、構造の境界も変わってしまう。

本稿では、この二つの問題を一つの原理によって解決する。

結論を先取りすれば、構造と構造項の相互構成は、構造の具体的実現と、構造項の構造内的な個体化という、異なる存在論的次元に属する二つの依存関係として理解されなければならない。

そして、構造的全体の統一と境界は、構成要素とその関係が共同で実現する構造的不変項によって規定される。

これによって、相互構成の循環問題と、構造的全体の統一・境界問題を、同一の存在論的枠組みの中で解決する。


1.相互構成における項の存在論的資格を区別する

まず、これまでの形式化に残されていた曖昧さを明確にしておこう。

従来の表記では、構造項を xᵢ として、次のように整理してきた。

C:構造項 → 構造の具体的実現

I:構造 → 構造項の個体化

しかし、ここでxᵢが、すでに個体化された構造項を意味するのか、それとも個体化以前の構造的契機を意味するのかが明確ではなかった。

この二つは、存在論的に異なる。

したがって、まず以下の四つを区別する必要がある。

存在論的水準定義存在論的な資格
構造的契機 mᵢ個体化以前の差異化された契機・位置独立した個体ではない
下位構造項 bᵢ下位構造によって個体化された構成要素下位水準における個体
構造項 xᵢˢ特定の構造Sにおいて位置と役割を与えられた項当該構造における個体
構造S構造的契機と構成的関係が一つの秩序を形成したもの構造的全体

ここで最も重要なのは、構造的契機と構造項を同一視しないことである。

構造的契機 mᵢ は、すでに独立した個体として存在している何かではない。

それは、他の契機との差異によって区別される位置、あるいは関係的な役割である。

したがって、mᵢに添えられた添字iは、あらかじめ独立した複数の個体が存在することを意味しない。あくまで、関係的に区別可能な契機を形式的に識別するための記号である。

これに対して、構造項 xᵢˢ は、特定の構造Sにおいて個体化された項である。

つまり、構造的契機が特定の位置として区別されることと、その位置を占めるものが構造の一項として個体化されることは、異なる事柄なのである。

ここでさらに重要になるのが、下位構造項 bᵢ という概念である。

上位構造を構成する要素は、必ずしも個体化されていない存在者ではない。

例えば、ある細胞が組織を構成する場合、その細胞はすでに細胞として一定の個体性を獲得している。しかし、組織の内部でどのような位置と役割をもつ細胞であるかは、上位の組織構造によって規定される。

細胞は、組織によって初めて存在するわけではない。しかし、組織の構成項としての細胞の位置と役割は、組織との関係によって個体化される。

このとき、細胞は下位水準では個体であり、上位水準では構造を構成する差異化された契機として参与する。

したがって、同じ存在者が、ある水準では個体であり、別の水準では個体化以前の構造的契機として機能することが可能なのである。

ただし、これは同じ存在者が同じ資格のまま個体であり、非個体でもあるという意味ではない。

下位水準における個体性と、上位水準における構造的な位置・役割を区別しているのである。

この階層的な資格の違いを導入することで、構造と構造項の関係を、同じ水準での相互依存として理解する必要がなくなる。

2.構成関係Cと個体化関係Iの形式的再定義

以上の区別に基づいて、CとIを改めて定義する。

まず、上位水準における構造Sを成立させるものは、当該構造Sによってすでに個体化された構造項ではない。

それは、下位構造によって成立した構成要素と、それらの間に成立する構成的関係である。

したがって、Cは次のように表記される。

Cℓ:下位構造項群 Bℓ−1 と、上位水準における構成的関係 Rℓ から、構造 Sℓ が具体的に実現される。

ここで、ℓは存在論的水準を示す。

Bℓ−1は、下位水準において個体化された構成要素の集合である。Rℓは、それらが上位水準において参与する関係的秩序である。

重要なのは、Cが、当該上位構造によって個体化された項 xᵢˢ を前提としていないことである。

Cに参与するのは、下位水準ですでに成立している構成要素、あるいは最下位水準においては個体化以前の構造的契機である。

次に、Iを定義する。

Iは、実現された構造Sが、その内部にある構造的契機に位置と役割を与え、それを当該構造の構造項として個体化する関係である。

Iℓ:構造 Sℓ が、構造的契機 mᵢℓ を、その構成要素 bᵢℓ−1 との関係において、構造項 xᵢˢ として個体化する。

この関係をもう少し明確に表すと、次のようになる。

xᵢˢ = ⟨bᵢℓ−1, mᵢℓ⟩Sℓ

これは、構造項 xᵢˢ が、下位水準で成立した構成要素 bᵢℓ−1 と、上位構造Sℓにおける位置・役割 mᵢℓ との関係によって規定されることを意味する。

ここでの山括弧は、二つの独立した実体を単純に並べているのではない。下位水準の構成要素が、上位構造における特定の位置を占めることによって、上位構造の一項として個体化されることを示している。

したがって、CとIの関係は、次のように整理できる。

関係入力出力説明する事柄
Cℓ下位構造項群と構成的関係Sℓ上位構造の具体的実現
IℓSℓとその構造的契機xᵢˢ上位構造における項の個体化

この再定義によって、CとIに登場する項の存在論的な資格が明確になる。

Cは、上位構造の内部ですでに個体化された項を前提としていない。

Iは、構造の存在そのものを無から生成するのではなく、実現された構造の内部で、構成要素を一つの構造項として個体化する。

つまり、Cは構造の実現を説明し、Iは構造項の構造内的な同一性を説明する。

ここで説明対象が異なることが、形式的に確定したのである。

3.階層的個体化による循環の解消

では、この再定義によって、当初の循環問題は本当に解消されるのだろうか。

結論からいえば、解消される。

その理由を、階層構造に即して示そう。

ある上位構造Sℓに参与する構成要素 bᵢℓ−1 は、下位構造Sℓ−1によって個体化されている。

したがって、その構成要素は、上位構造Sℓが成立する以前から、少なくとも下位水準における個体として成立している。

しかし、そのことは、bᵢℓ−1が上位構造Sℓにおける構造項 xᵢˢ として、すでに個体化されていることを意味しない。

上位構造Sℓが成立することによって、bᵢℓ−1は特定の位置と役割を獲得し、上位構造の一項として個体化される。

ここには、二つの異なる成立条件が存在する。

第一に、下位構造項が上位構造の実現に参与できるためには、それが下位水準ですでに成立していなければならない。

第二に、その項が上位構造において何であるか、どのような位置と役割をもつかは、上位構造によって規定される。

この二つを混同すると、構造と構造項の相互構成は循環しているように見える。

しかし、両者を区別すれば、その循環は消失する。

構成要素の下位水準における個体性は、上位構造の成立を可能にする。

上位構造の成立は、その構成要素の上位水準における個体性を可能にする。

ここで重要なのは、上位構造が構成要素を無から生み出す必要がないということである。

構造が個体化するのは、構成要素の存在そのものではなく、それが当該構造の内部において占める位置と役割である。

したがって、構造による個体化は、構成要素の存在を前提にすることと矛盾しない。

むしろ、それぞれ異なる存在論的水準に属する二つの成立条件を正確に区別するために、階層的個体化が必要なのである。

この点は、次の図式によってまとめられる。

下位構造 Sℓ−1
 ↓ 個体化
下位構造項 bᵢℓ−1
 ↓ 上位構造への参与
上位水準の構造的契機 mᵢℓ
 ↓ 構成的関係による具体的実現
上位構造 Sℓ
 ↓ 個体化
上位構造項 xᵢˢ

なお、ここでの矢印は時間的な前後関係を意味するものではない。各水準における存在論的依存関係を表している。

また、この階層構造は、必ずしも最下位に独立した原始的個体が存在することを要求しない。

最下位水準においては、個体化以前の構造的契機とその差異的関係から構造が実現され、その構造が契機を個体化するという基本関係が成立する。

したがって、この議論は、原始的個体を無条件に前提することなく、個体化の階層的な再帰を説明できる。

循環が成立しないことの形式的証明

ここで、循環の問題を形式的に確定しておこう。

仮に循環が成立するためには、少なくとも次の関係が同一の存在論的水準において成立しなければならない。

  1. 構造Sが成立するために、構造項xが必要である。
  2. 構造項xが成立するために、同じ構造Sが必要である。

この場合、Sの成立がxの成立に依存し、xの成立がSの成立に依存するため、同一水準において相互に前提し合う説明循環が生じる。

しかし、今回の再定義では、この関係は成立しない。

Cが必要とするのは、下位水準ですでに成立した構成要素 bᵢℓ−1 と、それらの構成的関係である。

一方、Iが個体化するのは、上位構造Sℓにおいて位置と役割を獲得した構造項 xᵢˢ である。

したがって、Cが前提とするものと、Iが成立させるものは同一ではない。

Cは上位構造の具体的実現を説明し、Iはその上位構造における構成要素の個体性を説明する。

両者は同一の成立条件を相互に要求していない。

もちろん、上位構造が下位構造の成立に依存し、下位構造がさらにその下位構造に依存するという階層的な依存関係は存在する。

しかし、それは同一水準での説明循環とは異なる。

循環を回避するために必要なのは、構造と構造項の関係を単純に一方向化することではなく、構造の実現条件と構造項の個体化条件を、異なる水準において区別することである。

これによって、相互構成は循環ではなく、階層的な存在論的依存関係として確定される。


4.構造的全体の統一条件――連結性から構造的不変項へ

次に、構造的全体の統一条件を検討する。

これまでの議論では、連結性と構成的閉包性によって構造的全体を定義してきた。

しかし、この二つの条件だけでは、構造的全体の統一を十分に説明できない。

なぜなら、複数の構成要素が連結していることと、それらが一つの存在論的な秩序を形成していることは同じではないからである。

例えば、二つの独立した個体が因果的に相互作用しているとしても、そのことだけで両者が一つの構造的全体になるわけではない。

ある出来事が別の出来事を引き起こしたとしても、その因果関係が、両者の個体性や共通の構造的秩序を成立させているとは限らない。

したがって、構造的全体の統一を説明するためには、連結性とは異なる条件が必要である。

ここで導入するのが、構造的不変項という概念である。

構造的不変項とは、構造を構造として成立させている関係的な秩序のうち、一定の変化や再編成を経ても、その構造の同一性を規定し続ける関係的条件である。

これは、構造が物質的にまったく変化しないことを意味しない。

むしろ、構成要素の交代、数量的な変化、内部状態の変化などを許容しながら、それでもなお同じ構造として成立するための条件を意味している。

例えば、ある組織を考えてみよう。

その組織を構成する人間は交代することがある。役職や担当も変更される。活動の内容も変化する。

それでも、その組織が同一の組織として存続する場合がある。

このとき、その組織の同一性を支えているのは、構成員の物質的な同一性ではない。

構成員の交代や役割の変更を許容しながら、組織の組織性を成立させている関係的な秩序である。

もちろん、すべての変更が許されるわけではない。ある関係が失われ、特定の構成原理が崩れれば、その組織は別の組織へと変化するか、組織としての同一性を失う。

このとき、どのような変化を許容し、どのような変化によって同一性が失われるかを区別する条件が、構造的不変項である。

したがって、構造的全体の統一とは、単に構成要素が連結している状態ではない。

それは、構成要素の位置と役割、およびそれらの関係が、一つの構造的不変項を共同で実現している状態である。

ここから、構造的全体の統一条件を次の三つに整理できる。

第一条件:関係的な役割の規定

各構造的契機は、独立した個体としての属性だけによって構造内での位置を決定されるのではない。

その位置と役割は、構造全体の関係的秩序に依存する。

したがって、構造項は、当該構造との関係を取り除いても完全に同じ資格で成立するものではない。

下位水準の個体として存続することは可能であっても、上位構造の構造項としての同一性は、上位構造によって規定される。

第二条件:共通の不変項の実現

構造の構成要素とその関係は、単に互いに接触しているだけでは不十分である。

それらは、共通の構造的不変項を実現していなければならない。

この不変項は、各構成要素が個別に備えている性質を足し合わせただけでは説明できない。

なぜなら、それは各構成要素がどのような位置と役割をもつかを規定する、全体的な関係の秩序だからである。

したがって、構造的全体の統一は、個別の構成要素に還元されない関係的な統一である。

第三条件:構成的依存関係の閉包

構造的不変項を実現するために必要な構成要素と関係は、すべて当該構造の内部に含まれなければならない。

逆に、その不変項の実現や構造項の個体化に関与しない単なる外的関係は、構造の内部に含まれる必要はない。

したがって、構造的全体とは、共通の不変項を実現し、その実現に必要な構成的依存関係について閉じた領域なのである。

この三条件によって、連結性だけでは不十分だった構造的統一の基準が明確になる。


5.構成的関係と外的・因果的関係の区別

では、どのような関係を構成的関係として扱うべきなのだろうか。

この問いに答えるためには、因果的関係と構成的関係を区別しなければならない。

ただし、両者は経験的に互いに排他的な関係ではない。

ある関係が因果的な作用をもつと同時に、ある構造にとって構成的な役割を担うこともあり得る。

区別すべきなのは、関係がどのような説明的機能を担っているかである。

5-1.因果的関係

因果的関係は、ある対象や出来事の状態を変化させる関係である。

この関係によって、ある個体の状態や運動、性質などが変化することはあり得る。

しかし、その因果関係が変化しても、当該個体が何であるかを規定する同一性条件そのものは変わらない場合がある。

例えば、外部から加えられた力によって物体の運動状態が変化しても、その物体の構造的な同一性は維持されることがある。

この場合、外部からの力は、その物体の状態を変える因果的条件ではあるが、その物体を構造的に成立させる構成的条件とは限らない。

ここで重要なのは、何らかの原因によって構造が変化したり破壊されたりすることと、その原因が構造を構成していることは別だという点である。

外部からの衝撃によってある構造が破壊されたとしても、その衝撃が、破壊以前の構造を成立させていたわけではない。

5-2.構成的関係

これに対して、構成的関係は、構成要素の位置と役割、あるいは構造的不変項の実現条件そのものを規定する関係である。

ある関係を変更したとき、単に構成要素の状態が変化するだけでなく、その構成要素が当該構造の一項として何であるか、あるいは構造が同一の構造として存続するための条件が変化するならば、その関係は構成的な役割を担っている。

例えば、ある組織において、構成員間の権限関係や意思決定の規則は、その組織の内部的な構成条件となる。

それらが変更されれば、単に個々の構成員の状態が変わるだけでなく、組織を組織として成立させる関係的な秩序が変化する。

したがって、構成的関係とは、構造的不変項の実現と構造項の個体化に関与する関係なのである。

5-3.構成的関係を判定する反事実的基準

以上を踏まえると、構成的関係は次の基準によって判定できる。

ある関係を変更・除去・置換したとき、当該構造の状態が変化するだけなのか、それとも構造的不変項の実現条件や構造項の個体化条件そのものが変化するのか。

前者であれば、基本的には因果的・外的な関係である。

後者であれば、その関係は構成的な役割を担っている。

ただし、この判定は、ある関係の変更によって構造が何らかの影響を受けたかどうかだけを問題にしているのではない。

関係の変更によって、構造が許容する変化の範囲、構造項の役割を決定する条件、あるいは構造の同一性を維持する条件そのものが変わるかどうかを問題にしている。

したがって、外的な因果作用によって構造が破壊されることを、直ちに構成的関係の証拠とみなすことはできない。

構成的関係とは、構造を変化させる原因一般ではなく、構造の実現と同一性を規定する関係なのである。

ここで、もう一つ重要な問題を考えておこう。

ある関係を一つ取り除いても、他の関係によって同じ構造的不変項が実現され続けることがある。

この場合、その関係を構成的ではないと判断すべきなのだろうか。

必ずしもそうではない。

構造の構成的条件は、個々の関係が単独で不可欠であることを要求しないからである。

ある関係が代替可能であっても、その関係の存在や性質が構造の許容する変化の範囲、あるいは構造項の役割の可能性を規定しているならば、その関係は構造的な意味をもつ。

したがって、構成性の判定は、単一の関係を取り除いた場合に構造が直ちに崩壊するかどうかだけに依存してはならない。

判定すべきなのは、当該関係が構造的不変項の実現条件と、その不変項が許容する関係的な可能性に寄与しているかどうかである。

この基準によって、冗長な関係や代替可能な関係を含む複雑な構造も扱うことができる。


6.構造の境界条件――構成的閉包の原理

ここまでの議論を踏まえ、構造の境界を定義する。

構造的全体の境界を、空間的な近接性や単なる連結性によって決定することはできない。

なぜなら、空間的に離れた構成要素が一つの構造に参与する場合もあれば、空間的に隣接している対象が別々の構造に属する場合もあるからである。

また、因果的な相互作用が存在するというだけで、それらを一つの構造に含めることもできない。

したがって、境界を決定するのは、構造的不変項の実現に必要な構成的依存関係でなければならない。

ここで、構成的閉包の原理を導入する。

構成的閉包の原理

ある構造的不変項を実現するために必要な構造的契機、構成要素、および関係をすべて含み、それらの構成的依存関係について閉じた最小の領域が、当該構造の存在論的境界をなす。

この原理には、二つの重要な側面がある。

第一に、構造的不変項の実現に必要なものは、構造の内部に含まれなければならない。

第二に、その実現に必要ではないものは、単に因果的に接触しているという理由だけで、構造の内部に含まれてはならない。

この二つの条件によって、構造の境界は決定される。

形式的には、次のように表現できる。

B(S) = Clᴶ(A)

ここで、

  • B(S):構造Sの存在論的境界
  • A:構造的不変項Jの実現を規定する基礎的な構造的契機
  • Clᴶ:Jに関する構成的依存関係の閉包

である。

Clᴶは、Aから出発して、その構造的不変項の実現や構造項の個体化に寄与する構成的依存関係を順次取り込み、それ以上取り込むべき構成的依存関係が存在しなくなるまで拡張した領域を意味する。

ここでいう最小性は、構成要素の数を最小にするという意味ではない。

構造的不変項を完全に実現するために必要なものを欠落させず、同時に、その実現に関与しない外的関係を不必要に含めないという意味での最小性である。

この原理によって、構造の境界は恣意的な設定ではなく、構造的不変項に関する構成的依存関係によって決定される。

6-1.なぜその範囲が一つの構造なのか

ここで、当初の問いに戻ろう。

なぜ、ある範囲の構成要素と関係を、一つの構造的全体として扱うことができるのか。

その答えは、それらが一つの構造的不変項を共同で実現しているからである。

構成要素が単に連結されているだけならば、それらを一つの構造として扱う根拠はない。

しかし、複数の構成要素が、それぞれの位置と役割を相互に制約しながら、単独では実現できない共通の関係的秩序を成立させているならば、それらは一つの構造的全体を形成している。

ここで重要なのは、構成要素が下位水準で独立した個体性をもっていることは、上位水準での構造的統一を否定しないという点である。

一つの細胞がそれ自体で個体として成立していても、それが組織の一部として特定の役割を担い、その組織の秩序に参与することは可能である。

下位水準の個体性と、上位水準の構造的統一は、異なる水準に属する。

したがって、構造の統一は、構成要素がそれぞれ独立した個体性を失うことによって成立するのではない。

むしろ、すでに成立している構成要素が、共通の構造的不変項のもとで互いの位置と役割を規定し合うことによって成立するのである。

6-2.構造を分割できる場合

では、ある構造が複数の下位構造に分割できる場合、その構造は本当に一つの全体なのだろうか。

ここで、分割可能性と構造的統一を混同してはならない。

一つの構造が下位構造を含んでいることは、その構造が一つの全体であることと矛盾しない。

問題になるのは、分割された各部分が、それぞれ独立して同じ構造的不変項を実現できるかどうかである。

仮に、構造をAとBに分割したとき、それぞれが独立して成立し、両者を結びつける関係が単なる外的・因果的関係にすぎないならば、AとBを一つの上位構造として扱う根拠はない。

この場合、存在しているのは二つの構造であり、それらの間には因果的な関係が存在するにすぎない。

しかし、AとBがそれぞれ下位構造として成立していても、両者の相互関係によって初めて実現される上位の構造的不変項が存在するならば、両者は一つの上位構造を形成する。

したがって、構造の分割可能性は、構造的統一の否定を意味しない。

上位構造の統一を決めるのは、下位構造が独立して存在できるかどうかではなく、下位構造間の関係が上位水準の構造的不変項を実現するために構成的であるかどうかである。

この点によって、下位構造の自立性と上位構造の統一性を両立させることができる。


7.構造的全体の統一と境界を決定する最終原理

ここまでの議論を、一つの原理にまとめよう。

構造的全体が成立するためには、単なる連結性ではなく、その構成要素と関係が一つの構造的不変項を共同で実現していなければならない。

そして、その構造的不変項の実現に寄与する構成的依存関係をすべて含むことで、構造の境界が定まる。

このことから、次の原理を導くことができる。

構造的統一・境界原理

構造的全体とは、構成要素とその構成的関係が、共通の構造的不変項を共同で実現する関係的秩序であり、その存在論的境界は、当該不変項の実現と構造項の個体化に寄与する構成的依存関係の最小完全閉包によって規定される。

この原理から、当初の三つの問いに明確な回答を与えることができる。

第一に、なぜその関係は構成的なのか。

それが、構造項の位置と役割、あるいは構造的不変項の実現条件を規定しているからである。

第二に、なぜその関係は単なる外的・因果的な関係ではないのか。

その関係の変更が、単なる状態変化にとどまらず、構造的不変項の実現条件や構造項の個体化条件そのものに関わるからである。

第三に、なぜその範囲を一つの構造として扱うのか。

その範囲が、共通の構造的不変項を共同で実現するための構成的依存関係について閉じた領域だからである。

これによって、構造的統一の条件と境界の条件は、別々の恣意的な基準ではなく、一つの原理から導かれる。

さらに、この原理は、世界に存在するすべての構造が互いに重ならない、単一の階層を形成することまでは要求しない。

同一の構成要素が、異なる構造的不変項のもとで、複数の構造に参与することは可能である。

また、下位構造と上位構造が入れ子状に成立することも可能である。

これは構造の境界が恣意的であることを意味しない。

構造の境界は、何を同じ構造として説明しようとしているのかという問いに対して、実際に成立している構造的不変項とその構成的依存関係によって決定されるからである。

したがって、複数の構造が重なり合ったり、異なる水準で成立したりすることは、理論の不備ではなく、構造的個体化の階層性から導かれる帰結である。


8.相互構成と構造的不変項の接続

ここまでの二つの論証を接続することで、構造と構造項の相互構成を、さらに厳密に説明できる。

まず、構造を成立させるのは、構成要素とその構成的関係である。

構成要素は、下位水準においてすでに個体化されているか、あるいは最下位水準における個体化以前の構造的契機として存在する。

これらが構成的関係を形成することによって、構造的不変項が実現され、構造的全体が具体的に成立する。

これがCの方向である。

次に、成立した構造は、その内部にある構成要素を、構造的不変項との関係において個体化する。

構成要素は、単に他の要素と接触しているのではなく、構造全体の秩序の中で特定の位置と役割を占めることによって、当該構造の一項として成立する。

これがIの方向である。

この二つの方向は、それぞれ異なる説明対象をもっている。

Cは、構造的不変項が具体的に実現される条件を説明する。

Iは、その不変項のもとで構造項が個体化される条件を説明する。

しかし、ここでさらに重要なことがある。

構造的不変項は、構成要素に先立って独立した実体として存在するわけではない。

それは、構成要素と構成的関係が具体的に成立することによって実現される。

一方で、構成要素も、構造的全体から完全に独立したものとして、当該構造における位置と役割を決定されるわけではない。

それらが当該構造の構成項として何であるかは、構造的不変項との関係によって規定される。

したがって、ここには二つの異なる第一性が成立する。

  • 構成的関係においては、構成要素が構造の具体的実現条件として優先する。
  • 個体化関係においては、構造が構造項の構造内的な同一性条件として優先する。

これらは、同一の事柄についての相反する優先性ではない。

構造の具体的実現と構造項の個体化という、異なる存在論的問題における優先性である。

ここで、第一性の遡及的成立という理論の中心的な発想が、より明確になる。

構造的全体は、その構成要素と関係によって具体的に実現される。

しかし、構造的全体が成立して初めて、それらの構成要素が当該構造の構成項として何であったのかが規定される。

つまり、構造は、その成立を可能にした契機を、成立後に自らの構成項として個体化する。

ここでの「遡及的」とは、過去に存在しなかったものを時間的に遡って生成するという意味ではない。

構造の成立によって、構成要素の構造内的な同一性と位置づけが成立するという、存在論的な依存関係を意味している。

構成要素は構造を実現する条件である。

しかし、それが当該構造の構成要素であるという同一性は、構造の成立によって初めて規定される。

これこそが、構造と構造項の相互構成を、循環ではなく、第一性の遡及的成立として理解するための決定的な根拠である。


9.最終結論――相互構成は循環ではなく、階層的な存在論的依存関係である

本稿では、「第一性の遡及的成立」に残されていた弱点③について、二つの問題を検討した。

第一は、構造と構造項の相互構成が本当に循環を回避できているのかという問題である。

この問題に対しては、構造的契機、下位構造項、構造項という存在論的資格を区別することで回答した。

構造の具体的実現に参与するものと、その構造によって個体化されるものは、同じ資格をもつ項ではない。

上位構造を実現するのは、下位水準においてすでに成立している構成要素と、それらの構成的関係である。

一方、その構成要素が上位構造においてどのような位置と役割をもつかは、上位構造によって個体化される。

したがって、構造が構成要素を実現条件として必要とすることと、構成要素が構造を個体化条件として必要とすることは、同じ水準における相互前提ではない。

第二は、構造的全体の統一と境界をどのように規定するかという問題である。

この問題に対しては、構造的不変項と構成的閉包の原理を導入した。

構造的全体は、単なる連結性によって成立するのではない。

構成要素とその関係が、共通の構造的不変項を共同で実現することによって成立する。

そして、その不変項の実現と構造項の個体化に寄与する構成的依存関係をすべて含む、最小完全閉包が構造の境界を決定する。

これによって、構成的関係と単なる因果的関係を区別し、構造的全体の統一条件と境界条件を一つの原理から導くことができた。

以上の議論から、弱点③に対する結論は次のように確定できる。

構造と構造項は、同一の存在論的水準において相互に成立を前提とするのではない。構成要素とその関係が構造を具体的に実現する一方、実現された構造は、その構成要素を構造的不変項のもとで個体化する。この二つの依存関係は、構造の実現と構造項の個体化という異なる次元に属しているため、説明上の循環を形成しない。

さらに、構造の統一と境界は、構造的不変項を共同で実現する構成的依存関係の閉包によって規定される。

したがって、相互構成は、単なる連結性を根拠とする循環的な全体論でも、独立した個体を最初から前提とする原子論でもない。

それは、下位水準における個体化と上位水準における構造的個体化が重なり合いながら、構成要素と全体の双方を成立させる、階層的な存在論的秩序なのである。

「第一性の遡及的成立」は、このような秩序において、構造の具体的実現に対する構成要素の優先性と、構造項の個体化に対する構造の優先性が、いかに両立するかを説明する理論として、さらに明確な形式を獲得した。

弱点③については、以上の定義と論証によって、循環問題、統一条件、境界条件の三点を一つの体系として解決したと結論できる。

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