はじめに
今回は、外部評価による第一論文・第二論文の検討で指摘された問題点について検証した。
問題となったのは、第一論文における「構成的同一性依存OD」と「構造相対的第一性」の論理的な関係である。
外部評価の指摘によれば、第一論文では、D12においてすでにODの非対称性を第一性の成立条件として定義しているにもかかわらず、その後の6.4で同じ条件から第一性を導く橋渡し原理を提示している。
つまり、第一性を定義した後に、同じ内容を改めて証明しようとしているという問題である。
この指摘は正しいと判断した。
今回の検証では、この問題を解決するために二つの方向性を比較した。
方向Aは、第一性をODの非対称的な成立形態として定義する方向である。
方向Bは、第一性をODとは独立した存在論的優先性として維持し、その間に成立する関係を独立して論証する方向である。
両者の論証可能性と理論的な代償を比較した結果、今回は方向Aを採用することにした。
以下、今回の検証過程と結論を記録する。
1.問題の発見――D12と橋渡し原理は同じ内容を述べている
まず、現行の第一論文第六稿における論理構造を確認する。
1-1.D11におけるODの定義
D11では、構成的同一性依存ODを次のように定義している。
構造S、同一性の水準D、規定次元dにおいて、ある構造項Bの同一性条件が、別の構造項Aの実在的な規定に構成的に依存している関係である。
その表記は次のとおりである。
OD_{S,D,d}(B,A)
この場合、Bの同一性条件がAの実在的な規定に依存している。
ここで重要なのは、D11がODの非対称性を要求していないことである。
ODは一般的な構成的依存関係として定義されているため、次の三つの状態が認められる。
第一に、BがAに依存する一方向的な関係。
OD(B,A) ∧ ¬OD(A,B)
第二に、AがBに依存する逆方向の関係。
OD(A,B) ∧ ¬OD(B,A)
第三に、AとBが相互に依存する関係。
OD(B,A) ∧ OD(A,B)
したがって、ODそのものは第一性を意味しない。
この点について、D11には問題がない。
1-2.D12における第一性の定義
次に、D12では構造相対的第一性を定義している。
その内容は、Aの実在的な規定がBの同一性条件を構成的に決定し、逆方向の構成的同一性依存が成立しない場合に、AがBに対して第一性を持つというものである。
これをODの記号に置き換えると、次のようになる。
OD_{S,D,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,D,d}(A,B)
つまり、D12は、すでにODの非対称性を第一性の成立条件として採用している。
1-3.6.4の橋渡し原理
問題は、続く6.4である。
ここでは、ODから第一性を導くための橋渡し原理として、次の式を提示している。
OD_{S,D,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,D,d}(A,B) ⇒ A ≺_{S,D,d} B
しかし、これはD12がすでに定義している内容と同じである。
論理的には、次のような構造になっていた。
- D11:ODという一般的な構成的依存関係を定義する。
- D12:ODの非対称性を第一性として定義する。
- 6.4:ODの非対称性から第一性を導く橋渡し原理を提示する。
D12と6.4が同じ条件を使用している以上、6.4は独立した論証になっていない。
これは、単なる文章表現の重複ではない。
定義と証明の役割が混同されているという、第一論文の論理構造に関する問題である。
1-4.これは循環論法なのか
今回の問題を、厳密な意味での循環論法と呼ぶことは適切ではない。
ODの成立を第一性から逆算しているわけではなく、D12で定義した内容を6.4で再び導いているからである。
したがって、問題の正確な性格は、定義と証明の混同、および独立した論証が存在するように見える論理的重複である。
ただし、これは軽微な問題ではない。
第一論文の中心命題P3は、構成的同一性依存の非対称性から第一性が成立することを説明する役割を担っている。
そのため、第一性が定義によってすでに確定しているのか、それとも独立した存在論的原理によって導かれるのかを明確にしなければ、論文全体の論証構造が不明確になる。
2.修正方向の検討
今回の問題を解決するため、二つの方向性を検討した。
2-1.方向A――第一性をODの非対称形態として定義する
方向Aでは、第一性をODとは独立した別の存在論的関係として措定しない。
ODという一般的な構成的依存関係のうち、非対称的に成立しているものを構造相対的第一性として定義する。
この場合、概念の関係は次のようになる。
- OD:構造項の同一性条件に関する構成的依存関係。
- ODの非対称性:構成的依存が特定の条件において一方向にのみ成立していること。
- 構造相対的第一性:ODの非対称的な成立形態を、構造内部の存在論的優先性として位置づけたもの。
例えば、ある組織において、総会の最終決定権限が会計担当職の制度的同一性を構成的に決定しているとする。
一方、会計担当職を廃止しても、総会の最終決定権限そのものは維持できるとする。
この場合、会計担当職の同一性条件は総会の制度的規定に依存しているが、その逆方向の依存は成立していない。
したがって、次の関係が認められる。
OD_{S,D,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,D,d}(A,B)
このとき、AはBに対して構造相対的第一性を持つ。
方向Aでは、ODと第一性は完全に無関係な二つの関係ではない。
ODは一般的な依存関係を示し、第一性はその依存が非対称的に成立している場合の存在論的な位置づけを示す。
この区別であれば、両者の概念的な違いを維持しながら、論理的な重複を解消できる。
2-2.方向Aの問題点と論証可能性
方向Aを採用すると、第一性はODとは独立した存在論的優先性ではなくなる。
そのため、あらゆる存在者の間に成立する一般的な存在論的優先性を独立して説明する理論ではなくなる。
しかし、これは必ずしも弱点ではない。
本理論が説明しようとしているのは、構造的個体化によって成立した構造項の間に、どのような構成的依存関係が成立し、その非対称性によってどのような優先性が生じるかという問題だからである。
つまり、第一性をODの非対称性に限定することは、理論の当初の目的に合致している。
また、ODは単なる認識上の依存や因果的影響ではない。
Bの同一性条件がAの実在的な規定によって構成的に成立するという、存在論的な関係である。
したがって、その非対称性も実在的な構成関係のあり方に基づいている。
この意味で、方向Aを採用しても存在論的な主張は失われない。
ただし、第一性という名称そのものが新たな存在論的実在性を付け加えるわけではない。
第一性が指し示すODの非対称性そのものに、存在論的な意味があるのである。
2-3.方向B――第一性をODとは独立した存在論的優先性として維持する
方向Bでは、第一性をODとは別の存在論的関係として維持する。
この場合、ODが成立することと、AがBに対して存在論的に優先することは区別される。
例えば、Aの規定がBの制度的同一性を成立させているとしても、そのことだけでAがBより存在論的に根本的であると結論することはできない。
A自身が別の構造項Cに依存している可能性もある。
また、ODが特定の同一性水準や規定次元に限定された関係であれば、その局所的な依存関係を、存在論的優先性一般に拡張することには問題がある。
したがって、方向Bを採用する場合には、ODとは独立した存在論的優先性の基準が必要になる。
例えば、次のような条件が考えられる。
- Bの対象となる同一性条件がAによって十分に基礎づけられていること。
- その基礎づけが、単なる因果的・機能的な寄与ではないこと。
- 逆方向の基礎づけが成立しないこと。
- 非対称的な基礎づけが存在論的優先性を保証すること。
このような条件を独立して論証できれば、方向Bも理論的には成立可能である。
2-4.FineとLoweの議論との関係
方向Bを検討するうえでは、現代形而上学における基礎づけ論と個体化論が参考になる。
Kit Fineの「Guide to Ground」は、因果的説明とは異なる構成的な形而上学的説明を考えるうえで重要な文献である。
E. J. Loweの「Asymmetrical Dependence in Individuation」は、個体化における非対称的依存を扱っている。
両者は、本理論のODや第一性を理解するための重要な理論的背景になる。
ただし、Fineの基礎づけ論を参照しただけで、ODの非対称性から独立した存在論的優先性が導かれるわけではない。
また、Loweの個体化論をそのまま採用できるわけでもない。
本理論のODがどの意味で形而上学的な基礎づけに該当するのか、また、その非対称性がどの範囲の優先性を支えるのかを独自に論証しなければならない。
そのため、方向Bを採用するなら、第一性の概念自体を再構築する必要がある。
2-5.二つの方向性の比較
両者を比較すると、次のようになる。
| 評価項目 | 方向A | 方向B |
|---|---|---|
| 論理的整合性 | 高い | 条件付きで高い |
| 現行体系との適合性 | 非常に高い | 追加理論が必要 |
| ODとの関係 | 一般関係とその非対称形態 | 独立した関係 |
| 第一性の独立性 | 主張しない | 維持する |
| 追加公理 | ほぼ不要 | 必要 |
| 第一論文の修正範囲 | 限定的 | 広範囲 |
| 第二論文との整合性 | 高い | 再検討が必要 |
方向Bは不可能ではない。
しかし、現在の理論体系に対して、追加的な論証負担が大きい。
一方、方向Aであれば、既存の構造的個体化論を変更せずに、ODと第一性の関係を明確にできる。
そのため、今回は方向Aを採用することにした。
3.採用方針――ODの非対称性を構造相対的第一性とする
今回の修正の基本方針は、次のとおりである。
- D11は維持する。
- D12を改訂する。
- 6.4の独立した橋渡し原理を削除する。
- P3を定義的帰結として再構成する。
- T1は構造的個体化と構造相対的第一性を統合する条件付き定理として維持する。
3-1.D11の維持
D11は、構成的同一性依存ODの一般的な定義として維持する。
定義D11:構成的同一性依存OD
構成的同一性依存ODとは、特定の構造S、同一性の水準Dおよび規定次元dにおいて、ある構造項Bの該当する同一性条件が、別の構造項Aの実在的な規定に構成的に依存している関係である。
その表記は次のとおりである。
OD_{S,D,d}(B,A)
ODは必ずしも非対称的に成立するわけではない。
AとBが相互に構成的同一性依存の関係にある場合も認められる。
この定義によって、一般的な構成的依存関係を扱うための基盤が維持される。
3-2.D12の改訂
今回、最も重要なのがD12である。
従来のD12では、第一性をODの非対称性とほぼ同じ内容で定義していた。
改訂後は、その関係を明示的に定義する。
定義D12:構造相対的第一性
構造相対的第一性とは、特定の構造S、同一性の水準Dおよび規定次元dにおいて、ある構造項Aから別の構造項Bへの構成的同一性依存が成立し、その逆方向の依存が成立しない場合に認められる、構造内部の存在論的優先性である。
その定義条件は次のとおりである。
A ≺_{S,D,d} B
↔
[OD_{S,D,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,D,d}(A,B)]
この定義によって、第一性の成立条件が確定する。
ここで重要なのは、第一性が絶対的な性質ではないということである。
第一性は、特定の構造、同一性水準および規定次元に相対的に成立する。
また、第一性は時間的先行性や因果的先行性ではない。
構造内部における構成的同一性依存の非対称性に基づく優先性である。
さらに、第一性は構造内部の全項に対して一意の序列を与える必要はない。
複数の構造項が異なる項に対して第一性を持つことも認められる。
ただし、ある二つの項の間にどのような優先関係が成立するかについては、対象となる同一性水準と規定次元を固定して判定しなければならない。
3-3.6.4の橋渡し原理の削除
従来の6.4では、ODの非対称性から第一性を導く橋渡し原理を提示していた。
しかし、D12がすでに第一性をそのように定義している以上、独立した橋渡し原理として維持する必要はない。
そこで、6.4を「構成的同一性依存と構造相対的第一性」という節に変更する。
この節では、ODが一般的な構成的依存関係であること、そして非対称的な成立形態が構造相対的第一性として位置づけられることを説明する。
これによって、ODと第一性の関係を明確にしながら、定義と推論の重複を避けることができる。
3-4.第一性の判定条件
さらに、第一性を認めるためには、次の五つの条件を満たす必要がある。
- AとBが同一の構造Sに属する構造項として個体化されていること。
- 対象となる同一性の水準Dと規定次元dが指定されていること。
- Aの実在的な規定がBの対象となる同一性条件を構成的に決定していること。
- その依存が単なる因果的・機能的・認識上の依存ではないこと。
- 同じ構造・同じ同一性水準・同じ規定次元において、逆方向の構成的同一性依存が成立しないこと。
この条件によって、第一性の判定に必要な要件が整理された。
特に重要なのは、逆方向の依存が確認されていないというだけでは、非対称性を証明したことにならないという点である。
逆方向のODが実際に成立していないことを、独立した根拠によって示さなければならない。
4.P3の再構成――独立した橋渡しの証明から定義的帰結へ
今回の修正によって、P3の位置づけも変更される。
従来のP3は、ODの非対称性から第一性が導かれることを示す命題だった。
改訂後も、その命題の内容は維持できる。
ただし、その論証上の性格を明確にする必要がある。
改訂命題P3:非対称的な構成的同一性依存による第一性
構造Sの内部において、個体化された構造項AとBの間に、同一性水準Dおよび規定次元dに関する構成的同一性依存が一方向にのみ成立する場合、AはBに対して構造相対的第一性を持つ。
証明
P2によって、構造Sの内部の契機は、それぞれ構造項として個体化されている。
D11によって、Aの実在的な規定にBの同一性条件が構成的に依存していることが確認される。
すなわち、次の関係が成立する。
OD_{S,D,d}(B,A)
さらに、同じ構造・同じ同一性水準・同じ規定次元において、逆方向の依存が成立しない。
¬OD_{S,D,d}(A,B)
したがって、ODは当該の条件において非対称的に成立している。
改訂D12によれば、ODの非対称的な成立形態は構造相対的第一性として定義される。
ゆえに、
A ≺_{S,D,d} B
が成立する。□
P3の意味
ここで重要なのは、P3が独立した存在論的橋渡しの証明ではなくなったことである。
P3は、D11によって確認されたODの非対称性を、D12によって第一性として位置づける命題となる。
この修正によって、証明されている内容と、定義によって確定している内容を区別できるようになった。
したがって、P3の形式的な推論そのものよりも、実際の構造についてODが成立すること、そして逆方向のODが成立しないことを示すことが、存在論的な論証の中心になる。
これは論証の放棄ではない。
論証の負担がどこにあるのかを正確にする修正である。
5.定理T1への影響
第一論文の中心定理T1は「構造的個体化と第一性の遡及的成立定理」である。
今回の修正によって、T1を変更する必要はあるのだろうか。
結論として、T1の基本構造は維持できる。
ただし、その意味を明確にする必要がある。
T1は、次の二つを統合する定理である。
第一に、構造の成立によって、前個体的な差異的契機が構造項として個体化されること。
第二に、個体化された構造項の間にODの非対称性が成立する場合、その非対称性が構造相対的第一性として成立すること。
前者はD1〜D10、P1、P2によって論じられる。
後者はD11、D12、P3によって論じられる。
したがって、T1は構造的個体化と第一性を統合する中心定理として維持できる。
ただし、ここで重要な限定がある。
構造的個体化が成立したからといって、すべての構造項の間に第一性が自動的に成立するわけではない。
第一性が成立するためには、ODの非対称性が別途確認されなければならない。
そのため、T1は、構造的個体化を基盤として、ODが非対称的に成立する場合の第一性を説明する条件付き定理として理解する必要がある。
この位置づけならば、T1の論理的な整合性は維持できる。
6.第二論文への影響――歴史的第一性の再整理
今回の修正は、第二論文にも関係する。
第二論文では、歴史的な前史としての資格Qと、歴史内部の第一性を区別している。
特に7.4では、過去の出来事そのものではなく、それらが後続構造において実現した構成的寄与や構造的役割を対象として、ODの非対称性を検討している。
例えば、次の二つの構成的寄与を考える。
- r_A:特定の意思決定秩序を成立させた構成的寄与。
- r_B:その秩序に依存して成立した後続の制度的規定。
この場合、次の関係が成立する。
OD_{S,D,d}(r_B,r_A)
¬OD_{S,D,d}(r_A,r_B)
したがって、
r_A ≺_{S,D,d} r_B
となる。
しかし、今回の修正以前は、この結論を導くために第一論文の橋渡し原理を参照していた。
改訂後は、その必要がなくなる。
第二論文で使用するD12を第一論文と統一すれば、ODの非対称性から構造相対的第一性を直接位置づけることができる。
6-1.歴史的資格Qと第一性は異なる
ここで、歴史的資格Qと第一性の区別は維持しなければならない。
Qが示すのは、過去の履歴が後続構造にとって構成的前史としての資格を持つことである。
それに対して、第一性は、構成的寄与の間にODの非対称性が成立しているかどうかによって判定される。
したがって、Qが成立しただけでは第一性は成立しない。
この区別は、今回の修正によっても変更されない。
| 概念 | 説明するもの |
|---|---|
| 歴史的資格Q | 過去の履歴が後続構造の構成的前史となること |
| OD | 履歴が実現した構成的寄与の同一性依存 |
| ODの非対称性 | 構成的寄与の依存方向 |
| 歴史内部の第一性 | その非対称性として成立する構造相対的優先性 |
6-2.T3の基本構造は維持できる
第二論文の統一定理T3についても、基本構造を変更する必要はない。
T3は、第一論文の構造的個体化、第一論文の構造内部の第一性、第二論文の歴史的前史の構成的資格Qを統合する役割を担っている。
第一論文のD12を共通定義として使用すれば、第二論文でも同じ論理構造を適用できる。
したがって、第二論文全体を再構築する必要はない。
主に修正すべきなのは7.4の第一性の説明と、橋渡し原理に依存している記述である。
また、歴史的資格Qと第一性を区別する基本的な議論は維持できる。
7.前回の再検証で確定した個体化論との整合性
今回の問題は、前回再検証した第一論文の個体化論とも関係する。
直近の再検証では、構造の個体性と構造項の個体性について、さらに明確な整理を行った。
その際、次の概念を扱った。
- 構造的同一性と数的個体性の区別。
- 構造的個体化プロフィールJ_D(S)の導入。
- 基底的個体化I₀の導入。
- 個体化根拠充足原理Gの改訂。
- 構造個体の数的個体化を示すP2aの導入。
これらの修正は、構造Sそのものがどのように個体として成立するのかという問題を扱っている。
それに対して、今回のODと第一性の問題は、構造と構造項の個体性が成立した後の段階に位置している。
全体の論理構造は次のように整理できる。
第一段階:前個体的差異場
Δ
第二段階:構造の形成
Δ → Rᶜ → S
第三段階:構造の個体性
J_D(S)
I₀
第四段階:構造項の個体化
I(S, mᵢ → xᵢ)
第五段階:構成的同一性依存
OD_{S,D,d}(B,A)
第六段階:ODの非対称性
¬OD_{S,D,d}(A,B)
第七段階:構造相対的第一性
A ≺_{S,D,d} B
この順番によって、今回の修正が既存の個体化論に影響しないことが分かる。
今回変更するのは、第五段階から第七段階への関係である。
Δ、Rᶜ、S、K_D(S)、B_D^α(S)、J_D(S)、I₀、G、D10までの基本的な議論を変更する必要はない。
したがって、直近の再検証で確定した個体化論は、そのまま維持できる。
8.今回の修正によって明確になった第一性の遡及性
今回の検証で得られた重要な成果は、第一性の意味がより明確になったことである。
本理論では、個体性を最初から完成したものとして前提しない。
前個体的差異場Δにおける差異的規定可能性が、構成的関係Rᶜによって組織化され、構造Sが成立する。
その構造内部において、差異的契機が特定の位置・役割・同一性条件を持つ構造項として個体化される。
そのため、構造項の個体性は、構造的秩序を通じて成立する。
しかし、構造項の個体性が成立したとしても、それだけでは第一性は成立しない。
AとBが構造項として成立していることと、AがBに対して第一であることは異なるからである。
第一性が成立するためには、両者の間に構成的同一性依存が存在し、その依存が非対称的でなければならない。
この順番を整理すると、次のようになる。
Δ → Rᶜ → S
I(S, mᵢ → xᵢ)
OD_{S,D,d}(B,A)
¬OD_{S,D,d}(A,B)
A ≺_{S,D,d} B
ここから、第一性の遡及的成立には二つの段階があることが分かる。
8-1.第一の遡及性――構造的個体化
前個体的な差異的契機は、あらかじめ完成した構造項として存在しているわけではない。
構造Sの成立によって、特定の位置、役割、同一性条件を持つ構造項として個体化される。
この意味で、構造項としての個体性は構造の成立を通じて確定する。
8-2.第二の遡及性――構造相対的第一性
構造項として個体化されたAとBの間に、構成的同一性依存ODが成立する。
その依存が一方向にのみ成立する場合、AはBに対して第一性を持つ。
ここでは、第一性が最初からAに備わっている絶対的な性質として存在しているわけではない。
AがBに対して第一であるという位置づけは、構造項の成立と、その間に成立する構成的依存関係を通じて確定する。
したがって、今回の修正によっても「第一性の遡及的成立」という本理論の中心構想は維持される。
むしろ、第一性の成立に必要な条件が明確になった。
9.今回の修正が意味しないこと
今回の修正によって第一性の定義は明確になったが、同時に、その定義が含意しないことも整理しておく必要がある。
第一に、ODの非対称性から、あらゆる意味での存在論的な根本性が導かれるわけではない。
第一性は、対象となる構造、同一性水準および規定次元に限定された優先性である。
第二に、ある二つの構造項の間に第一性が成立することから、構造全体に一意の序列が成立するとは限らない。
ODの非対称性だけでは、異なる項の間に成立するすべての優先関係の推移性や、全構造項を覆う全順序までは導かれない。
第三に、構造的個体化が成立したことから、ODの非対称性が自動的に生じるわけではない。
個体化と第一性は別の論理段階に属している。
第四に、ODの非対称性を認めるためには、正方向のODだけでなく、逆方向のODが成立しないことも確認しなければならない。
この判定においては、反事実的な検証が有効な手段となる。
例えば、Aの規定を変更した場合にBの同一性条件が維持できるか、また、Bの規定を変更した場合にAの同一性条件が維持できるかを、それぞれ検討する。
ただし、単なる反事実的な相関だけでODを確定することはできない。
構成的依存の実在的な根拠と、対象となる同一性条件の範囲を明確にする必要がある。
これらは、今回の修正によって第一性の適用範囲がより正確になったことを示している。
10.今回の研究の結論
今回の検証によって、外部評価が指摘した問題点①について、理論的な解決方針を確定することができた。
最終的な結論は次のとおりである。
第一に、外部評価の指摘は正しい。
D12と6.4の橋渡し原理は、同じ条件から同じ結論を導いており、定義と証明の役割が重複していた。
第二に、方向Aを採用する。
第一性をODとは独立した存在論的関係として維持するのではなく、ODの非対称的な成立形態として定義する。
第三に、D11は維持する。
ODは一般的な構成的同一性依存関係として定義し、対称的な成立も許容する。
第四に、D12を改訂する。
構造相対的第一性を、次の条件によって定義する。
A ≺_{S,D,d} B
↔
[OD_{S,D,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,D,d}(A,B)]
第五に、6.4の橋渡し原理を独立した原理として削除する。
ODと第一性の関係を説明する節に置き換える。
第六に、P3を定義的帰結として再構成する。
P3は、ODの非対称性をD12によって第一性として位置づける命題になる。
第七に、T1の基本構造を維持する。
ただし、構造的個体化とODの非対称性による第一性を統合する条件付き定理として位置づける。
第八に、第二論文の基本体系も維持する。
歴史的資格Qと第一性の区別はそのまま残し、7.4など橋渡し原理に依存していた記述を修正する。
おわりに――第一性という概念の射程を明確にする
今回の問題は、第一論文の中心的な論証に関わるものだった。
しかし、検証を通じて明らかになったのは、構造的個体化という本理論の存在論的な基礎に問題があったわけではなく、ODと第一性の概念的な関係を適切に整理できていなかったということである。
従来の第一論文では、ODと第一性を区別しながら、ODの非対称性から第一性を導こうとしていた。
その結果、第一性を定義する段階と、それを論証する段階に同じ条件が使用されていた。
今回の修正では、この二つの段階を統合する。
ODは一般的な構成的同一性依存関係であり、第一性はその非対称的な成立形態として理解する。
この変更によって、第一性はODとは独立した追加的な存在論的関係ではなくなる。
しかし、それによって本理論の存在論的な主張が失われるわけではない。
ODそのものが実在的な構成的依存関係である以上、その非対称性もまた構造内部の実在的な関係のあり方を表しているからである。
私が今回特に重要だと考えたのは、第一性の射程が明確になったことである。
本理論は、あらゆる存在者の間に絶対的な優先順位を与える理論ではない。
構造によって個体化されたものの間に、どのような構成的依存関係が成立し、その依存関係の非対称性がいかにして構造内部の第一性を成立させるのかを説明する理論である。
この限定によって、第一性の議論は、構造的個体化という本理論の中心問題により正確に接続されることになった。
また、今回の修正では、新しい存在論的原理をむやみに追加する必要もなかった。
既存の定義の論理的な役割を整理することで、第一論文と第二論文の共通体系を維持したまま、問題を解決することができた。
今回の研究によって確定したのは、第一性が構造に先立って存在する原始的な性質ではなく、構造的個体化を経た構造項の間に成立する、構成的同一性依存の非対称性によって確定するということである。
これは「第一性の遡及的成立」という本理論の基本的な構想を、より明確にする修正だったと考えている。



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