- はじめに
- 1.なぜ共通の具体例が必要なのか
- 2.対象の種類と同一性水準Dを先に確定する
- 3.K_D(S)の独立判定
- 4.第一論文のCとIを同じ組織Sに適用する
- 5.ODによる第一性の具体例
- 6.第二論文の歴史的前史を同じK_D(S)で検証する
- 7.B1〜B3の具体的な検証
- 8.第一論文T1の監査
- 9.第二論文T2の監査
- 10.T1とT2の比較
- 11.なぜT3の再検証が必要なのか
- 12.B1:構造的不変項の同一性
- 13.B2:構成的依存秩序の連続性
- 14.B3:構造的閉包の時間的拡張
- 15.現行T3に見つかった問題
- 16.T3の修正方針
- 17.修正版T3の基本構造
- 18.T3の最終判定
- 19.今回の研究によって何が明らかになったのか
- 20.今回の三段階の最終評価
はじめに
これまで構築してきた哲学理論「第一性の遡及的成立」について、第一論文と第二論文の統合検証を行った。
第一論文は「構造的個体化から第一性へ――『第一性の遡及的成立』における構造的存在論」と題し、構造内部における個体性と第一性の成立を論じている。
第二論文は「歴史的遡及性と通時的構造編入――『第一性の遡及的成立』における過去の構成的資格」と題し、後続する構造の成立によって、過去の履歴がどのように構成的前史としての資格を持つのかを論じている。
この二本の論文は、それぞれ異なる問題を扱っている。
第一論文の問題は、ある構造が成立したとき、その内部の差異的契機がどのように構造項として個体化され、さらに構造内部の非対称的な依存関係から第一性が成立するのかということである。
第二論文の問題は、ある構造が成立したとき、その成立以前に存在していた履歴のうち、何がその構造の構成的前史としての資格を持つのかということである。
両者には共通点がある。
それは、個体性や歴史的資格を、それぞれ独立して成立したものとして扱うのではなく、後に成立する構造と、その構造を実現する構成的依存関係によって説明しようとしている点である。
しかし、同じ理論的発想を持っていることと、二本の論文が実際に一つの存在論体系を形成していることは別の問題である。
そこで今回は、二本の論文を一つの体系として最終改稿するために、三段階の検証を行った。
- 共通の具体例を用いた構造的不変項の検証
- 第一論文T1・第二論文T2の独立証明監査
- 統一定理T3の証明監査
以下、その研究過程と結果を記録しておく。
第1段階:共通事例による第一論文と第二論文の接続
1.なぜ共通の具体例が必要なのか
最初に取り組んだのは、第一論文と第二論文を別々の事例で検証することを避け、同じ構造Sについて両方の理論を適用することだった。
二本の論文が同じ存在論的秩序を扱っているならば、同一の対象について、構造内部の個体化と、時間的に先行する履歴の構成的資格を両方説明できるはずである。
そこで、検証用の仮想事例として、ある自治的な災害支援組織の成立を設定した。
時点t₀:組織成立以前
複数の人物が協議し、災害支援という目的、構成員の資格、意思決定方法、役職の権限、規則の変更方法などを形成する。
時点t₁:組織Sの成立
設立規則が正式に採択・発効し、構成員、役職、権限、意思決定方法などの秩序を持つ組織Sが成立する。
時点t₂:組織の継続
構成員や役職者が交代しても、基本的な構成的制約が維持される限り、組織としての同一性が維持される。
この事例を選んだ理由は、同じ組織Sについて、第一論文の構造内部の個体化と、第二論文の歴史的前史の成立を同時に検証できるからである。
2.対象の種類と同一性水準Dを先に確定する
今回の検証では、まず対象の種類を確定した。
対象は、単なる人間の集合ではなく、構成員による意思決定秩序と役割秩序を持つ継続的な社会的組織である。
同一性水準Dについては、組織的・制度的同一性に限定した。
ここでは、人間としての個体の同一性、組織内部の役職や構成員資格の同一性、組織そのものの同一性、法人としての法的同一性を区別する。
今回問題にするのは、あくまで組織としての構造的同一性である。
また、構造的に同型の別組織が存在する可能性も認める。したがって、構造的不変項が一致することだけで、数的に同一の組織であると結論するわけではない。
この区別は、第一論文の基本的な立場を維持するために必要である。
3.K_D(S)の独立判定
次に、第一論文と第二論文が共有する構造的不変項K_D(S)を判定した。
ここで重要なのは、個体化や歴史的前史の結論から逆算してK_D(S)を作らないことである。
そこで、基準事例、対照事例、許容される変化を先に設定した。
今回の組織Sについて、構造的不変項の候補として次の五つを抽出した。
| 記号 | 構成的制約 | 内容 |
|---|---|---|
| K1 | 基本目的 | 災害支援という組織の目的 |
| K2 | 構成員の境界 | 誰が構成員として参加できるか |
| K3 | 意思決定秩序 | どの手続きによって組織の決定が成立するか |
| K4 | 権限・役割秩序 | 役職の権限と責任がどう配分されるか |
| K5 | 継続・変更秩序 | 構成員や役職の交代、規則変更をどう行うか |
これらは単純に独立した五つの条件ではない。
相互に関係する一つの構成的制約体系である。
例えば、意思決定秩序K3は、誰が意思決定に参加できるかというK2に依存する。また、役職の権限K4は、誰がどのような手続きでその役職を任命するのかというK3やK5と関係している。
以上から、今回の仮想組織について、次の候補を設定した。
K_D(S) = {K1, K2, K3, K4, K5}
ただし、この五項目をあらゆる組織に普遍化するわけではない。また、別の実質的なK_D(S)の候補が存在する場合には、その可能性を残す。
この段階で、構造内部の個体化や歴史的前史から独立して、両論文に共通する不変項の候補を設定できた。
4.第一論文のCとIを同じ組織Sに適用する
続いて、第一論文のCとIを検証した。
ここでは重要な区別が明確になった。
人間は、組織が成立する以前から、人間という水準で個体化されている。
したがって、組織内部の個体化Iにおいて、人間そのものを未個体化の契機mᵢとみなしてはいけない。
人間という下位水準の個体が共同して組織を実現することがCである。
一方、意思決定機能、財務管理機能、調整機能などの差異的契機が、組織内部で総会、会計担当職、調整担当職などとして成立することがIである。
例えば、次のように表される。
C(S, {p₁, p₂, ..., pₙ})
I(S, m_decision → x_assembly)
I(S, m_financial → x_treasurer)
このようにCとIは、異なる存在論的水準で成立する。
Cは下位水準の個体が上位構造を実現する関係であり、Iは上位構造の内部で差異的契機が構造項として個体化される関係である。
この区別によって、CとIの相互構成を、同じ個体性の相互説明という循環に還元せずに説明できることを確認した。
5.ODによる第一性の具体例
さらに、構造内部の第一性を確認するため、構成員総会Aと会計担当職Bを取り上げた。
構成員総会Aは、組織の最終的な意思決定権と役職の任命権を持つ。
会計担当職Bは、総会によって任命され、財務管理に関する権限を委任される。
この場合、会計担当職Bの組織内部における同一性条件は、総会Aの権限に依存する。
他方、会計担当職Bが交代したり、一時的に空席になったりしても、総会Aの同一性条件は維持される。
したがって、同一のS・D・規定次元dについて、
OD_{S,D,d}(B,A)
¬OD_{S,D,d}(A,B)
が成立する場合、
OD_{S,D,d}(B,A) ∧ ¬OD_{S,D,d}(A,B) ⇒ A ≺_{S,D,d} B
によって、Aの第一性を導くことができる。
ここで第一性を成立させるのは、時間的な先行でも、組織にとっての重要度でもない。
Bの同一性条件がAの実在的な規定に非対称的に依存していることである。
ただし、実際のODを証明するためには、規則上の権限だけでなく、実際の組織における権限秩序と逆方向の依存関係の不在も確認しなければならない。
6.第二論文の歴史的前史を同じK_D(S)で検証する
次に、同じ組織Sについて、第二論文の理論を適用した。
時点t₀において、複数の人物が組織の目的、構成員資格、意思決定方法、役職の権限、規則変更の手続きを形成したとする。
その活動のうち、実際にt₁で採択された規則や権限秩序を構成した部分が、構成的前史の候補になる。
一方、会場を借りたことや個人的な準備活動などは、それだけでは構成的前史にならない。
ここで、第二論文の五条件を適用した。
- 過去の履歴が実在していたこと。
- 後続する構造Sが実在していること。
- 過去の履歴がK_D(S)の実現に構成的に参与していること。
- その履歴が構造的同一性に実在的な効果を持つこと。
- 事後的な認識や命名だけに依存していないこと。
五条件を満たす履歴は、構成的前史の候補となる。
ただし、五条件を満たしたことだけでは、最小完全な構成的依存閉包への包含が証明されたことにはならない。
その包含を独立に確認する必要がある。
この条件を満たす場合、次のように表される。
H_{S,D}(t₀) ⊆ H(t₀)
さらに、後続構造Sの成立によって、選別された履歴には構成的前史としての資格が成立する。
Q_{S,D}(H_{S,D}(t₀), t₁)
ここで変化するのは過去の出来事そのものではない。
過去の出来事は、その時点で起きた出来事として確定している。
後から成立するのは、それらがSの構成的前史として持つ関係的資格である。
7.B1〜B3の具体的な検証
以上の分析から、第一論文と第二論文の接続条件を確認した。
| 条件 | 検証内容 | 結果 |
|---|---|---|
| B1 | 同一のS・D・K_D(S)を使用するか | 合格 |
| B2 | 内部と歴史の依存関係が同一の構成的依存秩序に属するか | 具体的な接続条件を確認 |
| B3 | 同一の構造的閉包が過去の履歴にまで及ぶか | 実際の閉包包含を条件として合格 |
特にB2について重要なことが分かった。
Rᶜ、C、I、OD、→_cは、それぞれ異なる関係である。
これらを一つの同質的な関係に還元する必要はない。
必要なのは、異なる関係が同一のK_D(S)を実現する構成的依存秩序の中で、異なる役割を担っていることを示すことである。
また、B3については、時間的拡張が可能であるというだけでは不十分である。
選別された過去の履歴が、第一論文と第二論文で共有する同じB_D(S)に実際に含まれていることを確認しなければならない。
以上から、第1段階では、第一論文と第二論文が同一の構造的不変項を共有できることを、共通事例によって確認した。
ただし、これは仮想モデルによる理論的整合性の確認であり、実在する組織についての歴史的な実証を完了したという意味ではない。
第2段階:第一論文T1・第二論文T2の独立証明監査
第1段階では、二本の論文が同じ対象と構造的不変項を扱えることを確認した。
次に必要なのは、それぞれの中心定理が独立して成立するかどうかを検証することである。
統合する前に、個別の論証が成立していなければならない。
8.第一論文T1の監査
第一論文のT1は、P1・P2・P3を統合する定理である。
その論証構造は次のようになっている。
P1:構造の成立
A1・A2・Gを前提として、差異と統一を成立させる構造的秩序の必要性を論じる。
個体性を説明するには、何が個体を一つに統一しているのかと、何によって他の個体から区別されるのかの双方を説明する必要がある。
この問題設定は妥当である。
ただし、そこから本理論のΔによる構造的説明が、あらゆる形而上学にとって必然であるとまでは証明されない。
したがって、P1は個体性の成立根拠を説明するというGの方針を採用した場合に成立する条件付き命題として位置づける。
また、「差異化された諸契機が相互に規定し合う」という表現については、すべての項が対称的・双方向に依存するという意味に読まれないよう、構造全体の統一と個別の項間の非対称的依存を区別する必要がある。
P2:構造内部の個体化
構造Sが成立したとき、K_D(S)と関係秩序によって差異的契機mᵢの位置・役割・同一性条件が実際に規定される場合、構造項xᵢ^Sとして個体化される。
I(S, mᵢ → xᵢ^S)
ここではCとIの区別が重要になる。
Cは下位水準で個体化された項が上位構造を実現する関係である。
Iは上位構造内部の差異的契機を構造項として成立させる関係である。
この区別を維持すれば、同じ個体性を相互に説明する循環を避けることができる。
ただし、すべての構造内部の契機が自動的に個体化されるわけではない。実際にK_D(S)による規定が成立していることが必要である。
P3:構造内部の第一性
P3では、構造項の間に構成的同一性依存ODが成立する場合を扱う。
Bの同一性条件がAの実在的規定に依存し、逆方向の依存が成立しない場合に、Aの第一性を導く。
ここでは、ODの成立と第一性の成立を区別している点が重要である。
ODの非対称性から第一性に進むためには、構成的依存を存在論的優先性の基準とする橋渡し原理が必要になる。
この原理は、あらゆる形而上学にとって必然的な論理法則としてではなく、本理論が採用する第一性の判定原理として位置づける。
T1の最終判定
| 検証箇所 | 判定 |
|---|---|
| P1 | 条件付き成立 |
| P2 | 条件付き成立 |
| P3 | 条件付き成立 |
| T1 | 条件付き成立 |
T1の論証には、直ちに結論を無効にする明白な循環や矛盾は確認されなかった。
ただし、T1が証明しているのは、A1・A2・Gおよび橋渡し原理を採用した場合の構造的個体化と第一性である。
あらゆる存在論に対する無条件の必然性を証明したわけではない。
9.第二論文T2の監査
第二論文のT2は、A3とP4・P5・P6を統合する定理である。
A3:通時的構成可能性
A3は、時間的に同時でない契機の間にも構成的依存関係が成立しうるという前提である。
これは第二論文に必要な独立した存在論的前提であり、P4やT2によって証明されたことにしてはいけない。
P4:時間的な構成的依存の可能性
A3を採用すれば、構造的不変項を実現する構成的依存閉包が、構造内部だけでなく過去の履歴にまで及ぶ可能性が認められる。
この推論は成立する。
ただし、P4が証明するのは通時的な構成的依存の可能性であり、特定の過去の出来事が実際に閉包に含まれることではない。
P5:五条件による選別
P5は、過去の履歴が構成的前史として認められるための五条件を提示する。
この五条件は、履歴を選別する基準として妥当である。
ただし、ここで重要な区別が明らかになった。
それは、個別的出来事と構成的役割の区別である。
例えば、ある人物が規則案を書いたという出来事は、別の人物によって代替できた可能性がある。
しかし、組織の意思決定秩序を形成するという役割は、実際に果たされなければならない。
したがって、構成的前史に含めるのは、実在した履歴のうち、必要な構成的役割を現実に担った部分である。
P5は、このような履歴を選別する原理として位置づけるのが適切である。
五条件を列挙しただけで、実際の構成的依存関係が成立したことにはならない。
P6:最小完全な閉包への包含
P6は、選別された履歴がB_D(S)に実際に含まれる場合に、その履歴が構成的前史としての資格を持つことを論じる。
ここがT2で最も重要な証明負担になる。
五条件を満たすことと、最小完全な構成的依存閉包への包含は別問題である。
したがって、次の順序を維持しなければならない。
D → K_D(S) → B_D(S) → H_{S,D}(t₀) → Q_{S,D}
閉包を、ある履歴を構成的前史に含めたいという理由で拡張してはいけない。
先に構造的不変項と閉包を独立に判定し、その後で履歴の包含を確認する必要がある。
T2の最終判定
| 検証箇所 | 判定 |
|---|---|
| A3 | 独立した前提として採用 |
| P4 | 条件付き成立 |
| P5 | 選別原理として成立 |
| P6 | 閉包包含を条件として成立 |
| T2 | 条件付き成立 |
T2も、前提と条件を明確にすれば論証構造として成立する。
ただし、T2の実質的な強度を決めるのは、実際の過去の履歴がB_D(S)に含まれていることを独立に示せるかどうかである。
10.T1とT2の比較
ここまでの監査によって、二本の論文の役割分担がさらに明確になった。
| 第一論文T1 | 第二論文T2 | |
|---|---|---|
| 中心問題 | 構造内部の個体性と第一性 | 過去の構成的資格 |
| 中心的前提 | A1・A2・G | A3 |
| 中心的関係 | C・I・OD | →_c・H・Q |
| 主な証明負担 | 個体化と非対称的依存 | 通時的依存と閉包包含 |
| 結論 | 条件付き存在論的定理 | 条件付き通時的定理 |
第二論文は、第一論文とは独立した別の存在論を提示しているわけではない。
第一論文の構造的不変項と構造的閉包を引き継ぎ、そこに時間的な構成的依存という前提A3を加えている。
この関係は、最終改稿でも維持する必要がある。
第3段階:統一定理T3の証明監査
11.なぜT3の再検証が必要なのか
T1とT2がそれぞれ条件付きで成立していても、それだけで二本の論文が一つの存在論体系を形成しているとは限らない。
二つの定理が同じ対象を扱っていても、異なる原理によって成立している可能性があるからである。
そこで必要になるのが統一定理T3である。
T3は、構造内部の個体化・第一性と、過去の構成的資格が、同じ構造的不変項と構成的依存秩序によって説明できることを示す役割を持つ。
今回の監査では、特にB1〜B3が独立した条件として成立しているかを確認した。
12.B1:構造的不変項の同一性
B1は、第一論文と第二論文が同一のS・D・K_D(S)を使用していることを要求する。
同じ組織を扱っているだけでは不十分であり、構造的不変項の実質的内容も一致していなければならない。
今回の共通事例では、K1〜K5を両論文で共有した。
したがってB1は成立する。
ただし、K_D(S)に複数の候補がある場合には、両論文で同じ候補を使用する必要がある。
候補が複数あることを無視して、一つに恣意的に限定してはいけない。
13.B2:構成的依存秩序の連続性
B2は、今回の統合検証で最も重要な条件である。
第一論文には、Rᶜ、C、I、ODがある。
第二論文には、時間的な構成的依存→_cがある。
これらが同じ種類の関係だというわけではない。
必要なのは、それぞれが同じK_D(S)を実現する一つの構成的依存秩序に属していることを示すことである。
今回の組織Sでは、次の接続経路を設定した。
- t₀において、有効な設立合意や規則の採択が行われる。
- その活動が、意思決定秩序や権限秩序を実際に成立させる。
- 同じK_D(S)に基づいて、t₁に総会や会計担当職が構造項として成立する。
- それらの構造項の間に、ODによる非対称的な同一性依存が成立する。
このとき、時間的な構成的依存と構造内部の個体化・第一性は、同じ不変項の実現に参与している。
ここで重要なのは、単に二つの領域に同じKを見つけるだけでは不十分だということだ。
実際の構成的依存経路を示さなければならない。
したがって、B2は具体的な接続経路を条件として成立する。
14.B3:構造的閉包の時間的拡張
B3は、第一論文と第二論文で共有されるB_D(S)が、構造内部だけでなく、過去の履歴にまで及ぶことを要求する。
ここでは、次の三つを区別する必要がある。
- A3:通時的構成依存を認める一般的前提。
- P4:時間的な拡張の可能性。
- B3:対象履歴が同一の閉包に実際に含まれることの統合的確認。
したがって、可能性を示すだけではT3の証明には足りない。
選別されたH_{S,D}(t₀)が、T1とT2で共有する同じB_D(S)に実際に含まれている必要がある。
この確認によって、構造内部と時間的履歴が一つの構造的境界に属することが明確になる。
B3はこの実際の閉包包含を条件として成立する。
15.現行T3に見つかった問題
今回の監査で、T3の現行稿に一つ重要な問題が見つかった。
それは、定理の冒頭で、すでに「K_D(S)を実現する構成的依存秩序が、構造内部と時間的に先行する履歴の双方に及んでいる」と前提にしていることである。
しかし、これはB2とB3で確認すべき統合内容と重なっている。
つまり、統合を証明する前に、統合された状態を前提にしているように読めてしまう。
これは直ちに論理矛盾を意味しない。
しかし、証明の構成としては不必要な前提の重複であり、最終改稿で修正する必要がある。
もう一つの問題は、T3がT1とT2の結論を単に繰り返しているように見えることである。
T1が個体化と第一性を説明し、T2が歴史的資格を説明している以上、T3がそれらをもう一度証明しても、新しい理論的成果にはならない。
T3が新たに示すべきなのは、両者が同じ構造的基礎を共有していることである。
16.T3の修正方針
そこで、T3を次のように位置づけ直すことにした。
T3は、T1とT2の結論を単に併記する定理ではない。
また、第一性や歴史的資格を新たに導く第三の基本原理でもない。
T3は、T1とT2で導かれた局所的な結果を、同一の構造的不変項と構成的依存閉包に統合する条件付きのシステム定理である。
定理の前提には、T1・T2のそれぞれの成立条件と、B1〜B3の独立した確認を置く。
そして、その結論として、構造内部の個体化・第一性と、時間的に先行する履歴の構成的資格が、一つの構成的依存秩序の異なる領域で成立していることを導く。
このように整理すれば、T3固有の役割が明確になる。
17.修正版T3の基本構造
修正版T3は、次の順序で構成する。
前提
- 同じS・D・K_D(S)が独立に判定されている。
- T1の成立条件が満たされている。
- T2の成立条件が満たされている。
- B1によって共通の構造的不変項が確認されている。
- B2によって異なる関係型が一つの構成的依存秩序に接続されている。
- B3によって同じ構造的閉包が選別された過去の履歴を実際に含んでいる。
結論
構造内部の個体化・第一性と、歴史的な構成的資格は、独立した二つの構成原理によって成立するのではなく、同一の構造的不変項K_D(S)を実現する一つの構成的依存秩序の異なる領域で成立する。
したがって、構造的遡及性と歴史的遡及性は、異なる対象に作用する二つの遡及性でありながら、同じ構造的存在論に属する。
ここで重要なのは、歴史的資格Qから第一性を導かないことである。
第一性には、ODの非対称性が別途必要である。
この区別を維持することで、T3の統一性と、個々の関係の違いを両立できる。
18.T3の最終判定
| 検証項目 | 判定 |
|---|---|
| B1:構造的不変項の同一性 | 合格 |
| B2:構成的依存秩序の連続性 | 具体的接続を条件として合格 |
| B3:時間的閉包の拡張 | 実際の包含を条件として合格 |
| T3:統一定理 | 条件付きで成立 |
今回の監査によって、T3の基本構想は維持できることが分かった。
ただし、現行稿の定理文にある統合内容の先取りは修正する必要がある。
また、B2については具体的な依存経路を、B3については実際の閉包包含を、それぞれ明示しなければならない。
三段階の検証を終えて
19.今回の研究によって何が明らかになったのか
今回の三段階の検証を通じて、二本の論文の関係はかなり明確になった。
第一論文は、構造が成立することによって、その内部における個体性と第一性がどのように成立するのかを説明している。
第二論文は、同じ構造の成立によって、その構造に先行する履歴のうち、何が構成的前史として資格を持つのかを説明している。
そしてT3は、この二つが同一の構造的不変項と構成的依存秩序によって統一されることを説明する。
ここに、理論全体の体系的な構造がある。
| 水準 | 説明対象 | 中心概念 |
|---|---|---|
| 第一論文 | 構造内部の個体性 | Δ・S・K_D・C・I |
| 第一論文 | 構造内部の第一性 | OD |
| 第二論文 | 過去の構成的前史 | H・A3・→_c |
| 第二論文 | 歴史的資格 | Q |
| 統合 | 共通の依存秩序 | B1〜B3・T3 |
この関係によって、最初に考えた「順番の転倒」が、単に認識上の順序が逆転するという問題ではないことが、改めて明確になった。
構造が成立することによって、内部の差異的契機の個体性や第一性が構造相対的に確定する。
さらに、その構造の成立によって、過去の履歴の構成的資格も確定する。
ここでは、時間的な逆因果は主張されていない。
成立するのは、構造の成立を基準として、それ以前の契機や履歴が持つ存在論的な位置づけである。
20.今回の三段階の最終評価
今回の検証結果をまとめる。
| 検証段階 | 内容 | 到達点 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 共通事例による接続 | S・D・K_D(S)を共有できることを確認 |
| 第2段階 | T1・T2の独立監査 | 両定理の条件付き論証が成立することを確認 |
| 第3段階 | T3の統合監査 | B1〜B3を通じた条件付き統一定理としての構成を確認 |
ここで、すべての問題が解決したと結論するのは適切ではない。
今回確認できたのは、二本の論文の理論的な構造と、その統合が可能であることだ。
実際の学術論文として最終的に強いものにするには、以下の修正が必要になる。
- 第一論文P1の相互規定と非対称的依存の区別。
- 第一論文P2におけるCとIの具体的な接続。
- 第一論文P3におけるODの独立判定と橋渡し原理の明示。
- 第二論文P5における個別的出来事と構成的役割の区別。
- 第二論文P6における最小完全な閉包への独立した包含判定。
- T3における統合内容の先取りの修正。
- B2の具体的な依存経路とB3の実際の閉包包含の明示。
これらは、基本概念を作り直すための修正ではない。
これまで構築してきた理論を、論証上の限定や適用条件を含めて、より明確に提示するための修正である。
おわりに
最初は、個体性と第一性の成立に関する問題として始まった「順番の転倒」という着想が、ここまで発展してきた。
第一論文では、構造内部の個体化と第一性を説明する理論を構築した。
第二論文では、後続する構造の成立によって過去の履歴の構成的資格が成立するという理論を構築した。
そして今回、両者が同じ構造的不変項と構成的依存秩序を共有できることを、共通事例と三つの証明監査によって検証した。
私が今回特に重要だと感じたのは、T3の位置づけが明確になったことである。
T3は、二本の論文の内容をまとめるためだけの総括ではない。
構造内部の個体化・第一性と、構造成立以前の履歴の構成的資格という、一見すると異なる二つの問題が、同じ存在論的基盤によって説明できることを示す定理である。
したがって、理論の独自性を示すうえで、T3は非常に重要な役割を持つ。
今回の検証を通じて、第一論文、第二論文、そして統一定理T3の基本的な論証構造を確認することができた。
次に行うのは、理論をさらに拡張することではない。
二本の論文全体を通読し、定義、記号、前提、命題、定理、脚注、参考文献の整合性を最終的に監査することである。
今回の三段階の検証で確定した内容を基準とし、必要な箇所だけを修正して、二本の論文を最終稿へと仕上げていきたい。



コメント