はじめに
今回の論証で最も重要なのは、次の推論を完成させることだ。
- 存在者が一定の存在者として成立するためには、限定性が必要である。
- 限定性は、その存在者が他のあり方から区別されることを意味する。
- しかし、区別されることと、他の存在者に依存することは同じではない。
- それでも、限定性を持つ個体が、なぜ必ず構造的な秩序を必要とするのか。
ここで、ひとつ先に結論を述べておこう。
限定性だけから、直ちに構造的個体化の不可欠性が導かれるわけではない。限定性が存在者の構成条件であることに加えて、限定された諸規定が一つの個体として統一され、その個体の同一性を成立させるためには、それらを結びつける秩序が必要になる。
この秩序こそが、ここでいう構造である。
ただし、この構造は、すでに個体化された複数の存在者を外から結びつける関係ではない。個体を個体として成立させる、内在的な規定の秩序である。
したがって、今回の論証では、限定性から構造へと進むあいだに、次の三つの段階を明確に区別する。
- 限定性: あるものが、無限定な存在一般ではなく、一定のあり方を持つこと。
- 個体性: 諸規定が一つのものに属し、それが他のものから区別されること。
- 構造: その限定性、差異、統一性、同一性を成立させる規定の秩序。
この三段階を混同しないことが、論証を強化するための鍵になる。
なお、ここでいう「限定性」は、空間的な境界や有限性だけを意味しない。無限な存在者であっても、それが一定の本質や規定を持つかぎり、無限定な存在一般とは区別される。したがって、問題にしているのは、有限であることではなく、一定の存在者としての規定性を持つことである。
- 1. 限定性は、存在者の外部から付け加えられるものではない
- 2. 限定性から差異は導かれるが、外的依存は導かれない
- 3. 限定された規定があるだけでは、まだ個体性は成立しない
- 4. 個体性には、統一性だけでなく、同一性の条件も必要である
- 5. 構造とは何か――規定の集合ではなく、個体性を成立させる秩序
- 6. なぜ構造は個体性にとって不可欠なのか
- 7. 構造は、複数の部分を持たない単純な個体にも必要なのか
- 8. 構造的個体化は、外的依存を要求しない
- 9. 原始的な個体性を認める立場は、この論証に反論できるのか
- 10. 構造的個体化の不可欠性を、定理として定式化する
- 11. この論証は単なる定義による循環ではないのか
- 12. 構造的個体化の不可欠性は、どの範囲で成立するのか
- 13. ヘーゲルの限定性論と構造的個体化の位置づけ
- 14. 最終結論――個体性は、限定性と構造的秩序を通じて成立する
- 第一性の遡及的成立への接続
- 参考文献・関連箇所
- 今回の論証で確定したこと
1. 限定性は、存在者の外部から付け加えられるものではない
まず、限定性が何を意味するのかを確定しよう。
あるものが一定の存在者として成立しているということは、そのものが単に存在するというだけではなく、何らかの一定のあり方を持っているということである。
たとえば、あるものが赤いという規定を持つなら、それは赤くないものとは区別される。あるものが生物であるなら、それは非生物とは異なるあり方を持つ。あるものが特定の形態を持つなら、その形態を持たないものとは区別される。
このような区別は、私たちが外側から対象を比較することによって初めて成立するのではない。
赤いものは、誰かが青いものと比較する以前に、赤いものとして一定の規定を持っている。生物は、非生物と比較される以前に、生物としてのあり方を持っている。
もちろん、実際の認識においては、他のものとの比較によって対象の性質が明らかになることがある。しかし、認識上の比較と、存在論的な規定性とは区別しなければならない。
ここで重要なのは、あるものが一定のものとして存在することは、そのものが無限定な存在一般ではないことを含んでいるという点である。
もし、ある存在者に何の限定もなく、どのようなあり方であるかも定まっていないならば、それは特定の存在者としては規定されていない。
したがって、一定の存在者としての存在と限定性とは切り離せない。
ここで、限定性を単なる外的な境界として理解してはならない。
あるものが一定の存在者であるということは、そのものが外側から境界線を引かれたということではなく、そのものの存在が、一定の規定を持つということである。
この意味で、限定性は存在者の外部にある条件ではなく、存在者が一定の存在者として成立するための構成条件である。
1.1 限定性は、単なる否定ではなく、肯定的な規定である
限定性を「それではないもの」との関係だけで理解すると、限定性は単なる否定に見えてしまう。
しかし、あるものが他のものではないということは、それだけでは、そのものが何であるのかを明らかにしない。
たとえば、あるものが犬ではないということから、それが猫なのか、植物なのか、石なのかは分からない。
したがって、限定性は、単に他のあり方を排除することではない。
限定性には、あるものを一定のあり方として規定する肯定的な側面と、そのあり方ではないものを排除する否定的な側面がある。
この二つは分離できない。
肯定的な規定がなければ、何を排除しているのかが定まらない。反対に、否定的な契機がなければ、その肯定的な規定が他のあり方から区別された一定の規定として成立しない。
したがって、限定性とは、肯定的な規定と、それに内在する否定的な契機との統一として理解されなければならない。
この点で、ヘーゲル『大論理学』の有論「定在」の議論は、今回の論証にとって重要な手がかりを与えている。
ヘーゲルは、規定性を単なる肯定的な性質として扱わず、規定性には否定の契機が含まれていると論じる。さらに、あるものはその限界によって何であるかを持つと論じている(『大論理学』存在論「定在」§§190–203、§§240–246)。
ここで重要なのは、ヘーゲルの結論をそのまま採用することではない。
今回の理論に必要なのは、限定性を外から付け加えられる境界ではなく、あるものが一定のものとして成立するための内在的な規定として捉えることである。
したがって、第一段階の結論は次のようになる。
限定性とは、ある存在者が一定のあり方を持つための構成条件であり、その肯定的な規定と、他のあり方を排除する否定的な契機との統一である。
しかし、ここからまだ構造的個体化は導かれない。
なぜなら、一定の規定を持つことと、その規定を持つものが一つの個体として成立することとは、別の問題だからである。
2. 限定性から差異は導かれるが、外的依存は導かれない
ここで、今回の論証にとって最も重要な区別を導入しよう。
あるものが限定されていることは、そのものが他のものから区別されることを意味する。しかし、その区別が成立することから、ただちに、そのものが他のものの存在に依存しているという結論は導かれない。
たとえば、あるものが赤いという規定を持つことは、それが青いものとは異なることを意味する。しかし、赤いものが存在するために、実際に青いものが存在しなければならないわけではない。
赤と青の差異は、赤いものの規定を明確にするための対比として考えられるが、赤いものの存在を成立させるために、青いものが現実に存在する必要はない。
このことから、少なくとも次の三つの関係を区別しなければならない。
第一に、因果的依存である。
あるものが、別のものを原因として生じる場合、そのものは因果的に他のものに依存している。
第二に、存在論的依存である。
あるものが存在するために、別のものの存在を必要とする場合、そのものは存在論的に他のものに依存している。
第三に、構成的依存である。
あるものが一定のものとして成立するために、そのものを構成する規定や、それらの関係の秩序を必要とする場合、そのものは構成的にその秩序に依存している。
構造的個体化存在論が主張するのは、第三の意味での依存である。
したがって、構造的個体化は、すべての個体が他の個体によって存在させられていると主張するものではない。
ある個体が他の個体に依存せずに存在できるとしても、その個体が一定の個体であるための規定的な秩序まで不要になるわけではない。
ここでいう秩序は、必ずしも複数の実在する存在者のあいだに成立するものではない。
あるものが何であるかという肯定的な規定と、それではないものを排除する限界との関係は、そのものの内部に成立しうる。さらに、そのものが変化しても同じ個体として存続するための同一性の条件も、そのものの内在的な規定に含まれうる。
したがって、構造的個体化が要求するのは、外部の他者が存在しなければ個体が成立しないということではない。
個体が他者の存在に依存しなくても、個体性は、その個体自身の規定と限界との関係を含む構成的な秩序を必要とする。
この意味で、構造的個体化における「他者」は、必ずしも現実に存在する他の個体ではない。
それは、あるものがそれ自身であるために排除している別のあり方、つまり、そのものの限定性に内在する否定的な契機でありうる。
この区別によって、外的依存を認めることなく、限定性から構造へと進む道が開かれる。
3. 限定された規定があるだけでは、まだ個体性は成立しない
ここから、今回の論証の核心に入ろう。
あるものが限定性を持つということは、そのものが何らかの規定を持つということである。
しかし、規定を持つことと、その規定を持つものが一つの個体として成立することは、同じではない。
たとえば、あるものが赤く、丸く、一定の重さを持つとしよう。
この三つの規定が存在することだけでは、それらが一つの個体に属していることは説明されない。
赤いものがあり、丸いものがあり、一定の重さを持つものがあるということと、赤く、丸く、一定の重さを持つ一つの対象が存在することとは、区別される。
三つの規定が単に並んでいるだけなら、それらは一つの個体を構成しているとは限らない。
ここでは、限定性から個体性へ進むために、諸規定の統一性という契機が必要になる。
3.1 個体性は、規定の集合ではなく、規定の統一である
個体性を、複数の性質や規定が一つの対象に集まっている状態として理解するだけでは不十分である。
なぜなら、単なる集合には、それを一つの個体として成立させる原理が含まれていないからだ。
ある対象が複数の規定を持つ場合、それらが一つの個体に属するということには、少なくとも次の条件が必要になる。
- それぞれの規定が、同じ個体に属するものとして結びついていること。
- 諸規定が互いに矛盾せず、一定の存在様式を形成していること。
- 何がその個体に属し、何が属さないのかを区別できること。
- 変化が生じても、どの範囲で同一の個体として存続するのかが定まっていること。
これらは単に性質が複数存在するという事実からは導かれない。
諸規定が一つの個体に属するためには、それらのあいだに、同一の個体を構成するものとしての関係がなければならない。
ここでいう関係は、必ずしも外部の対象との関係ではない。
それぞれの規定が、その個体のどのようなあり方を示すのか、他の規定とどのように両立するのか、全体のなかでどのような役割を持つのかという、内在的な秩序である。
したがって、個体性とは、規定の単なる集合ではなく、諸規定が一つのものとして統一されているあり方である。
この統一性がなければ、限定された規定がいくつ存在していても、それらが一つの個体を構成していることにはならない。
3.2 統一性には、規定相互の秩序が必要である
では、諸規定が一つの個体に属するということは、何を意味するのだろうか。
それは、諸規定が無関係に並んでいるのではなく、互いに一定の関係を持っているということだ。
ここでいう関係は、単なる外的な隣接ではない。
ある規定が別の規定を制約したり、別の規定と両立したり、全体の成立に必要な役割を持ったりすることによって、諸規定は一定の秩序を形成する。
たとえば、生物の諸機能は、単に同じ身体のなかに存在しているだけではない。それぞれの機能は他の機能と一定の関係を持ち、その相互関係によって生命活動の統一性が成立している。
もちろん、生物の例だけから、すべての存在者が同じ種類の組織を持つと結論することはできない。
ここで導きたいのは、個体の具体的な組織の種類ではない。
重要なのは、複数の規定が一つの個体を構成するためには、それらを一つの個体に属するものとして結びつける秩序が必要であるという点である。
そして、この秩序は、規定の集合に後から付け加えられるものではない。
諸規定が一つの個体に属しているということ自体が、すでに規定相互の一定の秩序を意味しているからだ。
したがって、個体性を構成する秩序は、個体性が成立した後に付け加えられる外的な関係ではない。
それは、限定された諸規定が一つの個体として成立するための構成条件である。
4. 個体性には、統一性だけでなく、同一性の条件も必要である
ここまでの議論から、個体性には、限定された諸規定を統一する秩序が必要であることが導かれた。
しかし、まだ問題が残っている。
あるものが一つの個体として成立しているとしても、その個体がどのようにして同じ個体であり続けるのかという問いがあるからだ。
個体は、一般に、何らかの変化を経験する。
あるものの性質が変化したり、構成要素が入れ替わったり、他のものとの関係が変化したりしても、同じ個体として存続する場合がある。
反対に、ある変化が生じたとき、それまでの個体が失われ、別の個体が成立したと判断される場合もある。
この違いを理解するためには、その個体の同一性が何によって保たれているのかを説明しなければならない。
4.1 同一性は、単なる性質の不変性ではない
同一の個体として存続するということは、その個体のすべての性質が変化しないということではない。
もしすべての性質が不変でなければ同一の個体ではないとするならば、変化する存在者は、変化のたびに別の個体になってしまう。
しかし、実際には、ある個体は性質を変化させながらも、同一の個体として存続することがある。
したがって、同一性の条件は、個体の性質が完全に固定されていることではない。
必要なのは、どのような変化がその個体の同一性と両立し、どのような変化がその個体の成立を破壊するのかを区別する基準である。
これは、個体の諸規定のあいだに、一定の優先関係や依存関係があることを意味する。
ある規定は、個体の同一性を維持するために不可欠であるかもしれない。他の規定は、変化しても個体の同一性を損なわないかもしれない。
どの規定が個体の成立にとって本質的であり、どの規定が変化可能であるのかを区別することによって、個体の同一性は理解可能になる。
4.2 個体の同一性は、構造的な秩序において成立する
ここで重要なのは、個体の同一性を、時間のなかで不変な何かが存在することによって説明する必要はないという点である。
同一性を維持するものは、必ずしも変化しない実体的な核である必要はない。
むしろ、個体の同一性は、諸規定がどのように組織化され、どのような変化を許容し、どのような変化を排除するのかという秩序によって理解できる。
ここでは、個体の同一性は、静的な性質の不変性ではなく、変化を含みながら一定の統一性を維持する構造的な秩序として捉えられる。
このことから、個体性の成立には、少なくとも次の三つの契機が必要であることが分かる。
- 限定性: その個体が何であり、何ではないかを規定すること。
- 統一性: 諸規定が一つの個体に属するものとして結びついていること。
- 同一性: 変化のなかで、何をもって同一の個体とみなすかが定まっていること。
そして、この三つの契機は、互いに無関係な事実として並んでいるのではない。
限定性は、個体を他のあり方から区別する。統一性は、限定された諸規定を一つのものとして成立させる。同一性は、その統一がどのような変化を通じて維持されるのかを規定する。
これらの関係を一つの存在論的な秩序として捉えたものが、構造である。
5. 構造とは何か――規定の集合ではなく、個体性を成立させる秩序
ここまでの議論を踏まえると、構造という概念を、より厳密に定義できる。
構造を単に「複数の規定の集合」と考えるならば、個体化の根拠としては不十分である。
集合は、そこに含まれる諸要素が存在することを示すだけで、それらがなぜ一つの個体を構成するのかを説明しないからだ。
また、構造を「複数の個体のあいだに成立する関係」とだけ定義するならば、個体がすでに成立していることを前提にしてしまう。
これでは、個体性を説明するために個体性を前提にするという循環が生じる。
したがって、構造は、個体性を成立させる条件を満たす秩序として定義されなければならない。
ここで、構造を次のように定義しよう。
構造とは、ある存在者を一定のものとして成立させる諸規定が、相互の差異、限定、統一、同一性の条件において組織化されている内在的な秩序である。
この定義には、四つの契機が含まれている。
5.1 差異化の契機
構造は、ある存在者を他のあり方から区別する規定を含む。
あるものが一定のものであるためには、それが何であるかだけでなく、何ではないかという限界も成立していなければならない。
この限界は、外部から恣意的に付け加えられる境界ではなく、そのものの規定に内在する。
したがって、構造は、単なる肯定的な性質の集合ではなく、肯定的な規定と否定的な限界との関係を含む。
5.2 統一化の契機
構造は、異なる諸規定を一つの個体として統一する。
あるものが複数の規定を持つ場合、それらは単に並存しているのではなく、同一の個体を構成するものとして関係づけられている。
この関係がなければ、諸規定は一つの個体の規定ではなく、単なる複数性にとどまる。
したがって、構造は、差異を消去することなく、それらを一つの個体として統一する秩序である。
5.3 同一性の契機
構造は、個体がどのような変化を経験しても同じ個体として存続できるのか、その条件を含む。
すべての規定が不変である必要はない。しかし、どの規定が個体の同一性を支え、どの規定が変化可能なのかは、一定の秩序のなかで区別されなければならない。
したがって、構造は、個体の静的な状態だけでなく、その個体が変化のなかで同一性を維持する条件も含む。
5.4 内在性の契機
構造は、個体の外部に独立した存在者として存在するものではない。
構造は、個体の諸規定が一定の秩序を形成しているという、その個体自身の存在のあり方である。
したがって、構造は個体とは別の実体ではない。
個体と構造は、独立した二つのものではなく、同一の存在状況を、個体という側面と、その個体を成立させる秩序という側面から捉えたものである。
この四つの契機をまとめると、構造は次のように理解できる。
構造とは、限定された差異を一つの個体として統一し、その個体の同一性を成立させる内在的な規定の秩序である。
ここで重要なのは、構造を構成する諸契機が、個体とは別の部品として存在しているわけではないということだ。
差異化、統一化、同一性、内在性は、個体を成立させる秩序の異なる側面である。
したがって、構造的個体化は、個体を複数の部品に分解する理論ではない。個体が一つの個体として成立するための、構成的な秩序を明らかにする理論なのである。
6. なぜ構造は個体性にとって不可欠なのか
ここで、中心となる論証を整理しよう。
あるものが限定性を持つとしても、その限定性だけでは個体性が成立するとは限らない。
なぜなら、限定性は、あるものが一定の規定を持つことを示すが、その規定がどのように一つの個体を形成するのかまでは示さないからだ。
そこで、個体性が成立するための条件を、順に確認してみよう。
6.1 限定性だけが存在し、統一性が存在しない場合
複数の限定された規定が存在していても、それらが一つのものとして統一されていなければ、そこには複数の規定があるだけで、一つの個体があるとは言えない。
したがって、個体性には、諸規定を一つのものとして結びつける統一の条件が必要になる。
6.2 統一性だけが存在し、差異が存在しない場合
反対に、何の区別もない単なる一体性を考えてみよう。
そこには、一つであるということ以外に、何がその存在者を一定のものとして成立させているのかがない。
このようなものは、特定の個体というよりも、未規定の一体性にとどまる。
したがって、個体性には、統一されるべき差異や限定性が必要になる。
6.3 差異と統一性が存在しても、同一性の条件が存在しない場合
諸規定が区別され、一つのまとまりを形成していても、そのまとまりがどのような変化を通じて同一の個体であり続けるのかが定まっていなければ、個体の同一性は説明されない。
したがって、個体性には、変化と同一性との関係を規定する秩序が必要になる。
以上から、個体性の成立には、次の三つが不可欠である。
- 差異を成立させる限定性。
- 差異を一つの個体に結びつける統一性。
- 変化のなかで同一性を維持する条件。
そして、この三つは、互いに独立したものとして並んでいるのではない。
限定性が差異を成立させ、統一性がその差異を一つの個体に結びつけ、同一性の条件がその統一を一定の秩序として維持する。
この相互関係が存在しなければ、個体性は成立しない。
したがって、ここで導かれるのは、単に「個体性には複数の性質が必要である」という結論ではない。
個体性の成立には、差異、統一性、同一性を相互に規定する秩序が必要である。
そして、この秩序こそが構造である。
この意味で、構造は個体性に偶然付随するものではない。
構造は、個体性が個体性として成立するための構成条件なのである。
7. 構造は、複数の部分を持たない単純な個体にも必要なのか
ここで、構造的個体化に対する重要な反論を考えよう。
ある個体が単純なものであり、内部に複数の部分や性質を持たない場合にも、構造が必要なのだろうか。
たとえば、分割不可能な単純実体を想定することができる。
もし構造が、複数の部分や規定のあいだの関係だけを意味するならば、そのような単純実体には構造が存在しないことになる。
したがって、構造的個体化の理論は、構造と複雑性を同一視してはならない。
7.1 構造的であることは、部分を持つことではない
構造を、複数の部分から構成されるものとしてだけ定義するならば、単純実体は構造を持たないことになる。
しかし、ここでの構造概念は、存在者を構成する部品の数を意味していない。
構造とは、存在者が一定のものとして成立するための規定の秩序である。
したがって、構造は、部分の数が多いか少ないかとは別の問題である。
あるものが単純であっても、それが一定のものとして存在するためには、無限定な存在一般とは区別されていなければならない。
つまり、そのものが何であるかという規定と、その規定が排除する別のあり方との区別を含んでいる。
ここでは、複数の独立した部分を想定する必要はない。
必要なのは、一つの存在者が、自らの規定とその限界との関係において、一定のものとして成立しているということである。
この関係を、自己関係的な構造と呼ぶことができる。
7.2 自己関係的構造とは何か
自己関係的構造とは、ある存在者が、他の実在する個体との関係を介さずに、自らの規定と限界との関係において成立している秩序である。
ここで「自己関係」とは、存在者が自分自身を原因として生み出すという意味ではない。
また、存在者が意識的に自分自身を認識しているという意味でもない。
それは、あるものが一定のものとして存在するために、自らの規定と、それによって排除される別のあり方との関係を含んでいるという意味である。
たとえば、ある単純な存在者が、ただ一つの基本的な規定によって成立していると考えてみよう。
その存在者は、その規定を持つことによって一定のものとして区別される。その規定は、別のあり方を排除する。その規定がその存在者の同一性を担うならば、その存在者は、その規定とその限界との関係において成立している。
ここでは、複数の部分や独立した実体を必要としない。
それでも、規定と限界、自己同一性と他のあり方との差異という構造的な契機は存在する。
したがって、単純実体であることは、構造を持たないことを意味しない。
単純性は部分の不在を意味しうるが、規定性や自己同一性の構造までを否定するものではない。
この区別によって、構造的個体化は、複雑な複合個体だけでなく、単純な個体にも適用できる。
7.3 無限な存在者にも構造は必要なのか
さらに、無限な存在者について考えよう。
限定性を有限性と同一視するならば、無限な存在者には限定性がないという結論になりかねない。
しかし、有限であることと、一定の規定を持つことは同じではない。
ある存在者が空間的に限界を持たないとしても、その存在者がどのようなものなのかという規定まで持たないわけではない。
したがって、無限であることは、必ずしも無規定であることを意味しない。
あるものが無限でありながら一定の本質を持つならば、そのものは無限定な存在一般ではない。
この場合、構造は外部的な境界としてではなく、その存在者の本質や内的な規定の秩序として理解される。
したがって、構造的個体化の理論が主張する限定性は、有限な範囲に閉じ込められているという意味ではない。
それは、ある存在者が一定の存在者として成立しているという意味での限定性である。
この区別によって、構造的個体化の理論は、単純な存在者や無限な存在者を直ちに排除する必要がなくなる。
8. 構造的個体化は、外的依存を要求しない
ここまでの論証から、構造的個体化における構造は、単なる外的関係ではないことが明らかになった。
しかし、ここはもう一度、明確にしておく必要がある。
構造を関係の秩序として定義すると、構造的個体化は、すべての個体が他の個体との関係によって成立するという主張に見えるかもしれない。
もしそうであれば、孤立した個体や、他の存在者に依存しない単純実体を説明できなくなる。
しかし、構造的個体化は、そのような外的依存を前提としていない。
8.1 外的関係と内在的関係
まず、二つの関係を区別しよう。
外的関係とは、すでに成立している複数の個体のあいだに成立する関係である。
たとえば、ある物体が別の物体に接触している場合、その接触関係は、二つの物体のあいだに成立している。
これに対して、内在的関係とは、ある個体が一定の個体として成立するために、その個体自身の規定の秩序に含まれている関係である。
この関係は、すでに個体化された複数の対象が外部で結びつくことを必要としない。
たとえば、ある存在者の規定が、その存在者の限界を定め、その限界がその存在者の同一性を成立させている場合、その規定と限界の関係は、その存在者の内在的な秩序として理解できる。
したがって、構造的個体化における構造は、外的関係だけでなく、内在的関係や自己関係的な秩序を含む。
このことによって、孤立した個体についても、構造的個体化を適用することができる。
8.2 他の存在者がなくても、限定性は成立する
たとえば、宇宙にただ一つの個体しか存在しないと仮定しよう。
その場合、その個体を区別するための他の実在する個体は存在しない。
しかし、その個体が一定の存在者であるならば、それがどのようなものなのかという規定は存在している。
そして、その規定は、それとは異なる別のあり方を排除している。
したがって、現実に他の個体が存在しないとしても、限定性は成立しうる。
ここでいう「他のあり方」は、必ずしも現実に存在する別の対象ではない。あるものが一定のものであることによって排除されている、別の可能な規定やあり方である。
この意味で、限定性は、現実に存在する他者への依存を必要としない。
8.3 構造は、個体の外部にある第二の存在者ではない
さらに重要なのは、構造を、個体とは別に存在する何かとして扱わないことである。
構造を独立した実体として措定すると、個体性を説明するために別の存在者を導入することになる。
しかし、構造的個体化の理論が要求するのは、個体とは別の存在者ではない。
構造とは、その個体の規定、限界、統一性、同一性が、どのように一つの秩序を形成しているかということである。
したがって、構造は個体を外から支配するものではない。
構造とは、個体がその個体として成立していることの、内在的な秩序のことである。
この区別によって、構造的個体化は、外的依存を要求することなく、あらゆる個体の成立条件を説明することができる。
9. 原始的な個体性を認める立場は、この論証に反論できるのか
ここで、最も強い反論を検討しなければならない。
それは、個体性を構造によって説明する必要はなく、個体性そのものが原始的であるとする立場である。
たとえば、ある対象には、その対象を他の対象から区別する、還元不可能な「このものであること」が備わっていると考えることができる。
この立場では、個体性は、性質や関係によって構成されるのではない。
個体性そのものが原始的な事実なのである。
この反論は、構造的個体化の理論にとって重要である。なぜなら、限定性や差異を持つ個体が存在することを認めながら、その個体性を構造によって説明する必要はないと主張できるからだ。
ここでは、二つの場合を区別しよう。
9.1 個体性そのものを原始的事実として認める場合
ある対象が他の対象と数的に異なることを、原始的な「このものであること」によって説明する場合、その個体性は、それ以上の規定や関係に基礎づけられない。
この立場は、論理的に矛盾しているわけではない。
しかし、個体化根拠充足原理を採用する立場から見ると、ここでは個体性が説明の対象から除外されている。
つまり、あるものが他のものとは異なるという事実は認められるが、その差異がどのように成立しているのかは説明されない。
これは、構造的個体化の論証が否定しようとしている、原始的個体性の立場そのものである。
したがって、原始的個体性を認めることは、構造的個体化の必要性を反駁するものではない。
それは、個体性を説明の終点として認める別の存在論的選択を提示しているのである。
9.2 個体性を成立させる固有の本質を認める場合
もう一つの場合を考えよう。
個体性が原始的な事実ではなく、それぞれの個体に固有の本質や規定によって成立すると考えることができる。
たとえば、ある個体には、それを他の個体から区別する固有の規定が備わっているという立場である。
この場合、その固有の規定が何であり、どのようにして個体の同一性を成立させるのかを説明する必要がある。
もし、その固有の規定が個体の性質や構造のなかに位置づけられるならば、それは構造的個体化の理論に組み込むことができる。
反対に、その固有の規定が個体とは独立した何かとして存在し、個体を一方向的に成立させると考えるならば、その規定と個体との関係を説明する必要がある。
その関係が個体の成立条件を規定するならば、そこにはすでに構成的な秩序が存在している。
つまり、個体性を成立させる本質を認めても、その本質がどのように個体の限定性、統一性、同一性を成立させるのかを説明するならば、議論は構造的個体化へと進む。
9.3 構造的に完全に識別不能な複数の個体は存在するのか
さらに、より厳しい問題を考えよう。
二つの対象が、内部的な規定においても、外部的な関係においても、時間的な履歴においても、完全に同一であるとする。
それでも両者は数的に異なると主張できるだろうか。
この可能性を認めるならば、構造的な差異がまったく存在しないにもかかわらず、個体性の差異だけが成立することになる。
この場合、構造的個体化の理論は、個体性の差異を構造から説明できない。
したがって、ここには明確な選択がある。
一方では、構造的に完全に識別不能な対象が、なお数的に異なる個体として存在すると認めることができる。その場合には、個体性を原始的な事実として認める余地が残る。
他方では、数的に異なる個体が存在するならば、その個体性の差異には、何らかの個体化根拠が必要であると考えることができる。
構造的個体化の理論が採用するのは後者である。
したがって、構造的に完全に識別不能でありながら数的に異なるという主張は、論理的に不可能だと証明されるわけではない。しかし、その差異を原始的なものとして認めることは、個体化根拠充足原理を放棄することになる。
この点は、理論の弱点として隠すべきではない。
むしろ、構造的個体化存在論が、どのような存在論的前提を採用するのかを明確にするために、正面から認めるべきである。
個体性の差異が構造的な差異を持たないまま原始的に成立するという立場は、構造的個体化存在論とは異なる存在論的選択である。
構造的個体化存在論は、そのような原始的個体性を採用しない。なぜなら、個体性を説明の対象として維持するという立場を採用しているからである。
10. 構造的個体化の不可欠性を、定理として定式化する
ここまでの議論を踏まえて、中心となる論証を定理としてまとめよう。
基本原理
原理I:限定性の原理
ある存在者が一定の存在者として成立するためには、何らかの規定を持たなければならない。規定を持つことは、他のあり方を排除する限界を含む。
原理II:個体性の原理
ある存在者が一つの個体として成立するためには、その存在者を他のものから区別するだけでなく、諸規定が一つのものとして統一されていなければならない。
原理III:同一性の原理
ある存在者が個体として成立するためには、その個体がどのような変化を通じて同一の個体として存続するのかという条件が成立していなければならない。
原理IV:個体化根拠の原理
個体性を存在論的に説明する理論は、個体性を原始的な事実として無条件に措定するのではなく、その個体性を成立させる根拠を明らかにしなければならない。
原理V:内在性の原理
個体性を構成する根拠は、すでに個体化された別の存在者を必ずしも必要としない。個体の内部的・自己関係的な規定の秩序によっても成立しうる。
定理:構造的個体化の不可欠性
ある存在者が、限定性と差異を持つ一つの個体として成立するためには、その限定性、差異、統一性、同一性を相互に規定する内在的な構造的秩序が必要である。
証明
ある存在者を x とする。
x が一定の個体であると仮定する。
原理Iによれば、x は一定の規定を持ち、それによって他のあり方から限定されている。
しかし、規定が存在することだけでは、x が一つの個体であることは説明されない。
原理IIによれば、x が一つの個体であるためには、その諸規定が一つのものとして統一されていなければならない。
また、原理IIIによれば、x が同一の個体であり続けるためには、その統一性がどのような変化を許容するのかという条件が必要である。
したがって、x の個体性には、少なくとも次の三つの契機が必要である。
- x を他のあり方から限定する規定。
- その規定を一つの個体として統一する関係。
- その個体の同一性を成立させる条件。
これらの契機は、互いに独立した事実として並んでいるだけでは、x の個体性を説明できない。
なぜなら、限定された規定が一つの個体として成立するためには、それらが同一のものに属するという関係を持ち、さらに、その関係が同一性を維持する秩序を形成していなければならないからである。
したがって、それらのあいだには、限定、差異、統一、同一性を相互に規定する秩序が必要である。
この秩序が、構造である。
さらに、原理Vによれば、この構造は、すでに個体化された別の存在者によって外から与えられる必要はない。個体自身の規定と限界との関係において、内在的に成立しうる。
よって、x が限定性と差異を持つ一つの個体として成立するためには、内在的な構造的秩序が必要である。
以上によって定理が証明された。
11. この論証は単なる定義による循環ではないのか
ここで、もう一つの重要な問題を解決しておこう。
以上の論証では、構造を、限定性、差異、統一性、同一性を相互に規定する秩序として定義した。
すると、次の反論が考えられる。
個体性を成立させる秩序を構造と呼ぶことにしたのだから、個体性には構造が必要だという結論が出るのは当然ではないか。それは単なる定義上の帰結ではないのか。
この反論に対しては、構造の定義と、構造が個体性に必要であることの論証を区別しなければならない。
今回の論証は、単に「個体性を成立させるものを構造と呼ぶ」と宣言したのではない。
そこでは、個体性を成立させるために必要な条件を、限定性、統一性、同一性という三つの側面から取り出した。
そして、それぞれが独立して存在するだけでは個体性を説明できず、それらが相互に関係づけられていなければならないことを示した。
最後に、その相互関係を、構造として定式化したのである。
したがって、構造の定義は恣意的なものではない。個体性の成立に必要な条件を分析した結果として導かれている。
もちろん、構造的個体化の理論が実際の対象に適用されるときには、その構造の具体的な内容を明らかにしなければならない。
たとえば、ある個体について、
- 何がその個体を他のものから区別しているのか。
- どのような規定が、その個体の統一性を成立させているのか。
- どのような変化が、その個体の同一性と両立するのか。
- どのような変化が、その個体の成立を破壊するのか。
ということを示す必要がある。
これらに答えられないまま、単に「その個体には構造がある」と述べるだけならば、構造という概念は説明力を持たない。
したがって、構造的個体化の理論においては、構造の存在を宣言することと、構造の内容を説明することを区別しなければならない。
この区別によって、構造は単なる言い換えではなく、個体の限定性、統一性、同一性を説明するための実質的な概念となる。
12. 構造的個体化の不可欠性は、どの範囲で成立するのか
ここまでの論証によって、構造的個体化の不可欠性は、一定の条件のもとで示された。
ただし、その射程を正確に確定しておかなければならない。
12.1 あらゆる存在者とは、あらゆる個体的な存在者である
今回の定理が直接対象とするのは、限定性を持つ存在者一般のうち、さらに一つの個体として成立している存在者である。
純粋に無規定な存在一般を、特定の個体と同じ意味で扱うことはできない。
なぜなら、個体性とは、あるものが一定のものとして区別され、統一されていることだからである。
したがって、構造的個体化の理論が主張するのは、あらゆる存在一般に必ず複雑な構造があるということではない。
それは、限定性を持ち、一つの個体として成立する存在者は、必ず何らかの構造的秩序を備えているということである。
12.2 構造は複雑性を意味しない
構造的個体化は、すべての個体が多数の部分や性質から構成されていると主張するものではない。
単純な個体は、単純な構造を持つことができる。
その構造は、ある規定とその限界、自己同一性との関係という、最小限の内在的な秩序でありうる。
したがって、構造的個体化の理論にとって、単純性は反例にならない。
12.3 構造は外的依存を意味しない
個体の構造は、その個体自身の内在的な規定の秩序として成立しうる。
したがって、構造的個体化は、すべての個体が実際に他の個体の存在を必要とするという主張ではない。
個体が他の個体から独立して存在できることと、その個体が構造的な秩序を必要とすることは両立する。
12.4 原始的個体性との対立は、存在論的な選択として残る
最後に、原始的個体性を認める立場についてである。
限定性と差異を持つ個体が、構造的な根拠を持たないまま存在すると主張することは、論理的に矛盾しているわけではない。
しかし、その場合には、個体性を説明の対象から除外するという存在論的な選択を行うことになる。
構造的個体化存在論は、その選択を採用しない。
個体性の成立条件を説明することを目指す以上、個体性を構造的な秩序によって理解することを要求する。
したがって、今回の定理は、原始的個体性の立場を純粋な論理によって完全に排除するものではない。
むしろ、個体化根拠充足原理を採用する存在論において、なぜ構造的個体化が不可欠であるのかを示すものである。
これは理論の弱さではない。どのような存在論的前提から、どのような結論が導かれるのかを明示することは、理論の論証を強くするために必要だからである。
13. ヘーゲルの限定性論と構造的個体化の位置づけ
ここで、今回の議論をヘーゲルの論理学と比較しておこう。
ヘーゲル『大論理学』存在論の「定在」では、存在者の規定性が、単に肯定的な性質として与えられるのではなく、否定の契機を含むものとして展開される。
特に重要なのは、次の三つの箇所である。
第一に、§203では、規定性が肯定的なものとして措定された否定であるという命題が扱われる。これは、限定性が、肯定的な規定と否定的な契機を切り離せないことを示す議論として読める。
第二に、§236では、あるものの内的な規定と、その外的なあり方との関係が論じられる。ここでは、あるものの内的な規定が、他のものとの関係に開かれていること、そして外的な規定も、そのもの自身の内在的な規定と無関係ではないことが示される。
第三に、§242では、あるものがその限界によって何であるかを持つという論点が展開される。限界は、単にあるものがそこで終わる境界ではなく、そのものが何であるかを規定する契機として扱われている。
これらは、今回の構造的個体化の論証と重要な接点を持っている。
ただし、ヘーゲルの議論を参照することと、今回の定理がヘーゲルによって証明されていることとは区別しなければならない。
今回の理論は、限定性の内在性を出発点としながら、さらに個体の統一性と同一性の条件を明示し、それらを構造的秩序として定式化する。
つまり、ヘーゲルの議論が限定性と否定性の内的な結びつきを考えるための重要な哲学的背景になる一方で、構造的個体化の理論は、その結びつきを個体性の成立条件へと展開するのである。
また、個体化を認識上の対象の識別ではなく、対象を一つのものとして成立させる存在論的関係として捉えることは、現代形而上学における個体化論とも接点を持つ。E・J・ロウは、個体化を認識上の意味と存在論的な意味に区別し、後者を、ある対象を一つの対象として成立させ、他のものから区別するものとして説明している。
この区別は、今回の理論にとっても重要である。構造的個体化が問題にするのは、私たちが対象を識別する方法ではなく、対象がそもそも一つの個体として成立するための存在論的条件だからである。
14. 最終結論――個体性は、限定性と構造的秩序を通じて成立する
ここまでの論証を、最後に整理しよう。
出発点は、あるものが一定の存在者として成立するためには、限定性が必要であるという主張だった。
この主張から、まず、限定性は外側から付け加えられる境界ではなく、あるものが一定の規定を持つための構成条件であることが導かれた。
次に、限定性には肯定的な規定と、それとは異なるあり方を排除する否定的な契機が含まれることを確認した。
しかし、限定性だけでは個体性は成立しない。
限定された諸規定が存在することと、それらが一つの個体を構成していることは異なるからである。
個体性が成立するためには、諸規定が一つのものとして統一されていなければならない。さらに、変化のなかで同一の個体として存続するための条件も必要になる。
したがって、個体性の成立には、限定性、差異、統一性、同一性を相互に結びつける秩序が必要である。
この秩序が構造である。
ここで重要なのは、構造が、すでに成立した複数の個体を外から結びつける関係ではないということだ。
構造は、個体自身の規定と限界、統一性と同一性が、どのように一つの秩序を形成しているかを示すものである。
したがって、構造的個体化は、他の存在者への因果的依存や存在論的依存を必要としない。
単純な個体も、無限な存在者も、それが一定のものとして成立しているかぎり、その規定と限界との関係において構造的に理解されうる。
以上を踏まえると、今回の論証から次の定理が導かれる。
構造的個体化の不可欠性定理
限定性を持つ存在者が一つの個体として成立するためには、その限定性と差異を一つのものとして統一し、その個体の同一性を成立させる内在的な構造的秩序が必要である。構造は個体性に外から付加されるものではなく、個体がその個体として成立するための構成条件である。
この定理によって、今回の問題に対する答えが確定する。
なぜ限定性と差異を持つ個体性は、必ず構造的秩序を必要とするのか。
それは、限定性と差異だけでは、まだ一つの個体が成立しないからである。
限定性は、そのものを一定のあり方として規定する。しかし、その限定された諸規定が、なぜ一つのものとして統一され、どのようにして同一の個体として成立するのかを明らかにするには、さらに規定相互の秩序が必要になる。
したがって、構造は限定性の後に付け加えられるものではない。
限定性が一つの個体の限定性として成立するために、すでに必要とされている秩序なのである。
このことから、構造的個体化存在論の基本的な主張を、次のように定式化できる。
存在者は、まず無限定な個体として成立し、その後に他のものと区別されるのではない。また、限定された諸規定が単に集まることによって、後から個体性が生じるのでもない。限定性、差異、統一性、同一性が一つの内在的な秩序を形成することによって、存在者は一定の個体として成立する。したがって、個体性は構造的個体化の結果であり、構造は個体性の成立条件である。
ここで、構造的個体化の不可欠性は、単なる経験的な一般化ではなく、個体性というものが成立するための構成条件についての存在論的な主張となる。
なお、この結論が依拠しているのは、個体性を原始的な事実として無条件に措定せず、その成立根拠を説明するという、すでに正当化した個体化根拠充足原理である。原始的個体性をあえて認める立場を論理的に排除したわけではない。しかし、その立場は、ここで示した構造的説明を採用しない別の存在論的選択となる。
したがって、今回の論証は、構造的個体化の理論が何を前提とし、そこからどのような結論を導くのかを明確にしたうえで、限定性から構造的秩序への必然的な連関を示したものである。
第一性の遡及的成立への接続
最後に、この結論を「第一性の遡及的成立」に接続しておこう。
あるものが一つの個体として成立するためには、限定性、差異、統一性、同一性を成立させる構造的秩序が必要である。
このことは、あるものが特定の構造において第一のものとして成立する場合にも重要な意味を持つ。
なぜなら、第一性もまた、構造から独立して成立する原始的な性質としてではなく、あるものが構造のなかで占める位置と、その位置を成立させる関係の秩序に即して理解されるからである。
個体性が構造的秩序によって成立するのと同じように、第一性もまた、構造的秩序における優先関係によって成立する。
ただし、個体性と第一性は同じものではない。
個体性は、あるものが一つの個体として成立することに関わる。第一性は、あるものが特定の構造において、他のものに対して優先的な位置を占めることに関わる。
したがって、今回の論証によって明らかになったのは、第一性そのものの成立ではなく、第一性を担うものが、まず構造的に個体化された存在者として理解されなければならないという点である。
これによって、「第一性の遡及的成立」は、個体性の成立条件を構造的に捉える存在論的基礎を得る。
個体性は構造的秩序によって成立し、第一性はその構造的秩序における優先関係によって成立する。
この二つの命題を区別しながら結びつけることによって、構造的個体化存在論は、個体性と第一性の双方を、原始的な事実としてではなく、構造的な成立条件を持つものとして説明する理論となる。
参考文献・関連箇所
- ヘーゲル『大論理学』第一巻「存在論」。「定在」§§190–203、§§213–246。特に規定性と否定の関係(§203)、規定と構成(§236)、限界とあるものの存在(§242–246)。
- E. J. Lowe, “Individuation,” The Oxford Handbook of Metaphysics, 2009, pp. 75–96。認識上の個体化と存在論的な個体化の区別。
今回の論証で確定したこと
今回の議論によって、構造的個体化の不可欠性は、次のように整理できる。
| 段階 | 成立すること | 哲学的な意味 |
|---|---|---|
| 1 | 限定性 | 存在者が一定の規定を持つ |
| 2 | 差異 | その規定が他のあり方を排除する |
| 3 | 統一性 | 諸規定が一つの個体に属する |
| 4 | 同一性 | 変化のなかで同一の個体として成立する |
| 5 | 構造 | 以上の契機を相互に規定する内在的秩序 |
この順序で重要なのは、構造が最後に追加されるものではないという点だ。
構造は、限定された諸規定が一つの個体として成立することを可能にする、その構成的な秩序そのものである。
今回の定理の核心はここにある。



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