――同一性決定上の優先性と非対称的基礎づけを接続する共通原理
- はじめに――二つの優先性を統合する
- 1.なぜ二つの優先性を直接導くことはできないのか
- 2.二つの優先性に共通するもの――同一性条件の非対称性
- 3.構造的不変項は何を可能にするのか――許容される変化の領域
- 4.共通原理の形式的定式化――構造的同一性規定の非対称性原理
- 5.構造的個体化から内部の第一性が導かれることの形式的証明
- 6.なぜこの原理は同語反復ではないのか
- 7.第一性は、個体化以前の構造的契機から導かれる
- 8.具体的なモデルによる検証――構造的優先性と内部第一性は同時に成立する
- 9.最も重要な反論――すべての構造に第一の項が存在するのか
- 10.弱点④に対する最終的な解決――二つの優先性を一つの存在論に統合する
- 11.「第一性の遡及的成立」の理論全体にとって何が確定したのか
- 12.最終結論――第一性は構造的同一性規定の非対称性から遡及的に成立する
- 今回の論証によって確定したこと
- おわりに
はじめに――二つの優先性を統合する
今回の検討は、「第一性の遡及的成立」を完成させるうえで、特に重要な論点になる。
これまでの議論では、構造的個体化存在論を構築し、個体性が独立した個体の集合から出発するのではなく、構造的な差異と関係の秩序によって成立することを論証してきた。
さらに、⑭ではスピノザの複合個体を分析し、構成要素の物質的同一性が変化しても、一定の関係的秩序が維持される限り、個体の同一性が維持されることを確認した。
その後、⑮では構造・個体性・第一性を三つの異なる存在論的水準として区別し、⑯では構造と構造項の相互構成が、異なる同一性条件によって非対称的な優先関係を成立させることを論証した。⑰ではこれらを統合し、構造的個体化存在論と第一性の問題を接続した。
しかし、ここにはもう一つ解決すべき問題がある。
それは、構造が構成要素の同一性に優先することと、構造内部のある項が別の項に対して基礎づけ上の優先性を持つことが、いかなる意味で同じ存在論的原理に属するのかという問題である。
この問題を解決しなければ、構造的個体化存在論から第一性の成立へ進む論証は、二つの異なる主張を並べただけにとどまってしまう。
まず、確認しておきたい。
⑭ですでに、第一性には少なくとも二つの形態があることが示されている。
第一は、構造内部の項相互における位置的第一性である。
A ≺d B
これは、ある項Aの規定が、特定の次元において、別の項Bの位置や役割を非対称的に限定する関係である。
第二は、構造的秩序そのものが、構成要素の物質的同一性に対して持つ同一性決定上の第一性である。
S* ≻id X
ここでは、特定の構成要素が他の構成要素より優先するのではなく、構成要素の交代や変化を超えて個体の同一性を成立させる構造的秩序が優先する。
この二つを同一視してはならない。
今回の課題は、両者の差異を消去することではない。
異なる二つの優先性が、なぜ同じ存在論的原理の異なる現れとして理解できるのかを明らかにすることである。
先に今回の結論を述べておこう。
その共通原理は、次のように定式化できる。
構造的同一性規定の非対称性原理
ある構造的秩序が成立するとき、その構造に属するものの同一性は、許容される変化の範囲と、何を維持すれば何が存続できるかという規定関係によって決定される。そして、その規定関係に非対称性が存在するとき、ある条件は他の条件に対して存在論的に優先する。
この優先性は、構造全体の同一性を規定する水準にも、構造内部の個々の項の同一性を規定する水準にも成立しうる。
この原理を導くことによって、構造的秩序の優先性と構造内部の第一性を、一つの存在論的な説明形式に統合できる。
ただし、重要なのは、構造的秩序が存在するというだけで、必ず内部に第一の項が生じるわけではないという点である。
構造の成立は第一性の成立を可能にするが、内部の第一性が成立するためには、さらに構造内部の規定関係に非対称性が存在しなければならない。
この区別を最後まで維持したうえで、論証を進めたい。
1.なぜ二つの優先性を直接導くことはできないのか
まず、現在の論証に潜んでいる問題を正確に確認しよう。
これまでの議論では、次のような論理が採用されてきた。
- 個体性は構造によって成立する。
- 構造的秩序は、個体の同一性決定において構成要素の物質的同一性に優先する。
- 構造内部の諸項は、構造的秩序によって位置や役割を与えられる。
- その諸項のあいだに非対称的な基礎づけ関係が成立する。
- その関係において、一つの項が第一のものとして成立する。
問題は、2から4への移行である。
構造的秩序が構成要素に優先するということから、直ちに構造内部のある項が別の項に優先するとはいえない。
例えば、完全に対称的な構造を考えてみよう。
構造の内部にA、B、Cという三つの項があり、それぞれが同一の役割を担っているとする。
このとき、構造的秩序は、個々の項の物質的同一性よりも優先している可能性がある。
実際、A、B、Cを同じ性質の別の項に置き換えても、関係的秩序が維持されれば、構造全体の同一性は維持されうる。
しかし、この構造の内部には、A、B、Cのうち特定の一つが他の二つより第一であるという関係は存在しない。
つまり、
S* ≻id X
が成立しても、
A ≺d B
が必ず成立するわけではない。
したがって、構造的秩序の優先性から内部の第一性へ進むには、もう一つの論理的な媒介が必要である。
ここで注目すべきなのは、構造的秩序が構成要素の物質的同一性を超えて個体の同一性を維持させるという事実だけではない。
重要なのは、構造的秩序が成立することによって、構成要素の同一性を決定する条件そのものが差異化されるという点である。
この差異化こそが、二つの優先性を結びつける出発点になる。
2.二つの優先性に共通するもの――同一性条件の非対称性
二つの優先性を統合するためには、まず「優先する」ということの意味を、もう一段階抽象化する必要がある。
ここで注目したいのは、二つの優先性がいずれも、あるものの同一性を成立させる条件と、その条件によって規定されるものとのあいだに成立しているという点である。
具体的に確認しよう。
2.1 構造全体における優先性
スピノザの複合個体を考える。
複合個体を構成する身体は、物質的に同じ身体であり続ける必要はない。
身体が入れ替わったとしても、運動と静止の一定の関係が維持されれば、複合個体は同一の個体として存続しうる。
ここでは、次の二つを区別できる。
- 個体の同一性を成立させる関係的秩序。
- その関係的秩序を具体的に実現する構成要素の物質的同一性。
両者は相互に無関係ではない。
関係的秩序は構成要素によって具体的に実現される。しかし、何が同一の複合個体として存続するのかを決定するのは、構成要素の物質的同一性ではなく、関係的秩序である。
したがって、構成要素の物質的同一性が変化しても、個体の同一性は維持されうる。
一方、関係的秩序そのものが失われれば、同一の複合個体として存続することはできない。
この場合、構造的秩序は、個体の同一性を決定する条件として優先している。
すなわち、
S* ≻id X
である。
ここで重要なのは、構造的秩序が構成要素に対して存在論的に独立していることではない。
両者の相互依存を認めたまま、何が個体の同一性を決定するのかという規定次元において非対称性が成立しているのである。
2.2 構造内部における優先性
次に、構造内部における二つの項A、Bを考える。
この場合も、問題になるのは、それぞれの項が物質的に存在するかどうかではない。
問題は、AとBが当該構造の内部で何であるか、つまり、それぞれの位置や役割がどのような条件によって成立しているかである。
仮に、Aの規定がBの位置や役割を決定する条件になっているとしよう。
このとき、Bが当該構造の一項として成立するためには、Aの規定が必要になる。
しかし、Aが当該構造の一項として成立するために、Bの規定が必要であるとは限らない。
このような非対称性が存在すれば、AはBに対して基礎づけ上の優先性を持つ。
A ≺d B
ここでも、AとBが完全に独立して存在するということではない。
両者は同一の構造の内部で成立している。
しかし、その構造内部における同一性条件の依存関係は対称的ではない。
2.3 共通する論理的形式
以上の二つを比較すると、共通するものが見えてくる。
| 比較 | 構造全体 | 構造内部 |
|---|---|---|
| 優先する条件 | 構造的不変項 S* | 項Aの構造的規定 |
| 規定される対象 | 複合個体の同一性 | 項Bの位置・役割 |
| 非対称性 | 構成要素の物質的同一性は不変項に代替可能 | Bの規定はAに依存するが、逆は成立しない |
| 優先性 | 同一性決定上の優先性 | 基礎づけ上の優先性 |
両者の共通点は、ある条件が別の条件よりも、対象の同一性を成立させるうえで不可欠な役割を担っていることにある。
ただし、ここで「不可欠」という言葉を単純に使ってはならない。
あるものが他のものの存在に必要であることと、そのものが他のものの構造的な同一性を決定する条件であることは異なるからだ。
例えば、構成要素は構造の具体的実現に必要である。しかし、特定の構成要素の物質的同一性が、その構造の同一性を決定するとは限らない。
この違いを踏まえると、優先性を成立させる共通の論理は、次のように表現できる。
あるものの同一性を決定する条件が、別のものの同一性を決定する条件に対して非対称的な依存関係を持つとき、前者は後者に対して存在論的な優先性を持つ。
ここに、二つの優先性を統合するための原理がある。
ただし、この段階ではまだ一般的な説明形式を提示したにすぎない。
次に、この非対称性が構造的個体化の内部でどのように成立するのかを論証しなければならない。
3.構造的不変項は何を可能にするのか――許容される変化の領域
ここで、⑳の到達点をもう一度利用したい。
⑳では、構造的全体は、単に複数の要素が連結されていることによって成立するのではなく、構成要素とその関係が共通の構造的不変項を実現することによって成立すると論じた。
さらに、その不変項の実現に必要な構成的依存関係の最小完全閉包によって、構造の境界が決定されることも示した。
この議論には、今回の問題を解決するための重要な含意がある。
それは、構造的不変項が成立するということは、単に全体が一つになるというだけではなく、その構造において許容される変化と許容されない変化を区別できるようになるということである。
これが重要である。
3.1 構造的不変項が変化の基準を定める
例えば、ある構造Sが一定の不変項S*によって成立しているとする。
その構造には、様々な変化が起こりうる。
しかし、すべての変化が同じ意味を持つわけではない。
ある変化は、構造の同一性を維持したまま許容される。
別の変化は、構造の同一性そのものを変えてしまう。
したがって、構造的秩序が成立するとき、次の区別も成立する。
- 構造の同一性を維持する変化。
- 構造の同一性を変化させる変化。
ここで、構成要素の物質的な交代は前者に属しうる。
一方、構造的不変項を成立させている関係的秩序そのものの変更は、後者に属しうる。
この区別によって、構造的秩序の優先性が明確になる。
しかし、さらに重要なのは、この区別が構造内部の諸項にも及ぶことである。
3.2 構造内部の項にも異なる変化可能性がある
構造全体に許容される変化が存在するならば、その内部に位置する各項にも、それぞれ異なる変化可能性が存在する。
例えば、ある項の位置や役割は、別の項の位置や役割を変更しても維持される場合がある。
一方、その項の位置や役割を変更すれば、別の項の位置や役割も必然的に変化する場合がある。
ここで、二つの方向を区別できる。
第一の方向
Aの規定が変化すると、Bが占めることのできる位置や役割の範囲も変化する。
第二の方向
Bの規定が変化しても、Aが占める位置や役割の成立条件は変化しない。
この二つが成立するとき、AとBのあいだには非対称的な規定関係が存在する。
つまり、AはBの成立可能性を制約するが、BはAの成立可能性を同じ仕方では制約しない。
ここでは、単にAがBに影響を与えているのではない。
Aの規定が、Bを当該構造の一項として成立させるための構成的条件になっているのである。
したがって、AはBに対して基礎づけ上の優先性を持つ。
3.3 二つの優先性を媒介するもの
ここで、最初の問題に戻ろう。
構造的秩序の同一性決定上の優先性は、構造的不変項によって許容される変化の領域を成立させる。
そして、その変化の領域において、構造内部の諸項の同一性条件を比較することが可能になる。
その比較によって、ある項が他の項の位置や役割を非対称的に規定していることが判明すれば、内部の第一性が成立する。
したがって、二つの優先性を接続する媒介は、単なる構造の存在ではない。
それは、
構造的不変項によって規定された変化可能性の領域における、構成的依存関係の非対称性
である。
この点を強調しておきたい。
構造全体の同一性を決定する条件が存在するからといって、内部のある項が必ず第一になるのではない。
構造全体の同一性条件が、内部の諸項の同一性条件を比較するための共通の領域を成立させ、その内部に存在する非対称的な構成的依存関係が、第一性を成立させるのである。
ここで初めて、全体の優先性と内部の優先性が、同一の存在論的な論理の異なる水準として接続される。
4.共通原理の形式的定式化――構造的同一性規定の非対称性原理
ここまでの議論を、一つの原理として定式化しよう。
構造的同一性規定の非対称性原理
ある構造的全体Sが構造的不変項S*によって成立するとき、その不変項は、構造の同一性を維持する許容変化の領域を規定する。
その領域において、構造を構成する諸項の同一性条件を比較したとき、ある条件Pが別の条件Qの成立可能性を構成的に限定し、逆方向の限定が同じ規定次元で成立しないならば、PはQに対して存在論的に優先する。
この原理には、次の二つの形態が含まれる。
第一形態:全体的な同一性規定
構造的不変項が、構成要素の物質的同一性を超えて、構造的全体の同一性を決定する。
S* ≻id X
第二形態:内部的な同一性規定
構造内部のある項Aの規定が、別の項Bの位置や役割を非対称的に限定する。
A ≺d B
両者は、同じ優先関係を別の対象に適用したものではない。
前者は、構造的全体の同一性を成立させる条件の優先性である。
後者は、構造内部の項の同一性を成立させる条件の優先性である。
しかし、両者はともに、構造的同一性を規定する条件の非対称的な依存関係によって説明される。
4.1 反事実的な判定基準
この原理を単なる定義に終わらせないため、優先性を判定する基準も明確にしておこう。
⑳では、ある関係を変更・除去・置換したとき、単なる状態変化にとどまるのか、それとも構造的不変項の実現条件や構造項の個体化条件そのものが変化するのかによって、構成的関係を判定する基準を示した。
この基準を、今回の内部的な優先性の判定にも適用できる。
ある項Aが項Bに対して第一であるためには、次の二つが確認されなければならない。
- Aの規定を変更すると、Bが当該構造の一項として成立するための位置・役割・同一性条件が変化する。
- Bの規定を変更しても、Aの位置・役割・同一性条件は、同じ規定次元において維持される。
形式的には、構造的に許容される変化の集合を V(S*) とし、各項の構造内的な同一性条件を I_A、I_B とする。
すると、
A ≺d B
が成立する条件は、次のように表せる。
I_Aの変更が、I_Bの成立条件を構成的に変化させる。I_Bの変更は、I_Aの成立条件を構成的に変化させない。
ここで重要なのは、比較対象となる変化が、構造的不変項を維持する範囲での変化であることだ。
構造全体を破壊するような変更を加えれば、内部のあらゆる項の位置や役割が変化してしまう。
それでは、AとBのあいだの局所的な優先性を判定することはできない。
あくまで、構造の同一性を維持する許容変化の領域において、AとBの規定条件を比較する必要がある。
この基準によって、第一性を単に「Aの方が重要である」という直観的な判断から切り離すことができる。
第一性とは、ある項の規定が、他の項の構造的な同一性条件を非対称的に限定しているという、存在論的な関係なのである。
5.構造的個体化から内部の第一性が導かれることの形式的証明
以上の議論を踏まえ、今回の論証を定理としてまとめたい。
定理:構造的個体化における内部第一性の成立
構造的全体Sが構造的不変項S*によって成立し、その内部に複数の構造的契機が存在するとする。
このとき、次の条件が満たされるならば、構造内部に非対称的な第一性が成立する。
条件1:構造的同一性の成立
構造Sは、共通の構造的不変項S*によって個体としての同一性を持つ。
条件2:構造的個体化
構造内部の各契機は、S*との関係において位置と役割を与えられ、構造項として個体化される。
条件3:構成的依存関係の非対称性
ある契機Aの規定が、別の契機Bの構造内的な同一性条件を成立させるために必要であり、逆方向の依存関係は同じ規定次元では成立しない。
このとき、AはBに対して第一である。
証明
まず、条件1によって、構造Sは単なる契機の集合ではなく、一定の同一性条件を持つ構造的全体として成立している。
次に、条件2によって、構造内部の契機は、独立した個体であることだけによって構造項となるのではなく、S*との関係において特定の位置と役割を獲得する。
したがって、構造項の構造内的な同一性は、構造的不変項との関係によって規定される。
ここで条件3を適用する。
Aの規定がBの位置や役割の成立条件となっており、逆方向の依存が成立しないとする。
すると、Bが当該構造の一項として成立するためには、Aの規定が必要である。
しかし、Aが同じ構造の一項として成立するためには、Bの規定は必要ではない。
したがって、AとBのあいだには、構造内的な同一性条件について非対称的な依存関係が存在する。
この非対称性は、単なる時間的先行関係でも、因果的作用の強弱でもない。
Bの構造内的な同一性を成立させるために、Aの規定が構成的条件として必要であるということを意味する。
ゆえに、
A ≺d B
が成立する。
証明終。
この定理の意味
この定理が示しているのは、構造的個体化と第一性の成立とのあいだに、単なる論理的な順序以上の関係があるということである。
構造的個体化によって、構造内部の諸項は同一性条件を与えられる。
そして、それらの同一性条件が相互にどのような依存関係を持っているかによって、内部の第一性が成立する。
つまり、構造的個体化は、第一性が成立するための存在論的な領域を提供する。
その領域内部における構成的依存関係の非対称性が、第一性を成立させるのである。
ここで、最初の二つの優先性を接続する論理が完成した。
6.なぜこの原理は同語反復ではないのか
ここで、もう一つ重要な問題を検討しておきたい。
今回の論証に対して、次のような反論が考えられる。
「AがBを非対称的に基礎づけるからAが第一であると定義しているだけではないか。それでは、第一性が成立する理由を説明したことにならないのではないか。」
これは重要な反論である。
もし今回の議論が、単に第一性を非対称的な基礎づけ関係として定義し直しただけならば、理論は前進していない。
しかし、ここで提示した原理は、そのような定義の置き換えではない。
なぜなら、今回の論証では、非対称性の判定根拠を、構造の具体的な同一性条件に求めているからである。
つまり、何が第一であるかは、あらかじめ決められているのではない。
ある構造の同一性が維持される許容変化の領域において、個々の項の位置や役割がどのような条件に依存しているかを調べることによって判明する。
例えば、AとBが存在しているとき、単にAを第一と呼ぶことはできない。
Aの規定を変えた場合にBの構造的な同一性条件が変化するのか。
反対に、Bの規定を変えた場合にAの構造的な同一性条件が維持されるのか。
この二つを検証しなければならない。
そして、この検証の対象は、個体の構造内的な同一性である。
これは、単なる概念上の定義ではなく、構造的な成立条件についての存在論的な主張である。
さらに、⑳で導入した構成的関係と因果的関係の区別によって、単にAがBに影響を与えているという事実を、第一性の根拠とすることも避けられる。
Aの作用がBの状態を変化させても、Bの構造内的な同一性条件が変化しないならば、それは第一性の根拠にはならない。
必要なのは、Bが当該構造の一項として何であるかを規定する条件そのものへの依存である。
したがって、今回の原理は、第一性の定義を繰り返すものではない。
第一性を判定するための存在論的条件を導いているのである。
7.第一性は、個体化以前の構造的契機から導かれる
ここで、今回の論証をさらに強化するために、⑳で導入した概念を利用したい。
それは、構造的契機 mᵢ と構造項 xᵢˢ の区別である。
⑳では、構造を実現するものと、構造によって個体化されるものを区別するために、次の四つの存在論的資格を整理した。
mᵢ:個体化以前の差異化された構造的契機。bᵢ:下位構造によって個体化された構成要素。xᵢˢ:上位構造Sにおける位置と役割を与えられた構造項。S:構造的契機と構成的関係が一つの秩序を形成した構造的全体。
特に重要なのは、構造的契機 mᵢ が、すでに独立した個体であることを前提としていない点である。
構造項は、下位水準の構成要素と、上位構造における位置・役割との関係によって成立する。
そのことを、⑳では次のように表現した。
xᵢˢ = ⟨bᵢ, mᵢ⟩S
これは、構造項の同一性が、単なる構成要素の存在だけではなく、上位構造における構造的な位置との関係によって規定されることを意味している。
この区別を今回の論証に適用すると、非常に重要な帰結が得られる。
7.1 第一性は、個体化された項のあいだに突然発生するのではない
従来の議論では、AとBという二つの項を設定し、そのあいだに非対称的な基礎づけ関係が成立する場合を考えてきた。
しかし、この説明には注意が必要である。
AとBが、すでに独立した個体として確定しているとすれば、個体化の問題はすでに解決されていることになる。
それでは、構造的個体化から第一性へ進むという理論の目的が十分に達成されない。
ここで、⑳の構造的契機を導入する意味がある。
構造的個体化において、最初に問題になるのは、独立した個体AとBのあいだの関係ではない。
それは、構造内部に差異化された契機 m_A と m_B が存在し、それらのあいだにどのような構成的依存関係が成立しているかという問題である。
そして、この依存関係が非対称的である場合、構造項が個体化される段階で、その非対称性が項の位置や役割に反映される。
つまり、
m_A → m_B
という構造的な依存関係が成立しているならば、構造が具体的に実現され、両者が構造項として個体化されたとき、
x_Aˢ ≺d x_Bˢ
という第一性が成立する。
ここでの矢印は、時間的な前後ではなく、構成的な規定関係を表している。
7.2 構造的契機の非対称性が個体化された項に引き継がれる
この論理を整理すると、次のようになる。
第一に、構造的不変項S*が成立する。
第二に、その不変項を実現する構造的契機が、互いに異なる位置や機能を持つ。
第三に、その構造的契機のあいだに、非対称的な構成的依存関係が成立する。
第四に、その構造的秩序によって、各契機が構造項として個体化される。
第五に、個体化された構造項のあいだに、構造的な基礎づけ上の優先関係が成立する。
このとき、第一性は、個体化以前に独立して存在していたものではない。
構造的契機の差異と依存関係が、一つの構造的秩序を成立させ、その秩序によって各契機が構造項として個体化されることによって、初めて第一性が確定する。
ここに、「第一性の遡及的成立」の存在論的な意味がある。
第一性は、最初から第一であるものとして存在しているのではない。
構造的な全体が成立し、その全体の内部で各項の位置と役割が確定することによって、ある項が他の項に対して第一のものとして成立するのである。
ただし、ここでいう遡及性は、時間的な逆行を意味しない。
構造が成立した後になって、過去の存在者の性質が変更されるわけでもない。
問題になっているのは、構造内部の項が何であるかを決定する存在論的条件が、構造的全体との関係において初めて成立するということである。
この区別によって、第一性が個体化以前に存在するという前提を置く必要はなくなる。
同時に、個体化された項を最初から独立した実体として想定する必要もない。
7.3 今回の論証を形式的に統合する
以上をまとめると、次の関係が成立する。
S* → {m_A, m_B, ...}
ここでは、S*が構造的な差異と関係の成立領域を規定している。
その内部に、
m_A → m_B
という非対称的な構成的依存関係が存在するとする。
このとき、構造項の個体化によって、
I_S(m_A) = x_Aˢ
I_S(m_B) = x_Bˢ
が成立する。
したがって、
x_Aˢ ≺d x_Bˢ
が導かれる。
この論理の重要な点は、構造全体の秩序が個々の項の第一性を直接決定するということではない。
構造全体は、個体化以前の契機のあいだに成立する関係的秩序を規定する。
その関係的秩序の内部に、非対称的な依存関係が存在するとき、それが個体化された項の第一性を成立させる。
したがって、構造的個体化と第一性の成立のあいだには、次の媒介関係がある。
構造的不変項による差異化された位置の成立 → 構造的契機相互の非対称的依存 → 構造項の個体化 → 内部の第一性の成立
これによって、個体化以前の構造的秩序から、個体化された項の第一性までを、一貫した論理で説明できるようになる。
8.具体的なモデルによる検証――構造的優先性と内部第一性は同時に成立する
ここまでの議論を、仮想的な構造モデルを使って検証してみよう。
例えば、橋梁の構造を考える。
ある橋が、基礎・支持部・桁・床版などの複数の構成要素によって成立しているとする。
この橋の構造的同一性を、一定の荷重伝達関係によって規定するとしよう。
ここで、橋を構成する鋼材や部材の一部が交換されたとしても、その荷重伝達関係が維持されるならば、構造的な同一性は維持されうる。
これは、スピノザの複合個体で示された構造的秩序の同一性決定上の優先性と同じ形式を持っている。
特定の部材の物質的同一性が変化しても、構造的不変項が維持される限り、全体の同一性は維持される。
したがって、
S* ≻id X
が成立する。
では、この構造の内部に第一性は成立するだろうか。
ここでは、橋の幾何学的な配置関係という規定次元に限定して考える。
仮に、支持部の位置と配置が、桁や床版を配置できる範囲を構成的に限定しているとする。
一方、床版の仕上げや付随的な配置を変更しても、支持部の位置と役割は変化しないとする。
この場合、支持部の位置は、床版の構造内的な配置条件を規定している。
しかし、床版の付随的な配置は、支持部の位置を規定する条件にはなっていない。
したがって、この規定次元においては、
支持部 ≺d 床版
という第一性が成立する。
ここで重要なのは、支持部が物質的により重要だから第一なのではないということだ。
また、支持部が橋の建設において時間的に先に設置されるから第一なのでもない。
その第一性は、構造的同一性を維持する条件のもとで、支持部の配置が床版の許容される位置を非対称的に制約していることによって成立する。
一方、荷重容量など別の規定次元では、床版の重量が支持部の必要条件を決定することもありうる。
この場合には、別の優先関係が成立する可能性がある。
つまり、第一性は、個々の存在者に絶対的に備わっている性質ではない。
同一の構造の内部であっても、どの規定次元を問題にするかによって、その成立関係は異なりうる。
この例によって、二つの優先性の関係が明確になる。
構造的不変項は、橋という構造的全体の同一性を決定する。
その不変項のもとで、各構成要素の位置と役割が確定する。
さらに、その位置や役割のあいだに非対称的な依存関係が成立しているならば、ある項が別の項に対して第一のものとして成立する。
つまり、全体的な同一性決定上の優先性と、内部的な基礎づけ上の優先性は、同じ構造的な秩序において成立しているのである。
9.最も重要な反論――すべての構造に第一の項が存在するのか
ここで、今回の論証の射程を明確にするため、特に重要な反論を検討しておきたい。
それは、次の問いである。
構造的秩序が個体性を成立させるとしても、すべての構造において内部の第一性が成立するのだろうか。
結論からいえば、必ずしもそうではない。
そして、この点を認めることは、今回の理論を弱めるものではない。
むしろ、第一性の成立条件を正確に限定するために必要である。
9.1 対称的な構造には内部の第一性が成立しない
例えば、構造内部のすべての項が、同一の役割を持ち、互いに交換可能であるような対称的構造を考える。
この場合、特定の項Aが他の項Bの位置や役割を一方向的に規定するという関係は存在しない。
AとBは、互いに同じ規定条件を持っている。
したがって、
A ≺d B
を導く根拠はない。
しかし、この構造において、全体の同一性を決定する構造的不変項が、構成要素の物質的同一性より優先している可能性は残る。
つまり、
S* ≻id X
は成立しても、内部の項相互の第一性は成立しない。
したがって、ここで確定できるのは次の命題である。
構造的な個体化は、内部の第一性が成立するための必要な存在論的条件である。しかし、構造的個体化だけでは内部の第一性の成立は保証されない。内部第一性の成立には、構成的依存関係の非対称性が必要である。
この区別は、理論上必ず維持しなければならない。
9.2 第一性は全順序ではなく部分順序を形成する
さらに、構造内部の第一性について、もう一つ重要な帰結がある。
それは、第一性が必ずしも構造内部のすべての項に対して一つの順序を与えるわけではないということだ。
例えば、AがBに対して第一であり、CがDに対して第一である場合、AとCのあいだには優先関係が存在しないこともありうる。
この場合、構造内部には複数の第一性が存在するが、それらは相互に順位づけられていない。
したがって、今回の理論が導くのは、構造内部のすべての項を一列に並べる全順序ではない。
それは、特定の規定次元における非対称的な基礎づけ関係によって成立する部分順序である。
この点を形式化するため、構造内部の構造的契機の集合をM、非対称的な基礎づけ関係を ≺d とする。
すると、
D(S,d) = (M, ≺d)
という関係構造を考えることができる。
ここで、AがBに対して第一であるとは、AがBの成立条件を規定し、BがAの成立条件を同じ規定次元で規定しないことを意味する。
この関係が推移的であり、循環を形成しない場合、それは厳密な部分順序を構成する。
そのとき、他のどの項にも先行条件を持たない項が、当該構造的秩序における第一の項となる。
9.3 第一の項が存在するための条件
ここで、さらに厳密な命題を導くことができる。
構造内部の依存関係が有限であり、循環を持たないならば、少なくとも一つの第一の項が必ず存在する。
これは、有限な非循環的有向グラフには少なくとも一つの入次数ゼロの頂点が存在することから示せる。
仮に第一の項が存在しないとする。
すると、どの項にも、それより前提となる項が少なくとも一つ存在することになる。
その前提をさらに遡れば、有限個の項しか存在しないにもかかわらず、無限に遡り続けなければならない。
しかし、有限個の項のあいだで無限に遡ることは、いずれかの項への回帰、すなわち循環を必要とする。
これは循環が存在しないという仮定に反する。
したがって、少なくとも一つの第一の項が存在する。
さらに、この第一の項が一つだけであるためには、最小要素が一つだけであるという追加条件が必要になる。
複数の最小要素が存在する場合には、複数の第一の項が成立する。
無限の構造については、同様の結論を得るために、無限に遡る依存関係が存在しないという整礎性(well-foundedness)の条件が必要になる。
ここから、次の三つを区別できる。
| 構造内部の依存関係 | 第一性の成立 |
|---|---|
| 有限かつ非循環的な部分順序 | 少なくとも一つの第一の項が存在する |
| 複数の最小要素を持つ部分順序 | 複数の第一の項が存在する |
| 対称的・相互依存的な関係 | 項相互の第一性は成立しない |
この区別によって、「第一性の遡及的成立」は、すべての構造に唯一の第一の項が存在すると主張する理論である必要はなくなる。
むしろ、ある構造の内部で第一性が成立する条件と、成立しない条件を、同一の原理によって説明することができる。
これは理論の重要な強化である。
第一性は構造の存在から無条件に導かれるものではなく、構造の内部に成立する非対称的な構成的依存関係によって導かれる。
そして、第一性が実際に成立する場合には、その項は構造全体との関係において初めて第一のものとして確定する。
10.弱点④に対する最終的な解決――二つの優先性を一つの存在論に統合する
ここまでの論証を統合すると、当初の問題に対して、明確な回答を与えることができる。
改めて、問題を確認しよう。
構造的秩序の同一性決定上の優先性と、構造内部の項の非対称的な基礎づけ上の優先性は、いかなる共通原理によって接続されるのか。
この問いに対する回答は、次のようになる。
10.1 構造的優先性は、内部の第一性を成立させる比較領域を規定する
構造的秩序の優先性が成立するとき、構造的不変項は、何が同一の構造として存続するかを決定する。
その結果、構造内部には、同一性を維持したまま変更できる条件と、変更すれば構造的な同一性そのものが変化する条件との区別が成立する。
この区別によって、構造内部の諸項について、その位置や役割の成立条件を比較することが可能になる。
したがって、構造全体の優先性は、内部の第一性を直接決定するのではなく、内部の第一性を判定するための存在論的な領域を成立させる。
10.2 内部の第一性は、その領域における非対称的依存関係から成立する
構造内部の諸項を比較したとき、ある項Aの規定が別の項Bの構造内的な同一性を成立させる条件となっており、逆方向の依存関係が成立しないならば、AはBに対して第一である。
ここで、非対称性は、構造的秩序によって成立する許容変化の領域を基準として判定される。
つまり、全体の同一性を維持する変化の範囲において、何が何の成立条件となっているのかを比較するのである。
10.3 両者を接続する論理
以上を一つの図式に統合すると、次のようになる。
第一段階:全体の同一性決定
S* ≻id X
構造的不変項が構成要素の物質的同一性に優先し、構造的全体の同一性を決定する。
第二段階:内部の同一性条件の差異化
S* → {m₁, m₂, m₃, ...}
構造的不変項のもとで、個体化以前の構造的契機が差異化された位置と役割を持つ。
第三段階:非対称的な構成的依存
m_A → m_B
構造的契機相互のあいだに、非対称的な規定関係が成立する。
第四段階:構造項の個体化
I_S(m_A) = x_Aˢ
I_S(m_B) = x_Bˢ
各契機が構造内部の項として個体化される。
第五段階:内部の第一性
x_Aˢ ≺d x_Bˢ
構造的な規定関係が、個体化された項のあいだの第一性として成立する。
この論証によって、二つの優先性は、異なる存在論的水準に属しながら、一つの原理によって接続される。
重要なのは、次の区別である。
S* ≻id X から A ≺d B が直接導かれるわけではない。
前者だけでは、構造内部が対称的である可能性を排除できない。
両者を接続するためには、構造的不変項によって成立する許容変化の領域において、構造的契機相互の非対称的な構成的依存関係が成立していることが必要である。
この媒介原理を導入したことで、これまで残されていた論理的な飛躍は解消される。
11.「第一性の遡及的成立」の理論全体にとって何が確定したのか
最後に、今回の論証が、これまでの理論全体にどのような意味を持つのかを整理したい。
今回の問題を解決することによって、単に構造的個体化と内部の第一性を接続できたというだけではない。
これまで別々に展開してきた複数の論証が、一つの存在論的体系として接続されることになる。
11.1 個体化根拠充足原理との接続
⑱では、個体性を存在論的に説明しようとする理論が、その個体性を成立させる実在的な根拠を提示しなければならないことを論証した。
ここで問題にしたのは、個体性を説明する際に、それ自体がすでに個体性を備えたものを無条件の出発点として置くことの問題であった。
今回の議論は、この原理をさらに先へ進める。
個体性を成立させる根拠を提示するだけでは十分ではない。
その根拠によって成立した個体のあいだに、どのような同一性条件の依存関係が存在するのかも説明しなければならない。
今回、構造的同一性規定の非対称性原理を導入したことで、個体化の根拠から内部の第一性へ進むための論理が明確になった。
11.2 構造的個体化存在論との接続
⑲と⑳では、個体化以前の差異と、構造と構造項の相互構成を検討した。
特に⑳では、構造を実現するものと、構造によって個体化されるものを区別し、相互構成が説明上の循環ではないことを論証した。
今回、その構造的個体化の論理に、内部の非対称的な基礎づけ関係を接続した。
これによって、構造的個体化存在論は、単に個体がいかに成立するかを説明する理論にとどまらなくなる。
個体化された項が、何に対して、どのような意味で第一であるのかを説明する理論へと進んだのである。
11.3 存在論的第一性との接続
そして、これが最も重要な点である。
「第一性の遡及的成立」の最終的な目的は、構造的個体化存在論の提示だけではない。
個体性が構造によって成立することを示すのは、あくまで第一性の成立条件を説明するためである。
今回の論証によって、次の関係が明確になった。
| 存在論的水準 | 論証された内容 |
|---|---|
| 第一水準 | 差異と関係による構造的秩序の成立 |
| 第二水準 | 構造による構造項の個体化 |
| 第三水準 | 構造的不変項と構成要素のあいだの同一性決定上の非対称性 |
| 第四水準 | 構造内部の項相互における非対称的な基礎づけ |
| 第五水準 | 非対称的な基礎づけ関係における第一性の成立 |
ここで、第一性は、構造や個体性とは異なる独立の存在論的水準を持っている。
しかし、それは構造や個体性から切り離されているという意味ではない。
むしろ、構造が成立し、項が個体化され、その同一性条件の依存関係が確定することによって、第一性が成立する。
つまり、第一性は構造的個体化の内部において成立するが、構造的個体化そのものに還元されるわけではない。
このことが、今回の論証の最大の成果だと思う。
12.最終結論――第一性は構造的同一性規定の非対称性から遡及的に成立する
最後に、今回の結論を一つの命題として確定しておこう。
第一性の遡及的成立に関する構造的基礎づけ定理
ある構造的全体Sが、共通の構造的不変項S*によって成立するとき、その不変項は、構成要素の物質的同一性を超えて、構造的全体の同一性を決定する。
この構造的不変項によって許容される変化の領域において、個体化以前の構造的契機のあいだに非対称的な構成的依存関係が成立しているならば、その非対称性は、構造項の個体化を通じて、構造内部の第一性として確定される。
したがって、構造的秩序の同一性決定上の優先性と、構造内部の項の基礎づけ上の優先性は、構造的同一性を規定する条件の非対称性という共通原理によって接続される。
ただし、内部の第一性は、構造の存在だけから無条件に導かれるのではない。それは、当該構造における非対称的な構成的依存関係が成立する場合に、その関係において遡及的に成立する。
今回の論証によって確定したこと
今回の研究成果を、改めて整理しておく。
第一に、二つの優先性は異なるが、無関係ではない。
構造全体の同一性決定上の優先性と、構造内部の項の基礎づけ上の優先性は、同一性条件の非対称的な規定という共通原理に属する。
第二に、構造的優先性から内部の第一性へ進むための媒介原理が確立した。
それは、構造的不変項によって成立する許容変化の領域において、構成的依存関係の非対称性を判定することである。
第三に、第一性は個体化以前に独立して存在する必要がない。
個体化以前の構造的契機のあいだに成立する非対称的な規定関係が、構造項の成立とともに第一性として確定する。
第四に、第一性の成立は、構造内部の非対称性に条件づけられる。
したがって、すべての構造に唯一の第一項が存在するという主張は必要ない。対称的な構造、相互依存的な構造、複数の第一項を持つ構造も理論の射程に含まれる。
おわりに
今回の論証によって、私が当初から問題にしてきた二つの優先性を、ようやく一つの存在論的な原理によって接続できたと思う。
振り返れば、最初の出発点は、順番の転倒という比較的単純な問題意識だった。
あるものが最初から第一なのではなく、ある構造的な関係が成立することによって、あるものが第一のものとして確定するのではないか。
その問題意識から、スピノザの複合個体論を検討し、ヘーゲルの存在論的論理学を参照し、構造的個体化の問題へと進んできた。
そして、ここで一つの重要な帰結に到達した。
第一性とは、構造から独立して存在する絶対的な性質ではない。構造的同一性を成立させる条件が、その内部の諸項の同一性条件を非対称的に規定することによって成立する存在論的な位置である。
ここでいう位置とは、空間的な位置ではない。
構造内部の存在論的な依存関係によって定まる位置である。
したがって、あるものが第一であるということは、そのものが他のものに時間的に先行していることでも、物質的に優れていることでもない。
それは、他のものが何であるかを成立させるための条件として、非対称的な基礎づけ関係に位置しているということである。
この意味で、第一性は構造的な関係の外部に存在しない。
構造が成立し、そこで各項の位置と役割が確定することによって、初めて第一性が成立する。
そして、この第一性は、構造の成立以前に存在していたものではないという意味で、遡及的に成立するのである。
今回の論証によって、弱点④として残されていた二つの優先性の接続問題には、一つの完結した回答を与えることができた。
「第一性の遡及的成立」は、個体性の成立を説明する構造的個体化存在論を基礎として、構造内部の存在論的な優先性がいかにして成立するのかを説明する理論として、さらに一段階進んだ。



コメント