先行研究との比較を深める(「第一性の遡及的成立」の独自性を再検証する)――第一論文・第二論文の最終改稿に向けた研究記録⑥

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はじめに

これまで「第一性の遡及的成立」の構築において、私は個体化、構造、第一性、歴史的遡及性という複数の問題を検討してきた。

また、スピノザ、ヘーゲル、シモンドン、構造実在論、現代形而上学におけるgroundingや存在論的優先性など、さまざまな先行研究との比較も行ってきた。

しかし、今回あらためて二本の論文と関連する研究記事を見直したところ、先行研究との比較について、もう一段深める必要があることが分かった。

これまでの比較では、各哲学者がどのような問題を扱い、どのような概念を提示しているかを整理することに重点を置いていた。

しかし、ある哲学者の議論を紹介することと、その哲学者の理論に対して自分の理論がどのような独自性を持つのかを論証することは同じではない。

例えば、構造と関係によって個体性を説明するという発想は、すでに構造実在論やシモンドンの個体化論、スピノザの複合個体論に見られる。

また、後続する出来事によって過去の出来事の歴史的な性質が変化するという議論も、David Webermanによって以前から論じられている。

さらに、通時的な基礎づけについては、CorreiaとMerloが2024年に直接的な研究を発表している。Epsteinの社会存在論も、社会的事実が成立する条件と、それらの条件が設定される仕組みを区別している。

これらを踏まえると、本理論の独自性を主張するためには、単に先行研究と異なる概念を提示するだけでは不十分である。

必要なのは、各先行研究が何を説明しているのか、その説明がどこまで及ぶのか、そして本理論がそこに何を追加するのかを明確にすることである。

そこで今回は、先行研究との比較を次の六つの項目に統一して検証することにした。

  1. 先行研究の中心命題――何を説明しようとしているのか。
  2. 基本概念――何を存在論的な基礎としているのか。
  3. 説明可能な範囲――どの問題を説明できるのか。
  4. 理論的限界――何が説明されずに残るのか、あるいは本理論とは問題設定が異なるのか。
  5. 本理論との差異――両者はどこで異なるのか。
  6. 独自性――本理論は何を追加し、それによって何が説明可能になるのか。

以下では、この基準に従って、第一論文と第二論文の双方に関係する先行研究を再検討する。


1. 構造的個体化に関する先行研究

1-1. 存在論的構造実在論(OSR)

まず検討したのは、存在論的構造実在論(Ontic Structural Realism)である。

OSRでは、個々の対象をそれ自体で完結した存在として捉えるのではなく、対象を成立させる関係的構造を存在論的に重視する。

この立場は、個体の同一性をその内部にある独立した性質だけから説明することに疑問を呈し、対象と対象の関係や構造を重視する。

この点は「第一性の遡及的成立」と明確に共通している。

本理論も、個体を最初から完成した存在として前提するのではなく、差異化された諸契機と、それらの関係によって成立する構造から個体性を説明しようとするからである。

しかし、OSRは一つの統一された立場ではない。

例えば、対象の存在を一定程度認めながら関係的構造を重視する立場と、対象そのものを存在論的に二次的なものとして扱う立場とでは、主張の内容が異なる。

したがって、OSR全体に対して「個体化を説明できない」と述べることは適切ではない。

本理論との差異は、構造を重視するという一般的な主張そのものではなく、その構造がどのように成立し、どのような条件によって同一性を維持し、構造項の個体性と第一性を成立させるのかを、さらに区別して説明する点にある。

本理論では、前個体的な差異の場Δ、構造S、その同一性不変項K(S)、構成関係C、個体化関係Iを区別する。

そして、これらを第一性の成立条件に接続する。

さらに第二論文では、同じK(S)を基準として、後続構造にとっての構成的前史を説明する。

したがって、本理論の独自性候補は、構造実在論の基本的な発想を否定することではなく、構造的個体化から第一性、さらに歴史的遡及性までを一つの説明体系として定式化することにある。

1-2. シモンドンの個体化論

次に重要なのが、Gilbert Simondonの個体化論である。

シモンドンは、個体を最初から完成した存在として考えることを拒否する。

彼によれば、個体化に先立って前個体的な準安定状態が存在し、その状態に内在する差異や潜在的な緊張が、トランスダクションという過程を通して個体化を進行させる。

この議論は、本理論のΔと個体化の関係に非常に近い。

つまり、個体はあらかじめ存在するのではなく、個体化の過程を通して成立するという点で共通している。

このため、前個体的な差異から個体が成立するという発想自体を、本理論の独自性として主張することはできない。

では、両者の違いはどこにあるのか。

本理論では、個体化の過程を説明するだけでなく、成立した構造Sの同一性を維持する条件K(S)を明示し、さらに構成関係Cと個体化関係Iを区別する。

そして、構造内部の第一性を、特定の構造と次元において同一性条件を非対称的に規定する関係として定式化する。

この点がシモンドンの議論に対する追加的な説明となる可能性がある。

ただし、シモンドンのトランスダクションも、個体と環境の関係を含めた強力な個体化論である。

したがって、単に「シモンドンは個体化過程を説明するが、本理論は構造を説明する」と区別するだけでは不十分である。

最終的には、Δ、K(S)、C、Iが、シモンドンの前個体性とトランスダクションに対して、どのような説明上の追加を行うのかを具体的に示さなければならない。

1-3. スピノザの複合個体論

今回の検証で、特に比較を強化する必要があると判断したのがスピノザである。

『エチカ』第二部定理13の補助定理4〜7では、複合個体の同一性と持続が論じられている。

スピノザによれば、個体を構成する部分が変化しても、部分間の運動と静止の一定の関係が維持されるならば、その個体は自己の本性を保持する。

これは、構成部分の物質的な同一性ではなく、部分間の関係の秩序によって個体性を説明する議論である。

さらに補助定理7の備考では、個体がより複雑な個体から構成される階層的な関係と、自然全体を一つの個体として捉える可能性まで示されている。

このことから、個体性が構成要素そのものではなく、構成要素間の関係によって成立するという考え方は、すでにスピノザに明確な先行例がある。

したがって、本理論の独自性を「関係の不変性によって個体性を説明すること」に置くことはできない。

では、本理論には何が残されているのか。

比較項目スピノザ第一性の遡及的成立
中心問題部分の変化を超えて複合個体が同一性を保持する仕組み構造が個体性と第一性を成立させる仕組み
基本概念運動と静止の一定の関係、部分間の伝達Δ、S、K(S)、C、I
説明範囲複合個体の構成と持続一般的な構造的個体化と第一性
追加的な問題複合個体の持続構造内部の次元相対的第一性と歴史的前史

スピノザが説明しているのは、部分の交替や変化を許容しながら、複合個体がどのように自己の本性を維持するかという問題である。

それに対して本理論は、構造の成立と同一性不変項を明示し、さらに構造項の第一性を独立した問題として扱う。

そして第二論文では、後続構造の成立によって、それ以前の出来事がその構造の構成的前史として確定する条件まで説明しようとする。

ここに両者の理論的な違いを見いだすことができる。

ただし、スピノザの議論を単純に乗り越えたと主張するのではなく、関係的個体化という重要な先行成果を引き継いだうえで、本理論が説明対象をどこまで拡張しているのかを示すことが重要である。


2. 第一性と個体化の基礎に関する先行研究

2-1. Grounding理論

次に、現代形而上学におけるgrounding理論との比較を行う。

Groundingは、ある事実や存在が何によって成立し、何によって説明されるのかという問題を扱う。

Fine、Rosen、Blissなどの研究は、存在論的依存や基礎づけの関係を分析するうえで重要である。

しかし、本理論の第一性とgroundingを同一視することはできない。

本理論の第一性は、ある構造Sの特定の次元dにおいて、AがBの同一性条件を非対称的に規定することを意味する。

その関係は、次のように表せる。

A ≺_{S,d} B

ここで問題となるのは、Aが存在するためにBが必要か、あるいはBが存在するためにAが必要かという存在依存だけではない。

むしろ、Bが他のものではなくBであるための同一性条件を、Aがどのように規定しているのかという問題である。

したがって、少なくとも次の三つを区別する必要がある。

  • 存在論的依存:あるものが存在するために、別のものを必要とするか。
  • 基礎づけ:ある事実が成立する理由を、別の事実によって説明できるか。
  • 同一性条件の規定:あるものが他のものではなく、そのものであることを何が規定するか。

本理論の第一性は、第三の問題に中心を置く。

この区別によって、第一性を単なる存在論的依存やgroundingの別名として扱うことを避けることができる。

2-2. Scotusのhaecceity

Scotusのhaecceity(このもの性)は、あるものが他のものではなく、この個体であることを説明する原理である。

本理論との違いは、個体性の説明方針にある。

Scotusは、個体を個体たらしめる原理を認める。

それに対して本理論は、個体性を原始的な事実として置くのではなく、構造的な差異とその秩序によって説明することを要求する。

これは、個体性を説明するためにどのような存在論的原理を認めるのかという違いである。

ただし、この違いだけでScotusの立場を論駁したことにはならない。

また、本理論にも、構成的差異をすべて考慮しても完全に識別できない複数の個体が成立する可能性という問題が残る。

したがって、haecceityを否定したと主張するのではなく、個体性の説明をさらに構造的な水準にまで求める立場として位置づけるのが適切である。

2-3. Schafferの優先的一元論

Schafferの優先的一元論は、世界全体がその部分に対して存在論的に優先するという立場である。

この議論は、全体と部分のどちらがより根本的なのかという問題を扱っている。

これに対して、本理論の第一性は、特定の構造の内部にある構造項の間で成立する。

例えば、ある構造項Aが別の構造項Bの同一性条件を規定するという関係である。

したがって、両者は優先性を扱うという点では共通しているが、その説明対象は異なる。

Schafferが世界全体と部分の存在論的優先性を扱うのに対して、本理論は特定の構造内部の局所的・次元相対的な第一性を扱う。

この区別によって、本理論は優先的一元論そのものを否定する必要がない。

むしろ、全体が部分に対して優先するという立場を認めたうえで、その全体の内部において、さらに別の第一性が成立する可能性を説明することができる。


3. 歴史的遡及性に関する先行研究

今回の検証で最も大きな修正が必要だと分かったのが、第二論文における歴史的遡及性の比較である。

特に、Weberman、Correia/Merlo、Epsteinの三つは、本理論と直接比較する必要がある。

3-1. Weberman――過去の歴史的な性質は後続する出来事によって変化するのか

David Webermanの議論は、本理論の歴史的遡及性にとって非常に重要な先行研究である。

特に注目すべきなのが、1997年の論文「The Nonfixity of the Historical Past」である。

Webermanは、過去の出来事を「骨格的な過去(skeletal past)」と「厚みのある過去(thick past)」に区別する。

骨格的な過去とは、基本的な物理的状態や運動として捉えられる出来事である。

それに対して厚みのある過去とは、行為や歴史的な意味などを含む、より豊かな出来事としての過去である。

例えば、ある人物が別の人物を撃ったという出来事を考える。

発砲の直後には、その出来事は「撃った」という出来事として成立している。しかし、被害者がその後死亡すれば、同じ出来事は「殺した」という歴史的な性質を持つことになる。

Webermanは、これは単に現在から過去を異なる言葉で記述しているだけではなく、後続する出来事によって過去の出来事そのものが歴史的な性質を変える場合があると論じる。

さらに1999年の「Cambridge Changes Revisited: Why Certain Relational Changes Are Indispensable」では、対象の内在的性質が変化しなくても、その関係的性質の変化が真正な変化となりうることを検討している。

社会現象、歴史的出来事、芸術作品など、関係的・創発的な性質によって同定される対象が、その議論の重要な対象となっている。

ここで本理論にとって重要な結論が出る。

後続する出来事によって過去の出来事の歴史的な意味や性質が変化するという一般的な発想を、本理論の独自性とすることはできない。

Webermanはすでに、この問題について存在論的な議論を展開している。

では、本理論はどこで異なるのか。

両者の違いは、次のように整理できる。

比較項目Weberman第一性の遡及的成立
中心問題後続する出来事によって過去の歴史的性質が変化する可能性後続構造によって過去の出来事が構成的前史として確定する条件
基本概念骨格的な過去、厚みのある過去、関係的変化K(S)、構成的前史、構成的依存
説明対象歴史的出来事の真正な変化や同定特定構造に相対的な過去の構成的資格
追加的な問題過去の出来事がどのような関係的性質を獲得するかどの出来事が構造の前史に属し、その内部で何が歴史的第一性を持つか

本理論では、ある出来事Hが特定の後続構造Sの構成的前史に属するかどうかを、その構造の同一性不変項K(S)と構成的依存関係によって判定しようとする。

さらに、歴史的前史に属する出来事の間でも、特定の構造の同一性条件を非対称的に規定するという意味で、歴史的第一性が成立する可能性を説明する。

したがって、本理論の独自性候補は、歴史的な性質の変化そのものではなく、構造に相対的な前史の選別と、その内部における第一性の定式化にある。

ただし、Webermanの議論と本理論の機構が本当に異なるものなのかは、さらに検証しなければならない。

Webermanが扱う具体例を本理論のK(S)と構成的前史の条件に照らして分析することで、どの説明が追加されるのかを示す必要がある。

3-2. Correia/Merlo――Cross-temporal grounding

次に検討したのが、Fabrice CorreiaとGiovanni Merloの2024年論文「Cross-temporal grounding」である。

彼らが扱うのは、現在における過去指向的事実が、過去の事実によってどのように基礎づけられるかという問題である。

例えば、「カエサルは生きていた」という現在において真である過去についての事実が、カエサルが実際に生きていたという過去の事実によって説明されるという関係である。

この研究は、過去の事実と現在の事実との間にも、正当なgroundingの関係が成立しうることを論じている。

したがって、通時的な基礎づけそのものを、本理論の新しい発見とすることはできない。

ここで重要なのは、本理論が説明しようとしている事実の水準を明確にすることである。

今回の検証では、次の三つを区別する必要があると判断した。

水準内容
第一水準H(t₀)――過去の出来事Hが実際に発生したという事実
第二水準Hが発生したという、現在における過去指向的事実
第三水準H ∈ H_S(S(t₁))――Hが特定の構造Sの構成的前史に属するという事実

Correia/Merloの主な説明対象は第二水準にある。

それに対して本理論が特に説明しようとしているのは第三水準である。

つまり、本理論が問うのは、単に過去の出来事が起こったということではない。

ある出来事が、なぜ特定の後続構造にとって構成的な前史となるのかという問題である。

その所属は、単に時間的に先行していることや、因果的に影響を及ぼしたことだけでは確定しない。

構造のK(S)を実現する構成的依存関係に参加していることが必要となる。

さらに、構成的前史に属する出来事の間で、歴史的第一性がどのように成立するのかも説明対象となる。

ここで重要なのは、両者を完全に別種の存在論的関係だと早急に断定しないことである。

第三水準の事実も、Correia/Merloの通時的基礎づけの一般的な枠組みで説明できる可能性がある。

その可能性を認めたうえで、本理論が何を追加するのかを示さなければならない。

現時点での結論は、次のとおりである。

本理論の独自性は、通時的な基礎づけそのものではなく、それがどのような条件のもとで特定構造の構成的前史を成立させるのかを、K(S)によって説明することにある。

3-3. Epstein――社会的事実のgroundingとanchoring

Brian Epsteinの社会存在論も、本理論との比較を深める必要がある重要な研究である。

Epsteinは2016年の「A Framework for Social Ontology」において、社会的事実の成立を説明するために、groundingとanchoringという二つの問題を区別している。

Groundingは、ある社会的事実が成立するための基礎的事実を問う。

それに対してanchoringは、その社会的事実の成立条件そのものが、何によって設定されるのかを問う。

この区別は、社会的事実の成立を単に個人の行為に還元するのではなく、社会的カテゴリーが成立する条件と、その条件を設定する仕組みを分けて分析するものである。

さらにEpsteinは、社会的カテゴリーの成立に過去の行為や制度的実践が関与することも扱っている。

例えば、戦争犯罪者というカテゴリーの成立には、法律だけでなく、立法機関、行政機関、裁判所、陪審、実際の戦闘行為などが関係する。

したがって、Epsteinの理論が共時的な社会的事実しか扱っていないという理解は正確ではない。

ここでも、本理論が単純に時間的な次元を追加すると主張することはできない。

両者の違いは、次のように整理できる。

概念説明対象
Epsteinのgrounding個別の社会的事実を成立させる基礎的事実
Epsteinのanchoring社会的カテゴリーの成立条件を設定する事実や実践
本理論のH_S特定構造SのK(S)を実現する構成的前史

同じ過去の出来事が、これらの複数の役割を担う可能性はある。

例えば、ある法律の制定は、社会的カテゴリーの成立条件を設定するanchoringに関係する。同時に、その法律の制定が特定の制度の同一性を成立させるために不可欠ならば、本理論の構成的前史にも属しうる。

したがって、両者の違いを排他的な関係として捉える必要はない。

本理論の独自性候補は、社会的カテゴリー一般の成立条件を説明することではなく、社会存在論に限定されない一般的な構造個体化の枠組みを提示し、特定の個別構造Sに相対的な前史と、その内部の歴史的第一性を説明する点にある。

この比較では、K(S)と社会的カテゴリー一般の成立条件を混同しないことが重要である。


4. Hegel、Danto、Bunzl、起源本質主義との関係

そのほか、歴史的な遡及性や同一性の問題に関係する研究として、Hegel、Danto、Bunzl、起源本質主義も比較対象として位置づける必要がある。

4-1. Hegel

Hegelにおける全体の展開と個々の契機の意味の確定は、本理論の遡及性と比較可能な問題である。

個々の契機は、それだけで最終的な意味を持つのではなく、全体の展開との関係を通して、その位置づけが明らかになる。

この点で、後続する構造によって先行する契機の位置づけが確定するという本理論の発想と近い部分がある。

ただし、本理論は世界史全体の合理的な展開や精神の自己実現を前提としない。

特定の構造Sの同一性不変項K(S)を基準として、その構造にとっての構成的前史を分析する。

したがって、Hegelとの違いは単に目的論と非目的論の違いだけではない。

全体の歴史的展開を通じた契機の意味の確定と、特定構造に相対的な構成的前史の確定という、説明対象の違いにある。

4-2. DantoとBunzl

Arthur Dantoは『歴史の分析哲学』において、歴史的な記述に後続する出来事への参照が含まれることを論じた。

例えば、ある出来事を「三十年戦争の始まり」と呼ぶためには、その後の歴史を知る必要がある。

このような記述は、その時点にいる観察者には利用できない後続情報を含んでいる。

これは歴史的記述が遡及的な構造を持つことを示す重要な議論である。

また、Martin Bunzlの「How to Change the Unchanging Past」も、過去の変化をめぐる議論として比較対象になる。

ただし、Dantoの物語文による記述上の遡及性と、Webermanが論じる過去の出来事そのものの関係的変化、さらに本理論の構成的前史の成立は、同一の問題ではない。

この三つを区別することが必要である。

4-3. 起源本質主義

起源本質主義は、ある個体が可能世界を通じて同一の個体であり続けるために、その起源がどのように関係するかを扱う。

これに対して本理論は、現実の特定構造の成立に至る実際の履歴を扱い、その履歴が構造の構成的前史となる条件を説明する。

したがって、両者は同一性の成立根拠を問う点では近いが、説明対象が異なる。

起源本質主義が可能世界を通じた個体の同一性を扱うのに対し、本理論は現実の構造の成立と、その構成的前史を扱う。


5. 比較を通して明らかになった「第一性の遡及的成立」の独自性

ここまでの検証によって、重要なことが明らかになった。

本理論が使用する個々の概念は、必ずしも新しいものではない。

構造による個体化はOSRやSimondonに見られる。

構成部分の変化を超えた個体の持続はSpinozaに見られる。

同一性と存在論的依存の関係はgrounding理論で論じられている。

過去の出来事の遡及的な性質変化はWebermanに見られる。

通時的な基礎づけはCorreia/Merloによって研究されている。

社会的事実の成立条件とその設定はEpsteinによって分析されている。

したがって、個々の概念の新規性を主張することはできない。

しかし、これは本理論の独自性が失われることを意味しない。

むしろ、独自性をどの水準に置くべきかが明確になったと考えるべきである。

本理論の独自性候補は、これらの問題を一つの存在論的説明体系に統合する点にある。

具体的には、次のような構成である。

5-1. 前個体的な差異から構造の成立へ

まず、個体が最初から完成した存在として与えられているという前提を置かず、差異化された諸契機から構造が成立する条件を説明する。

ここではΔ、構造S、構造の同一性不変項K(S)が重要になる。

5-2. 構造から構造項の個体化へ

次に、成立した構造が、その構造を構成する諸契機をどのように個体化するのかを説明する。

ここで構成関係Cと個体化関係Iを区別する。

構造と構造項を同じ説明水準に置かず、異なる成立関係として整理することが重要である。

5-3. 個体化から第一性へ

さらに、構造項が個体化されるだけでなく、その構造内部でどの構造項が他の構造項の同一性条件を非対称的に規定するのかを説明する。

その関係は次のように表せる。

A ≺_{S,d} B

ここで第一性は、存在論的依存関係一般ではなく、特定の構造Sと次元dにおける同一性条件の非対称的な規定として定義される。

5-4. 構造的遡及性から歴史的遡及性へ

最後に、構造の同一性不変項K(S)を、歴史的遡及性にも適用する。

後続構造S(t₁)の成立によって、それ以前の出来事H(t₀)が、その構造の構成的前史に属するかどうかが確定する。

この関係は次のように表せる。

H ∈ H_S(S(t₁))

ここで重要なのは、後続構造によって過去の出来事の発生そのものが変更されるわけではないという点である。

変わるのは、特定の構造に相対的な構成的資格と位置づけである。

そして、その前史の内部でも、ある出来事が別の出来事の同一性条件を非対称的に規定するという意味で、歴史的第一性が成立しうる。

以上をまとめると、本理論は次のような説明体系を目指している。

前個体的な差異Δ → 構造SとK(S) → 構造項の個体化 → 構造内部の第一性 → 構成的前史の確定 → 歴史的第一性

ここで重要なのは、これらが単なる概念の羅列ではないという点である。

同一の構造不変項K(S)を軸として、構造的個体化と歴史的遡及性を接続することが、本理論の中心的な特徴になる。


6. 独自性を学術的に主張するために必要な三つの条件

今回の比較を通して、独自性を主張するためには、さらに三つの条件が必要であることも分かった。

第一に、統合が単なる概念の寄せ集めではないこと

Δ、S、K(S)、C、I、第一性、歴史的遡及性がそれぞれ独立して並んでいるだけでは、統一的な理論とは言えない。

なぜこれらの概念が一つの理論として必要なのか、また、それぞれがどのような論理的関係によって接続されるのかを示す必要がある。

第二に、先行研究では得られない説明上の帰結を示すこと

本理論が既存の研究より広い範囲を扱っているというだけでは、独自性の論証にならない。

具体的な事例を取り上げ、先行研究による説明を本理論の枠組みで再構成した場合に、どのような追加的説明が得られるのかを示さなければならない。

例えば、Webermanの歴史的出来事を本理論で分析した場合、単なる関係的変化の説明にとどまらず、特定構造の構成的前史への所属と、その内部における歴史的第一性を判定できるかを検証する必要がある。

第三に、K(S)が独立した判定基準として機能すること

特に重要なのがK(S)である。

K(S)を、第一性を説明するために都合よく設定したり、歴史的前史を説明するために後から調整したりするならば、理論全体が循環してしまう。

K(S)は、C、I、第一性、歴史的前史から逆算して定義されてはならない。

同一性の水準、許容される変化、構成的依存の条件などを用いて、独立して判定できる必要がある。

この条件を満たすことによって初めて、K(S)は構造的遡及性と歴史的遡及性を結びつける共通の基準として機能する。


7. 二本の論文の最終改稿に向けて

今回の検証を踏まえると、先行研究との比較は、哲学者ごとの思想紹介を並べる形式ではなく、理論的な問題ごとに再構成した方がよい。

最終的な比較章は、次の順序で構成することが適切だと考える。

節比較対象中心的な検証問題
1OSR、Simondon、Spinoza構造による個体化の先行例と本理論の違い
2Grounding理論、Scotus個体化・存在論的依存・同一性条件の区別
3Schaffer全体の優先性と構造内部の第一性の違い
4Weberman 1997・1999関係的変化と歴史的遡及性の違い
5Correia/Merlo通時的基礎づけと構造相対的な構成的前史の違い
6EpsteinGrounding・anchoringと通時的構造編入の違い
7Danto、Bunzl、Hegel、起源本質主義歴史的記述・過去の変化・同一性の問題との関係
8総合比較本理論が追加する説明と体系的独自性

各研究については、冒頭で設定した六項目を必ず明示する。

これによって、先行研究が何を説明し、本理論が何を追加するのかが一貫した基準で比較できるようになる。

また、今回の検証では、従来の比較を単純に否定するのではなく、むしろ先行研究の理論的成果をより正確に認めることが重要だと分かった。

特にWebermanについては、1997年の「The Nonfixity of the Historical Past」と1999年の「Cambridge Changes Revisited」の両方を必ず比較対象に含める必要がある。

Epsteinについても、通時的な要素を扱っていないという説明は撤回し、groundingとanchoringの区別に対して本理論が何を追加するのかを明示する。

Correia/Merloについては、通時的基礎づけと構成的前史を区別する三つの水準を、最終論文でより厳密に定義する。

スピノザについては、複合個体の同一性不変性を、K(S)に関する重要な先行例として位置づける。

このように比較を再構成することで、本理論の独自性は、既存の哲学者が述べていない単独の概念を提示したという主張ではなく、既存の複数の問題を一つの存在論的体系として統合することにあると明確になる。


8. 今回の検証の結論

今回の検証によって、先行研究との比較について、これまで十分に検討できていなかった問題が明らかになった。

特に重要だったのは、Webermanの1997年・1999年の議論である。

過去の出来事が後続する出来事によって歴史的な性質を変えるという発想は、すでにWebermanによって存在論的に論じられている。

また、Correia/Merloは通時的な基礎づけを研究し、Epsteinは社会的事実のgroundingとanchoringを区別している。

さらに、構造的個体化や同一性の不変性についても、OSR、Simondon、Spinozaに重要な先行研究が存在する。

これらを考慮すると、本理論の独自性を過度に主張することはできない。

しかし、同時に、これらの先行研究を個別に並べるだけでは説明されていない問題も残っている。

本理論が目指しているのは、前個体的な差異からの構造形成、構造による個体化、同一性条件の非対称的規定としての第一性、そして後続構造による構成的前史の確定を、K(S)と構成的依存関係によって一つの存在論的説明体系に接続することである。

したがって、現段階での独自性は、次のように定式化できる。

「第一性の遡及的成立」の独自性は、構造的個体化、同一性の不変条件、構造項間の第一性、歴史的前史の構成を、それぞれ独立した問題として扱うのではなく、同一の構造不変項K(S)と構成的依存関係を通じて、一つの存在論的説明体系として統合することにある。

これは、今回の比較を通して得られた、現時点で最も適切な独自性の定式である。

もちろん、これによって先行研究との比較が完全に終了したわけではない。

最終的な論文では、各先行研究の具体的な議論を本理論の概念によって再分析し、実際にどのような説明上の追加が得られるのかを示す必要がある。

特に、K(S)が独立した判定基準として機能すること、そして構造的遡及性と歴史的遡及性が本当に一つの原理によって統合されていることを、最終的な論証のなかで確認しなければならない。

今回の検証は、単に先行研究の数を増やすための作業ではなかった。

むしろ、自分の理論が既存の哲学的議論から何を引き継ぎ、何を再構成し、どこに新たな説明を追加するのかを明確にする作業だった。

既存の哲学理論が持つ成果を認めることによって、本理論が主張できる独自性の範囲も、より正確になったと思う。

今後は、残る修正課題の検証を進めた後、第一論文と第二論文を一つの理論体系として統合的に検証し、最終改稿を行う予定である。

今回明らかになった先行研究との比較上の修正点は、その最終改稿に必ず反映させる。


参考文献

  • Bunzl, Martin. “How to Change the Unchanging Past.” Clio, 25(2), 1996, pp.181–193.
  • Correia, Fabrice, and Giovanni Merlo. “Cross-temporal grounding.” Analytic Philosophy, 65(3), 2024, pp.333–352.
  • Danto, Arthur C. Analytical Philosophy of History. Cambridge University Press, 1965.
  • Epstein, Brian. “A Framework for Social Ontology.” Philosophy of the Social Sciences, 46(2), 2016, pp.147–167.
  • Schaffer, Jonathan. “Monism: The Priority of the Whole.” The Philosophical Review, 119(1), 2010, pp.31–76.
  • Spinoza, Baruch. Ethica. Pars II, Propositio 13, Lemma IV–VII et Scholium ad Lemma VII.
  • Weberman, David. “The Nonfixity of the Historical Past.” The Review of Metaphysics, 50(4), 1997, pp.749–768.
  • Weberman, David. “Cambridge Changes Revisited: Why Certain Relational Changes Are Indispensable.” Dialectica, 53(2), 1999, pp.139–149.

※OSR、Simondon、grounding理論、Scotusについては、最終論文において各論者の対象文献と該当箇所を特定し、個別の引用・比較を補う必要がある。

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