「第一性の遡及的成立」の共通定義体系を確定する――第一論文・第二論文の最終統合に向けて

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  1. はじめに
  2. 1.共通定義体系を確定する必要性
  3. 2.前個体的な差異と構造の成立
    1. 2-1.Δ:前個体的差異場
    2. 2-2.mᵢ:構造的契機
    3. 2-3.Rᶜ:構成的関係
    4. 2-4.S:構造
  4. 3.同一性の水準と構造的不変項
    1. 3-1.D:同一性の水準
    2. 3-2.K_D(S):構造的不変項
    3. 3-3.B_D(S):構造的境界・閉包
  5. 4.構造水準間の構成と内部の個体化
    1. 4-1.C:異なる構造水準間の構成関係
    2. 4-2.I:構造項の個体化関係
  6. 5.個体化から第一性への移行
    1. 5-1.OD:構成的同一性依存
    2. 5-2.≺:構造相対的な第一性
  7. 6.歴史的遡及性に関する概念の統一
    1. 6-1.H(t₀):過去の実際の履歴
    2. 6-2.H_{S,D}(t₀):構成的前史
    3. 6-3.Q_{S,D}:構造に相対的な歴史的資格
    4. 6-4.構成的依存と歴史的資格の方向
  8. 7.歴史的第一性の位置づけ
  9. 8.補助概念・補助記号の統一
    1. 8-1.xᵢ^S:構造項
    2. 8-2.ℓ:構造水準
    3. 8-3.d:規定次元
    4. 8-4.Cl_min:最小完全な構成的依存の閉包
    5. 8-5.L_D:通時的連続性の補助表記
    6. 8-6.G:個体化根拠充足原理
    7. 8-7.A1・A2・A3:基本的な存在論的前提
  10. 9.二本の論文における共通定義体系の一覧
  11. 10.二本の論文を一つの理論体系として接続する
    1. 第一論文:構造的個体化と第一性
    2. 第二論文:歴史的遡及性と構成的前史
    3. 統一定理 T3:二本の論文の接続
  12. 11.今回の共通定義体系の確定によって解決したこと
  13. 12.今後の研究と最終改稿に向けて
    1. 第1段階:共通定義体系の反映
    2. 第2段階:第一論文の最終改稿
    3. 第3段階:第二論文の最終改稿
    4. 第4段階:二本の論文の統合検証
    5. 第5段階:先行研究との比較・文献照合
    6. 第6段階:全体の最終検証
  14. おわりに

はじめに

これまで私は、「第一性の遡及的成立」という独自の存在論を構築するために、個体性、構造、第一性、歴史的遡及性という四つの問題を中心に研究を進めてきた。

当初は、あるものが構造の中で第一のものとして位置づけられる根拠が、そのもの自体に最初から備わっているのではなく、それを取り巻く関係や構造の成立を通じて遡及的に確定するという「順番の転倒」が出発点だった。

しかし、この問題をさらに掘り下げていくと、単に第一性の成立を説明するだけでは不十分であることが分かった。

そもそも、あるものが何であるかという個体性自体が、どのような構造的条件によって成立するのかを説明する必要があったからである。

そこで、研究は次第に次のような体系へと発展した。

  • 前個体的な差異がどのように構造を成立させるのか。
  • 構造がどのように内部の契機を個体化するのか。
  • 個体化された構造項のあいだに、どのような条件で第一性が成立するのか。
  • 後続構造の成立によって、過去の履歴がどのように構成的前史としての資格を持つのか。

これらの問題については、個別の研究課題を設定し、先行研究との比較や論証の再検討を重ねてきた。

そして今回、第一論文と第二論文の最終改稿に進む前に、二本の論文で使用する定義・概念・記号を一つの体系に統合する作業を行った。

今回の作業の目的は、新しい理論的概念を追加することではない。これまで別々の論点で使用してきた概念の意味と役割を確定し、二本の論文を一つの存在論として接続できるようにすることである。

以下、その確定過程と最終的な定義体系を記録する。


1.共通定義体系を確定する必要性

第一論文と第二論文は、同じ理論的基礎を持ちながら、異なる問題を扱っている。

第一論文は、構造内部における個体性・同一性・第一性の成立を説明する。

第二論文は、第一論文の構造的な説明を時間的に先行する履歴に拡張し、後続構造の成立によって過去の履歴に構成的前史としての資格が成立することを説明する。

この二本の論文を統合するためには、両者で使用する基本概念の意味が一致していなければならない。

特に問題となったのは、構造的不変項を表す K(S)、構造的境界を表す B(S)、構成関係 C、個体化関係 I、構成的同一性依存 OD、そして歴史的資格 Q_S などの概念である。

これらは個別の論証では使用されていたものの、二本の論文全体を通して見ると、適用範囲や記号の使い方に精密化が必要だった。

そこで今回は、次の五つを統一の基本方針とした。

  1. 同一性の水準を明示し、構造的不変項を K_D(S) として定義する。
  2. 構成関係 C と個体化関係 I の適用水準を明確に区別する。
  3. 個体化から第一性への移行を、構成的同一性依存 OD によって説明する。
  4. 歴史的な履歴、構成的前史、歴史的資格を別々の概念として定義する。
  5. 構造的不変項の一意性と数的同一性を、理論が無条件に保証するものとして扱わない。

この方針に基づいて、以下の共通定義を確定した。


2.前個体的な差異と構造の成立

2-1.Δ:前個体的差異場

Δ は、個体化された存在者の集合ではなく、個体性や数的同一性が成立する以前の、異質性、強度差、潜在的緊張、相互規定可能性を備えた存在論的基礎である。

ここで重要なのは、Δ における差異が、すでに個体化された複数の存在者のあいだの差異ではないということである。

例えば、二つの個体 A と B が存在し、その属性が異なっているという意味での差異ではない。

むしろ、A と B のような個体的な区別自体を可能にする、前個体的な異質性を意味する。

したがって、Δ は個体化された要素の集合でも、完成した構造の集合でもない。

また、Δ の存在そのものが個体化根拠充足原理から演繹されるわけでもない。Δ は本理論が採用する基本的な存在論的前提である。

2-2.mᵢ:構造的契機

mᵢ は、前個体的差異場 Δ に内在する差異的な契機であり、構造形成に参与するものの、まだ当該構造における独立した構造項として個体化されていないものを表す。

ここで注意しなければならないのは、添字 i によって区別されていても、それらがすでに数的に独立した個体として存在していることを意味しないという点である。

mᵢ は、あくまで個体化以前の構造的契機である。

これに対して、後述する xᵢ^S は、構造 S において個体化された構造項を表す。

この二つを区別することで、個体化される以前から完成した個体が存在しているという前提を避けることができる。

2-3.Rᶜ:構成的関係

Rᶜ は、差異的契機の位置、役割、同一性条件、構造的統一を成立させる関係である。

これは単なる因果関係や外的相互作用ではない。

ある関係が構成的であるためには、その関係が構造の成立条件や内部の契機の規定に実際に参与していなければならない。

したがって、単にある要素が別の要素に影響を与えているというだけでは、構成的関係とは言えない。

構成的関係とは、ある構造が何であるかを成立させる関係である。

2-4.S:構造

S は、前個体的差異場 Δ に内在する差異的契機が、構成的関係 Rᶜ と相互制約によって組織化され、一つの統一的な関係秩序を形成したものである。

ここで構造の統一性は、外部の原理や独立した統一者によって与えられるものではない。

構造を構成する差異化された契機が、互いを規定する関係の秩序そのものに成立する。

この定義によって、構造を完成した個体の単なる集合として扱うことを避けられる。

また、構造を個々の契機から完全に独立した別の実体として措定することも避けられる。

第一論文では、この S が個体性・同一性・第一性の成立する関係的秩序となる。

第二論文では、過去の履歴に構成的資格を与える後続構造となる。


3.同一性の水準と構造的不変項

今回の共通定義体系の確定において、特に重要だったのがこの部分である。

当初、構造的不変項は K(S) と表記していた。

しかし、同じ対象であっても、何の同一性を問題にするかによって、その同一性を維持する条件は異なる。

例えば、ある会社について考えると、組織的同一性、機能的同一性、法的同一性は必ずしも一致しない。

そこで、同一性の水準を表す D を導入し、構造的不変項を K_D(S) として統一することにした。

3-1.D:同一性の水準

D は、ある構造 S について、何の同一性を説明対象とするのかを指定する水準である。

例えば、組織的同一性、機能的同一性、法的同一性などが該当する。

ただし、D を指定するだけでは、構造的不変項が確定するわけではない。

K_D(S) を独立して判定するためには、次の事項を先に明示する必要がある。

  • 対象となる存在者の種類。
  • 問題にする同一性の水準 D。
  • 同一性の基準事例と対照事例。
  • どのような変化を許容するのか。
  • 同一性を判断するための証拠や領域固有の識別手続き。

この比較枠は、K_D(S) の内容を先取りするためのものではない。

何を説明するのかを独立して固定するためのものである。

したがって、最終的には次の順序を採用する。

D → 独立した比較枠 → K_D(S)

3-2.K_D(S):構造的不変項

K_D(S) は、同一性の水準 D において、構造 S がその同一性を維持するために必要となる、最小かつ完全な構成的制約の体系である。

ここでいう不変項は、個々の構成要素の単純な集合ではない。

構造を成立させる関係的制約、それらの相互依存、そして補償関係を含む体系である。

K_D(S) の判定には、次の五つの基準を使用する。

判定基準確認すること
構成的関連性候補条件が対象 D の同一性を実際に構成しているか
代替可能性個別の構成要素が交代しても構造的役割を維持できるか
反事実的識別力条件の変更によって対象 D の同一性がどう変化するか
条件間の連関と補償関係個々の条件が相互に補完・代替する関係にあるか
最小性と完全性不要な条件を含まず、必要な構成的制約を欠いていないか

特に注意したいのは、反事実的な変更だけで構成性を判断してはならないという点である。

ある条件を取り除いても、別の条件がその役割を補償する場合がある。そのため、構成的条件の判定には、代替可能性や条件間の連関を含めた分析が必要になる。

さらに、今回の検証では、K_D(S) の一意性についても重要な限定を設けた。

K_D(S) は常に一意に決定されるとは限らない。

複数の候補が残る場合には、少なくとも次の三つを区別する。

  1. 表現や実現方法が異なるだけで、説明上は同等である場合。
  2. 構造が具体的には異なっていても、構成的役割、許容変化、補償関係、依存関係の閉包が一致し、説明上同等である場合。
  3. 判定基準を満たす複数の候補があり、それらの構成的役割や同一性条件が実質的に異なる場合。

第一と第二の場合には、説明上の同値性を認めることができる。

第三の場合には、K_D(S) が一意に確定したとは言えない。複数の候補が残ることを認めるか、追加の証拠によって候補を絞り込まなければならない。

したがって、今後の論文では K_D(S) の一意性を一般的な前提にしない。

また、構造的不変項の同一性と数的同一性も区別する。

二つの構造が同じ構造的不変項を実現しているとしても、それだけで数的に同一の個体であるとは言えない。

これは、今後の理論の適用範囲を明確にするうえで重要な限定である。

3-3.B_D(S):構造的境界・閉包

B_D(S) は、K_D(S) を実現するために必要な構造的契機、構成要素、構成的関係を含む、最小完全な構成的依存の閉包である。

基本表記は次のとおりである。

B_D(S) = Cl_min(S, K_D(S))

ここで Cl_min は、最小完全な構成的依存関係の閉包を表す。

K_D(S) が何を同一性の構成的条件とするのかを示すのに対して、B_D(S) は、その不変項を実現するためにどこまでの構成的依存関係が必要なのかを示す。

したがって、この二つは同じ概念ではない。

また、B_D(S) も必ず一意になるとは限らない。

複数の代替経路によって同じ構造的不変項が実現される場合、それぞれに対応する最小完全な閉包が成立しうる。

必要であれば、個別の閉包を B_D^α(S) と表記する。

ここで今回、記号について一つ重要な整理を行った。

B は構造的境界・閉包に専用する。

以前の通時的同一性の暫定式では、B が時間的連続性を表すような使い方もされていた。

しかし、構造的境界と通時的連続性は異なる概念である。

そのため、B を時間的連続性の意味では使用しないことにした。


4.構造水準間の構成と内部の個体化

次に、構造項がどのように成立するのかを説明する二つの関係、C と I を整理した。

ここは、これまで検討してきた循環問題に直接関わる部分である。

4-1.C:異なる構造水準間の構成関係

C は、ある構造水準においてすでに個体化されている下位構造項が、より上位の構造を具体的に実現する関係である。

基本表記は次のとおりである。

C(Sₗ₊₁, {xᵢ^{Sₗ}})

ここでは、下位構造 Sₗ において個体化された構造項 xᵢ^{Sₗ} が、上位構造 Sₗ₊₁ を具体的に実現する。

例えば、細胞が組織を構成する場合、細胞はすでに下位水準で個体化されている。その細胞が組織という上位構造を実現する関係が C に当たる。

したがって、C は既存の下位構造項自体を最初に個体化する関係ではない。

また、最初の構造 S₀ には C を適用しない。

S₀ は、Δ に内在する差異的条件が Rᶜ によって組織化されることで成立する。

これによって、すべての構造がさらに下位の完成した個体を必要とするという無限後退を避ける。

4-2.I:構造項の個体化関係

I は、構造 S の内部において、個体化以前の差異的契機 mᵢ が、その構造の関係秩序と構造的不変項によって、特定の位置・役割・同一性条件を持つ構造項 xᵢ^S として成立する関係である。

基本表記は次のとおりである。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

I は、完成した個体を単に発見する認識上の関係ではない。

構造 S が成立することによって、契機 mᵢ が当該構造における特定の構造項として成立するという存在論的関係である。

ここで、C と I は異なる構造水準を扱っている。

  • C:下位水準ですでに個体化された項による上位構造の実現。
  • I:上位構造における内部契機の個体化。

したがって、両者は同じ水準の同じ個体性を相互に説明しているわけではない。

ただし、両者を具体的に接続するためには、下位の担い手と上位の差異的契機との対応関係を示す必要がある。

例えば、次の二つの関係を考える。

C(Sₙ₊₁, {xᵢ^{Sₙ}})

I(Sₙ₊₁, mⱼⁿ⁺¹ → xⱼ^{Sₙ₊₁})

下位の構造項 xᵢ^{Sₙ} が上位構造を実現するとき、それが上位水準においてどの差異的契機 mⱼⁿ⁺¹ として関与するのかを明示しなければならない。

ただし、両者を同一視してはならず、一対一対応を一般的な前提とすることもできない。

この対応関係を論証の中で明示することによって、C と I による相互構成を具体的に説明できる。


5.個体化から第一性への移行

ここまでの議論によって、構造の成立と構造項の個体化を説明できるようになった。

しかし、個体化されたというだけで、その構造項が他の構造項に対して第一であるとは限らない。

この点を説明するために、構成的同一性依存 OD と第一性 ≺ を区別して定義する。

5-1.OD:構成的同一性依存

OD は、特定の構造 S と同一性の水準 D において、ある構造項 B の同一性条件が、別の構造項 A の実在的な規定に構成的に依存している関係である。

基本表記は次のとおりである。

OD_{S,D,d}(B,A)

これは、構造 S の同一性水準 D における規定次元 d において、B の同一性が A に構成的に依存していることを表す。

ここで新たに明確にしたのが、D と d の違いである。

  • D:何の同一性を問題にしているのか。
  • d:その同一性を構成的に決定する具体的な規定次元。

例えば、D が組織的同一性であれば、d は権限関係や意思決定秩序などの具体的な規定次元になりうる。

OD は単なる因果関係、機能的依存、認識上の依存を意味しない。

B が当該構造における特定の同一性条件を持つために、A の実在的な規定が構成的に必要になっていることを意味する。

また、OD 自体は必ずしも非対称的とは限らない。

A と B が相互に依存している場合もありうる。

5-2.≺:構造相対的な第一性

第一性は、OD の非対称性が確認された場合に成立する。

基本条件は次のとおりである。

OD_{S,D,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,D,d}(A,B)

このとき、

A ≺_{S,D,d} B

が成立する。

すなわち、同一の構造 S、同一性の水準 D、規定次元 d において、B の同一性が A に依存し、逆方向の依存が成立しない場合、A は B に対して第一である。

ここで重要なのは、個体化と第一性が別々の論証段階になるという点である。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

という個体化関係が成立しただけでは、第一性は導かれない。

構造項として個体化された後に、OD による非対称的な構成的同一性依存を独立に証明する必要がある。

したがって、第一性は絶対的な属性ではない。

ある構造と同一性の水準、さらに具体的な規定次元に相対的に成立する存在論的優先性である。

また、第一性が成立することから、全体的な優先順位や推移性まで自動的に導かれるわけではない。

このように、第一性の成立条件を OD によって限定することが、今回の共通定義体系における重要な確定事項となった。


6.歴史的遡及性に関する概念の統一

第二論文では、第一論文の概念体系を引き継ぎながら、時間的に先行する履歴と後続構造との関係を説明する。

この際、特に区別しなければならないのが、過去の履歴 H(t₀)、構成的前史 H_S(t₀)、歴史的資格 Q_S の三つである。

6-1.H(t₀):過去の実際の履歴

H(t₀) は、後続構造 S が成立する以前に実際に存在していた出来事、活動、関係およびそれらの連続からなる履歴である。

ここで t₀ は単独の瞬間ではなく、一定の時間的範囲を意味する。

H(t₀) は過去に実在していた履歴全体であり、そのすべてが後続構造 S の成立条件になるわけではない。

したがって、H(t₀) と構成的前史を区別する必要がある。

6-2.H_{S,D}(t₀):構成的前史

構成的前史 H_{S,D}(t₀) は、過去の実際の履歴 H(t₀) のうち、後続構造 S の同一性水準 D における構造的不変項 K_D(S) の実現に構成的に参与していた履歴である。

基本的な包含関係は次のとおりである。

H_{S,D}(t₀) ⊆ H(t₀)

ここで H_{S,D}(t₀) は、単に後続構造より時間的に先行していた出来事を意味するのではない。

後続構造の成立に構成的に必要な関係や活動に参与していた履歴である。

したがって、単なる因果的影響、時間的先行、後世の起源物語などは、それだけでは構成的前史に含まれない。

また、今回の共通定義体系では、構成的前史も同一性の水準 D に相対化することにした。

同じ組織であっても、法的同一性を成立させる履歴と、組織的同一性を成立させる履歴は異なる可能性があるからである。

そのため、正式な表記を H_{S,D}(t₀) とし、D が固定されている場合には H_S(t₀) と略記する。

さらに、K_D(S) が複数の実質的な候補を持つ場合には、構成的前史も一意に決定されるとは限らない。

6-3.Q_{S,D}:構造に相対的な歴史的資格

Q_{S,D} は、過去に実際に存在していた履歴 H(t₀) が、後続構造 S の成立によって、その同一性水準 D に相対的な構成的前史としての資格を持つという関係的な存在論的事実である。

基本表記は次のとおりである。

Q_{S,D}(H(t₀), t₁)

ここで、t₁ は後続構造 S が成立する時点である。

この概念は、過去の履歴に最初から内在していた性質を表すものではない。

また、後から歴史家や研究者が過去の意味を認識するという、単なる認識上の判断でもない。

後続構造の成立によって、過去の履歴とその構造とのあいだに構成的資格という関係的な存在論的事実が成立するということである。

ここで、三つの概念を改めて整理しておく。

概念意味
H(t₀)過去に実際に存在した履歴
H_{S,D}(t₀)後続構造の構成的前史に含まれる履歴
Q_{S,D}その履歴が構成的前史であるという資格・関係的事実

これらを同一視しないことが、第二論文の論証において重要になる。

6-4.構成的依存と歴史的資格の方向

今回、歴史的遡及性に関する記号についても重要な修正を行った。

過去の履歴が後続構造の成立に構成的に参与する関係は、次のように表す。

H(t₀) →_c S(t₁)

これは実際の構成的依存の方向を示す。

これに対して、過去の履歴が後続構造にとって構成的前史としての資格を持つことは、次のように表す。

Q_{S,D}(H(t₀), t₁)

この二つは同じ関係ではない。

第一は実際の構成的依存関係であり、第二はその関係によって成立する歴史的資格である。

以前の論文では、後続構造から過去に向かう矢印によって遡及性を表現していたが、これでは実際の構成的依存関係と歴史的資格の成立が混同される可能性があった。

そこで、最終稿では歴史的資格を Q_{S,D} によって表現し、構成的依存関係とは明確に分離することにした。

この区別によって、本理論の「順番の転倒」をより正確に表現できる。

後続構造は過去の履歴に構成的に依存する。しかし、その履歴が何の構成的前史であるかという資格は、後続構造の成立によって確定する。

過去の出来事そのものが変化するのではない。過去の履歴と後続構造とのあいだに、新たな関係的存在論的事実が成立するのである。


7.歴史的第一性の位置づけ

第二論文について、もう一つ確定しておく必要があるのが、歴史的第一性の適用範囲である。

構成的前史が成立したからといって、その内部で歴史的第一性が自動的に成立するわけではない。

例えば、二つの活動 A と B がともに後続構造 S の成立に必要であり、相互に規定し合っている場合、A だけを B より第一とする根拠はない。

したがって、次の区別を採用する。

  • 歴史的資格は、歴史的第一性の必要条件である。
  • しかし、歴史的資格は、歴史的第一性の十分条件ではない。

歴史的第一性を認めるためには、構成的前史の範囲が確定していることに加え、その内部に独立した非対称的な構成的依存関係が存在することを示さなければならない。

このため、第二論文の中心定理 T2 は、構成的前史とその歴史的資格の成立を扱う。

歴史的第一性は、そこから自動的に導かれる結論ではなく、別途成立条件を満たす場合にのみ認められる派生的な帰結とする。

この限定によって、時間的に古いという理由だけで、ある履歴を第一とみなすことを避けられる。

また、第一論文で確立した OD と ≺ の基準を、歴史的第一性の検証にも一貫して適用できる。


8.補助概念・補助記号の統一

以上の基本概念に加えて、二本の論文を統合するために必要な補助記号についても整理した。

8-1.xᵢ^S:構造項

構造 S において I によって個体化された構造項を表す。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

上付きの S は、その構造に相対的な個体性を意味する。

8-2.ℓ:構造水準

Sₗ や Sₗ₊₁ などの表記に用いる。

これは構造の階層的な水準を表すものであり、同一性の水準 D とは異なる。

  • ℓ:構造の階層的な水準。
  • D:説明対象となる同一性の水準。

8-3.d:規定次元

OD と ≺ において使用する。

ある同一性条件を構成的に決定する具体的な規定次元を表す。

8-4.Cl_min:最小完全な構成的依存の閉包

B_D(S) を定義する際に使用する。

構造的不変項を実現するために必要な構成的依存関係を、最小かつ完全な範囲で捉えるための操作を表す。

8-5.L_D:通時的連続性の補助表記

将来的に通時的同一性や系譜的連続性を形式化する場合には、次の表記を使用する候補がある。

L_D(S_t, S_t+1)

ただし、これは今回の二本の論文における中心的な定義には組み込まない。

また、次のような式を、証明済みの一般定理として扱わない。

S_t ≡_D S_t+1 ⇔ B_D(S_t, S_t+1) ∧ K_D(S_t) ≅ K_D(S_t+1)

構造的不変項の同型性だけでは数的同一性を保証できず、通時的連続性に関する問題もそれだけでは解決できないからである。

8-6.G:個体化根拠充足原理

G は、個体性の存在論的成立を説明対象とする理論に対して、数的統一、他の個体との差異、個体としての同一性を成立させる構成的根拠の提示を要求する説明原理である。

これは一般的な十分理由律ではない。

あらゆる存在論的事実に究極的な理由を要求するのではなく、個体性の存在論的成立を説明する理論に対して、その構成的根拠を示すことを要求する。

また、個体性を原始的な事実として認める立場をあらゆる場合に禁止するものでもない。

本理論は、その立場を採用せず、個体性の成立条件そのものを説明することを選択する。

8-7.A1・A2・A3:基本的な存在論的前提

これらは定義ではなく、本理論が採用する基本前提である。

前提内容適用する論文
A1個体化に先立つ差異的条件 Δ が存在する第一論文
A2個体化を可能にする差異は前個体的な基礎に内在する第一論文
A3時間的に離れた契機のあいだにも実在的な構成的依存関係が成立しうる第二論文

特に A3 は、歴史的遡及性の存在論的説明に不可欠である。

過去の履歴が後続構造の構成的前史になりうることは、Q_{S,D} の定義だけから導かれるわけではない。

時間的に離れた契機のあいだにも実在的な構成的依存関係が成立しうるという前提を明示する必要がある。

また、G と A1・A2・A3 は異なる論理的役割を持つ。

  • G:説明論的・方法論的原理。
  • A1・A2・A3:存在論的前提。

この区別を維持する。


9.二本の論文における共通定義体系の一覧

今回確定した基本概念を一覧にすると、次のようになる。

記号正式名称定義上の役割
Δ前個体的差異場個体化以前の存在論的基礎
mᵢ構造的契機前個体的な差異的契機
Rᶜ構成的関係差異的契機を組織化する関係
S構造差異的契機によって成立する関係的秩序
D同一性の水準説明対象となる同一性の指定
K_D(S)構造的不変項D 水準の同一性を維持する構成的制約体系
B_D(S)構造的境界・閉包K_D(S) を実現する最小完全な構成的依存領域
C構成関係下位構造項による上位構造の実現
I個体化関係構造内部の契機の個体化
OD構成的同一性依存構造項間の同一性に関する構成的依存
≺構造相対的な第一性非対称的な構成的同一性依存による優先性
H(t₀)過去の実際の履歴後続構造以前の実在する履歴全体
H_{S,D}(t₀)構成的前史特定構造の成立に関与した過去の履歴
Q_{S,D}歴史的資格履歴が構造の構成的前史であるという関係的事実

厳密な論文表記では、これまでの K(S)、B(S)、OD_{S,d}、≺_{S,d}、H_S(t₀)、Q_S を、それぞれ D を明示した表記に統一する。

ただし、D が文脈上固定されている場合には、略記を認める。


10.二本の論文を一つの理論体系として接続する

今回の定義体系を確定したことで、第一論文と第二論文の役割分担も、より明確になった。

第一論文:構造的個体化と第一性

第一論文では、次の論証順序を採用する。

  1. 個体化根拠充足原理 G。
  2. 前個体的差異場 Δ。
  3. 構成的関係 Rᶜ と構造 S の成立。
  4. 同一性の水準 D と構造的不変項 K_D(S)。
  5. 構造的境界 B_D(S)。
  6. C と I による構造項の成立。
  7. 構造的個体性と同一性。
  8. 構成的同一性依存 OD。
  9. 非対称的依存による第一性 ≺。
  10. 中心定理 T1。

ここで重要なのは、構造の成立、個体化、第一性を一つの段階として扱わないことである。

特に、構造項として個体化されることと、他の構造項に対して第一となることは別の問題である。

第一性には、OD による独立した非対称性の証明が必要になる。

第二論文:歴史的遡及性と構成的前史

第二論文では、第一論文の定義体系を引き継ぎ、次の論証順序を採用する。

  1. 構造的遡及性と歴史的遡及性の区別。
  2. 過去の実際の履歴 H(t₀)。
  3. 構成的前史 H_{S,D}(t₀)。
  4. 歴史的資格 Q_{S,D}。
  5. 通時的構造編入に関する原理。
  6. 構成的依存と因果的依存の区別。
  7. 歴史的遡及的構成の成立条件。
  8. 最小完全な構成的前史。
  9. 歴史的第一性の派生的含意。
  10. 中心定理 T2。

第二論文では、歴史的前史の成立を中心的な証明対象とする。

歴史的第一性は、前史の成立から自動的に導かれるものではなく、別途の条件を必要とする派生的な帰結として扱う。

統一定理 T3:二本の論文の接続

最後に、第一論文と第二論文を接続する統一定理 T3 を維持する。

ここで重要なのは、両論文が同一の K_D(S) と構成的依存秩序を基礎としていることである。

第一論文では、その構造内部における個体性と第一性が説明される。

第二論文では、その構成的依存の範囲が時間的に先行する履歴に及び、後続構造に対する構成的資格が説明される。

両者は異なる問題を扱っているが、同一の構造的存在論によって説明される。

したがって、T3 は第一論文の構造的個体性・第一性と、第二論文の歴史的な構成的資格を接続する定理として位置づける。

ただし、T3 によって歴史的第一性まで自動的に導くことはしない。


11.今回の共通定義体系の確定によって解決したこと

今回の作業で特に重要だったのは、既存の概念を単純に一覧化するのではなく、それぞれの概念が何を説明し、どこまで適用できるのかを明確にしたことである。

具体的には、次の十項目を最終的な運用規則として確定した。

第一に、同一性の水準を明示する。

厳密な議論では K_D(S) と B_D(S) を使用する。

第二に、D と d を区別する。

D は同一性の水準、d は規定次元である。

第三に、K_D(S) の一意性を前提としない。

説明上同等な候補と、実質的に異なる候補を区別する。

第四に、構造的不変性と数的同一性を区別する。

K_D(S) の同型性から数的同一性を導かない。

第五に、B は構造的境界・閉包に専用する。

通時的連続性を B で表さない。

第六に、C と I の適用水準を区別する。

C は下位の個体化された項による上位構造の実現、I は構造内部における契機の個体化である。

第七に、個体化から第一性を自動的に導かない。

第一性には OD による非対称的な構成的同一性依存の証明を必要とする。

第八に、歴史的依存と歴史的資格を区別する。

H(t₀) →_c S(t₁) と Q_{S,D}(H(t₀), t₁) は異なる関係である。

第九に、構成的前史と歴史的第一性を区別する。

第二論文の T2 は構成的前史の成立を証明し、歴史的第一性を自動的には導かない。

第十に、定義・存在論的前提・説明原理を区別する。

Δ の存在、G、A1〜A3 を同じ論理的資格のものとして扱わない。


12.今後の研究と最終改稿に向けて

今回の共通定義体系の確定によって、第一論文と第二論文を統合するための基本的な概念上の準備が整った。

ここからは、個別の概念をさらに増やすのではなく、確定した定義体系を二本の論文全体に適用していく。

今後の作業は、次の順序で進める。

第1段階:共通定義体系の反映

今回確定した定義・記号を、第一論文と第二論文の本文、命題、定理、証明に反映する。

この際、既存の概念を不用意に変更しない。

第2段階:第一論文の最終改稿

個体化根拠充足原理 G から始まり、Δ、Rᶜ、S、K_D(S)、B_D(S)、C、I、OD、≺ へと進む論証を再構築する。

特に、構造的個体化から第一性への移行が論理的に正当化されているかを確認する。

第3段階:第二論文の最終改稿

第一論文の共通定義を引き継ぎ、H(t₀)、H_{S,D}(t₀)、Q_{S,D} によって歴史的遡及性を説明する。

特に、構成的依存関係と歴史的資格の区別、A3 の明示、歴史的第一性の適用範囲を確認する。

第4段階:二本の論文の統合検証

第一論文の T1、第二論文の T2、統一定理 T3 のあいだに論理的な不整合がないかを確認する。

共通する K_D(S) と構成的依存秩序が、一貫して使用されていることが必要になる。

第5段階:先行研究との比較・文献照合

スピノザ、シモンドン、構造実在論、Grounding 理論、Schaffer、Weberman、Epstein などとの比較を、実際の論文の論証と具体的な事例に即して完成させる。

単に概念が似ているかどうかを比較するのではなく、本理論が既存の理論に対して何を説明し、どのような説明機構を追加するのかを明示する。

第6段階:全体の最終検証

最後に、二本の論文を最初から最後まで通して検証する。

すべての定義が一貫して使用されているか、命題の前提と結論が正確につながっているか、定理の証明に未証明の前提が紛れ込んでいないか、反例や境界事例に耐えられるかを確認する。

参考文献、脚注、原文引用についても、最終的な照合を行う。


おわりに

今回の作業は、「第一性の遡及的成立」を構築するうえで、一つの大きな区切りになると思う。

最初に考えていたのは、あるものが第一のものとして位置づけられる順番が、関係や構造の成立を通じて遡及的に確定するという問題だった。

しかし、その問題を追究していくなかで、第一性を説明するためには、まず個体性の成立を説明しなければならないことが分かった。

さらに、個体性を説明するためには、前個体的な差異、構造の成立、構造的不変項、構造的境界、個体化という段階を区別する必要があった。

そして、歴史的遡及性を説明するためには、過去の実際の履歴と、後続構造にとっての構成的前史、さらにその履歴が持つ歴史的資格を区別する必要があった。

今回の共通定義体系は、こうした研究の蓄積を一つの理論的な秩序として整理したものである。

私が特に重視したいのは、今回の統一によって、それぞれの概念の適用範囲が明確になったことである。

構造が成立することと個体性が成立することは同じではない。

個体性が成立することと第一性が成立することも同じではない。

また、過去の履歴が後続構造に関与していることと、その履歴が構成的前史としての資格を持つことも同じではない。

これらを区別することで、理論の説明範囲を必要以上に広げず、それぞれの論証に必要な条件を明示できるようになった。

今回確定した体系を一つの流れとして表すなら、次のようになる。

構造の成立

Δ → Rᶜ → S

構造的不変項と境界

D → K_D(S) → B_D(S)

構造項の成立

C・I → xᵢ^S

第一性の成立

OD → 非対称性 → ≺

歴史的遡及性

H(t₀) →_c S(t₁)

Q_{S,D}(H(t₀), t₁)

この体系によって、構造内部の個体化と第一性、そして時間的に先行する履歴の構成的資格を、共通の存在論的枠組みの中で説明することが可能になる。

もちろん、共通定義体系を確定したことと、二本の論文のすべての証明が最終的に完成したことは同じではない。

ここからは、今回の定義を実際の論証に適用し、全体の整合性を確認する必要がある。

しかし、少なくとも今後の改稿において、基本概念の意味が論文ごとに揺れ動くことは避けられる。

これからは新たな概念を増やすことよりも、すでに構築した理論を、二本の学術論文として一つの体系に仕上げることに重点を置きたい。

「第一性の遡及的成立」は、ここから理論の構築段階から、理論全体の統合と最終的な論証の段階へと進む。

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