- はじめに
- 1.メタフィジカル・グラウンディングとは何か
- 2.最初に区別すべきこと――GroundingとOntological Dependenceは同じなのか
- 3.Kit Fine――本質と基礎づけはどのように結びつくのか
- 4.Gideon Rosen――基礎づけは事実の間の関係なのか
- 5.Ricki Bliss――基礎づけは本当に非対称的でなければならないのか
- 6.E. J. Lowe――個体化における非対称的依存は既に論じられているのか
- 7.数学的構造主義とgrounding――相互依存は循環を意味するのか
- 8.A ≺_d B を現代形而上学の基礎づけ論から再検討する
- 9.現在の理論に必要なもう一つの検証――基礎づけそのものは何によって基礎づけられるのか
- 10.今回の比較から導かれる結論――第一性はgroundingそのものなのか
- 11.「第一性の遡及的成立」における基礎づけ関係の再定式化
はじめに
今回の比較では、当初想定していたKit Fine、Gideon Rosen、Ricki Blissに加えて、もう一人、必ず比較しなければならない哲学者が見つかった。
それは、**E. J. Lowe(エドワード・ジョナサン・ロウ)**である。
Loweは2012年の論文「Asymmetrical Dependence in Individuation」で、個体化における非対称的な依存関係を直接論じている。しかも、この論文は、Kit FineやRicki Blissらの議論を収録した論文集 Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality に収録されている。
Loweの議論は、構造主義的な存在論が複数の存在者による相互的な個体化を認める場合、個体化の原理における非対称性と衝突するのではないか、という問題を提起している。
これは、第20回で論じたC/Iによる循環回避、第21回で確立した構造的同一性規定の非対称性原理と、直接比較しなければならない議論である。
つまり、今回の研究では、単にメタフィジカル・グラウンディングの一般論を紹介するだけでは不十分だ。現在の理論に対して、次の三つの問いを正面から検討する必要がある。
A ≺_d Bは、既存のメタフィジカル・グラウンディングや存在論的依存を別の言葉で表現したものなのか。- 個体化における非対称的な依存関係は、Loweの議論によって既に説明されているのか。
- 現在の理論における独自性は、非対称性そのものではなく、構造内部の同一性決定と第一性を統一的に説明することにあるのか。
今回の結論を先に述べておこう。
「構造的同一性規定の非対称性原理」は、一般的な基礎づけ関係を新たに発見したものではない。しかし、既存の基礎づけ論と存在論的依存論を、構造的個体化・規定次元に相対的な第一性・構造相対的な同一性決定という問題に即して再構成する独自の理論になる可能性がある。
ただし、そのためには、現在の理論における A ≺_d B の意味を、既存のgroundingとの関係からもう一段階精密化しなければならない。
今回の比較では、この問題をKit Fine、Gideon Rosen、Ricki Bliss、E. J. Lowe、John Wigglesworthらの議論を通じて検討していく。
1.メタフィジカル・グラウンディングとは何か
まず、比較の基礎となる概念を確認する。
メタフィジカル・グラウンディング(metaphysical grounding)は、一般に「何が何を存在論的に基礎づけているのか」という問題を扱う。
英語では、しばしば次の表現によって説明される。
In virtue of what?
つまり、「何に基づいて、あるものが成立しているのか」という問いである。
ここでいう基礎づけは、通常の因果関係とは異なる。
例えば、ある窓が割れたという事実について考えてみよう。
窓に石が衝突したことは、窓が割れた原因である。しかし、窓が割れたという事実が、何によって成立しているのかという問いは、原因を問うこととは異なる。
このような問いに対して、現代形而上学では、部分と全体、物質と生命、物理的事実と心理的事実などの関係を、基礎づけという概念によって説明しようとする。
Stanford Encyclopedia of Philosophyの「Metaphysical Grounding」でも、基礎づけは因果的決定や確率的決定とは異なる、構成的な決定・説明として整理されている。
1-1.基礎づけは因果関係ではない
両者の違いを整理すると、次のようになる。
| 因果関係 | メタフィジカル・グラウンディング |
|---|---|
| ある出来事が別の出来事を引き起こす | ある事実が別の事実の成立根拠になる |
| 時間的な先後関係を持つことが多い | 時間的な先後関係を必要としない |
| 原因と結果の関係 | 基礎と派生の関係 |
| 経験的・自然科学的に検討される | 存在論的・形而上学的に検討される |
例えば、水分子が水素原子と酸素原子から構成されている場合を考える。
水素原子と酸素原子は、水分子が成立するための構成条件になる。
この関係を単に、水素原子と酸素原子が時間的に先に存在し、その後に水分子を引き起こしたという因果関係だけで理解する必要はない。
水分子が何によって成立しているのか、という存在論的な問いとして理解できる。
このような問いが、groundingの中心にある。
1-2.基礎づけは通常、非対称的な関係として考えられる
groundingには、一般に次の形式的性質が想定されている。
- 非反射性(irreflexivity):あるものは自分自身を基礎づけない。
- 非対称性(asymmetry):AがBを基礎づけるなら、BがAを基礎づけることはない。
- 推移性(transitivity):AがBを基礎づけ、BがCを基礎づけるなら、AはCを基礎づける。
これらを満たす関係は、厳密にはstrict partial order(狭義半順序)として整理できる。
ただし、これらの性質すべてが無条件に確立されているわけではない。
特にRicki BlissやShawn Thompsonらは、groundingの非対称性について反例を検討している。また、推移性についても、部分的基礎づけと完全な基礎づけを区別しなければ説明できない問題がある。
ここは今回の比較において重要になる。
なぜなら、第21回では、構造的同一性規定の非対称性原理について、非反射性・非対称性・推移性を含む秩序として整理しているからだ。
つまり、形式的な性質だけを比較するなら、両者はかなり近い。
したがって、現在の理論が独自性を持つためには、groundingの形式的性質を再発見したことではなく、その関係を何に適用し、何を説明するのかを明確にしなければならない。
2.最初に区別すべきこと――GroundingとOntological Dependenceは同じなのか
今回の比較で、最初に確定しなければならない問題がある。
それは、メタフィジカル・グラウンディングと存在論的依存(ontological dependence)の区別である。
この二つは密接に関係するが、通常は同一の概念として扱われない。
2-1.存在論的依存とは何か
存在論的依存は、ある存在者が別の存在者に対して、その存在や同一性を依存させている関係を扱う。
例えば、ある集合は、その構成要素に依存していると考えられる。
また、ある個体の同一性が、別の個体の同一性によって規定される場合も、存在論的依存の一種として論じられる。
この議論において重要なのが、同一性依存(identity-dependence)である。
2025年に改訂されたSEPの「Ontological Dependence」では、同一性依存について、ある対象がどのような対象であるかが、別の対象の同一性によって決定される関係として説明されている。
例えば、集合の同一性は、その構成員の同一性によって決定される。
ここでは、集合が存在することだけではなく、どの集合として成立するのかという同一性の問題が扱われている。
これは、現在の理論と非常に近い。
なぜなら、第21回で問題にしていたのも、単なる存在依存ではなく、ある項の同一性条件が別の項の規定によって成立するという関係だからである。
2-2.存在論的依存には複数の種類がある
ここでは、次の区別が重要になる。
| 依存関係 | 意味 |
|---|---|
| 存在依存 | あるものが存在するために、別のものの存在を必要とする |
| 同一性依存 | あるものが何であるかが、別のものの同一性によって規定される |
| 本質的依存 | あるものの本質的な規定が、別のものに依存している |
| 基礎づけ | ある事実が、別の事実の成立を存在論的に説明する |
特に重要なのは、存在依存と同一性依存を区別することである。
例えば、ある集合は構成員が存在しなければ存在しない。
しかし、ここで問題になるのは、集合が単に存在するかどうかだけではない。
集合がどの集合であるのかという個体化の問題も存在する。
この点で、同一性依存は現在の理論にとって極めて重要な比較対象となる。
2-3.なぜgroundingと存在論的依存を区別しなければならないのか
一般にgroundingは、存在論的依存よりも厳密な関係として理解される。
例えば、groundingには通常、基礎となるものが基礎づけられるものを必然化するという性格が想定される。
これに対して、存在論的依存は、必ずしも同じ意味での必然化を要求しない。
また、存在論的依存には、反射的・対称的な関係が成立する可能性もある一方、groundingは通常、非反射的・非対称的な関係として理解される。
この違いは、SEPの「Ontological Dependence」でも整理されている。
したがって、現在の理論において、A ≺_d B を最初からgroundingと同一視することは避けるべきだと思う。
むしろ、
A ≺_d B は、構造内部における同一性依存を、規定次元dに相対化した存在論的優先関係としてまず理解するべきである。
そのうえで、この関係が通常のgroundingの条件を満たす場合に、基礎づけ関係として再構成できるかを検討する。
これは、今回の比較研究で最初に確立しておきたい区別である。
3.Kit Fine――本質と基礎づけはどのように結びつくのか
主要文献: Guide to Ground (2012)、The Pure Logic of Ground (2012)、Unified Foundations for Essence and Ground (2015)
今回の比較で、最初に検討すべき研究者がKit Fineである。
Fineの重要性は、基礎づけを単なる存在論的な依存関係として扱うのではなく、本質(essence)との関係から理解しようとしている点にある。
これは、第21回の「構造的同一性規定の非対称性原理」に直接関わる。
3-1.Fineにおける本質と存在論的依存
Fineの本質論では、あるものの本質とは、そのものについて必然的に真である性質の集合に単純に還元できない。
重要なのは、あるものについて何が真であるかではなく、何がそのものの本質に属することによって真になっているのかということである。
例えば、ソクラテスと、ソクラテスだけを要素とする単集合を考える。
{Socrates}
単集合が存在するためには、ソクラテスが存在しなければならない。
さらに、ソクラテスだけを要素とする集合であるためには、ソクラテスがその構成員でなければならない。
このことは、単集合の本質的な規定に属する。
しかし、ソクラテス自身の本質に、自分がこの単集合の構成員であることが含まれるわけではない。
つまり、
- 単集合の同一性は、ソクラテスに依存する。
- ソクラテスの同一性は、その単集合に依存しない。
ここには、明確な非対称性が存在する。
Fineの本質論を踏まえると、こうした依存関係は、単なる可能世界における共変関係ではなく、それぞれの存在者の本質的な規定に基礎づけられる。
SEPの「Ontological Dependence」でも、このソクラテスと単集合の例を通じて、本質に基づく同一性依存が説明されている。
3-2.本質によって基礎づけを説明する
ここでFineの議論を、現在の理論に適用してみよう。
第21回では、ある項Aの規定が別の項Bの同一性条件を非対称的に規定する場合を考えた。
A ≺_d B
ここで重要なのは、AがBより先に時間的に成立していることではない。
Aの規定が、規定次元dにおいて、Bが何であるかを成立させる条件になっていることである。
例えば、ある構造Sの内部で、Aが特定の機能的規定を持つことによって、Bがその構造において何であるのかが決定されるとする。
このとき、Bの同一性はAの規定に依存する。
しかし、Aの同一性は、同じ意味でBの規定に依存しない。
このような関係を、Fineの本質論に接続するなら、次のようになる。
BがSにおいて特定の個体として成立することは、Sの構成的な秩序とAの規定を含む、Bの同一性条件に関わる本質的な関係によって説明される。
つまり、AとBの非対称性は、単に二つの対象の間に成立する偶然的な関係ではない。
BがBとして成立するための構造的条件に属している。
この点で、Fineの本質論は、第21回の非対称性原理に強い理論的裏づけを与える。
ただし、ここで一つ重要なことがある。
Fineは、本質とgroundingの関係を検討しているが、存在論的依存のあらゆる種類を、一つの関係に還元しようとしているわけではない。
2015年の「Unified Foundations for Essence and Ground」では、本質とgroundingを、一般化された必要条件・十分条件の関係を通じて統一的に扱う構想が提示されている。
したがって、Fineとの比較から得られるのは、非対称性原理そのものの独自性ではない。
むしろ、現在の理論における非対称性を、本質的な同一性規定として正当化できる可能性である。
3-3.Fineの基礎づけ論に対して何を付け加えられるのか
ここで重要な違いが見えてくる。
Fineは、ある存在者が何であるのかを、その本質に即して説明する。
一方、現在の理論は、ある存在者の本質や同一性条件そのものが、どのような構造的秩序から成立するのかを説明しようとしている。
つまり、Fineの本質論が問うのは、主として、
「あるものの本質は何か」
という問題である。
それに対して、現在の理論は、
「あるものの本質的な同一性条件は、どのような構造的関係を通じて成立するのか」
という問題を問う。
この違いは重要だ。
例えば、Bの本質にAとの関係が含まれているとしても、なぜその関係が成立し、なぜAがBに対して優先するのかという問題は、さらに検討する必要がある。
現在の理論では、この問題を構造Sの成立、構造的個体化I、そして非対称的な同一性規定によって説明しようとしている。
したがって、Fineに対する独自性の候補は、次のように整理できる。
- Fine:本質に基づいて対象や事実の基礎づけを説明する。
- 第一性の遡及的成立:構造的な個体化によって、対象の同一性条件そのものが成立する過程を説明する。
ただし、これはまだ独自性の候補である。
Fineの本質論には、既に対象の同一性条件や依存関係を扱う議論が存在するため、構造が本質を成立させるというだけでは不十分である。
Δから構造が成立し、その構造内部で本質的な同一性条件がどのように形成されるのかを具体的に論証する必要がある。
3-4.Fineの基礎づけ論は一つの形式に統一されない
もう一つ、重要な点を取り上げたい。
Fineの2012年の論文「The Pure Logic of Ground」では、複数の基礎づけ概念について、構造的な規則を定式化し、その健全性と完全性を検討している。
つまり、groundingを形式論理の対象として扱っている。
また、SEPの解説によれば、Fineは異なる種類のgroundingを一つの一般的な関係へ単純に統一することには慎重であり、基礎づけの複数性を重視している。
これは、現在の理論にとってむしろ好都合である。
なぜなら、A ≺_d B を、あらゆる存在論的依存を説明する普遍的なgrounding関係として提示する必要はないからだ。
構造的個体化における同一性規定に限定した、一つの特定の基礎づけ関係として定式化できる。
したがって、Fineとの比較から得られる結論は、次のようになる。
「第一性の遡及的成立」は、一般的なgroundingの代替理論を提示する必要はない。既存の複数の基礎づけ関係のなかに、構造的同一性規定に固有の関係を位置づければよい。
4.Gideon Rosen――基礎づけは事実の間の関係なのか
主要文献: Metaphysical Dependence: Grounding and Reduction (2010)
次に、Gideon Rosenを検討する。
2010年の論文「Metaphysical Dependence: Grounding and Reduction」は、今回の比較において重要な文献である。
Rosenは、groundingを、事実同士の関係として定式化する。
その基本的な表現は、
in virtue of
つまり、「何によって、ある事実が成立しているのか」という関係である。
彼はgroundingと、実在的定義(real definition)、本質的真理、形而上学的還元との関係を検討している。
4-1.事実と対象を区別する
ここで、現在の理論にとって重要な問題が生じる。
Rosenが扱うのは、基本的には事実と事実の間の関係である。
例えば、
- 事実Aが成立している。
- 事実Bが成立している。
- Bという事実は、Aという事実によって成立している。
という関係だ。
これに対して、現在の理論における A ≺_d B は、構造内部におけるある規定が別の規定の成立を非対称的に支える関係として導入されている。
ここでは、AとBが何を指すのかを明確にしなければならない。
AとBが単なる対象なのか、個体の本質的規定なのか、あるいは成立している事実なのかによって、使用する依存関係の概念が変わるからである。
この問題を曖昧にしたまま、A ≺_d B をgroundingと呼ぶことはできない。
4-2.事実の基礎づけとしての再定式化
そこで、現在の理論をRosenの議論に接続するために、次のような再定式化を考えたい。
構造Sにおいて、規定次元dに関するAの規定が成立している事実をF_Aとする。
また、Bが構造Sにおいて特定の同一性条件を持つという事実をF_Bとする。
この場合、
F_A → F_B
という単なる論理的含意ではなく、
F_Bが成立しているのは、F_Aが成立しているからである
という存在論的な説明関係を考える。
これが成立するなら、Rosenのいうgroundingの形式に接続できる。
ただし、実際にはA以外の条件も必要な場合がある。
例えば、Bの位置や役割が、Aだけでなく、CやDとの関係によって確定するなら、AはBの同一性を完全に基礎づけているのではなく、部分的に基礎づけている可能性がある。
ここで、基礎づけにおける二つの区別が必要になる。
| 基礎づけの種類 | 内容 |
|---|---|
| 完全な基礎づけ(full grounding) | 基礎となる事実の集合が、対象となる事実の成立を十分に説明する |
| 部分的基礎づけ(partial grounding) | ある事実が、対象となる事実の成立に寄与するが、それだけでは十分ではない |
これは、現代形而上学における重要な区別である。
したがって、現在の理論でも、AがBの同一性条件を完全に決定する場合と、部分的に寄与する場合を区別する必要がある。
4-3.Rosenとの比較で見えてきた問題
ここで重要なのは、現在の理論の A ≺_d B が、対象同士の依存関係なのか、事実同士のgroundingなのかを区別することである。
私は、まず次のように整理するのが適切だと考える。
A ≺_d Bは、構造内部における同一性依存・存在論的優先関係を表す。- その関係が事実の成立を非因果的に説明する場合、groundingとして表現できる。
- ただし、すべての同一性依存が、そのまま完全なgroundingに該当するとは限らない。
つまり、現在の理論における第一性は、単なる事実間の説明関係ではない。
ある項が構造内部において何であるか、その同一性条件がどのような規定に依存しているかという、個体化の存在論に根ざした優先性である。
この点で、Rosenのgrounding論を適用することはできるが、それだけで現在の理論の全体を説明することはできない。
5.Ricki Bliss――基礎づけは本当に非対称的でなければならないのか
主要文献: Viciousness and Circles of Ground (2014)、Grounding and Reflexivity (2018)、Grounding, Fundamentality and Ultimate Explanations (2024)
今回、Ricki Blissの議論は非常に重要だ。
なぜなら、現在の理論は非対称性を第一性の基本原理としているが、Blissは、groundingそのものの非対称性や非反射性について批判的に検討しているからである。
5-1.基礎づけの循環は必ずしも悪いのか
2014年の論文「Viciousness and Circles of Ground」で、Blissは、groundingの循環が必ずしも悪質な無限後退を生じさせるとは限らないと論じている。
通常、groundingは非反射的・非対称的・推移的・基礎的な関係と考えられる。
そのため、AがBを基礎づけ、BがAを基礎づけるような循環は、原則として排除される。
しかし、Blissは、基礎づけの循環が必ずしも悪質な無限後退につながるわけではないことを論じる。
つまり、循環があるというだけで、その存在論が成立しないとは限らないということである。
これは、第20回の循環問題にも関係している。
現在の理論では、CとIを異なる存在論的水準に置くことで、構造と構造項の相互構成が同じ意味での循環にならないことを論証した。
ここでBlissの議論から学べるのは、循環を単純に排除するのではなく、その循環がどのような種類の依存関係から成立しているのかを検討しなければならないということだ。
もちろん、現在の理論が循環を認めるべきだということではない。
C/Iによる区別を維持する理由は、単に循環を避けたいからではなく、異なる存在論的依存関係を区別することにある。
5-2.Groundingの非反射性は必然なのか
さらに重要なのが、2018年の論文「Grounding and Reflexivity」である。
Blissは、groundingが必ず非反射的でなければならないという一般的な想定に疑問を呈している。
彼女は、何が自己基礎づけを不可能にしているのか、自己基礎づけを認めることがなぜ存在論的に悪いのかを検討する。
その結果、groundingの非反射性を支える理由は、従来考えられていたほど強固な形而上学的根拠ではなく、認識論的な理由に依存している可能性があると論じている。
これは現在の理論にとって重要な反論になる。
なぜなら、現在の理論は、第一性を成立させるために非対称性を重要な原理としているからだ。
そこで、Blissの議論に対して、次のように応答する必要がある。
第一性の遡及的成立における非対称性は、単に一般的なgroundingが非対称的であると仮定しているから採用されているのではない。
ある項が別の項の同一性条件を成立させる一方で、その逆の依存関係が成立しない場合に、初めて第一性が導かれる。
したがって、非対称性は理論の外部から持ち込まれる公理ではなく、構造内部の同一性規定によって成立する関係である。
ただし、これを論証するためには、Aの規定がBの同一性に必要であり、Bの規定がAの同一性には必要でないことを、それぞれ独立に示さなければならない。
非対称性を定義として置くのではなく、同一性条件の差異から導出する必要がある。
ここが重要である。
5-3.非対称的な依存関係と対称的な依存関係は区別できる
この問題に関連して、Elizabeth Barnesの2018年の論文「Symmetric Dependence」も重要になる。
Barnesは、存在論的依存一般が必ず非対称的でなければならないという考えに疑問を呈し、対称的な依存関係が成立する事例を検討している。
ただし、彼女は存在論的依存とgroundingを同一視しているわけではない。むしろ、両者を安易に同じ性質を持つ関係として扱うことを問題にしている。
この議論から、現在の理論にとって重要な区別が得られる。
構造と構造項が相互に依存しているからといって、必ずしも構造内部の第一性まで対称的になるわけではない。
つまり、
- 構造と構造項の間には相互構成的な依存が成立する。
- しかし、個体化された項同士の同一性規定には非対称性が成立する。
という二つの関係を区別できる。
これは、第20回と第21回の議論を接続するうえで重要な根拠になる。
ただし、対称的な存在論的依存と非対称的なgroundingを同一の関係として扱わないようにしなければならない。
5-4.Blissの2024年の研究――基礎づけの終点とは何か
Blissの近年の重要な研究として、2024年の Grounding, Fundamentality and Ultimate Explanations がある。
ここでは、基礎づけと存在論的基礎性、そして究極的な説明との関係が扱われている。
特に、すべての存在論的説明が、どこかで説明されない基礎的なものに到達する必要があるのかという問題が中心にある。
これは、現在の理論におけるΔの位置づけに関係する。
現在の理論では、Δを個体化以前の存在論的基礎としている。
しかし、Δ自体をさらに説明する必要があるのかという問題は残る。
もしΔが何か別の存在論的基礎によって説明されるなら、それは最終的な基礎ではなくなる。
一方、Δを究極的な存在論的基礎として認めるなら、その理由を理論内部で明確にしなければならない。
ここで重要なのは、Δを単に説明の終点として置くのではなく、なぜ個体化以前の非個体的差異を最終的な基礎として認めることができるのかを説明することである。
この問題は、存在論的依存や最終的な理論体系の整理にも関わる。
6.E. J. Lowe――個体化における非対称的依存は既に論じられているのか
最も直接的な理論的課題
主要文献: Asymmetrical Dependence in Individuation (2012)
今回の比較で、FineやRosen以上に直接的な検討を要するのがLoweである。
彼の議論は、第21回の「構造的同一性規定の非対称性原理」に非常に近い。
6-1.個体化原理と同一性基準の区別
Loweは、個体化原理(principle of individuation)と同一性基準(criterion of identity)を区別する。
両者は関連しているが、同じものではない。
同一性基準は、ある対象がどのような条件のもとで同一の対象であり続けるのか、あるいは二つの対象が同一であると判断される条件は何かを示す。
これに対して個体化原理は、ある対象が他の対象と区別される個体として成立する根拠に関わる。
Loweは、ある存在者の個体性が、それを個体化する別の存在者に依存する関係を考える。
そして、この関係は非対称的でなければならないと論じる。
2012年の論文「Asymmetrical Dependence in Individuation」は、この問題を直接扱っている。
これは、現在の理論と非常に近い。
第21回でも、単にある項が別の項と区別されるということではなく、その項が特定の構造内部で何であるのかを、別の項の規定が非対称的に成立させることを問題にしていたからだ。
したがって、個体化における非対称的な依存関係そのものを、「第一性の遡及的成立」の独自性として主張することはできない。
Loweの先行研究を正面から扱う必要がある。
6-2.Loweによる構造主義的存在論への批判
さらに重要なのは、Loweが構造主義的な存在論に対して批判を行っていることだ。
構造主義的な存在論では、ある種類の存在者が、その種類に属する他の存在者との関係によって相互に個体化されると考える場合がある。
例えば、Aの同一性がBの規定によって決まり、Bの同一性がAの規定によって決まるという関係である。
Loweは、このような相互個体化が、個体化原理に必要な非対称性と衝突すると考える。
彼の議論では、個体化するものと個体化されるものの間に、一方向的な依存関係が成立しなければならない。
そのため、構造内部の項が相互に個体化するという立場は、個体化原理の非対称性に反するように見える。
ここで、今回特に重要な点がある。
Notre Dame Philosophical Reviewsに掲載されたMichael J. Ravenによる2013年の書評は、Loweの議論に対して一つの重要な反論を提示している。
それが、en masse principle of individuation(集合的・一括的な個体化原理)である。
Ravenによれば、個体化原理は、必ずしも一つの個体を一つの個体化原理に対応させる必要はない。
複数の存在者からなる集合が、別の複数の存在者からなる集合の個体化に関わるという、多対多の非対称的な関係を考えることができる。
これによって、個体化原理の非対称性を維持しながら、構造主義的な個体化を説明できる可能性がある。
これは、現在の理論にとって非常に重要である。
6-3.C/Iによる相互構成はLoweの批判に耐えられるのか
ここで、第20回のC/Iの議論を振り返る。
現在の理論では、構造と構造項の相互構成を、単純な同一水準における相互依存として扱わない。
- C:下位水準の構造項による上位構造の具体的実現。
- I:上位水準の構造による構造項の個体化。
この二つは異なる存在論的水準に属する。
したがって、構造と構造項が相互に関係していることと、個体化原理が非対称的であることは両立する。
この点で、現在の理論はLoweの批判に対して一定の応答を持っている。
ただし、ここで重大な注意が必要だ。
CとIという二つの記号を導入しただけでは、相互構成の循環が解消されたことにはならない。
例えば、同一の構造項の集合が構造Sを実現し、その同じ項の同一性がSによって規定されるのであれば、依然として相互依存の問題が残る。
循環を避けるためには、CとIの関係が本当に異なる存在論的水準に属していることを示さなければならない。
具体的には、次のように区別する必要がある。
C(Sₗ, bᵢ)
下位構造項bᵢによって、上位構造Sₗが具体的に実現される。
I(Sₗ₊₁, mᵢ → xᵢ)
上位水準の構造Sₗ₊₁によって、前個体的な差異的契機mᵢが構造項xᵢとして個体化される。
ここでは、構造を具体的に実現する下位の項と、上位構造によって個体化される項を区別している。
したがって、依存関係が同じ項を介して単純に相互に成立するわけではない。
この区別を厳密に維持できれば、Loweの批判に対して一つの応答が成立する。
6-4.en masseな個体化と前個体的差異場Δ
Ravenの集合的な個体化原理は、現在の理論のΔとも接続できる。
Δは、既に完成した独立した個体の集合ではない。
そこには、個体化以前の差異的契機が存在している。
その差異的契機が関係的な秩序を形成することで、構造が成立し、各項が個体化される。
ここで個体化の根拠は、一つの独立した個体に還元されない。
むしろ、前個体的差異場全体における差異の構成的な秩序が、個体化の根拠になる。
この点は、Ravenが提示する多対多の個体化原理と接続できる。
ただし、両者は同一ではない。
Ravenのen masse原理は、複数の存在者と複数の個体化対象の間に成立する非対称的な関係を認めるものである。
これに対して、現在の理論のΔは、個体化以前の非個体的差異を基礎としている。
したがって、Δは既に成立した個体の集合を前提とする必要がない。
ここに、現在の理論の独自性の候補がある。
個体化の根拠を単一の個体化原理に求めるのではなく、個体化以前の非個体的差異場における構造的な秩序に求めること。
この点は、LoweとRavenの議論を比較することで、さらに明確に位置づけられる。
7.数学的構造主義とgrounding――相互依存は循環を意味するのか
ここで、もう一つ重要な先行研究を取り上げたい。
それはJohn Wigglesworthの2018年の論文「Grounding in Mathematical Structuralism」である。
この論文は、Ricki BlissとGraham Priestの編著 Reality and its Structure: Essays in Fundamentality に収録されている。
Wigglesworthは、数学的構造主義において、数学的対象が属する構造と、同じ構造に属する他の対象に依存するという考え方を検討する。
そこで問題となるのが、groundingの標準的な形式的性質である。
彼によれば、数学的構造主義の一部の立場では、対象と構造の依存関係について、非対称性・非反射性・基礎づけの整礎性といった通常の前提に対する反例が生じる。
そして、そのような依存関係をgroundingとして認める可能性を論じている。
ここから、現在の理論に対して重要な問いが生じる。
構造と構造項の相互構成を認める場合、grounding関係まで対称的なものとして理解しなければならないのか。
私の判断では、その必要はない。
構造と構造項の相互構成は、異なる種類の存在論的依存関係を含みうるからである。
例えば、下位構造項が上位構造を具体的に実現することと、上位構造が構造項の同一性を規定することは、同じ意味の基礎づけ関係ではない。
したがって、構造と構造項が相互構成的であるということだけから、groundingまで対称的になるとは結論できない。
ただし、Wigglesworthの議論は、現在の理論にも厳しい条件を課す。
それは、構造と構造項の相互構成を説明する際に、どの関係がgroundingで、どの関係が単なる構造的依存なのかを明確に区別しなければならないということである。
もし同一水準で成立する相互依存関係を、すべて一つの非対称的なgrounding関係として説明しようとするなら、理論内部に矛盾が生じる可能性がある。
したがって、現在の理論では、次の三つを区別する必要がある。
| 関係 | 内容 |
|---|---|
| 構造的相互構成 | 構造と構造項が異なる水準で相互に成立する関係 |
| 個体化依存 | 構造が構造項の同一性を成立させる関係 |
| 構造内部の第一性 | 個体化された項の同一性規定における非対称的な優先関係 |
この区別によって、構造的相互構成を認めながら、第一性の非対称性を維持することができる。
8.A ≺_d B を現代形而上学の基礎づけ論から再検討する
ここまでの比較を踏まえて、いよいよ今回の中心的な問題に戻ろう。
「構造的同一性規定の非対称性原理」は、現代形而上学のgroundingを再構成したものなのか、それともgroundingそのものについて新しい理論を提示しているのか。
この問いに答えるために、A ≺_d B の性質をもう一度整理する。
8-1.まず、AとBが何を表しているのかを確定する
現在の理論では、AとBは構造内部の規定を表している。
ここで、AとBを単なる物理的対象として理解してはいけない。
問題となるのは、ある構造Sの内部で、それぞれの項の同一性や位置を成立させる規定である。
したがって、
A ≺_d B
とは、規定次元dにおいて、Aの規定がBの同一性条件を存在論的に基礎づける一方、Bの規定はAの同一性条件を同じ意味では基礎づけないという関係を表す。
ここでdは、空間的な次元ではない。
ある構造内部で、どのような意味において第一性が成立するのかを特定する規定上の観点である。
この区別は重要だ。
例えば、ある項AがBの機能的な規定を成立させる一方、別の規定次元ではBがAの位置を制約することも論理的には考えられる。
したがって、第一性は、必ずしもあらゆる意味において一方向的に成立する必要はない。
重要なのは、特定の規定次元dにおいて、どの項がどの項の同一性条件を基礎づけているかである。
8-2.通常のgroundingとの対応関係
ここで、先ほどのRosenの議論に戻る。
通常のgroundingは、事実と事実の関係として定式化される。
したがって、現在の理論の A ≺_d B をgroundingとして表現するなら、次のような対応が必要になる。
- Aが特定の規定を持つという事実。
- Bが特定の同一性条件を持つという事実。
- 前者が後者の成立を非因果的に説明する関係。
この三つが成立する場合、現在の理論における非対称的な同一性決定は、事実間のgroundingとして再構成できる。
ただし、AとBが単なる対象や規定を表している場合、それをそのままRosenのいう事実間のgroundingと同一視することはできない。
ここには、対象間の同一性依存と事実間の基礎づけを接続する理論的な媒介が必要になる。
そのため、現在の記号 A ≺_d B は、いったん構造的同一性依存を表す関係として維持し、それが事実の成立を説明する場合にgroundingとして理解するのが適切だと思う。
この区別によって、Fineの本質論、Loweの個体化原理、Rosenの事実間の基礎づけを、一つの概念に無理やり還元せずに接続できる。
8-3.非対称性は何によって正当化されるのか
次に重要なのが、非対称性の根拠である。
通常のgrounding論では、非対称性を基礎づけ関係の基本的な性質として想定することが多い。
しかし、現在の理論では、単に非対称性を公理として置くべきではない。
なぜなら、第21回の成果は、同一性規定の非対称性から第一性を導くことにあったからだ。
ここで、次の区別が必要になる。
一般的なgroundingにおける非対称性
基礎づけという関係は、通常、基礎となるものと基礎づけられるものの間に一方向的な優先関係を持つ。
構造的同一性規定における非対称性
ある規定AがBの同一性条件を成立させる一方、Bの規定がAの同一性条件を成立させる必要はない。
後者では、非対称性は単なる形式的な性質ではなく、構造内部の同一性条件の違いから導かれる。
つまり、AがBに対して第一性を持つことは、Aが先に存在するからではない。
BがBとして成立するためにAの規定を必要とする一方、AがAとして成立するためにBの規定を必要としないからである。
この論証が成立すれば、非対称性は単にgrounding論から借りてきた性質ではなく、構造的個体化に固有の根拠を持つ。
8-4.推移性は無条件に認めてよいのか
ここで、もう一つ重要な問題がある。
それは推移性である。
通常のgroundingでは、推移性を認める立場が有力である。
しかし、部分的な基礎づけと完全な基礎づけを区別すると、単純な推移的推論には注意が必要になる。
SEPの「Metaphysical Grounding」でも、基礎づけの推移性をめぐって、部分的基礎づけと完全な基礎づけを区別する議論が紹介されている。
このことを、現在の理論に当てはめよう。
例えば、
A ≺_d B
B ≺_d C
が成立しているとする。
このとき、
A ≺_d C
が成立するためには、Bを媒介する同一性規定が、Cの成立に対してどのような意味を持つかを確定しなければならない。
もしAがBの同一性を部分的にしか基礎づけず、BもCの同一性を部分的にしか基礎づけていないなら、AがCを基礎づけるとは限らない。
例えば、AによってBの一つの側面が決まり、BによってCの別の側面が決まるとしても、AがCの同一性を決めるとは限らない。
したがって、現在の理論では、次の区別を導入する必要がある。
- 完全な同一性規定の依存関係。
- 部分的な同一性規定の依存関係。
第一性の秩序として推移性を主張する場合には、どの種類の依存関係を対象としているのかを明示しなければならない。
私の提案は、次のとおりである。
非対称性は、同一の規定次元における第一性の基本条件として維持する。一方、推移性は、完全な同一性規定の基礎づけ関係に限定して成立するものとして定式化する。
これなら、現代形而上学の基礎づけ論における議論も踏まえつつ、第21回の非対称性原理を精密化できる。
8-5.非反射性と規定次元d
非反射性については、より明確に扱う必要がある。
ある規定が、それ自身の同一性条件を基礎づけるなら、それは自己基礎づけに相当する。
Blissの議論が示したように、grounding一般における非反射性には議論がある。
しかし、現在の理論では、第一性の成立を目的としているため、同一の規定次元dにおいて、ある項が自分自身より第一であるという関係は認められない。
したがって、
A ≺_d A
は成立しない。
ただし、dが異なる場合には別の問題が生じる。
例えば、Aが規定次元d₁ではBに優先し、規定次元d₂ではBがAに優先することは、論理的には排除されない。
これは、同一の規定次元における非対称性に反するものではない。
ここで重要なのは、第一性が特定の規定次元に相対的に成立するということである。
ただし、異なる規定次元で成立する優先関係をすべて統合して、一つの普遍的な第一性の秩序を主張する場合には、別途整合性を示さなければならない。
この点は、今後の理論の最終定式化でも維持する必要がある。
9.現在の理論に必要なもう一つの検証――基礎づけそのものは何によって基礎づけられるのか
ここで、今回の比較から新たに見えてきた問題がある。
それは、**基礎づけの基礎づけ(meta-grounding)**である。
例えば、ある事実F_Aが別の事実F_Bを基礎づけているとする。
では、なぜF_AがF_Bを基礎づけているのか。
その関係そのものは何によって成立しているのか。
これは、現代形而上学で実際に議論されている問題である。
Michael Wallnerの論文「The Ground of Ground, Essence, and Explanation」では、基礎づけ関係そのものを成立させる事実について検討されている。
特に、grounding factsが、基礎となるものと基礎づけられるものの本質的関係によって基礎づけられるという「Grounding Essentialism」が検討されている。
Fine、Rosen、Dasguptaらにも、この方向に関連する議論がある。
これは現在の理論にとって重要だ。
なぜなら、A ≺_d B を単なる非対称的な関係として措定するだけでは、その関係がなぜ成立するのかという問題が残るからである。
9-1.構造的同一性規定の非対称性原理そのものの根拠
ここで、現在の理論における基礎づけ関係を考えよう。
AがBの同一性規定を基礎づけるとする。
このとき、
- Aの規定。
- Bの同一性条件。
- 両者の構造的関係。
だけでなく、Aの規定がBの同一性条件を成立させるという関係自体も、説明対象になる。
この場合、grounding factに相当するのは、
「Aの規定がBの同一性条件を成立させている」という事実である。
では、この事実は何によって成立するのか。
私は、ここに構造Sの構成的な同一性条件を位置づけることができると考える。
つまり、AとBの間の非対称的な依存関係は、単に個別の二つの項の偶然的な結びつきから成立するのではない。
それらが属している構造Sの構成的な秩序と、その構造において何が同一性を成立させる規定であるかという条件によって成立する。
この点を整理すると、次のようになる。
- 構造Sが一定の構成的秩序を持つ。
- その秩序において、AがBの同一性条件を成立させる規定として機能する。
- その関係が、構造内部の非対称的な依存関係として成立する。
- この非対称性によって、規定次元dにおける第一性が成立する。
つまり、現在の理論では、第一性の非対称性は、構造Sの同一性条件と切り離して成立するのではない。
その構造における同一性規定の秩序によって成立する。
これが成立すれば、A ≺_d B そのものを、さらに独立した事実として無根拠に置く必要がなくなる。
ただし、構造Sの構成的秩序そのものが何によって成立するのかという問題は、ΔからSへの展開によって説明する必要がある。
この意味で、meta-groundingの問題は、現在の理論の基本構造とも接続している。
10.今回の比較から導かれる結論――第一性はgroundingそのものなのか
ここまでの比較を総合すると、最初の問いに対する答えが見えてくる。
「構造的同一性規定の非対称性原理」は、一般的なメタフィジカル・グラウンディングを新たに発見したものではない。しかし、既存のgrounding論と存在論的依存論を、構造的個体化と第一性の問題に即して再構成する理論として独自性を持つ可能性がある。
これをもう少し具体的に説明しよう。
10-1.既存の理論によって既に説明されていること
| 現在の理論の主張 | 先行研究 |
|---|---|
| 非因果的な存在論的基礎づけ | Rosen |
| 本質に基づく同一性依存 | Fine |
| 個体化における非対称的依存 | Lowe |
| 基礎づけの非対称性・非反射性・推移性 | Fine、Rosen、その他のgrounding論 |
| 基礎づけの循環や反射性に関する問題 | Bliss |
| 構造主義における相互依存とgrounding | Wigglesworth |
このように整理すると、現在の理論の非対称性原理に含まれる基本的な発想には、現代形而上学にかなりの先行研究が存在する。
したがって、非対称的な依存関係そのものを独自の発見として主張することはできない。
10-2.それでも現在の理論に残されているもの
一方、今回の比較から、現在の理論が独自性を確立できる可能性のある部分も明確になった。
それは次の四つである。
第一に、個体化以前の非個体的差異場から、構造内部の同一性依存を導くこと。
FineやLoweは、本質や個体化原理の問題を扱っている。
しかし、現在の理論では、前個体的差異場Δから構造Sが成立し、その構造が同一性条件を成立させるという展開を説明しようとしている。
第二に、同一性依存を規定次元dに相対化すること。
単なる存在論的依存ではなく、どのような規定の観点から第一性が成立するのかを明示する。
第三に、構造全体の同一性規定上の優先性と、構造内部の項同士の第一性を接続すること。
第21回で確立した二つの優先性を、同一性規定の非対称性という共通原理によって説明する。
第四に、構造内部の第一性と歴史的な遡及的構成を接続すること。
後続する構造が、先行する履歴を自らの成立条件として確定することを、同一性決定と基礎づけの理論に結びつける。
この第四の点は、今回の基礎づけ論との比較でも重要な意味を持つ。
なぜなら、通常のgroundingが主として現在成立している事実の間の存在論的な依存関係を説明するのに対して、現在の理論は、後続する構造の成立によって先行する履歴が構成的に確定することまで問題にしているからだ。
ただし、groundingの対象が事実に限定されるわけではなく、歴史的な基礎づけを扱う先行研究も存在する可能性がある。したがって、ここも文献調査を通じて独自性の範囲を限定する必要がある。
11.「第一性の遡及的成立」における基礎づけ関係の再定式化
今回の比較を踏まえて、第21回の非対称性原理を少し精密化することを提案したい。
これまでの基本的な定式化は、次のとおりだった。
A ≺_d B
これは、規定次元dにおいて、AがBの同一性条件を非対称的に規定する関係である。
この定義は維持してよい。
ただし、今後は次の三つの概念を区別して扱うべきである。
① 構造的同一性依存
ある項の同一性条件が、構造内部の別の項の規定に依存すること。
これは対象・項の同一性に関する存在論的依存である。
② 構造的同一性基礎づけ
ある項の規定が、別の項の同一性条件を成立させることを、事実の成立に即して説明する関係。
これはgroundingと接続する。
③ 構造的第一性
ある規定が、同じ規定次元において、別の規定に対して非対称的な同一性基礎づけ関係を持つことによって成立する優先性。
これは「第一性の遡及的成立」の中心概念である。
この三つを区別することで、現代形而上学のgroundingと現在の理論の関係が明確になる。
また、A ≺_d B の非対称性は、次の条件のもとで理解するのが適切である。
- 同一の構造Sを対象とする。
- 同一の規定次元dを対象とする。
- AがBの同一性条件を存在論的に規定する。
- Bの規定は、Aの同一性条件を同じ意味では規定しない。
- 単なる時間的先行性や因果的影響ではない。
さらに、AがBの同一性を部分的に規定する場合と、完全に規定する場合を区別する。
これによって、groundingに関する既存の議論と整合的に接続できる。
12.今回の比較で参照すべき重要文献
今回の研究で、今後も参照すべき文献を整理しておく。
特にLoweの論文は、今回の比較では最重要文献の一つになった。
| 著者 | 文献 | 重要性 |
|---|---|---|
| Kit Fine (2012) | Guide to Ground | 基礎づけの基本理論 |
| Kit Fine (2012) | The Pure Logic of Ground | 基礎づけの形式論理 |
| Kit Fine (2015) | Unified Foundations for Essence and Ground | 本質と基礎づけの統合 |
| Gideon Rosen (2010) | Metaphysical Dependence: Grounding and Reduction | 事実間の基礎づけ |
| Ricki Bliss (2014) | Viciousness and Circles of Ground | 基礎づけの循環 |
| Ricki Bliss (2018) | Grounding and Reflexivity | 非反射性の批判的検討 |
| Ricki Bliss (2024) | Grounding, Fundamentality and Ultimate Explanations | 基礎づけと究極的説明 |
| E. J. Lowe (2012) | Asymmetrical Dependence in Individuation | 個体化における非対称的依存 |
| Kathrin Koslicki (2012) | Varieties of Ontological Dependence | 存在論的依存の分類 |
| John Wigglesworth (2018) | Grounding in Mathematical Structuralism | 構造主義と基礎づけの循環 |
特に、以下の論文・著作は今回の比較で重要である。
Kit Fine
Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality(2012年収録論文)
Gideon Rosen
Metaphysical Dependence: Grounding and Reduction(2010)
Ricki Bliss
Viciousness and Circles of Ground(2014)
E. J. Lowe
Asymmetrical Dependence in Individuation(2012)
John Wigglesworth
Grounding in Mathematical Structuralism(2018)
また、今回の基礎づけ論の全体像を理解するうえでは、Fabrice CorreiaとBenjamin Schnieder編の Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality(2012)が非常に有用である。
この論文集には、Fine、Rosen、Lowe、Koslicki、Schaffer、Blissらの議論に関連する研究が収録されている。
13.最終評価――非対称性原理の独自性はどこにあるのか
最後に、今回の比較結果を総合する。
今回の検証で最も重要だったのは、Loweの「Asymmetrical Dependence in Individuation」を確認できたことだ。
これによって、個体化における非対称的な依存関係そのものを独自性として主張することはできなくなった。
また、Fineの本質論によって、同一性依存が本質に基づく存在論的依存として既に論じられていることも確認できた。
Rosenによって、事実間の非因果的な基礎づけという形式が明確にされている。
Blissによって、基礎づけの非対称性・非反射性・循環の問題が、決して単純には解決されないことも明らかになった。
これらを踏まえて、現在の理論を評価する。
| 評価項目 | 今回の比較結果 |
|---|---|
| 非因果的な存在論的依存 | 既存のgrounding論に先行研究がある |
| 本質に基づく同一性依存 | Fineに先行研究がある |
| 個体化の非対称的依存 | Loweに直接的な先行研究がある |
| 基礎づけの形式的性質 | Fineらによって既に形式化されている |
| 構造的相互依存と非対称性の両立 | 既存研究に論争がある。C/Iによる区別の独自性を検証する必要がある |
| 規定次元に相対的な構造的第一性 | 現在の理論の独自性の候補 |
| 前個体的差異から構造的同一性依存への展開 | 現在の理論の独自性の候補 |
| 第一性と遡及的構成の統合 | 現在の理論の有力な独自性の候補 |
ここから、私の最終的な判断を述べる。
「構造的同一性規定の非対称性原理」は、一般的なメタフィジカル・グラウンディングの新しい理論として提示するよりも、既存の本質論・存在論的依存論・基礎づけ論を、構造的個体化と第一性の問題に即して再構成する理論として提示する方が適切である。
ただし、これによって独自性が失われるわけではない。
むしろ、独自性を主張する場所が明確になった。
それは、一般的な非対称的依存関係ではなく、次の一連の説明にある。
Δ → S → I(S, mᵢ → xᵢ) → F(S, xᵢ, d)
つまり、
- 前個体的差異場から構造が成立する。
- 構造によって構造項の同一性条件が成立する。
- その構造内部で、同一性規定の非対称的な依存関係が成立する。
- その非対称性によって、規定次元に相対的な第一性が成立する。
- さらに、後続する構造が先行する履歴を構成的に確定する。
この全体的な説明が成立するなら、現在の理論は単なるgrounding論の応用にはとどまらない。
groundingを個体化の問題に適用するだけでなく、個体化以前の差異から第一性が成立するまでの存在論的な展開を説明することになるからだ。
14.今回の比較によって確定したことと今後の方向性
今回の比較は、当初想定していた以上に重要な成果をもたらしたと思う。
特に、Loweの議論によって、現在の理論が克服しなければならない問題が明確になった。
それは、個体化の非対称性を、単に定義として置くのではなく、構造的な同一性条件から導くことである。
そして、その非対称性が成立するために、構造と構造項の相互構成がどのように異なる存在論的水準に属しているのかを示す必要がある。
今回の検証によって、次の点は確定できた。
第一に、A ≺_d B は、一般的なgroundingと同一のものとして扱うべきではない。
まず構造内部の同一性依存関係として理解し、その事実間の説明関係が成立する場合にgroundingとして位置づけるべきである。
第二に、非対称性は外部から持ち込む公理ではない。
規定次元dにおける同一性条件の非対称的な依存から導かなければならない。
第三に、C/Iによる相互構成の区別は維持すべきである。
ただし、単に異なる記号を導入するだけではなく、それぞれの成立条件が異なる存在論的水準に属することを示す必要がある。
第四に、個体化における非対称的依存そのものは、Loweによって既に論じられている。
したがって、独自性は前個体的差異場から構造的な同一性依存が成立することと、そこから第一性を導く論証に求めるべきである。
第五に、groundingの形式的性質については、無条件にすべてを採用してはならない。
特に、部分的な基礎づけと完全な基礎づけを区別し、推移性や非反射性の適用範囲を精密化する必要がある。
この五つを踏まえると、今回の比較によって、第21回の非対称性原理は否定されるのではなく、むしろ現代形而上学の文脈において、より厳密な存在論的依存関係として位置づけ直すことができる。
私の評価では、今回の比較によって「第一性の遡及的成立」は、単なるgrounding論の応用ではなく、構造的個体化に固有の同一性依存を基礎づけ、そこから第一性を導く存在論としての方向性が明確になった。
そして、次回のスコトゥスとの比較では、今回明らかになったLoweの個体化原理、本質による同一性依存、Fineの個体化根拠に関する議論を踏まえることが重要になる。
特に、スコトゥスのこのもの性が説明しようとした個体の数的単独性と、現在の理論が構造的秩序によって説明しようとしている個体性が、そもそも同じ問題を扱っているのかを再検討したい。
なお、今回の研究は、全体と部分の存在論的優先性やシェファーの優先的一元論との比較を意図的に扱っていない。それは第27回の独立した比較課題として残す。



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