K_D(S)の独立した判定基準は本当に機能するのか(同一性の水準・構造的不変項・数的同一性の再検討)――第一論文・第二論文の最終改稿に向けた研究記録⑦

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はじめに

これまで「第一性の遡及的成立」では、構造的不変項K(S)を理論全体の共通基準として位置づけてきた。

K(S)は、構造が何によってその構造として維持されるのかを説明する概念である。そして、この概念を基礎として、構造的個体化、第一性、歴史的前史の成立を一つの存在論的体系に接続しようとしてきた。

しかし、これまでの検証を通して、一つの重要な問題が残っていることに気づいた。

それは、K(S)について独立した判定基準を提示することと、その基準が実際に循環なく機能することを証明することは同じではないという問題である。

例えば、ある会社の組織的同一性を考えてみる。

会社の構成員が交代しても、会社は同じ組織として存続することがある。その場合、意思決定の手続き、役割秩序、権限関係などが、組織の同一性を維持する条件の候補になる。

しかし、どの条件が必要で、どの条件が不要なのかを判断するには、そもそも何をもって同じ組織として存続しているとみなすのかを決めなければならない。

その判断をK(S)から導いてしまえば、K(S)によって説明すべき同一性を、あらかじめK(S)によって定義していることになる。

これは循環論法につながる可能性がある。

そこで今回は、研究ノート①で確立したK(S)の独立判定基準を改めて検証し、同一性の水準Dを指定するだけで本当に十分なのか、また、K_D(S)が実際に独立して判定できるためには何が必要なのかを検討する。

今回の検証によって、重要な結論が得られた。

Dの指定だけではK_D(S)の独立した判定は完了しない。Dの指定に加えて、同一性を判定するための独立した比較枠を設定する必要がある。

この修正は、第一論文だけでなく、第二論文の歴史的遡及性にも直接関係するものである。


1. Dの指定だけではK_D(S)を独立に判定できない

まず、従来の定義を確認しておく。

これまで構造的不変項K(S)について、次のように定義してきた。

「構造的不変項K_D(S)とは、対象Dにおける構造Sの同一性を維持するために構成的な役割を果たす、最小かつ完全な関係的制約の体系である。」

この定義の基本的な方向性は維持できる。

ただし、今回の検証では、この定義を適用するために、さらに一つの段階が必要であることが明らかになった。

例えば、会社の同一性には、少なくとも次のような水準が考えられる。

  • 組織的同一性
  • 法的同一性
  • 機能的同一性

これらは必ずしも一致しない。

構成員が交代しても、組織としての同一性は維持される場合がある。一方、法的な承継によって別の法人になったとしても、組織的な活動や機能が継続している場合もある。

したがって、最初に何の同一性を説明するのかを指定しなければならない。

ここでDが必要になる。

しかし、Dによって組織的同一性を指定したとしても、組織的同一性がどのような条件によって維持されるのかは、まだ分からない。

例えば、構成員の交代はどこまで許容されるのか。組織目的の変更は可能なのか。意思決定手続きが変わった場合には、同一性が維持されるのか。

こうした問題は、Dを指定するだけでは解決できない。

ここで、次の三つを区別する必要がある。

水準問題役割
第一何の同一性を問題にするのかDの指定
第二どの対象・事例を比較し、何を同一性の判断基準とするのか説明対象の独立した固定
第三何がその同一性を構成的に維持しているのかK_D(S)の特定

これまでの議論では、第一の水準から第三の水準に直接進んでいた。

しかし、実際には第二の水準が必要である。

Dは何の同一性を説明するのかを指定するが、何をもってその同一性が維持されたと判断するのかまでは決めない。

したがって、K_D(S)を独立に判定するためには、Dの指定に加えて、比較対象、基準事例、対照事例、許容される変化の範囲を明示する必要がある。

2. 独立した比較枠を設定する

では、独立した比較枠とは何か。

これは、K_D(S)を判定する前に、何を説明対象として扱うのかを固定するための枠組みである。

具体的には、次の事項を明示する。

  1. 対象となる存在者の種類。
  2. 問題にする同一性の水準D。
  3. 同一性を判断するための基準事例と対照事例。
  4. どのような変化を検証対象とするのか。
  5. 同一性の判断に利用する証拠や領域固有の識別手続き。

例えば、法人としての同一性を扱うなら、法人に関する制度的規則や承継手続きを参照する。

組織的同一性を扱うなら、実際の組織的実践、権限関係、意思決定の継続などを比較対象として設定する。

ただし、ここで重要なのは、こうした基準によってK_D(S)の内容を最初からすべて決定してしまわないことである。

独立に固定するのは、何を説明するのか、どのような事例を同一性の事例として扱うのかという問題である。

その同一性がどのような構成的関係によって可能になっているのかを説明することは、依然として本理論の課題である。

例えば、ある会社について、制度上は同じ法人として扱われているという事実を確認することと、その法人としての同一性がどのような構成的制約によって維持されているのかを説明することは異なる。

前者は説明対象を特定するための基準であり、後者は本理論が明らかにしようとする存在論的な説明である。

もちろん、制度上の基準自体が争われている場合には、比較枠の設定にも議論が必要になる。その場合、同一性の判定がすでに確定しているものとして扱うことはできない。

したがって、この独立性はあらゆる対象領域について無条件に保証されるものではない。

重要なのは、どの基準を採用したのかを明示し、それがK_D(S)の結論から逆算されたものではないことを示すことである。

Sortalismとの関係

この問題は、同一性論におけるSortalism(類概念に基づく同一性論)とも関係している。

David Wigginsなどの議論では、あるものが何であるのかという種類の指定が、その個体の同一性や個体化、持続条件を考えるうえで重要になる。

この点は、今回のDの指定と近い問題を扱っている。

ただし、Dとソータルは同じものではない。

例えば、「会社」「法人」「生物」は対象が何であるかという種類の問題である。

それに対して、「組織的同一性」「法的同一性」「機能的同一性」は、何の観点から同一性を説明するのかという問題である。

対象の種類と同一性の観点は、関連しているが区別される。

したがって、本理論ではDを同一性の水準として位置づけ、対象が何であるかという種類の指定とは区別する必要がある。

Sortalismとの共通点を認めたうえで、Dの指定とK_D(S)の構成的説明を別々の段階として扱うことが重要である。


3. K_D(S)の五つの判定基準を再検証する

研究ノート①では、K_D(S)を判定するために、次の五つの基準を提示していた。

  1. 構成的関連性
  2. 代替可能性
  3. 反事実的識別力
  4. 条件間の連関と補償関係
  5. 最小性と完全性

今回の検証では、これらの基準を撤回する必要はないと判断した。

ただし、それぞれがどのような役割を持ち、どのような限界があるのかを明確にする必要がある。

3-1. 構成的関連性

候補となる条件が、対象Dにおける構造の成立に実際に関与しているかを判定する基準である。

例えば、会社の所在地が変わっても組織的同一性が維持される場合、所在地は通常、組織的同一性の構成条件とはならない。

一方、権限関係や意思決定手続きは、組織が一つのまとまりとして成立するための構成条件である可能性がある。

ただし、ある条件が長期間維持されていることや、対象に強い因果的影響を与えていることだけでは、構成的関連性を証明できない。

因果的に重要であることと、対象を構成することは別だからである。

したがって、構成的関連性を判断するには、その条件が対象の成立そのものにどのように関わっているのかを示さなければならない。

3-2. 代替可能性

代替可能性は、具体的な構成要素と、それが担う構造的役割を区別する基準である。

例えば、ある会社の取締役会が廃止されても、それと同等の権限を持つ意思決定機関が設置されれば、組織的同一性が維持される可能性がある。

この場合、不変項となるのは取締役会という具体的な制度そのものではなく、組織的な意思決定を成立させる関係的制約である。

この区別は、K_D(S)を単なる構成要素の集合として理解しないために重要である。

ただし、代替可能性の判定にも、何を同一性の維持とみなすのかという基準が必要になる。

したがって、独立に設定した比較枠と許容変化の範囲を参照して判断しなければならない。

3-3. 反事実的識別力

今回、最も修正が必要だと分かったのが、この基準である。

従来は、ある候補条件を変更した場合に対象Dの同一性が維持されるかどうかを検討し、その条件が構成的役割を持つかを判断するとしていた。

しかし、単独の条件を変更するだけでは十分ではない。

例えば、会社の意思決定手続きを変更しても同一性が維持されるとする。

この場合、意思決定手続きはK_D(S)に含まれないと判断できるだろうか。

必ずしもそうではない。

別の権限関係や組織的手続きが、その変更を補償している可能性があるからである。

また、変更前後を同じ組織として判断した基準が、すでにK_D(S)から逆算されているならば、反事実的検討も循環する。

そこで、反事実的識別力の役割を次のように限定する。

反事実的検討は、独立に固定されたD水準の同一性判断を前提として、候補となる関係的制約が、その同一性を構成するためにどのような役割を果たしているのかを検証する方法である。

つまり、反事実的検討によって同一性の基準そのものを決めるのではない。

独立した比較枠のもとで、K_D(S)の候補を検証するのである。

また、単独条件の変更だけでなく、複数条件の組み合わせや代替経路も検討する必要がある。

3-4. 条件間の連関と補償関係

この基準は、今回の検証でも重要性が確認できた。

構造的不変項は、個々の条件の単なる集合ではなく、それらの間に成立する関係的制約の体系だからである。

例えば、組織目的、権限関係、意思決定手続きが相互に補完している場合、意思決定手続きの一部が変更されても、他の条件がその役割を引き継ぐことがある。

この場合、単一条件を除去しただけで同一性が失われるとは限らない。

したがって、構成的役割を判断するときには、個別条件だけでなく、条件群全体の関係と補償構造を検討しなければならない。

これは、K_D(S)を関係的秩序として理解するために不可欠である。

3-5. 最小性と完全性

最小性とは、同一性の説明に不要な条件を含めないことである。

完全性とは、同一性を維持する変化と、それを破壊する変化を区別するために必要な条件を欠かないことである。

ただし、今回の検証では、この二つにも限定が必要であることが分かった。

K_D(S)の最小性と完全性は、あらゆる可能世界に対して無条件に成立するわけではない。

それらは、あらかじめ指定されたDと、その対象領域において検討すべき許容可能な変化の範囲に相対的に判断される。

例えば、組織的同一性を説明するために必要な条件がすべて含まれていても、それだけで法的同一性まで説明できるとは限らない。

したがって、K_D(S)の完全性は、指定された同一性の水準Dにおける完全性である。

3-6. 五つの基準の最終的な位置づけ

以上をまとめると、次のようになる。

判定基準役割
構成的関連性構成的条件と偶然的・因果的条件を区別する
代替可能性具体的な実現と抽象的な関係的役割を区別する
反事実的識別力独立に固定された比較枠のもとで候補を検証する
条件間の補償関係単一条件ではなく関係的制約の体系を検証する
最小性・完全性指定されたDと許容変化の範囲において過不足を判定する

したがって、五つの基準はそのまま維持する。

ただし、これらは単独でK_D(S)の独立性を保証するものではない。

独立した比較枠を前提として、五つの基準を組み合わせることによって、K_D(S)の候補を検証するのである。


4. K_D(S)は常に一意に決定されるのか

今回の検証で、もう一つ重要な問題が明らかになった。

それは、K_D(S)の一意性である。

例えば、ある組織の意思決定を成立させる仕組みとして、二つの異なる制度設計が考えられるとする。

一方は中央集権的な権限構造によって意思決定を成立させる。

他方は複数の部門が相互に承認する分散的な仕組みによって、同じように意思決定を成立させる。

両者は具体的な構造として異なる。

しかし、同じ組織的役割を果たし、同じ種類の変化を許容し、同じD水準の同一性を維持するならば、どちらもK_D(S)の候補となる可能性がある。

この場合、K_D(S)は一つに決定される必要があるのだろうか。

今回の検証では、無条件に一意性を要求する必要はないと判断した。

むしろ、次の三つの場合を区別する必要がある。

第一の場合:表現や実現の違いにすぎない場合

異なる候補が、同じ構造的役割を実現し、同じ許容可能な変化に対して同じ結果を与えるならば、説明上同等なものとして扱うことができる。

この場合、K_D(S)の一意性は、記号や具体的な実現方法の完全な一致ではなく、説明上の同値性を基準として認める。

第二の場合:非同型だが、説明上は同等である場合

複数の候補が構造的に同型ではなくても、D水準の同一性を維持するための制約と、その制約が許容する変化の範囲が同じである場合がある。

この場合には、構造的同型性だけでなく、D水準に相対的な説明上の同値性を認めることができる。

ただし、単に同じ結果になるというだけでは足りない。

構成的役割、許容変化、補償関係、必要な依存関係の閉包まで一致していることを確認する必要がある。

第三の場合:実質的に異なる複数の候補が残る場合

最も重要なのがこの場合である。

複数の候補が五つの判定基準を満たしているにもかかわらず、構成的役割や同一性条件が実質的に異なる場合、K_D(S)は一意に特定されていない。

このとき、どれか一つを恣意的に採用してはならない。

追加の事例や構成的説明によって候補を絞り込むか、複数の候補が残ることを認める必要がある。

また、候補の共通部分が完全な不変項になることを証明できる場合には、それを共通核として扱うことも考えられる。

ただし、共通部分が常に完全であるとは限らない。

したがって、K_D(S)の一意性を無条件に仮定せず、実際の対象領域において検証することが重要である。

4-1. K_D(S)の複数性は構造境界B(S)にも影響する

この結論は、第一論文の構造境界B(S)にも関係する。

これまで構造境界を、K(S)を実現するために必要な最小完全な構成的依存関係の閉包として定義してきた。

その表記は次のとおりである。

B(S) = Cl_min(S, K(S))

研究ノートでは、同じ不変項を実現する複数の代替経路が存在する場合、最小完全な閉包も複数ありうることを認めている。

今回の検証を踏まえれば、この説明は維持するべきである。

むしろ、K_D(S)の一意性を無条件に仮定しない以上、構造境界についても一意性を当然のものとして扱うべきではない。

複数のK_D(S)の候補が存在し、それぞれが異なる構成的依存関係を要求するならば、対応する構造境界も異なる可能性がある。

そして、この問題は第二論文の歴史的前史にも波及する。

K_D(S)が複数の非同値な候補を持つならば、どの過去の出来事が構成的前史に属するのかという判定も、その候補に応じて異なる可能性がある。

したがって、歴史的前史の確定には、K_D(S)の判定が十分に確定していることが必要になる。


5. 構造的不変性と数的同一性を区別する

今回の検証でもう一つ重要だったのは、構造的同一性と数的同一性の区別である。

例えば、A社とB社が完全に同じ組織構造を持っているとする。

両者の意思決定手続き、権限関係、役割秩序などが同型であったとしても、A社とB社は別個の会社である。

つまり、

K_D(A) ≅ K_D(B)

であっても、

A = B

とはならない。

ここでは、二つの問題を区別しなければならない。

構造的同一性

ある構造がどのような関係的制約によって成立し、どのような変化を許容するのかという問題。

数的同一性

二つの対象が実際に一つの同じ個体であるかという問題。

K_D(S)は前者を説明する概念である。

後者を説明するためには、個体の通時的連続性や系譜的関係など、別の条件を検討する必要がある。

この区別を行わなければ、同じ不変項を持つすべての構造が同一の個体であるという誤った結論に至ってしまう。

5-1. 通時的同一性の暫定式を再検討する

研究ノート①では、数的な通時的同一性を説明するために、次の式を提示していた。

S_t ≡_D S_t+1 ⇔ B_D(S_t, S_t+1) ∧ K_D(S_t) ≅ K_D(S_t+1)

この式は、K_D(S)の保存だけで数的同一性を説明できないという問題を解決するために、通時的連続性を追加しようとしたものである。

しかし、今回あらためて検討すると、この式を一般定理として採用することは適切ではない。

理由は三つある。

第一に、K_D(S)の構造的同型性だけでは、数的同一性を保証できない。

先ほどのA社とB社の例が示すように、二つの構造が同じ不変項を実現していても、別個の個体である可能性がある。

第二に、K_D(S)の厳密な同型性を要求すると、同一個体の段階的な変容を説明できない可能性がある。

ある組織が意思決定制度や権限関係を徐々に変更しながら存続する場合、変化の前後でK_D(S)の実現形態が完全に同型であるとは限らない。

第三に、通時的連続性関係だけでも十分ではない。

ある組織が二つに分裂した場合、両方の後継組織が元の組織との因果的・制度的連続性を持つ可能性がある。

しかし、二つの組織が同時に元の一つの組織と数的に同一であるとは言えない。

分裂、融合、枝分かれなどの問題を処理するためには、対象の種類に応じた追加条件が必要になる。

したがって、この式は現段階では一般定理として採用しない。

また、記号上の問題もある。

第一論文では、すでにB(S)を構造境界として使用している。

B(S) = Cl_min(S, K(S))

それに対して、今回の暫定式ではB_Dを通時的連続性関係として使用している。

同じBを異なる意味で使用するのは、最終論文の記号体系として適切ではない。

通時的な連続性や系譜関係を今後形式化する場合には、例えば、

L_D(S_t, S_t+1)

のように、別の記号を採用する方がよい。

ただし、今回の二本の論文では、この関係について一般的な必要十分条件を設定する必要はない。

K_D(S)が構造的同一性を説明する一方、数的な通時的同一性には別の条件が必要であることを明示するところまでで十分である。

数的同一性の完全な一般理論は、今回の二本の論文の中心的な証明対象には含めない。


6. 今回の修正を理論全体に適用する

ここまでの検証を踏まえ、K_D(S)の独立性が「第一性の遡及的成立」全体にどのような影響を与えるのかを確認する。

今回重要なのは、K_D(S)の独立性が第一論文だけの問題ではないということである。

K_D(S)は、構造的個体化、第一性、歴史的前史という三つの問題に共通する基礎概念である。

したがって、この概念の位置づけを修正することは、理論全体の説明関係にも影響する。

6-1. Δと構造Sとの関係

第一論文では、前個体的差異場Δに内在する差異的契機が、構成的関係Rᶜによって組織化されることで構造Sが成立すると考える。

ここでK_D(S)は、その構造が特定の同一性水準Dにおいて維持されるための関係的制約を示す。

今回の検証によって、ΔとK_D(S)の役割をさらに明確にできる。

Δは、個体化を可能にする差異的条件を説明する。

一方、K_D(S)は、成立した構造が何によってその構造として維持されるのかを説明する。

したがって、K_D(S)はΔから直接演繹されるものではない。

また、ΔそのものがK_D(S)の判定基準になるわけでもない。

両者は異なる説明水準に属する。

6-2. CとIとの関係

研究ノート②で確立したCとIの区別は、今回の修正によってさらに明確になる。

今回確定した論証上の順序は、次のとおりである。

  1. 対象の種類と同一性の水準Dを指定する。
  2. 比較対象、基準事例、許容される変化の範囲を独立に固定する。
  3. その比較枠のもとでK_D(S)を特定する。
  4. K_D(S)を実現する構成的関係を分析する。
  5. Cによる構造の具体的実現と、Iによる構造項の個体化を説明する。
  6. 個体化された構造項間の構成的依存を検討する。

ここで重要なのは、この順序が存在論的な時間順序ではなく、論証上の順序だということである。

CとIが異なる水準で相互構成することと、K_D(S)の判定がC・Iの説明結果に依存しないことは両立する。

K_D(S)はC・Iから逆算してはならないが、C・Iによって具体的に実現される構造の同一性制約である。

したがって、独立性は構造との存在論的な切断を意味しない。

6-3. 第一性との関係

K_D(S)は、どの構造が同じ構造として維持されるのかを判定する。

それに対して第一性は、その構造の内部で、ある構造項が他の構造項の同一性条件を非対称的に規定しているかを問題にする。

つまり、両者は異なる問いに答える。

K_D(S) は構造の同一性条件を扱う。

A ≺_{S,d} B は構造内部の第一性を扱う。

したがって、ある構造項が第一性を持つことから、その項がK_D(S)の構成条件であると推論してはならない。

反対に、K_D(S)に含まれる条件だからといって、それを実現するすべての構造項が第一性を持つわけでもない。

研究ノート③で確立した、第一性には独立した構成的同一性依存の証明が必要だという結論は、そのまま維持する。

6-4. 歴史的遡及性との関係

今回の修正が特に重要なのは、第二論文である。

第二論文では、過去の出来事がすべて後続構造の構成的前史になるわけではないと論じてきた。

ある履歴H(t₀)が構成的前史H_S(t₀)に属するためには、後続構造Sの同一性不変項K_D(S)を実現する構成的依存関係に参加していなければならない。

今回の検証によって、この判定には二つの前提が必要であることが明確になった。

第一に、K_D(S)が独立した比較枠のもとで特定されていること。

第二に、履歴の構成的寄与が、そのK_D(S)に対して具体的に示されていることである。

つまり、歴史的前史を特定するためにK_D(S)を都合よく定義してはならない。

先に構造の同一性制約を特定し、その制約の成立・変更・伝達に寄与した実際の履歴を検証する。

これによって、過去の出来事を構成的前史として選別する際の恣意性を抑えることができる。

また、K_D(S)が複数の非同値な候補を持つ場合には、H_Sの範囲も一意に決まらない可能性がある。

この場合には、歴史的前史の判定も条件付きであることを明示しなければならない。

これは、同一性の基礎が未決定であれば、その同一性に相対的な歴史的資格も未決定になるという論理的な帰結である。


7. K_D(S)の最終的な位置づけ

以上を踏まえると、K_D(S)の位置づけは次のように整理できる。

第一段階:対象の種類と同一性の水準Dを指定する。

何を、どの観点から説明するのかを明確にする。

第二段階:独立した比較枠を設定する。

基準事例、対照事例、比較対象、許容変化の範囲を固定する。

第三段階:K_D(S)を特定する。

五つの判定基準によって、対象の同一性を構成的に維持する関係的制約を検証する。

第四段階:B(S)・C・Iによって構造的な成立関係を分析する。

構成的閉包、構造の具体的実現、構造項の個体化を説明する。

第五段階:第一性を判定する。

同一性条件の非対称的な構成的依存が成立しているかを検証する。

第六段階:歴史的前史を判定する。

K_D(S)の成立・変更・伝達に構成的に寄与した履歴を選別する。

この順序は、論証・分析上の順序であり、存在論的な時間順序を表しているわけではない。

また、K_D(S)の一意性が確立されていない場合には、その後の結論も複数の候補に相対的なものとなりうる。

ここで、K_D(S)の定義を最終的に次のように精密化する。

構造的不変項K_D(S)とは、独立に指定された同一性の水準Dと、その水準における比較対象および許容可能な変化の範囲を前提として、構造Sの同一性を構成的に維持する最小かつ完全な関係的制約の体系である。その特定は、構成的関連性、代替可能性、反事実的識別力、条件間の補償関係、最小性および完全性によって検証される。ただし、その一意性は無条件には仮定されず、複数の候補が残る場合には、D水準における説明上の同値性を確認する。

この定義では、Dの指定と比較枠の設定が先行し、その後にK_D(S)が特定される。

また、K_D(S)はC・I、第一性、歴史的前史の説明結果から逆算されない。

この限定によって、K_D(S)を理論全体の共通基準として使用することができる。


8. 第一論文・第二論文の最終改稿に反映する事項

今回の検証結果は、両論文にそれぞれ反映する必要がある。

第一論文への反映

対象必要な修正
K(S)の定義K_D(S)に統一し、Dを同一性の水準として定義する
Dの指定対象の種類と同一性の観点を区別する
K_D(S)の判定独立した基準事例・対照事例・許容変化の範囲を明示する
五つの判定基準それぞれの役割と限界を明示する
K_D(S)の一意性一意性を無条件に仮定しない
B(S)複数の最小完全な構成的閉包を許容する
C・IK_D(S)の判定結果から独立した関係として適用する
第一性K_D(S)の判定とは独立に非対称的依存を証明する

特に、五つの基準だけで循環が解消すると書かないことが重要である。

独立した比較枠の設定が先にあり、そのうえで五つの基準によってK_D(S)の候補を検証するという論理を明示する。

第二論文への反映

対象必要な修正
D11・D12K_D(S)を用いた定義に統一する
H_S(t₀)K_D(S)の成立・変更・伝達への構成的寄与によって判定する
歴史的前史K_D(S)の判定に先行する独立した比較枠を設ける
構造境界B(S)との関係を明示する
K_D(S)の複数性歴史的前史の範囲も条件付きで複数になりうることを認める
数的同一性K_D(S)だけから個体の通時的同一性を導かない

特に第二論文では、過去の出来事が現在の構造の構成的前史となるための条件を、より厳密に書く必要がある。

歴史的な出来事がK_D(S)の形成に寄与したというだけでは不十分である。

その寄与が、どの関係的制約の形成・変更・伝達に関わったのかを示さなければならない。

これによって、単なる因果的先行性と構成的前史の違いがより明確になる。


9. 今回の検証で残された問題

今回の検証によって、K_D(S)の独立判定に関する基本的な論理構造は整理できた。

しかし、以下の三点については、一般的な解決を主張することはできない。

第一に、あらゆる対象領域についてDを独立に指定できるわけではない。

同一性の観点そのものが争われている場合には、その指定にも哲学的な議論が必要になる。

したがって、Dの指定は無条件に与えられるものではなく、対象領域に応じた正当化を必要とする。

第二に、K_D(S)が常に一意に決定されるとは限らない。

この場合には、複数の候補を認めるか、追加の判定基準によって絞り込む必要がある。

ただし、候補の複数性が残っていても、それだけで理論が破綻するわけではない。

重要なのは、どの条件で一意性が成立し、どの条件で複数性が残るのかを明示することである。

第三に、構造的不変項が変化する場合の数的同一性の一般理論は、まだ確立していない。

例えば、段階的な組織変容や構造の分裂・融合をすべて説明するには、D固有の連続性や系譜の問題を別途扱う必要がある。

しかし、これらの問題は、今回の第一論文・第二論文の最終改稿を妨げるものではない。

本理論が説明しようとしているのは、あらゆる種類の数的同一性の必要十分条件を完成させることではない。

指定された同一性の水準において、構造的不変項がどのように個体化と第一性を支え、さらに後続構造によって過去の構成的資格が成立するのかという問題である。

この範囲を守れば、今回の限定は理論の後退ではない。

むしろ、説明できることと、まだ説明していないことを区別することで、理論の学術的な強度を高めることができる。


10. 今回の検証の結論

今回の検証によって、K_D(S)の独立した判定基準について、重要な精密化を行うことができた。

最も重要なのは、Dの指定と独立した比較枠の設定を区別したことである。

Dは何の同一性を説明するのかを指定する。

しかし、何をもって同一性が維持されたと判断するのかまでは決定しない。

そのため、基準事例、対照事例、許容される変化の範囲を独立に固定したうえで、五つの判定基準によってK_D(S)を検証する必要がある。

また、K_D(S)の一意性を無条件に仮定しないこと、構造的同一性と数的同一性を区別することも重要である。

これによって、K_D(S)を第一論文と第二論文における共通基準として使用するための条件が、より明確になった。

今回の結論を一文で表現すると、次のようになる。

K_D(S)の独立性とは、同一性の水準Dと比較対象を独立に指定したうえで、その同一性を構成的に維持する関係的制約を、C・I、第一性、歴史的前史の説明結果から逆算することなく特定できることを意味する。

ここでいう独立性は方法論的な独立性であり、K_D(S)が構造から存在論的に切り離されていることを意味しない。

また、その一意性や数的同一性への十分性まで保証するものではない。

この限定を採用することで、K_D(S)を理論全体の共通基準として使用することができる。

今後の最終改稿への引き継ぎ事項

今回の検証結果は、第一論文・第二論文の最終統合改稿に反映する。

特に以下の事項を確定する。

  1. Dの指定と独立した比較枠の設定を区別する。
  2. K_D(S)の五つの判定基準を維持し、その方法論的役割を明確にする。
  3. K_D(S)の一意性を無条件に仮定しない。
  4. 構造的同一性と数的同一性を区別する。
  5. 通時的同一性の暫定式を一般定理として使用しない。
  6. B(S)と通時的連続性を表す記号を混同しない。
  7. K_D(S)をC・I、第一性、歴史的前史から逆算しない。
  8. K_D(S)の複数性がB(S)やH_Sの判定に与える影響を確認する。
  9. 先行研究との比較ではSortalismも補足し、Dと対象の種類を区別する。

今回の検証は、新しい第7の理論的弱点を発見したものではない。

最初の問題であるK_D(S)の独立判定基準を、理論全体に適用できる形に精密化したものである。

今後は、この結果を第一論文・第二論文の定義、命題、定理、証明に漏れなく統合することが課題となる。

これ以上、新たな原理をむやみに追加するのではなく、確定した原理を厳密に接続し、二本の論文を一つの存在論的体系として完成させることに集中したい。

今回の検証によって、K_D(S)の位置づけは以前より明確になった。

そして、この概念を共通基準として使用するための条件も、ようやく具体的な形で整理できたと思う。

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