第一性の遡及的成立におけるODの判定基準を再検証する(論文の再検証③)――Fineの実在的定義と個体化の粒度の問題

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  1. はじめに
  2. 1.問題の所在――ODの判定はなぜ個体化の切り方に左右されるのか
    1. 1-1.複合的な構造項の問題
    2. 1-2.個体化の粒度によって判定が変化する
  3. 2.Fineの実在的定義によるODの強化
    1. 2-1.必然的に成立することと本質を構成することは異なる
    2. 2-2.Fineの議論をODに適用する
    3. 2-3.ODにおける三つの関係の区別
  4. 3.第一論文D11の再検証
    1. 3-1.実在的規定の判定方法が十分に明示されていない
    2. 3-2.構造項の個体化単位が十分に明確でない
  5. 4.修正方向の比較と最終的な選択
    1. 4-1.方向A:A1とA2を分離して判定する
    2. 4-2.方向B:Aを一般的な制度的権限に変更する
    3. 4-3.方向C:Bを下位役割一般に変更する
    4. 4-4.方向D:個体化の粒度を独立したパラメータにする
    5. 4-5.最終的な選択
  6. 5.改訂後のOD判定条件
    1. 条件1:構造項の独立した個体化
    2. 条件2:Bの実在的定義におけるAの構成的関与
    3. 条件3:Aの実在的定義におけるBの非構成性
    4. 条件4:個体化単位の一貫性
    5. 条件5:補助的な検証
    6. 5-1.D11の改訂方針
  7. 6.第二論文9.6の組織事例の再構成
    1. 6-1.AとBの再定義
    2. 6-2.同一性水準Dと規定次元d
    3. 6-3.Aの実在的定義
    4. 6-4.Bの実在的定義
    5. 6-5.逆方向の依存関係の検証
    6. 6-6.ODの成立
  8. 7.代替可能性と補償関係の再検証
    1. 7-1.会計担当者の交代
    2. 7-2.会計担当職を別の役職に置き換える場合
    3. 7-3.総会の権限は維持されるか
  9. 8.第一論文と第二論文への影響
  10. 9.今回の検証によって明確になったこと
  11. 10.最終結論
  12. 参考文献

はじめに

今回は、外部評価による第一論文・第二論文の検証で指摘された問題点について検討する。

指摘された問題は、次のものである。

OD(構成的同一性依存)の判定が、比較対象となる構造項の個体化の仕方に左右されるのではないか。

この問題は、一見すると具体的な事例における定義の不備に見える。しかし、よく考えると、本理論の中心的な主張である「構造項のあいだに成立する非対称的な構成的依存」そのものに関係している。

ODによってある構造項Aが別の構造項Bに対して第一性を持つと判断するためには、AがBの同一性条件を構成している一方で、BはAの同一性条件を構成していないことを示さなければならない。

しかし、AやBの内部に複数の規定が含まれている場合、どこまでを一つの構造項として扱うかによって、依存関係の判定結果が変化する可能性がある。

今回の検証では、この問題を二つに分けて考えた。

第一に、Fineの実在的定義(real definition)の考え方を導入し、ODの判定基準そのものを強化できるか。

第二に、第二論文9.6で使用している組織事例について、AとBの個体化単位を適切に設定し直すことができるか。

結論から言えば、Claudeの指摘は基本的に正しい。ただし、ODの基本定義を全面的に作り直す必要はない。

必要なのは、ODの判定に先立って、比較対象となる構造項の実在的定義と個体化単位を確定することである。

以下、その検証過程を記録する。


1.問題の所在――ODの判定はなぜ個体化の切り方に左右されるのか

まず、第一論文におけるODの基本的な意味を確認しておく。

本理論では、ODを次のように表記する。

OD_{S,D,d}(B,A)

これは、構造S、同一性水準D、規定次元dにおいて、Bの同一性条件がAの実在的な規定に構成的に依存していることを表す。

このとき、AがBの同一性条件を構成しているならば、AからBへの非対称的な依存関係が成立する。

問題は、AとBをどのような単位で設定するかによって、この関係が変化しうることにある。

1-1.複合的な構造項の問題

第二論文9.6では、組織の構造を例に、次のようなAとBを設定していた。

A:構成員総会の制度的な最終決定権限、および会計担当職の任命・監督権限。

B:会計担当職の制度的役割。

この設定では、Aの内部に異なる二つの規定が含まれている。

  • A1:総会の制度的な最終決定権限。
  • A2:会計担当職に対する任命・監督権限。

これらを一つのAとして扱っていた。

しかし、会計担当職Bを廃止した場合、A1は維持できても、A2はその対象を失う可能性がある。

ここで重要なのは、Aの一部分が維持されることと、A全体の同一性が維持されることは同じではないという点である。

例えば、ある複合体がA1とA2によって構成されているとする。

A = A1 + A2

この場合、A2が失われてもA1は残る。しかし、Aという複合体全体が以前と同じ同一性を維持しているかどうかは、別途検討しなければならない。

A1が残っているという理由だけで、A全体がBから独立していると判断することはできない。

このように、複合的な構造項の内部に異なる依存関係が混在している場合、ODの判定が不明確になる。

1-2.個体化の粒度によって判定が変化する

この問題を一般化すると、次の三つの個体化の仕方が考えられる。

第一に、Aを総会の権限全体として扱う方法である。この場合、Bに関係する権限と、Bに依存しない権限が混在する。

第二に、A1とA2を別々の構造項として扱う方法である。この場合、それぞれの依存関係を個別に検証できる。

第三に、Aを下位役割を設定する一般的な制度的権限として個体化する方法である。この場合、特定のBの存在とAの一般的な権限との関係を比較できる。

ここから分かるのは、単純にAを細かく分割すれば問題が解決するわけではないということである。

細かく分けたとしても、それぞれの項が独立した存在論的な単位として成立している根拠がなければ、分析者が都合よく切り分けただけになってしまう。

反対に、複数の規定を一つにまとめる場合にも、その複合体が一つの構造項として成立している根拠を示さなければならない。

したがって、今回の問題は、単なる分類方法の問題ではない。

比較対象となる構造項が、そもそもどのような存在者として個体化されているのかという存在論的な問題である。


2.Fineの実在的定義によるODの強化

今回の問題を解決するために、Claudeが指摘したFineの議論を検討した。

Kit Fineは、1994年の論文「Essence and Modality」において、本質と必然性を同一視する様相的な本質論を批判している。

Fineの議論は、ODの判定基準を強化するうえで重要な示唆を与える。

2-1.必然的に成立することと本質を構成することは異なる

Fineの議論を理解するために、ソクラテスとソクラテスの単集合の例を考える。

ソクラテスだけを要素として持つ単集合を考える。

{Socrates}

ここでは、次の二つの命題が必然的に成立する。

  • 単集合 {Socrates} はソクラテスを要素として持つ。
  • ソクラテスは単集合 {Socrates} の要素である。

しかし、この二つの命題が必然的に成立するからといって、両者が同じ仕方で本質的な関係にあるわけではない。

単集合が何であるかを説明する場合、ソクラテスを唯一の要素として持つことは、その単集合を成立させる本質的な規定である。

一方、ソクラテスが何であるかを説明する場合、特定の単集合に属しているという性質は、ソクラテスの本質を構成するものではない。

つまり、次の非対称性が存在する。

  • 単集合の本質には、ソクラテスが要素であることが含まれる。
  • ソクラテスの本質には、その単集合に属することは含まれない。

両者の関係は必然的であるが、その必然性がどちらの対象の本質を構成しているのかは異なる。

Fineが重視するのは、こうした本質的な非対称性である。

単にある対象について必然的に成立する性質を列挙しても、その対象が何であるかを説明したことにはならない。

対象の本質を理解するためには、その対象が何によって成立し、何によって他の対象と区別されるのかを考えなければならない。

2-2.Fineの議論をODに適用する

この議論を本理論に導入すると、ODについて重要な区別が得られる。

ODを判定するとき、単に次のことを調べるだけでは不十分である。

「Bを変更するとAも変化するか」

二つの対象が反事実的に連動していたとしても、その連動関係がどちらの対象の本質を構成しているのかは、別の問題だからである。

そこで、ODの判定では、次の二つを独立に確認する必要がある。

第一に、Bが何であるかを成立させる実在的定義に、Aの実在的な規定が構成条件として含まれていること。

第二に、Aが何であるかを成立させる実在的定義には、Bの存在が構成条件として含まれていないこと。

ここで重要なのは、単なる言語的な定義ではないという点である。

例えば、Bの説明文に「Aによって設置される」と書かれているだけでは不十分である。

実際にAの権限や制度的規定がBの成立条件を構成していなければならない。

つまり、実在的定義とは、説明文に登場する言葉の関係ではなく、対象そのものが何によって成立しているのかを示すものである。

この意味で、Fineの議論はODの存在論的な基準を強化するために有効である。

ただし、Fine自身が本理論のODを直接証明しているわけではない。

Fineの議論から採用するのは、必然性と本質的な構成関係を区別するという方法である。

その方法を、本理論の構成的同一性依存の判定に適用する。

2-3.ODにおける三つの関係の区別

以上から、ODの判定において、次の三つを明確に区別する必要があると分かった。

第一に、必然的関係である。

AとBの関係が必然的に成立するかどうかを確認する。

第二に、反事実的依存である。

AまたはBを変更・除去した場合、他方が維持されるかどうかを確認する。

第三に、実在的な構成依存である。

AとBのどちらの実在的な規定が、他方の同一性条件を成立させているかを確認する。

このうち、ODを成立させる中心的な条件は第三である。

第一と第二は、第三を検証するための補助的な情報にはなるが、それ自体ではODを証明しない。

したがって、今回の修正では、ODを単なる反事実的な非対称性としてではなく、実在的定義に基づく構成的な非対称性として明確化することにした。


3.第一論文D11の再検証

次に、現行の第一論文D11に、この修正をどのように反映すべきか検討した。

現行D11は、すでに反事実的な変更だけでODが確定するわけではないことを明記している。

実際の構成的関係、代替可能性、補償関係などを確認する必要があるとしている。

したがって、現行D11が単純な反事実テストだけに依存しているという批判は正確ではない。

しかし、今回の検証を通じて、二つの不足が明らかになった。

3-1.実在的規定の判定方法が十分に明示されていない

現行D11では、Aの実在的規定がBの同一性条件を構成していることを要求している。

この方向性は正しい。

しかし、具体的に何をもって実在的な構成条件と判断するのかが、十分に定式化されていなかった。

Fineの議論を採用するならば、Bが何であるかを成立させる実在的定義と、Aが何であるかを成立させる実在的定義を、それぞれ明示して比較する必要がある。

Bの実在的定義にAの規定が含まれていること。

Aの実在的定義にはBの存在が含まれていないこと。

この二つを確認することによって、ODの非対称性を判定する。

3-2.構造項の個体化単位が十分に明確でない

もう一つの問題は、AとBの個体化単位である。

現行D11は、同一の構造S、同一性水準D、規定次元dを指定している。

しかし、これだけではAとBの内部に何が含まれているのかまでは確定しない。

例えば、同じ制度的権限という規定次元でも、最終決定権限、任命権限、監督権限、下位役割を設定する一般的権限は、それぞれ異なる制度的規定である。

これらを一つの構造項としてまとめてしまえば、異なる依存関係が混在する可能性がある。

したがって、AとBがそれぞれどのような実在的な規定によって一つの構造項として成立しているのかを明確にしなければならない。

ここでいう個体化単位とは、AとBを同じ大きさに分割するという意味ではない。

制度的権限と制度的役割は異なる種類の存在者であるため、同じ構成要素から成る必要はない。

問題なのは、Aを全体として設定しながら、Bとの比較ではAの一部分だけを利用するといった比較単位の不統一である。

したがって、ODの判定に先立ち、AとBそれぞれの実在的定義と個体化単位を確定する必要がある。


4.修正方向の比較と最終的な選択

ここでは、問題を解決するための四つの方向を比較した。

4-1.方向A:A1とA2を分離して判定する

当初のAをA1とA2に分け、それぞれについてBとのODを検証する方法である。

この方法は、複合的な構造項の内部にある依存関係を明確にできる。

しかし、A1がBの同一性条件を実際に構成していることは、まだ証明されていない。

また、A2についても、Bの廃止によって対象を失う可能性がある。

したがって、この方向は問題の診断には有効だが、それだけでは最終的な解決にはならない。

4-2.方向B:Aを一般的な制度的権限に変更する

Aを、総会に帰属する下位役割の設定・変更・廃止の一般的な制度的権限として定義し直す方法である。

この方法では、Aが特定のBの存在に依存しない制度的権限として個体化される。

会計担当職Bが廃止された場合でも、総会は別の下位役割を設定する権限を保持できる。

ただし、Aの権限が実際にBの制度的同一性を成立させていることを示す必要がある。

その条件を満たせば、この方向は十分に論証可能である。

4-3.方向C:Bを下位役割一般に変更する

Bを特定の会計担当職ではなく、総会によって設定される下位役割一般に変更する方法である。

しかし、この方法ではBの範囲が広がりすぎてしまう。

具体的な制度的役割の同一性がどのように成立するのかが不明確になり、今回の問題を解決する方法としては適切ではない。

4-4.方向D:個体化の粒度を独立したパラメータにする

ODの表記に個体化の粒度を示す独立したパラメータを追加する方法である。

例えば、

OD_{S,D,d,g}(B,A)

という形である。

しかし、個体化の粒度を記号として追加しただけでは、AとBの実在的定義を正当化したことにはならない。

また、現行のDとdの指定を厳密化することで、今回必要な情報は十分に表現できる。

したがって、独立したパラメータを増やす必要はないと判断した。

4-5.最終的な選択

最終的には、方向Bを採用し、方向Aの分解分析を補助的な検証方法として取り入れることにした。

方向Cと方向Dは採用しない。

この選択の理由は、現行理論の基本構造を維持しながら、ODの具体的な適用条件を強化できるからである。

また、ここで重要なのは、個体化単位の問題を完全に消去することではない。

独立に正当化できる個体化単位が複数存在し、それぞれで異なるOD判定が成立する場合には、第一性もその個体化単位に相対的なものとして主張しなければならない。

ある個体化単位で成立した非対称性を、別の個体化単位に無条件で拡張することは認めない。

これは本理論が採用している構造相対的な第一性の考え方と整合する。


5.改訂後のOD判定条件

以上を踏まえて、ODの判定条件を五つに整理した。

条件1:構造項の独立した個体化

AとBは、ODの結論から逆算することなく、それぞれ独立に構造項として確定されていなければならない。

ここでいう独立とは、構造から独立して存在するという意味ではない。

ODによる非対称性の判定とは別の基準によって、それぞれの位置、役割、同一性条件が確定しているという意味である。

条件2:Bの実在的定義におけるAの構成的関与

Bの実在的定義には、Aの実在的な規定が構成条件として含まれていなければならない。

単なる言語的な言及や因果的な影響ではなく、Aの規定が実際にBの同一性条件を成立させている必要がある。

条件3:Aの実在的定義におけるBの非構成性

Aの実在的定義には、Bの存在が構成条件として含まれていてはならない。

また、Aが複合的な構造項である場合には、内部に含まれる規定のうち、Bに依存する部分を特定しなければならない。

複合体の一部分が独立しているという事実だけで、複合体全体の独立性を認めることはできない。

条件4:個体化単位の一貫性

AとBの個体化単位は、それぞれの実在的定義によって正当化されていなければならない。

Aを全体として扱う場合には、A全体の同一性条件を検討する。

Aの一部分だけを扱う場合には、その部分が独立した構造項として成立する根拠を示す。

また、複数の個体化単位が正当に成立し、それぞれで判定が異なる場合には、ODの成立を当該単位に相対的なものとして限定する。

条件5:補助的な検証

反事実的変更、代替可能性、補償関係を確認する。

ただし、これらは実在的定義に基づいて確認された構成的依存を補助するものであり、それ自体がODを成立させるわけではない。

以上の五条件によって、実在的定義、個体化単位、反事実的な検証の役割を明確に区別できる。

5-1.D11の改訂方針

今回の修正では、ODの基本表記そのものは変更しない。

OD_{S,D,d}(B,A)

をそのまま使用する。

ただし、規定次元dを指定する際には、その規定次元におけるAとBの実在的定義および個体化単位を明示する。

D11には、次の補足を加えることにした。

ODの判定に際しては、AとBの個体化単位を独立に確定し、それぞれの実在的定義を明示しなければならない。Bの実在的定義にAの実在的規定が構成条件として含まれ、Aの実在的定義にはBの存在が構成条件として含まれない場合に、当該の規定次元におけるODの非対称性が成立する。複合的な構造項については、その複合体全体の実在的定義を確認しなければならず、その一部分が他の項から独立しているという事実だけで、複合体全体の独立性を認めることはできない。反事実的変更、代替可能性および補償関係は、この実在的な構成依存を確認するための補助的な判定方法として用いられる。

この補足によって、Fineの実在的定義をODの判定に導入しながら、現行D11の基本構想を維持できる。


6.第二論文9.6の組織事例の再構成

次に、今回の修正を第二論文9.6に適用する。

6-1.AとBの再定義

まず、Aを次のように変更する。

A:総会に帰属する、組織内部の下位役割を設置・定義・変更・廃止する一般的な制度的権限。

Bは次のとおりである。

B:その制度的権限のもとで設置・規定される会計担当職の制度的役割。

ここでは、Aを特定の会計担当職に対する任命権限や監督権限だけに限定しない。

組織内部の下位役割一般について、その成立条件や権限・責任の範囲を定め、必要に応じて変更・廃止できる継続的な制度的権限として扱う。

Bについても、会計担当者という個人と、会計担当職という制度的役割を区別する。

今回の分析対象は、個人ではなく、組織内部に成立している会計担当職という制度的役割である。

また、Aは総会という制度的主体全体ではなく、総会に帰属する役割設定権限という制度的な構造項として個体化する。

これによって、Aの内部に異なる制度的規定を無条件に束ねることを避けられる。

6-2.同一性水準Dと規定次元d

今回の比較条件は次のように設定する。

  • D:組織の制度的同一性。
  • d:組織内部の制度的権限配分と下位役割の構成。

ただし、ここで扱うのは権限配分一般ではない。

下位役割がどのような制度的権限によって成立し、その役割の同一性条件がどのように定められているかという規定次元である。

6-3.Aの実在的定義

Aは、総会に与えられた一般的な制度的権限である。

その成立根拠は、組織の基本規則において総会に付与された権限と、その権限を行使するための制度的条件にある。

例えば、次のような規定である。

  • 総会という機関の成立条件。
  • 総会の構成員資格。
  • 総会の意思決定手続き。
  • 総会に与えられた制度的権限の範囲。
  • 下位役割を設定・変更・廃止する権限。

これらによって、Aは一つの制度的権限として成立する。

重要なのは、Aの成立が特定の会計担当職Bの存在を必要としないことである。

会計担当職が存在しない場合でも、総会は別の下位役割を設定する権限を保持できる。

また、会計担当職が廃止された場合にも、その権限は維持されうる。

もちろん、Aの成立には組織の基本規則や総会の構成員など、他の制度的条件が必要である。

しかし、今回検討しているのは、AがBの存在を構成的な前提として必要とするかどうかである。

AはBから独立した制度的権限として成立している。

6-4.Bの実在的定義

次に、会計担当職Bを検討する。

会計担当職は、単に財務管理を行う人物が存在することによって成立するわけではない。

その制度的役割には、少なくとも次の規定が含まれる。

  • どのような任務を担うのか。
  • どのような権限を持つのか。
  • どのような責任を負うのか。
  • 誰によって任命されるのか。
  • 誰によって監督されるのか。
  • どのような手続きで変更・廃止されるのか。

これらの条件によって、会計担当職は特定の制度的役割として成立する。

今回の分析用モデルでは、これらの条件が総会の一般的な制度的権限のもとで有効に設定・維持されているものとする。

したがって、会計担当職が組織内部の有効な制度的役割として成立するための実在的条件には、Aの制度的規定が含まれる。

ここでいう依存関係は、単に総会が過去に会計担当職を設置したという歴史的事実ではない。

総会の権限が現在も会計担当職の位置、権限、責任を規定し、その制度的同一性を成立させているという意味である。

したがって、Bの制度的同一性はAの実在的規定に構成的に依存している。

6-5.逆方向の依存関係の検証

次に、Bを廃止する場合を考える。

会計担当職が廃止されれば、会計担当職という制度的役割は消滅する。

しかし、総会に与えられた下位役割の設定・変更・廃止という一般的な制度的権限は維持できる。

総会は別の役職を新たに設置することもできるし、特定の役職を置かずに組織を運営することもできる。

ここで区別しなければならないのは、会計担当職に対する個別の任命・監督関係と、総会の一般的な役割設定権限である。

会計担当職が廃止されれば、会計担当職に対する個別の任命・監督関係はその対象を失う。

しかし、それによって一般的な役割設定権限そのものが消滅するわけではない。

したがって、Aの実在的定義には、特定のBの存在は構成条件として含まれていない。

ゆえに、逆方向のODは成立しない。

6-6.ODの成立

ここまでの分析をまとめる。

A:総会の一般的な制度的役割設定権限。

B:会計担当職の制度的役割。

Bの実在的定義には、Aの制度的規定が構成条件として含まれている。

一方、Aの実在的定義にはBの存在は含まれていない。

したがって、

OD_{S,D,d}(x_finance,x_role-setting)

が成立する。

他方、

¬OD_{S,D,d}(x_role-setting,x_finance)

が成立する。

ゆえに、

x_role-setting ≺_{S,D,d} x_finance

となる。

この結果、当初の事例に存在していたAの個体化単位の不統一は解消される。

ただし、この結論は、ここで設定した制度的条件を備えた組織モデルに対するものである。

例えば、法律や組織の基本規則によって会計担当職の設置が義務づけられ、総会にその廃止権限が認められていない場合には、この非対称性は成立しない。

また、会計担当職の制度的同一性が、総会の一般的な権限とは別の規則によって独立して成立している場合にもODを認めることはできない。

本理論は、すべての総会と会計担当職のあいだに第一性が存在すると主張するのではない。

実在的定義に基づく非対称性が確認された場合に限り、第一性を認める。


7.代替可能性と補償関係の再検証

現行D11が要求している代替可能性と補償関係についても確認しておく。

この検証では、制度的役割、担い手、機能を区別する必要がある。

7-1.会計担当者の交代

まず、会計担当者という個人が別の人物に交代する場合を考える。

この場合、会計担当職Bは存続する。

変わるのは役割を担う個人であり、制度的役割そのものではない。

したがって、これはBの消滅を意味しない。

7-2.会計担当職を別の役職に置き換える場合

次に、会計担当職を廃止して、別の財務管理機関を設置する場合を考える。

この場合、財務管理機能は維持される可能性がある。

しかし、会計担当職という特定の制度的役割Bは存続していない。

代替されたのは機能であり、Bそのものではない。

したがって、財務管理機能の代替可能性を、Bの同一性維持の根拠として使用することはできない。

7-3.総会の権限は維持されるか

最後にAについて考える。

会計担当職が廃止されても、総会の一般的な役割設定権限は維持される。

Aとして個体化されているのは、会計担当職を任命・監督する個別の権限だけではない。

組織内部の下位役割を設定・変更・廃止する一般的な制度的権限である。

したがって、会計担当職がなくなった後も、Aは別の下位役割を設定する権限として存続できる。

Aの独立性は、複合体の一部分が残るという理由で成立するのではない。

Aとして個体化された一般的制度的権限そのものが、Bの存在を必要としていないことによって成立する。

これによって、実在的定義による判定と、代替可能性・補償関係による補助的検証が整合する。


8.第一論文と第二論文への影響

今回の修正が二本の論文全体に与える影響を整理しておく。

対象修正内容判定
第一論文D11実在的定義と個体化単位の明確化補足改訂
第一論文D12ODの非対称性による第一性の定義維持
第一論文P3ODの非対称性から第一性を導く構成維持
第一論文T1構造的個体化と第一性の条件付き統合維持
第二論文9.6AとBの個体化単位の修正改訂
第二論文B2具体的な構成的依存経路A・Bの表記を更新
第二論文T3二つの論文を統一する条件付き定理基本構造を維持

今回の修正によって、第一論文のCとIの区別にも変更は必要ない。

CとIは構造の成立と構造項の個体化を説明する関係であり、ODは個体化された構造項のあいだに成立する構成的同一性依存を説明する関係だからである。

それぞれの論理的な役割は維持される。

また、第二論文で扱っている歴史的資格Q、通時的構成的関係、統合条件B1〜B3についても、基本構造を変更する必要はない。

ただし、ここでは第一論文における現在の構造内部のODと、第二論文における歴史的な構成的依存を区別しておく必要がある。

過去にAがBを設置したという歴史的事実だけでは、現在のODは成立しない。

現在もAの制度的権限がBの同一性条件を構成していることが必要である。

この区別を維持することで、二本の論文の役割分担も保たれる。


9.今回の検証によって明確になったこと

今回の検証で最も重要だったのは、ODの非対称性を判定する以前に、比較対象となる構造項そのものが適切に個体化されていなければならないという点である。

第一性の遡及的成立では、あるものが第一であるかどうかを、最初から与えられた属性によって決めない。

構造の成立によって個体性が確定し、その個体化された構造項のあいだに構成的同一性依存が成立し、その依存の非対称性によって第一性が確定する。

しかし、ここで比較する構造項の個体化が不適切であれば、その後のODの判定も不確かなものになる。

例えば、ある複合的な構造項Aの内部に、Bに依存する規定とBに依存しない規定が含まれている場合、A全体がBから独立していると判断することはできない。

そのため、ODの判定では、AとBそれぞれの実在的定義を確認し、どの規定が同一性条件を構成しているのかを明確にしなければならない。

この修正によって、次の三つの誤りを防ぐことができる。

  1. 反事実的な連動だけから構成的依存を推論すること。
  2. 複合的な構造項の一部分が独立していることから、全体の独立性を推論すること。
  3. ODの非対称性を成立させるために、分析者が都合よく構造項の個体化単位を変更すること。

これらは、いずれも本理論にとって重要な修正である。

とりわけ、第一性を成立させる比較対象そのものが、独立した存在論的根拠を持たなければならないということが明確になった。

つまり、第一性の成立を説明するには、何が第一であるかを判定するだけでは足りない。

そもそも、何を一つの存在者として比較しているのかを説明しなければならない。

この意味で、今回の修正は単なる組織事例の修正ではない。

本理論の構造的個体化と構成的同一性依存のあいだに、一貫した存在論的基準を与える修正である。


10.最終結論

今回の問題点については、解決したと判断する。

最終的に採用する方針は、次のとおりである。

第一に、Fineの実在的定義をODの判定に導入する。

必然的関係や反事実的依存だけでなく、対象が何であるかを成立させる実在的な規定を比較する。

第二に、AとBそれぞれの個体化単位を独立に確定する。

複合的な構造項の内部に異なる依存関係が存在する場合には、それらを区別する。

第三に、第二論文9.6の組織事例を修正する。

Aを総会の一般的な下位役割設定権限として再定義し、Bをその権限のもとで成立する会計担当職の制度的役割として設定する。

第四に、ODの基本定義と二本の論文の基本構造は維持する。

今回の問題は、ODそのものを作り直す問題ではなく、ODを具体的な事例に適用する際の存在論的な判定条件を強化する問題である。

この修正によって、ODは単なる反事実的な非対称性ではなく、実在的定義と個体化単位に基づく構成的な非対称性として、より明確に位置づけられる。

今回の検証を通じて、第一性の遡及的成立において、構造項の個体化と第一性の判定とのあいだには、さらに明確な論理的順序が必要であることが分かった。

構造項が何であるかを確定すること。

その構造項の実在的定義を明らかにすること。

そして、それぞれの実在的定義を比較して構成的依存の非対称性を判定すること。

この順序を守ることによって、第一性を分析者の便宜的な分類から導くのではなく、構造項そのものの成立条件から導くことができる。

以上をもって、今回の問題点②に関する検証を終了する。


参考文献

Fine, Kit. 1994. “Essence and Modality.” Philosophical Perspectives 8, Logic and Language: 1–16.

Fineの論文は、本質と必然性を区別し、実在的定義に基づいて対象の本質を考えるための理論的な出発点として参照した。

なお、今回の検証では、Fineの本質論をそのまま本理論に移植するのではなく、ODの構成的依存を判定するための方法論として援用した。

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