構造的個体化から第一性へ(第一論文第三稿)――「第一性の遡及的成立」における構造的存在論

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要旨

本稿の目的は、個体性と存在論的優先性が、個体そのものにあらかじめ備わった属性ではなく、構造的秩序の成立を通じて確定することを論証することである。

通常の存在論では、まず個体が独立して存在し、その個体のあいだに関係や構造が成立すると考えられる。しかし、この立場では、あるものがなぜ一つの個体として成立するのか、また、なぜ他の個体から区別されるのかという問題が、説明されないまま残る可能性がある。

本稿は、この問題に対して、前個体的差異場 Δ を存在論的基礎として導入する。Δ は、すでに個体化された存在者の集合ではなく、個体化以前の異質性、強度差、潜在的緊張および相互規定可能性を備えた基礎である。

本稿では、Δ に内在する差異的契機が構成的関係 Rᶜ によって組織化されることによって、構造 S が成立すると考える。その構造は、構造的不変項 K(S) と、それを実現するために必要な構成的依存関係の閉包によって統一される。

さらに、構造と構造項の相互構成を、構成関係 C と個体化関係 I という二つの異なる作用に区別する。C は、下位水準ですでに個体化されている構造項が上位構造を具体的に実現する関係である。これに対して I は、構造内部の差異的契機が、その構造における位置、役割および同一性条件を持つ構造項として成立する関係である。

この区別によって、階層的な相互構成と、同一水準における説明上の循環を区別する。

最後に、構造内部において、ある項の規定が他の項の同一性条件を特定の規定次元について非対称的に決定する場合、そこに構造相対的な第一性が成立することを論証する。

以上を通じて、本稿は、個体性、同一性および第一性が、構造的秩序から独立してあらかじめ成立するのではなく、構造の成立を通じて遡及的に確定するという存在論を提示する。

キーワード: 前個体的差異、構造、個体化、構造的不変項、構成的依存、同一性、存在論的優先性、遡及的成立

1.序論――個体と構造の存在論的な順番

  1. 1.1.第一性の問題
  2. 1.2.個体と構造の順番
  3. 1.3.本稿の目的と構成
  4. 2.1.個体性とは何か
  5. 2.2.個体化根拠充足原理
  6. 2.3.定義D1――前個体的差異場 Δ
  7. 2.4.定義D2――構造的契機 mᵢ
  8. 3.1.定義D3――構成的関係 Rᶜ
  9. 3.2.定義D4――構造 S
  10. 3.3.定義D5――構造的不変項 K(S)
  11. 3.4.定義D6――構造的閉包と構造の境界 B(S)
  12. 3.基本前提と概念の適用範囲
  13. 4.1.相互構成の問題
  14. 4.2.定義D7――構成関係 C
  15. 4.3.定義D8――個体化関係 I
  16. 4.4.CとIの適用範囲の違い
  17. 4.5.なぜ循環論法ではないのか
  18. 5.1.構造の統一性は独立した統一者を必要としない
  19. 5.2.定義D9――構造的個体性
  20. 5.3.構造的不変項と個体の同一性
  21. 6.1.構造全体の優先性と内部の第一性
  22. 6.2.定義D10――構造内部の第一性
  23. 6.3.第一性の成立条件
  24. 6.4.反事実的な判定基準
  25. 6.5.第一性は全順序を形成する必要がない
  26. 7.1.命題P1――個体性の成立には、差異を統一する構造的秩序が必要である
    1. 前提
    2. 使用する定義
    3. 証明
    4. 論証の性格
  27. 7.2.命題P2――構造的個体性は、階層的な構成関係と個体化関係を通じて成立する
    1. 前提
    2. 使用する定義
    3. 証明
    4. 論証の性格
  28. 7.3.命題P3――構造内部の非対称的な同一性決定関係から第一性が成立する
    1. 前提
    2. 使用する定義
    3. 証明
    4. 論証の性格
  29. 7.4.定理T1――構造的個体化と第一性の遡及的成立定理
    1. 証明
    2. 定理T1の論理的依存関係
  30. 8.1.シモンドン――前個体的存在と個体化
  31. 8.2.ドゥルーズ――差異と個体化
  32. 8.3.ヘーゲル――規定性と関係の内在性
  33. 8.4.スピノザ――複合個体と構成的同一性
  34. 8.5.存在論的構造実在論
  35. 8.6.現代形而上学の基礎づけ論と非対称的依存
  36. 8.7.シェファー――全体の優先性と構造内部の第一性
  37. 8.8.スコトゥス――原始的個体性との相違
  38. 8.9.本理論の独自性
  39. 9.1.原始的個体性を認めてもよいのではないか
  40. 9.2.Δも無根拠な存在になっているのではないか
  41. 9.3.CとIの区別は、循環問題を定義によって回避しただけではないか
  42. 9.4.構造的不変項 K(S) は恣意的に設定されるのではないか
  43. 9.5.第一性は最初から非対称性を前提としているのではないか
  44. 9.6.完全に区別できない二つの個体はどうなるのか
  45. 9.7.構成要素が交換可能なら、第一性はどこに成立するのか
  46. 注
  47. 参考文献
    1. 一次文献
    2. 二次文献

1.1.第一性の問題

あるものが、特定の構造において第一のものとして成立するためには、何が必要なのだろうか。

この問いは、複数の存在者のあいだで、どちらが重要であるかを判断する問題ではない。問題となるのは、あるものが他のものに対して存在論的に優先すると言えるための条件である。

一般に、第一性は、時間的に最初に存在したもの、他のものを因果的に生み出したもの、あるいは他のものの存在を説明する究極的な根拠として理解されることがある。しかし、これらの意味での先行性と、特定の構造内部における存在論的優先性とは区別されなければならない。¹

例えば、ある法体系において、憲法上の規定が個別の法律の法的有効性を決定しているとする。

この場合、憲法上の規定は、法的有効性という規定次元において、個別の法律に対して優先する。

この優先性は、憲法が時間的に先に成立したという事実だけによって説明されるものではない。また、憲法が法律に因果的な影響を与えているというだけでもない。

重要なのは、個別の法律が有効な法律として成立する条件が、憲法上の規定によって構成的に決定されていることである。

本稿では、このような関係を構造内部の第一性として扱う。

しかし、ここでさらに一つの問題が生じる。

あるものが第一のものとして成立するためには、まず、そのものが何であるのか、どのような同一性を持つのかが確定していなければならない。

したがって、第一性の成立を説明するためには、第一性だけを直接検討するのでは不十分である。個体性と同一性がどのように成立するのかを、先に明らかにする必要がある。

1.2.個体と構造の順番

通常の存在論では、まず個体が存在し、その個体のあいだに関係が成立するという順序が想定される。

この立場では、個体はそれ自体として成立しており、構造は、すでに存在する個体を関係づけるものとして理解される。

しかし、この説明では、個体そのものの成立条件が問題として残る。

あるものが一つの個体であるためには、それを一つの存在者として統一する根拠と、他の個体から区別する根拠が必要である。

それにもかかわらず、個体性を最初から備わっているものとして扱うならば、個体性の成立そのものは説明の対象から除外される。

本稿は、この問題に対して、存在論的な順番を転倒させる。

すなわち、完成した個体から構造を説明するのではなく、個体化以前の差異的条件から構造の成立を説明し、その構造によって個体性が成立すると考える。

ただし、ここで主張するのは、あらゆる存在者について構造が時間的に先に存在するということではない。

問題となるのは、個体が特定の構造に属する個体として成立するための存在論的条件である。

1.3.本稿の目的と構成

本稿の目的は、前個体的差異場 Δ から構造 S が成立し、その構造によって構造項が個体化され、さらに構造内部の非対称的な同一性決定関係から第一性が成立することを論証することである。

そのために、以下の順序で議論を進める。

第一に、個体性を説明対象とする理論が満たすべき個体化根拠充足原理を確認し、前個体的差異場 Δ を定義する。

第二に、Δ に内在する差異的契機を組織化する構成的関係 Rᶜ、構造 S、構造的不変項 K(S) および構造の境界 B(S) を定義する。

第三に、構造と構造項の相互構成を、構成関係 C と個体化関係 I に区別する。

第四に、構造的個体性と同一性が成立する条件を明らかにする。

第五に、構造内部における同一性決定の非対称性から、構造相対的な第一性が成立することを論証する。

最後に、これらの議論を三つの主要命題と一つの中心定理に整理する。

なお、本稿で扱う遡及性は、構造的・存在論的な遡及性である。後続する構造によって過去の履歴が構成的な前史として確定するという時間的・歴史的遡及性は、第二論文の対象とする。

2.基本概念――個体性と前個体的差異

2.1.個体性とは何か

本稿では、個体性を単なる数的な区別として理解しない。

あるものが一つの個体として成立するためには、少なくとも次の二つの条件が必要である。

第一に、そのものが一つの存在者として統一されていること。

第二に、それが他の存在者から区別されていること。

あるものが一つの個体であるということは、それを構成する諸契機が一つの統一を形成していることを意味する。同時に、その統一は他の存在者との区別を可能にしなければならない。

したがって、個体性を存在論的に説明するためには、数的統一と他の個体との差異の双方を説明する必要がある。

ここで重要なのは、個体の区別が認識主体による識別可能性だけに依存するのではないということである。

二つのものが異なる個体であるということは、単に私たちがそれらを見分けられるという意味ではない。それぞれが異なる個体として成立するための実在的な条件が存在するということである。

本稿では、その条件を個体化根拠と呼ぶ。

2.2.個体化根拠充足原理

個体性の存在論的成立を説明しようとする理論は、その個体性を成立させる根拠を提示しなければならない。

本稿では、これを個体化根拠充足原理と呼ぶ。

個体化根拠充足原理

個体性の存在論的成立を説明対象とする理論は、数的統一、他の個体との差異および個体としての同一性を成立させる構成的根拠を提示しなければならない。

この原理は、あらゆる形而上学的立場に対して、個体性を原始的な事実として認めることを禁止するものではない。

個体性そのものを説明の最終地点に置く立場は、形而上学的な選択として可能である。しかし、その場合、個体性がなぜ成立しているのかという問題は、説明されないまま残される。

本稿が採用するのは、個体性を無条件の事実として置くのではなく、その成立条件を説明する立場である。

したがって、本原理は、あらゆる存在論的事実に究極的な理由を要求する一般的な十分理由律とは異なる。説明対象を個体性の成立に限定し、その成立を説明するための根拠を要求する原理である。²

2.3.定義D1――前個体的差異場 Δ

個体性を成立させる根拠を、すでに個体化された複数の存在者に求めることはできない。

なぜなら、その場合、それらがなぜ複数の個体として成立しているのかという問題が再び生じるからである。

例えば、m₁、m₂、m₃という三つの契機を最初から独立した存在者として措定すれば、それらの数的差異を成立させる根拠が別途必要になる。

この問題を避けるため、本稿では前個体的差異場 Δ を導入する。

定義D1:前個体的差異場 Δ

前個体的差異場とは、個体化された存在者の集合ではなく、個体性、数的同一性および独立した構造項が成立する以前に存在する、異質性、強度差、潜在的緊張および相互規定可能性を備えた存在論的基礎である。

Δ は、すでに個体化された複数の実体から構成されているわけではない。

Δ における差異は、個体的な複数性ではなく、個体化を可能にする前個体的な異質性である。

したがって、Δ は、個体の集合でも、完成した構造の集合でもない。

それは、個体性を成立させるための差異的条件を内在させた存在論的基礎である。

ここで、Δ の存在は個体化根拠充足原理から演繹される結論ではない。Δ は、本理論が採用する基本的な存在論的前提である。

この点を明確にしておく必要がある。個体化に根拠が必要であるという主張だけから、その根拠が必ずΔであるとは言えないからである。

本理論がΔを採用する理由は、個体化を説明する基礎そのものを、すでに個体化されたものの集合にしてしまう循環を避けることにある。

2.4.定義D2――構造的契機 mᵢ

Δ は個体化された存在者の集合ではない。しかし、そこには異質性や強度差など、個体化を可能にする差異的規定可能性が内在している。

これらの差異的条件が、構造の成立においてどのような位置や役割を持つのかを分析するため、本稿では構造的契機 mᵢ という概念を用いる。

定義D2:構造的契機 mᵢ

構造的契機とは、前個体的差異場 Δ に内在する差異的規定可能性が、ある構造の成立に関して分析的に区別された位置または役割である。

mᵢ は、独立した実体や個体を意味しない。

また、添字 i は、あらかじめ数的に異なる複数の個体が存在していることを意味しない。それは、個体化以前の差異的条件を分析上区別するための形式的な記号である。

したがって、mᵢ と後述する xᵢ^S は、明確に区別されなければならない。

mᵢ は個体化以前の差異的契機であり、xᵢ^S は、構造 S によって特定の位置・役割・同一性条件を与えられた構造項である。

3.構造の成立と構造的不変項

3.1.定義D3――構成的関係 Rᶜ

Δ に内在する差異的契機は、単に並存しているだけでは、一つの構造を形成しない。

それらの差異的契機が、一つの構造を成立させるためには、相互に規定し合う関係と制約が必要になる。

本稿では、このような関係を構成的関係 Rᶜ と呼ぶ。

定義D3:構成的関係 Rᶜ

構成的関係とは、複数の差異的契機の位置、役割、同一性条件または構造的統一を成立させる関係である。

Rᶜ は、単なる因果関係や外的相互作用とは異なる。

例えば、二つの物体が偶然接触しているというだけでは、それらが一つの構造を形成しているとは言えない。

両者の関係が、その構造の成立条件や内部の契機の位置・役割・同一性条件に関わっていなければならない。

ある関係が構成的であるかどうかは、その関係を除去または変更した場合に、構造的不変項や構造項の同一性条件が維持されるかという反事実的な検討によって確認できる。

ただし、反事実的な依存だけで構成的関係が確定するわけではない。実際の構成条件、代替可能性および複数の構成経路についても検討する必要がある。

3.2.定義D4――構造 S

差異化された契機が Rᶜ によって組織化されるとき、それらは一つの関係的秩序を形成する。

本稿では、これを構造 S と呼ぶ。

定義D4:構造 S

構造とは、前個体的差異場に内在する差異的契機が、構成的関係 Rᶜ と相互制約によって組織化され、一つの構造的不変項を実現する関係的秩序である。

構造は、完成した個体の単なる集合ではない。

また、構造は個々の契機から完全に独立して存在する別の実体でもない。

構造の統一性は、その内部の差異化された契機を相互に規定する関係の秩序そのものに成立する。

したがって、構造を成立させるために、さらに独立した統一者を想定する必要はない。

ただし、すべての関係の集合が構造になるわけではない。構造を成立させるには、諸契機の関係が偶然的な相互作用を超えて、統一的な制約の秩序を形成していなければならない。

3.3.定義D5――構造的不変項 K(S)

構造が一つの構造として成立し、変化のなかでも同一性を維持するためには、その構造にとって維持されなければならない条件が存在する。

本稿では、これを構造的不変項 K(S) と呼ぶ。

定義D5:構造的不変項 K(S)

構造的不変項とは、構成要素や個別の状態に変化が生じても、対象となる構造が同一の構造として成立し続けるために維持されなければならない構成的条件の集合である。

K(S) は、すべての構造に共通する一つの不変項を意味しない。

構造によって、その同一性を維持する条件は異なる。

例えば、ある組織では構成員の一部が交代しても同一の組織が存続することがある。その場合、構成員そのものの数的同一性が、組織の K(S) であるとは限らない。

一方で、意思決定の手続きや組織の権限関係が失われれば、同一の組織として存続しているかどうかが問題になる。

したがって、K(S) は、次の基準によって特定されなければならない。

第一に、何を一つの構造として説明するのか、その対象を明確にすること。

第二に、どのような変化が許容され、どのような変化によって対象の構造的同一性が失われるのかを検討すること。

第三に、構成要素自体の交換可能性と、それが担っている構造的役割の維持可能性を区別すること。

第四に、構造の成立に必要な条件だけを含め、偶然的・外的な条件まで K(S) に含めないこと。

これらの条件によって、K(S) は研究者が恣意的に設定した特徴の集合ではなく、対象の構成的依存秩序を表す概念となる。

また、K(S) は、構造 S の定義と無関係に外部から与えられるものではない。しかし、単に研究者が「同じ構造である」と判断した結果として設定されるものでもない。

対象の同一性を説明するうえで、どの条件が必要であり、どの条件が代替可能なのかを検討することで特定される。

3.4.定義D6――構造的閉包と構造の境界 B(S)

構造が成立していると認めるためには、その構造にどこまでの契機や関係が含まれるのかを明確にする必要がある。

しかし、構造の境界は、単純な空間的近接性や因果的接触によって決まるわけではない。

例えば、ある組織に因果的な影響を与えたすべての出来事が、その組織の構成要素になるわけではない。

本稿では、構造的不変項 K(S) を実現するために必要な構成的依存関係の範囲を、構造の境界として定義する。

定義D6:構造的閉包と構造の境界 B(S)

構造の境界とは、K(S) を実現するために必要な構造的契機・構成要素・構成的関係を含み、それ以上、構成的な依存関係を追加する必要のない最小完全な領域である。

これを次のように表す。

B(S) = Cl_min(S, K(S))

ここで、

  • B(S):構造の存在論的境界
  • K(S):構造的不変項
  • Cl_min:不変項の実現に必要な最小完全な構成的依存関係の閉包

を意味する。

重要なのは、最小完全な閉包が常に一つだけ存在すると仮定しないことである。

同一の不変項を実現する複数の代替経路が存在する場合、それぞれが最小完全な閉包を形成する可能性がある。

したがって、B(S) は、対象となる構造の構成的な境界を表す記号として使用するが、その実現が一意であるとは仮定しない。

以上によって、構造 S は、構造的不変項 K(S) と、その実現に必要な構成的依存関係の閉包によって統一される。

3.基本前提と概念の適用範囲

定義と公理を混同しないため、ここで本稿が採用する基本前提を整理する。

基本前提A1:前個体的差異の原理

個体化された存在者の成立に先立って、個体化を可能にする差異的条件 Δ が存在する。

基本前提A2:差異の内在性原理

個体化を可能にする差異は、個体化以前の基礎に内在していなければならない。完全に均質な基礎に対して、差異化の条件が外部から追加されるならば、その条件自体が新たな存在論的前提となる。

基本原理G:個体化根拠充足原理

個体性の成立を説明対象とする理論は、数的統一、他の個体との差異および同一性を成立させる構成的根拠を提示しなければならない。

A1とA2は本理論が採用する存在論的前提である。Gは、本理論が個体性を説明するにあたって採用する方法論的・説明論的原理である。

これらを区別することによって、本稿の議論が何を前提としているのかが明確になる。

なお、A1によってΔの存在そのものが演繹的に証明されたわけではない。Δは、本理論の説明体系における原初的な存在論的基礎である。

4.構造と構造項の相互構成――CとIの区別

4.1.相互構成の問題

構造が成立するためには、その構造を具体的に実現する契機が必要である。

しかし、それらの契機が、特定の構造の内部においてどのような個体として成立するかは、構造との関係によって規定される。

ここには一見すると循環が存在する。

構造項がなければ構造は成立しない。しかし、構造がなければ構造項も成立しない。

この問題を解決するためには、構造と構造項の相互構成を、同一の存在論的関係が両方向に成立しているものとして理解してはならない。

本稿では、二つの異なる構成作用を区別する。

第一は、構成関係 C である。

第二は、個体化関係 I である。

両者は、対象と適用される存在論的水準が異なる。

4.2.定義D7――構成関係 C

定義D7:構成関係 C

構成関係 C とは、ある水準においてすでに個体化されている下位構造項が、より上位の構造を具体的に実現する関係である。

これを次のように表す。

C(Sₗ₊₁, {xᵢ^{Sₗ}})

ここで、

  • Sₗ:第l水準の構造
  • Sₗ₊₁:その上位水準の構造
  • xᵢ^:第l水準の構造 Sₗ において個体化された構造項

である。

例えば、複数の細胞が組織を構成する場合、それぞれの細胞は、上位の組織が成立する以前から、細胞として一定の個体性を持っている。

その細胞が組織を具体的に実現することが、構成関係 C に当たる。

ここで重要なのは、C が、下位水準ですでに個体化された項を前提としていることである。

C は、その項を最初から個体化する関係ではない。

また、C は、上位構造内部における構造項の位置や同一性条件を直接決定するものでもない。

それは、すでに成立している下位の個体が、上位構造の成立に参与する関係を意味する。

4.3.定義D8――個体化関係 I

これに対して、個体化関係 I は、構造内部の差異的契機が、その構造における個体として成立する関係である。

定義D8:個体化関係 I

個体化関係 I とは、ある構造 S の内部において、差異化された契機 mᵢ が、その構造の不変項と関係秩序によって、特定の位置・役割・同一性条件を持つ構造項 xᵢ^S として成立する関係である。

これを次のように表す。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

この表記において、mᵢ は個体化以前の差異的契機であり、xᵢ^S は構造 S において個体化された構造項である。

したがって、この二つを同一の意味で扱ってはならない。

mᵢ が構造的契機として分析上区別されていることは、それがすでに独立した個体として成立していることを意味しない。

他方、xᵢ^S は、構造 S の内部で特定の位置、役割、同一性条件を持つ個体として成立している。

ここで上付きの S を付すのは、一つの対象が異なる構造水準に属する場合、それぞれの構造における個体性を区別するためである。

4.4.CとIの適用範囲の違い

以上の定義から、CとIの違いを明確にすることができる。

Cは、下位水準で成立している構造項が、上位構造を具体的に実現する関係である。

これに対してIは、構造内部の差異的契機が、その構造によって個体化された構造項として成立する関係である。

両者の関係を整理すると、次のようになる。

C(Sₗ₊₁, {xᵢ^{Sₗ}})

下位水準で成立した構造項による上位構造の具体的実現。

I(Sₗ₊₁, mⱼ → xⱼ^{Sₗ₊₁})

上位構造による内部契機の個体化。

この区別によって、同一の対象に関して二つの異なる個体化水準が成立することを説明できる。

例えば、ある細胞は下位水準において細胞としてすでに個体化されている。その細胞が組織を構成する場合、Cが成立する。

一方、その細胞が特定の組織においてどのような位置と役割を担うのかは、上位構造との関係によって規定される。この場合、Iによって上位水準の構造項としての個体性が成立する。

つまり、下位水準の個体性と上位水準の構造的個体性は、同一の問題ではない。

4.5.なぜ循環論法ではないのか

CとIを区別すれば、構造と構造項の相互構成は、直ちに説明上の循環を形成するわけではない。

循環論法が成立するためには、同一の対象が同一の意味において、互いに相手を成立させるという関係になっていなければならない。

しかし、本稿におけるCとIは、異なる存在論的水準に属している。

Cに参加する構造項は、下位水準においてすでに個体化されている。

一方、Iによって個体化されるのは、上位構造の内部でその項が持つ位置、役割および同一性条件である。

したがって、両者は同じ対象の同じ個体性を相互に基礎づけているわけではない。

この水準の区別によって、階層的な相互構成と同一水準における説明上の循環を区別することができる。

また、最初の構造については、すでに個体化された下位構造項を無条件に前提する必要はない。

個体化以前の差異的基礎であるΔに内在する差異的規定可能性が、構成的関係Rᶜによって組織化されることによって、最初の構造が成立する。

この場合、Cではなく、Δから構造への構成的な組織化が出発点となる。

したがって、CとIによる階層的な相互構成は、最初から完成した個体を無限に必要とするものではない。

ただし、この議論の射程は限定される。

CとIの区別によって回避できるのは、異なる水準に属する個体性を同じ水準の同一の関係で相互に説明することによる循環である。

仮に、同一水準において同一の意味で成立する個体性を、構造と構造項が互いに説明しているならば、その循環は依然として解決されていない。

したがって、本理論は、CとIを区別するだけであらゆる循環が解消すると主張するものではない。異なる水準と異なる個体化条件が実際に成立していることを示す必要がある。

5.構造的個体性と同一性の成立

5.1.構造の統一性は独立した統一者を必要としない

構造が一つの統一体として成立するためには、内部の契機を統一する別の存在者が必要なのだろうか。

本稿は、そのような独立した統一者を必要としない立場を採用する。

なぜなら、構造の統一性は、構成的関係の秩序そのものに成立するからである。

構造が統一されているということは、その内部の契機が、共通の不変項 K(S) を実現する相互制約のもとにあるということである。

仮に、この統一を説明するために別の統一者を導入すると、その統一者自身がどのように個体として成立しているのかという問題が生じる。

さらに、その統一者を統一する別の原理が必要になる可能性もある。

このような説明は、統一の根拠を別の存在者へ移動させるだけである。

本稿は、構造の統一性を、その構造を形成する関係的秩序に求める。

ただし、ここで主張するのは、あらゆる形而上学が独立した統一者を認められないということではない。

構造的統一性を構成的関係から説明する本理論においては、別個の統一者を追加する必要がないということである。

5.2.定義D9――構造的個体性

以上の議論から、構造的個体性を定義することができる。

定義D9:構造的個体性

構造的個体性とは、ある契機が構造 S の内部において、構造的不変項 K(S) と構成的関係の秩序によって特定の位置・役割・同一性条件を与えられ、一つの構造項として成立することである。

これを次のように表す。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

この定義から、個体性には二つの水準があることが分かる。

一つは、ある対象が下位水準で個体として成立しているという意味での個体性である。

もう一つは、その対象が上位構造において特定の位置や役割を持つ構造項として成立しているという意味での個体性である。

両者は同一の対象において同時に成立しうるが、同じ個体化条件を持つわけではない。

また、ある構造項の位置や役割が別の構成要素によって代替可能である場合、その位置・役割の同一性と、それを担う個別の存在者の数的同一性を区別しなければならない。

例えば、ある組織の構成員が交代しても、組織内部の特定の役割が維持されることがある。

この場合、維持されているのは構造的な位置や役割であって、交代前後の構成員が同一の個体であるということではない。

したがって、本理論は、構造的な役割の同一性と、その役割を担う物質的な個体の同一性を混同しない。

5.3.構造的不変項と個体の同一性

構造的不変項 K(S) は、構造全体の同一性を決定する条件である。

しかし、個々の構造項の同一性は、単にK(S)だけによって決まるのではない。

構造項が持つ位置、役割、他の構造項との関係、および構造的不変項を実現するための構成的条件を通じて確定する。

ここで、構造全体の同一性と、その内部に属する個体の同一性を区別する必要がある。

例えば、ある組織の構成員が交代しても、その組織の同一性が維持されることがある。

この場合、組織全体の同一性は、構成員の物質的な同一性だけによって決まっていない。

しかし、だからといって個々の構成員の同一性が存在しないわけではない。

個々の構成員は、組織とは異なる下位水準の個体性を持ちながら、組織内部において特定の構造的役割を与えられている。

このように、構造の同一性と構造項の同一性は、それぞれ異なる条件によって説明される。

この点は、スピノザの『エチカ』第二部定理13以後の複合個体論と比較すると分かりやすい。

スピノザは、個体を構成する諸部分の運動と静止の一定の割合が維持されるならば、構成要素が交代しても同一の個体が存続しうることを論じている。³

ここでは、個体の同一性が、その物質的構成要素のすべての数的同一性に還元されていない。

本理論のK(S)も、構成要素の交換可能性と構造的秩序の維持を区別する点で、この問題と接点を持つ。

ただし、スピノザの複合個体論と本理論が同一であるわけではない。

本理論では、構造的不変項によって全体の同一性が維持されることに加え、構造内部の各契機がどのような個体性を持つのか、さらにその内部に第一性が成立するのかという問題まで扱う。

6.構造内部の第一性

6.1.構造全体の優先性と内部の第一性

ここまでの議論によって、構造が内部の項の個体性を成立させるという立場が示された。

しかし、構造全体が内部の項に対して優先することから、直ちに内部の項どうしの第一性が導かれるわけではない。

例えば、ある構造 S において、AとBがともに個体化されているとする。

この場合、SがAとBの双方の成立条件であるとしても、それだけではAがBに対して第一であるとは言えない。

AとBのあいだに非対称的な同一性決定関係が成立しているかどうかは、別途検討されなければならない。

したがって、本稿では、構造全体の部分に対する優先性と、構造内部の項どうしの優先性を区別する。⁴

6.2.定義D10――構造内部の第一性

第一性は、時間的な先行性でも因果的な先行性でもない。

本稿における第一性は、ある構造内部で、特定の項の規定が別の項の同一性条件を非対称的に決定することによって成立する。

定義D10:構造内部の第一性

構造内部の第一性とは、特定の構造 S および規定次元 d において、ある構造項 A の規定が、他の構造項 B の同一性条件を完全かつ構成的に決定し、同じ規定次元において逆方向の同一性決定が成立しない場合に成立する存在論的優先性である。

これを次のように表記する。

A ≺_{S,d} B

ここで、

  • A:第一性を持つ構造項
  • B:第一性との関係を検討される構造項
  • S:対象となる構造
  • d:第一性が成立する特定の規定次元

である。

この記号は、AがBに対して、構造 S の規定次元 d において存在論的に優先することを表す。

重要なのは、第一性を絶対的な属性として理解しないことである。

AがBに対して第一であることは、Aがあらゆる存在論的次元においてBより優先することを意味しない。

ある構造において、AがBの制度的な役割を決定する一方、BがAの物質的な存続条件を決定することもありうる。

この場合、AとBの関係は規定次元によって異なる。

したがって、第一性は、特定の構造と規定次元に相対的な関係として理解されなければならない。

6.3.第一性の成立条件

ある項が他の項に対して第一であるためには、少なくとも次の条件が必要である。

第一に、AとBが、同一の構造 S に属する構造項として個体化されていること。

第二に、Aの規定が、特定の規定次元 d においてBの同一性条件を構成的に決定していること。

第三に、その決定が単なる因果的影響や一時的な機能的影響ではなく、Bがその構造において何であるかを成立させる条件であること。

第四に、同じ規定次元 d において、BがAの同一性条件を同じ意味で決定していないこと。

以上の条件が満たされるとき、AとBの間には非対称的な同一性決定関係が成立する。

ここで、因果的な影響と構成的な決定を区別することが重要である。

例えば、ある人物が組織の設立に大きな因果的影響を与えたとしても、その人物がいなくなった後に同一の組織が存続できるならば、その人物が組織の同一性を構成的に決定しているとは限らない。

因果的な先行性だけでは、存在論的な第一性を導くことはできない。

これに対して、ある規定が、特定の構造項の同一性条件そのものを成立させているならば、その関係は存在論的な意味を持つ。

ただし、複数の契機が共同してBの同一性条件を決定している場合には、A単独の規定による決定と、Aを含む複数の条件による共同決定とを区別する必要がある。

本稿の第一性は、Aの規定が、構造 S の背景条件とともに、Bの規定次元 d における同一性条件を確定する場合に限られる。

単に複数の要因の一つであるというだけでは、第一性は認められない。

6.4.反事実的な判定基準

この非対称性を検討するためには、反事実的な分析が有効である。

具体的には、次の二つの問いを立てる。

  1. Aの規定を除去または変更した場合、Bは同じ規定次元において同一性を維持できるか。
  2. Bの規定を除去または変更した場合、Aは同じ規定次元において同一性を維持できるか。

もし、Aの規定の変更によってBの同一性条件が成立しなくなる一方、Bの規定の変更によってAの同一性条件が維持されるならば、非対称性が存在する可能性がある。

ただし、反事実的な分析は、それだけで第一性を証明するものではない。

必要なのは、その変化が単なる因果的影響ではなく、構造的不変項 K(S) に関わる構成的条件の変化であることを確認することである。

また、ある構造項を別のものに置き換えた場合でも、同じ役割を果たす代替項が存在するならば、その項の物質的個体性そのものが第一であるとは限らない。

その場合、第一性を持つのは特定の物質的な項ではなく、その項が占める構造的な位置や役割である可能性がある。

したがって、反事実的な検討では、対象そのものの交換と、その対象が担う構造的役割の交換を区別しなければならない。⁵

6.5.第一性は全順序を形成する必要がない

第一性は、構造内部のすべての項を一列に並べる絶対的な順位である必要はない。

例えば、AがBに対して第一であり、CがDに対して第一であったとしても、AとCのあいだに優先関係が存在するとは限らない。

この場合、AとCを一つの順位によって比較することはできない。

したがって、第一性は、構造内部のすべての項を一列に並べる全順序である必要はない。

それは、特定の規定次元における非対称的な依存関係によって成立する部分的な秩序である。

また、部分的な同一性規定の依存関係について、そのまま推移性を認めることもできない。

例えば、AがBのある規定を部分的に決定し、BがCのある規定を部分的に決定しているとしても、AがCの同一性条件を決定しているとは限らない。

完全な同一性決定が同一の規定次元で連鎖する場合に限り、推移性を認めることができる。

以上から、第一性は、構造相対的かつ規定次元相対的な部分秩序として理解されなければならない。

7.命題と中心定理の再構築

ここまでの議論を、定義・基本前提・命題・定理の依存関係に従って整理する。

本節では、各命題について、使用する前提、定義、推論の内容、結論および反例の可能性を明示する。

7.1.命題P1――個体性の成立には、差異を統一する構造的秩序が必要である

命題P1

個体性の存在論的成立を説明するためには、前個体的差異場 Δ に内在する差異的条件が、構成的関係 Rᶜ によって組織化され、一つの構造的秩序を形成しなければならない。

前提

  • 基本前提A1:前個体的差異場 Δ が存在する。
  • 基本前提A2:個体化を可能にする差異はΔに内在する。
  • 基本原理G:個体性を説明する理論には個体化根拠が必要である。

使用する定義

D1:前個体的差異場 Δ

D2:構造的契機 mᵢ

D3:構成的関係 Rᶜ

D4:構造 S

D5:構造的不変項 K(S)

D6:構造の境界 B(S)

証明

まず、完全に無差異な基礎から、複数の差異化された個体を成立させることはできない。

完全に無差異な基礎には、異なる位置、役割または関係を成立させる規定がない。

したがって、その基礎から、あるものと他のものを区別する構成的条件を導くことはできない。

仮に差異の条件を外部から追加すれば、その条件は新たな存在論的前提となる。

反対に、差異の条件が基礎の内部に存在するとすれば、その基礎は完全な無差異性ではない。

ゆえに、個体化の基礎には、差異化の可能性が内在していなければならない。

次に、差異だけでは個体性は成立しないことを確認する。

複数の差異的条件が存在していても、それらが一つの個体を形成するとは限らない。

他方、統一性だけを認めても、他の個体との区別がなければ数的な個体性を説明できない。

したがって、個体性の成立には、差異と統一性の双方が必要となる。

この二つの条件を同時に成立させるためには、差異化された諸契機が相互に規定し合い、一つの統一的な秩序を形成しなければならない。

この関係的・制約的な秩序が構造 S である。

さらに、構造の統一性は、独立した統一者によって説明される必要はない。

構造が一つの統一を形成するのは、内部の差異的契機が共通の構造的不変項 K(S) を実現する相互制約のもとにあるからである。

したがって、構造の統一性は、構成的関係の秩序そのものによって説明される。

また、構造の成立に必要な関係は、構造の境界 B(S) によって確定される。偶然的な因果関係まで含める必要はない。

以上から、個体性の成立を説明するためには、Δ に内在する差異的条件が Rᶜ によって組織化され、K(S) を実現する構造的秩序を形成しなければならない。

ゆえに、命題P1が成立する。□

論証の性格

P1のうち、完全な無差異性から差異を導けないことは、差異の内在性原理に基づく。

また、個体性には数的な区別と統一性が必要であることは、個体性の概念的分析に基づく。

そのうえで、差異と統一性を同時に成立させる関係的秩序が必要であるという部分が、本命題の実質的な論証である。

ただし、ここから導かれるのは、個体性を説明するために構造的秩序が必要であるということであって、Δ以外の存在論的基礎が論理的に不可能であるということではない。

原始的個体性を認める立場は、別の形而上学的選択として残される。

7.2.命題P2――構造的個体性は、階層的な構成関係と個体化関係を通じて成立する

命題P2

構造 S が成立すると、その内部の差異的契機 mᵢ は、構造的不変項 K(S) と構成的関係の秩序によって、構造項 xᵢ^S として個体化される。また、この個体化と上位構造の具体的実現は、CとIという異なる関係によって説明されるため、両者は同一水準における説明上の循環を形成しない。

前提

  • 命題P1:差異的条件を統一する構造 S が成立する。
  • 基本前提G:個体性の成立には構成的根拠が必要である。
  • 階層的な構成では、下位水準の個体性と上位水準の構造的個体性を区別する。

使用する定義

D4:構造 S

D5:構造的不変項 K(S)

D6:構造の境界 B(S)

D7:構成関係 C

D8:個体化関係 I

D9:構造的個体性

証明

命題P1によって、個体化を可能にする差異的条件は、構造的秩序によって統一される。

構造 S が成立すると、その内部の差異的契機には、構造的不変項と関係秩序に応じた位置および役割が与えられる。

これによって、ある契機は単なる差異的条件ではなく、特定の構造に属する構造項として成立する。

したがって、

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

が成立する。

このとき、構造的個体性は、次の二つの条件を満たさなければならない。

第一に、その構造項が一つの項として成立していること。

第二に、その項が他の構造項から区別される位置や関係的条件を持っていること。

この二つの条件によって、構造内部の数的統一と差異が説明される。

ただし、構造内の二つの契機が、構造的な位置や関係によっても区別されないならば、本理論だけから両者を別個の構造項として成立させることはできない。

したがって、本理論は、あらゆる数的複数性を無条件に認めるのではなく、その複数性を成立させる構成的な差異が存在する場合に個体性を認める。

次に、CとIの関係を検討する。

上位構造が成立する場合、その構造を具体的に実現するのは、下位水準ですでに個体化された構造項である。

これはCによって表される。

これに対して、上位構造内部でそれらの構造項がどのような役割と同一性条件を持つのかは、Iによって規定される。

したがって、CとIは異なる存在論的水準に適用される。

Cは下位水準の個体性を前提とし、Iは上位水準における個体性を成立させる。

このため、両者は同じ個体性を相互に基礎づける関係ではない。

また、最初の構造は、完成した下位構造項を前提とするCによって成立するのではなく、Δに内在する差異的条件がRᶜによって組織化されることによって成立する。

したがって、最初の構造に関しても、完成した個体を無限に前提する必要はない。

以上から、構造内部の個体性はIによって成立し、異なる階層の構造はCによって具体的に実現される。

ゆえに、命題P2が成立する。□

論証の性格

P2のうち、I(S, mᵢ → xᵢ^S) による個体化は、定義D8とD9に基づく。

一方、CとIが異なる存在論的水準に属するため、同じ個体性を相互に説明する循環ではないという主張は、両者の適用対象が異なることによる実質的な論証である。

ただし、CとIを区別しただけで、あらゆる存在論的循環が解決するわけではない。異なる水準が実際に区別され、下位水準の個体性が上位水準の個体性から独立して成立していることが必要である。

7.3.命題P3――構造内部の非対称的な同一性決定関係から第一性が成立する

命題P3

構造的個体化が成立した構造 S の内部において、ある構造項 A の規定が、特定の規定次元 d において他の構造項 B の同一性条件を完全かつ構成的に決定し、同じ規定次元で逆方向の決定が成立しない場合、AはBに対して第一のものとして成立する。

前提

  • 命題P2:構造項の個体性と同一性条件が成立している。
  • 構造 S の内部に、AとBの構成的な依存関係が存在している。
  • その依存関係が特定の規定次元 d において非対称的である。

使用する定義

D5:構造的不変項 K(S)

D6:構造の境界 B(S)

D9:構造的個体性

D10:構造内部の第一性

証明

命題P2によって、構造 S の内部の契機は、それぞれ構造項として個体化されている。

しかし、個体化された項が存在することから、ただちに第一性が成立するわけではない。

AとBがともに個体化されていても、両者が対称的な関係にある場合には、どちらか一方が他方に対して第一であるとは言えない。

また、AがBに因果的な影響を与えているだけの場合も、第一性を認めることはできない。

第一性の成立には、Aの規定がBの同一性条件を構成的に決定していることが必要である。

すなわち、Aの規定が変更または除去された場合、Bは同じ規定次元において同一性を維持できない一方、Bの規定が変更または除去されてもAの同一性条件が維持される場合である。

この依存関係は、単なる因果的影響ではなく、Bが構造 S において何であるかを成立させる条件に関わっている。

したがって、AとBのあいだには、同一性決定の非対称性が成立する。

定義D10によれば、この関係は次のように表される。

A ≺_{S,d} B

この関係は、Aが構造 S の規定次元 d においてBに対して存在論的に優先することを意味する。

ここで、重要なのは、第一性がAの内在的な属性として成立するのではないということである。

Aが第一であるのは、AとBの関係、および構造 S の成立条件によって、その優先性が確定するからである。

さらに、この優先性は、すべての項に適用される全体的な順位を意味しない。

特定の構造と規定次元において非対称的な同一性決定関係が成立する場合に限り、その関係について第一性が認められる。

したがって、構造的個体化は第一性の必要条件であるが、十分条件ではない。

ゆえに、命題P3が成立する。□

論証の性格

ここでは、定義D10による概念的な確定と、実際に非対称的な構成的依存関係が存在することの証明を区別する必要がある。

A ≺_{S,d} B の意味を定義すること自体は、概念の整理である。

しかし、ある具体的な構造において、AがBの同一性条件を構成的に決定していることを示すには、独立した分析が必要となる。

したがって、P3は、第一性をあらかじめ存在するものとして仮定する命題ではない。

構造内部の実際の依存関係が、定義D10の条件を満たす場合に限り、第一性が成立することを示す条件命題である。

7.4.定理T1――構造的個体化と第一性の遡及的成立定理

ここまでの三つの命題を統合すると、本理論の中心定理を提示できる。

定理T1:構造的個体化と第一性の遡及的成立定理

前個体的差異場 Δ に内在する差異的規定可能性が、構成的関係 Rᶜ によって組織化され、構造的不変項 K(S) を実現する構造 S が成立するとき、その内部の差異的契機 mᵢ は、構造的な位置・役割・同一性条件を持つ構造項 xᵢ^S として個体化される。

さらに、その構造内部において、ある項 A の規定が、特定の規定次元 d における他の項 B の同一性条件を完全かつ構成的に決定し、同じ規定次元において逆方向の同一性決定が成立しない場合、AはBに対して第一のものとして成立する。

したがって、構造内部の個体性と第一性は、構造から独立してあらかじめ成立しているのではなく、構造の成立を通じて遡及的に確定する。

証明

まず、命題P1によって、個体性を説明するためには、前個体的差異場 Δ に内在する差異的条件を、構成的関係 Rᶜ によって組織化する構造的秩序が必要であることが示された。

したがって、構造 S は、単なる個体の集合ではなく、構造的不変項 K(S) を実現する関係的秩序として成立する。

次に、命題P2によって、構造 S の成立後、その内部の差異的契機 mᵢ は、構造の位置・役割・同一性条件を持つ構造項 xᵢ^S として個体化されることが示された。

すなわち、

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

が成立する。

この個体化は、構造から独立した個体性を前提とするものではない。

構造的不変項と構成的関係によって、差異的契機が特定の構造項として成立することを意味する。

最後に、命題P3によって、構造内部の項の個体性が成立しただけでは、第一性はまだ導かれないことが示された。

第一性が成立するためには、特定の規定次元 d において、一方の項の規定が他方の項の同一性条件を構成的に決定し、逆方向の決定が成立しないことが必要である。

この条件が満たされる場合、

A ≺_{S,d} B

が成立する。

このとき、Aの第一性は、Aが構造とは無関係に最初から所有している属性ではない。

AとBの関係が、構造 S の内部において特定の非対称性を形成することによって成立する。

したがって、構造 S の成立によって、その内部の項が持つ個体性、同一性および第一性が確定する。

ゆえに、定理T1が成立する。□

定理T1の論理的依存関係

論証段階前提・使用概念導かれる内容
第1段階A1・A2・G、D1〜D6Δから構造Sが成立する条件
第2段階P1、D7〜D9構造項の個体化と階層的相互構成
第3段階P2、D10構造内部の非対称的な第一性
結論P1・P2・P3T1:個体性と第一性の遡及的成立

ここでは、P1からP2、P2からP3という依存関係が成立している。

ただし、P2からP3への移行は必然的なものではない。P2が成立しても、P3の条件を満たす非対称的な同一性決定関係が存在しなければ、第一性は成立しない。

また、T1は、あらゆる構造に第一の項が存在することを主張する定理ではない。

構造的個体化が成立し、さらに第一性の成立条件が満たされる場合に、その第一性が構造との関係において確定することを示す条件付きの定理である。

8.先行研究との比較

本理論の独自性を示すためには、前個体的差異、構造、個体化、同一性および存在論的優先性に関する先行研究との関係を明確にしなければならない。

ここでは、各理論から何を引き継ぐのか、また、どの問題を新たに説明しようとしているのかを区別する。

8.1.シモンドン――前個体的存在と個体化

シモンドンは、『形相と情報の概念に照らした個体化』において、完成した個体を出発点とする存在論を批判し、個体化の過程そのものを存在論の中心に置いた。

彼にとって、個体化以前の存在は、完全に均質なものではない。そこには潜在的な差異や緊張が存在し、それらが個体化の過程を可能にする。

この点は、本理論が前個体的差異場 Δ を導入する理由と共通している。

しかし、両者を同一の理論とみなすことはできない。

シモンドンの個体化論では、準安定的な状態、ポテンシャル、トランスダクションなどが個体化の生成を説明する中心概念となる。

これに対して、本理論では、前個体的差異場から成立した構造が、どのような構造的不変項 K(S) を持ち、どのような構成的関係によって内部の個体性と同一性を成立させるのかを明らかにする。

さらに、その構造内部で成立する同一性決定の非対称性から、第一性を導こうとする。

したがって、本理論の独自性は、前個体的なものを導入したこと自体ではなく、そこから構造的同一性と第一性に至るまでの説明を一つの体系にまとめた点にある。⁶

8.2.ドゥルーズ――差異と個体化

ドゥルーズの『差異と反復』も、本稿にとって重要な参照点となる。

ドゥルーズは、同一性を最初の原理として置く思考を批判し、差異それ自体の存在論的な役割を明らかにしようとする。

また、微分的関係、理念および強度的な差異を通じて、個体化に先立つ条件を論じている。

この点で、個体性を前提せず、差異を個体化の条件として捉える本稿の立場とは共通する部分がある。

しかし、本稿は、差異を個体化の基礎として置くだけでは十分ではないと考える。

個体性を成立させる構造的秩序がどのような不変項を持ち、どのように内部の同一性条件を規定するのかを明らかにしなければならない。

そのため、本稿では、ΔからSへの移行だけでなく、K(S)、Rᶜ、CおよびIを導入し、それらを通じて個体性と第一性の成立を説明する。

したがって、ドゥルーズとの比較においても、本理論の独自性は、前個体的差異の概念そのものではなく、構造的同一性と第一性の統一的な説明にある。⁷

8.3.ヘーゲル――規定性と関係の内在性

ヘーゲルの『大論理学』における規定性の議論も、本理論を考えるうえで重要である。

ヘーゲルの論理学では、あるものの規定は、それだけで完結したものとして存在するのではなく、他者との関係や否定を通じて成立する。

特に存在論における「定在」および「何かと他者」の展開は、あるものが何であるかという規定が、他者との関係から独立して成立するわけではないことを示している。

この点は、本理論が構造項の個体性を構造との関係によって説明する立場と接点を持つ。

ただし、本稿はヘーゲルの論理学をそのまま採用するわけではない。

本稿の目的は、規定性の関係的な成立を、構造的不変項、構成的依存、個体化および第一性という明示的な概念体系によって再構成することである。

したがって、ヘーゲルの議論は、本理論の直接的な証明としてではなく、規定と関係の存在論的な意味を検討するための理論的背景として位置づけられる。⁸

8.4.スピノザ――複合個体と構成的同一性

スピノザの『エチカ』第二部定理13以後の複合個体論は、構造的不変項 K(S) を考えるうえで特に重要である。

スピノザは、個体を構成する諸部分の運動と静止の一定の割合が維持される限り、部分の交代があっても同一の個体が存続しうることを論じている。

ここでは、個体の同一性は、構成要素の物質的な同一性だけによって決定されていない。

構成要素が変化しても、個体を成立させる関係的秩序が維持されれば、同一の個体が存続する。

本理論の K(S) は、このような問題を一般化して扱う。

すなわち、どのような構成的条件が維持されれば、一つの構造が同一の構造として成立し続けるのかを説明する。

ただし、本理論はスピノザの複合個体論を単に言い換えるものではない。

スピノザの議論を参照しつつ、構成的秩序による同一性の維持から、さらに個々の構造項の位置、役割および第一性がどのように成立するのかを問題にする。

この点に、本理論の拡張がある。⁹

8.5.存在論的構造実在論

存在論的構造実在論は、個体的な対象そのものよりも、それらの関係や構造を存在論的に重視する立場である。

この点は、個体性を構造から独立したものとして扱わない本理論と共通する。

しかし、存在論的構造実在論は、主として科学理論における構造の実在性や、対象と関係の存在論的な位置づけを扱っている。

これに対して、本理論では、個体性を説明するための構造的秩序がどのように成立するのかを検討し、さらに、その構造内部で個体性と第一性がどのように確定するのかを明らかにしようとする。

したがって、本理論は、構造の存在論的重要性を共有する一方で、個体化の成立条件と構造内部の第一性を独立した論証対象として扱う。¹⁰

8.6.現代形而上学の基礎づけ論と非対称的依存

現代形而上学では、存在論的基礎づけ(grounding)や依存関係を通じて、ある存在者が他の存在者にどのように依存しているかが分析されている。

Fineは、基礎づけの概念を整理し、存在論的な説明関係の多様なあり方を検討している。

また、Loweは個体化における非対称的依存の問題を扱っている。

これらの議論は、本理論が構造内部の同一性決定関係を分析するうえで重要な先行研究となる。

ただし、本理論の目的は、一般的な基礎づけ関係をそのまま採用することではない。

本理論では、まず構造的な個体性が成立し、その内部で特定の規定次元における同一性決定の非対称性が成立することによって、第一性を定義する。

したがって、一般的な基礎づけ関係と、本理論における構造相対的な第一性は、関連しているが同一ではない。

特に重要なのは、単なる説明上の非対称性ではなく、ある構造項が他の構造項の同一性条件を構成的に決定していることを示す点である。¹¹

8.7.シェファー――全体の優先性と構造内部の第一性

シェファーの優先的一元論は、全体が部分に対して存在論的に優先するという立場を提示している。

これは、構造全体とその内部の項との関係を検討するうえで重要な参照点となる。

ただし、本理論が扱う第一性は、全体と部分のあいだに成立する優先性だけではない。

本理論では、構造全体によって内部の項の個体性が成立することに加え、その構造内部に属する項どうしのあいだにも、特定の規定次元における非対称的な同一性決定関係が成立しうると考える。

したがって、全体の部分に対する優先性と、構造内部の項どうしの第一性は区別される。

本理論は、後者を独立した存在論的問題として扱う点で、優先的一元論とは異なる。¹²

8.8.スコトゥス――原始的個体性との相違

スコトゥスのこのもの性(haecceitas)は、個体性の根拠を考えるうえで重要な比較対象となる。

この立場では、個体がそれぞれ固有の個体性を持つことを、普遍的な性質や関係だけに還元することはできない。

本理論は、この立場が論理的に不可能であるとは主張しない。

むしろ、個体性を説明の最終地点に置く立場と、個体性そのものの成立条件をさらに説明しようとする立場の違いを明確にする。

本理論では、個体性の成立を説明対象とする以上、数的統一と他の個体との差異を成立させる構成的根拠を求める。

この点において、本理論は、個体性を原始的なものとして置く立場とは異なる説明方針を採用する。¹³

8.9.本理論の独自性

以上の比較から、本稿の独自性を明確にできる。

本稿は、前個体的差異、構造、個体化、同一性、非対称的依存および存在論的優先性という個々の概念を、すべて初めて導入したと主張するものではない。

これらの概念には、それぞれ重要な先行研究が存在する。

本稿の独自性は、それらを一つの説明構造へと統合したことにある。

第一に、個体化以前の差異的条件を前個体的差異場 Δ として位置づける。

第二に、差異的契機を構造的関係 Rᶜ によって組織化し、構造的不変項 K(S) を実現する構造 S を成立させる。

第三に、構成関係 C と個体化関係 I を区別することで、階層的な相互構成を説明する。

第四に、構造的不変項によって個体性と同一性の成立を説明する。

第五に、構造内部の非対称的な同一性決定関係から、規定次元に相対的な第一性を導く。

この一連の過程は、単に構造が個体よりも優先するという主張ではない。

個体性と第一性が成立するための条件そのものを、構造的な依存秩序によって説明することである。

9.予想される反論と応答

9.1.原始的個体性を認めてもよいのではないか

第一の反論は、個体性を原始的な事実として認める立場も可能なのだから、個体化根拠充足原理を採用する必然性はないというものである。

この反論は正しい部分を持っている。

本稿は、原始的個体性を認める立場が形式的に矛盾しているとは主張しない。

しかし、個体性の存在論的成立を説明しようとするのであれば、個体性を成立させる条件を明らかにしなければならない。

個体性を原始的な事実として認めることは、説明の出発点を設定する一つの方法である。

しかし、それによって個体性の成立が説明されたことにはならない。

本稿は、個体性を説明対象とする存在論として、個体化根拠充足原理を採用する。

この意味で、本原理はあらゆる形而上学的立場に論理的に強制されるものではないが、個体性の成立を構造的に説明しようとする理論にとって必要な原理である。

9.2.Δも無根拠な存在になっているのではないか

第二の反論は、個体性の根拠をΔに求めても、今度はΔそのものがなぜ存在するのかという問題が残るのではないかというものである。

この反論に対しては、説明対象を区別する必要がある。

本稿は、個体性の成立条件を説明しようとしているのであって、存在そのものの究極的な理由を説明しようとしているのではない。

Δは、個体化以前の差異的条件を備えた存在論的基礎として置かれる。

それは、個体性そのものを原始的な事実として置く立場とは異なる。

原始的個体性は、説明対象である個体性そのものを説明の最終地点に置く。

これに対してΔは、個体性をまだ持たない差異的条件を最終的な基礎に置く。

もちろん、なぜΔが存在するのかという究極的な問いには答えていない。

しかし、それは個体性の成立根拠を説明する問題とは異なる。

本理論においては、Δを最終的な存在論的基礎として採用することで、個体化の説明に関する無限後退を停止する。

したがって、本理論の説明が到達する最終的な基礎は、完成した個体ではなく、個体化を可能にする前個体的な差異である。

9.3.CとIの区別は、循環問題を定義によって回避しただけではないか

第三の反論は、CとIを異なる関係として定義しただけでは、構造と構造項の相互依存が循環する可能性を排除できないというものである。

この反論に対しては、異なる存在論的水準を区別する必要がある。

Cに参加する構造項は、下位水準においてすでに個体化されている。

一方、Iによって個体化されるのは、その項が上位構造の内部で持つ位置、役割および同一性条件である。

したがって、下位水準における個体性と、上位構造における構造的個体性は異なる。

ある細胞が細胞として存在することと、その細胞が特定の組織の内部でどのような構造項となるかは、同じ問題ではない。

また、最初の構造は、下位水準の完成した個体を前提とするCから成立するのではない。

前個体的差異場 Δ に内在する差異的規定可能性が構成的関係によって組織化されることによって成立する。

したがって、CとIの区別は単なる記号上の区別ではなく、それぞれの関係が成立する存在論的水準と対象の違いに基づいている。

ただし、前述のとおり、同一水準での相互依存が存在する場合には、それを別途説明しなければならない。この点を無視して、すべての循環が解消されたと主張することはできない。

9.4.構造的不変項 K(S) は恣意的に設定されるのではないか

第四の反論は、構造的不変項 K(S) が研究者によって恣意的に設定される可能性があるというものである。

確かに、同一の対象についても、何を同一性の基準とするかによって、注目される条件が異なる可能性がある。

例えば、組織について考える場合、組織としての同一性と、その組織の法的同一性では、維持されるべき条件が異なるかもしれない。

この問題に対しては、まず説明対象となる構造の範囲を明確にする必要がある。

本理論では、対象の設定、許容される変化、構成要素の交換可能性および構成的な必要条件を検討することによって、K(S) を特定する。

重要なのは、K(S) を研究者の主観的な判断だけで設定するのではなく、対象の同一性を成立させる構成的条件に基づいて特定することである。

また、複数の最小完全な閉包が存在する可能性も認めている。

したがって、構造の成立経路が複数ある場合には、それぞれの経路を区別して検討する。

本理論は、すべての構造について唯一のK(S)が機械的に決まると主張するものではない。

説明対象と同一性の基準を明確にしたうえで、その対象に必要な構成的条件を特定することを要求するのである。

9.5.第一性は最初から非対称性を前提としているのではないか

第五の反論は、第一性を非対称的な同一性決定関係として定義することによって、結論を最初から前提しているのではないかというものである。

この反論に対しては、構造的個体化と第一性を区別する必要がある。

本稿は、構造的個体化が成立すれば、必ず第一性が成立すると主張しているわけではない。

構造内部の項が対称的な同一性決定関係にある場合、第一性は成立しない。

また、ある項が他の項に部分的な影響を与えるだけの場合も、厳密な意味での第一性は成立しない。

第一性が成立するかどうかは、構造的不変項 K(S) と、その内部における同一性決定関係を分析することによって判定される。

つまり、本稿は第一性を無条件に仮定しているのではない。

構造内部において特定の非対称性が成立する場合に限り、その関係を第一性として認めるのである。

さらに、本稿でいう第一性は、存在一般についての絶対的な先行性ではない。

特定の構造と規定次元における同一性決定の優先性である。

そのため、第一性の成立条件は、対象とする規定次元を限定することによって明確になる。

9.6.完全に区別できない二つの個体はどうなるのか

本理論に対するもう一つの重要な反論は、内在的性質、関係的性質、構造的位置および歴史的条件のすべてにおいて完全に一致する二つの個体が存在する可能性である。

その場合、両者は数的に異なると主張できるのではないか。

本理論は、その可能性を論理的に排除するものではない。

しかし、そのような二つの存在者を数的に異なる個体として認めるのであれば、その差異を成立させる何らかの存在論的根拠が必要である。

もし、どの水準にも差異を成立させる根拠がないならば、本理論は、それらを二つの個体として区別する根拠を提示できない。

これは、個体の数的差異に何らかの構成的根拠を要求するという、本理論の存在論的選択である。

したがって、本理論は、あらゆる個体の複数性を無条件に認めるのではなく、複数性が成立するための実在的な差異を要求する。

9.7.構成要素が交換可能なら、第一性はどこに成立するのか

最後に、ある構造項の物質的な構成要素が交換可能である場合、その項が第一性を持つという主張が成立するのかという問題がある。

この問題では、特定の物質的な存在者と、その存在者が担う構造的な位置や役割を区別しなければならない。

ある構造項が別の存在者によって代替可能であり、その交換によって構造的不変項 K(S) が維持される場合、第一性は必ずしも特定の物質的な存在者に帰属するわけではない。

その場合、第一性を持つのは、代替可能な複数の存在者が担いうる構造的な位置や役割である可能性がある。

この区別によって、物質的な個体の交換可能性と構造的な同一性決定上の優先性を両立させることができる。

したがって、本理論における第一性は、特定の物質的な存在者が常に他の存在者より優先することを意味しない。

あくまで、構造内部の同一性条件を決定する構成的な位置や関係に基づいて成立する。

10.結論――第一性は構造の成立を通じて遡及的に確定する

本稿では、第一性が個体に先立って独立に存在するという存在論的前提を再検討し、個体性と存在論的優先性が構造的秩序によって成立することを論じた。

まず、個体性の成立を説明するためには、数的統一と他の個体との差異を成立させる実在的な根拠が必要であることを示した。

そのうえで、個体化以前の異質性と差異的規定可能性を備えた存在論的基礎として、前個体的差異場 Δ を導入した。

次に、Δ に内在する差異的契機が構成的関係 Rᶜ によって組織化されることで構造 S が成立し、その構造の同一性を維持する条件として構造的不変項 K(S) を導入した。

さらに、構造の境界 B(S) を、構造的不変項の実現に必要な最小完全な構成的依存関係の閉包として定義した。

また、構造と構造項の相互構成については、下位構造項による上位構造の具体的実現を示す構成関係 C と、上位構造による内部の構造項の個体化を示す個体化関係 I を区別した。

この区別によって、異なる存在論的水準における相互構成と、同一水準における説明上の循環を区別した。

そして、構造 S が成立すると、その内部の差異的契機は構造的な位置、役割および同一性条件を持つ構造項として個体化されることを示した。

最後に、構造内部の諸項のあいだに、特定の規定次元における完全かつ非対称的な同一性決定関係が成立する場合、その関係から第一性が導かれることを示した。

ここで重要なのは、構造的個体化が第一性の必要条件ではあるが、十分条件ではないという点である。

すべての構造に第一の項が存在するわけではない。

しかし、構造が内部の項を個体化し、その同一性条件を非対称的に規定する場合、第一性はその構造的依存秩序の内部に成立する。

以上の議論によって、本稿は次の結論に到達した。

あるものが何であり、なぜそれ自身として成立し、何に対して第一であるのかは、そのものが構造から独立して存在することによって先に決まるのではない。

そのものを成立させる構造的不変項と構成的依存秩序によって、構造の成立を通じて遡及的に確定する。

ここに「第一性の遡及的成立」の中心的な存在論的意味がある。

ただし、本稿で論証したのは、構造の内部における個体性・同一性・第一性の成立である。

構造が成立する以前に存在していた出来事や存在者の履歴が、後続する構造によってどのように構成的な前史として確定するのかという問題は、これとは区別して論証されなければならない。

なぜなら、構造内部の項の存在論的資格が成立することと、時間的に先行する履歴の存在論的資格が成立することは、同一の問題ではないからである。

したがって、第二論文では、本稿で確立した構造的不変項と構成的依存秩序を時間的な次元へと拡張し、後続構造による歴史的遡及構成の可能性とその成立条件を検討する。

その論証によって初めて、構造的・存在論的遡及性と時間的・歴史的遡及性を、一つの存在論的原理のもとに統合することができる。

注

注1 本稿でいう第一性は、時間的に最初のもの、因果系列の最初の原因、あるいはチャールズ・サンダース・パースのカテゴリーとしての Firstness を意味しない。特定の構造と規定次元において成立する存在論的優先性を意味する。

注2 個体化根拠充足原理は、ライプニッツの充足理由律と同一の原理ではない。本稿は、あらゆる存在者について究極的な理由を要求するのではなく、個体性の成立を説明対象とする理論に対して、その個体化根拠を要求している。

注3 個体性を原始的なものとして認める立場については、スコトゥスのこのもの性(haecceitas)が重要な比較対象となる。参照:Duns Scotus, Ordinatio II, d. 3, p. 1, q. 4, n. 76。本稿は、この立場の論理的可能性を否定するのではなく、個体性の成立を説明対象とする場合に何が必要となるのかを問題としている。

注4 シモンドンの前個体的なものについては、特に『形相と情報の概念に照らした個体化』序論および第一部を参照。シモンドンの個体化論と本稿の構造的個体化存在論は、個体を完成した出発点としない点で接点を持つが、両者を同一の理論とみなすことはできない。

注5 反事実的な検討は、構成的関係を識別するための方法の一つであり、因果関係の検討と同一ではない。構成的関係であるかどうかは、当該関係が構造的不変項と構造項の同一性条件をどのように成立させているかに基づいて判断される。また、代替可能性と複数の構成経路についても検討する必要がある。

注6 シモンドンの個体化論については注4を参照。本稿は、シモンドンの議論を前個体的差異の問題を考えるための重要な先行研究として扱うが、構造的不変項や第一性の概念をシモンドン自身に帰属させるものではない。

注7 ドゥルーズの差異と個体化の議論については、『差異と反復』第四章を中心に参照。本稿は、ドゥルーズの個体化論をそのまま採用するのではなく、前個体的差異から構造的同一性と第一性への接続を問題としている。

注8 ヘーゲルの規定性に関する議論については、『大論理学』存在論「規定性(質)」、特に「定在」「何かと他者」の展開を参照。本稿は、その議論を直接的な証明として使用するのではなく、規定と他者との関係を存在論的に考えるための背景として参照する。

注9 スピノザの複合個体については、『エチカ』第二部定理13の後の補助定理4〜7および補助定理7の備考を参照。特に、構成要素の交代と個体の同一性の維持に関する議論が、本稿の構造的不変項 K(S) の検討に関係する。

注10 存在論的構造実在論については、Ladyman(1998)および Ladyman et al.(2007)を参照。本稿は構造の存在論的重要性を共有するが、科学哲学上の構造実在論そのものを採用するわけではない。

注11 基礎づけ関係の概念的整理については、Fine(2012)、Correia and Schnieder(2012)および Lowe(2012)を参照。本稿の同一性決定関係は、一般的な基礎づけ関係と完全に同一ではなく、構造内部における個体化と第一性を説明するための関係である。

注12 シェファーの優先的一元論については、Schaffer(2010)を参照。全体の部分に対する優先性と、構造内部における項どうしの第一性は区別されなければならない。

注13 Duns Scotus, Ordinatio II, d. 3, p. 1, q. 4, n. 76 を参照。スコトゥスのこのもの性は、個体性の根拠を構造的関係に求めない立場との比較対象となる。

注14 本稿の「遡及的成立」は、時間的な逆因果を意味しない。構造の成立によって、その内部の項が持つ構造相対的な個体性・同一性・第一性が確定するという構造的・存在論的な意味で用いている。歴史的遡及性については第二論文で検討する。

参考文献

一次文献

Deleuze, Gilles. 1968. Différence et répétition. Paris: Presses Universitaires de France.

Deleuze, Gilles. 1994. Difference and Repetition. Translated by Paul Patton. New York: Columbia University Press.

Hegel, Georg Wilhelm Friedrich. 1812–1816. Wissenschaft der Logik.

Hegel, Georg Wilhelm Friedrich. 2010. The Science of Logic. Edited and translated by George di Giovanni. Cambridge: Cambridge University Press.

Simondon, Gilbert. 2005. L’individuation à la lumière des notions de forme et d’information. Grenoble: Jérôme Millon.

Simondon, Gilbert. 2020. Individuation in Light of Notions of Form and Information. Translated by Taylor Adkins. Minneapolis: University of Minnesota Press.

Spinoza, Benedictus de. [1677] 1925. Ethica. In Spinoza Opera, vol. II, edited by Carl Gebhardt. Heidelberg: Carl Winter.

Duns Scotus, John. 1973. Ordinatio. Liber Secundus. Distinctiones 1–3. In Ioannis Duns Scoti Opera Omnia, vol. VII. Vatican City: Typis Polyglottis Vaticanis.

二次文献

Correia, Fabrice, and Benjamin Schnieder, eds. 2012. Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality. Cambridge: Cambridge University Press.

Fine, Kit. 2012. “Guide to Ground.” In Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality, edited by Fabrice Correia and Benjamin Schnieder, 37–80. Cambridge: Cambridge University Press.

Ladyman, James. 1998. “What Is Structural Realism?” Studies in History and Philosophy of Science Part A 29 (3): 409–424.

Ladyman, James, Don Ross, David Spurrett, and John Collier. 2007. Every Thing Must Go: Metaphysics Naturalized. Oxford: Oxford University Press.

Lowe, E. J. 2012. “Asymmetrical Dependence in Individuation.” In Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality, edited by Fabrice Correia and Benjamin Schnieder, 214–233. Cambridge: Cambridge University Press.

Schaffer, Jonathan. 2010. “Monism: The Priority of the Whole.” The Philosophical Review 119 (1): 31–76.

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