はじめに
今回の研究では、「第一性の遡及的成立」の第一論文・第二論文に対して提示された外部評価のうち、最も根本的な問題として指摘された「個体性の説明におけるギャップ」を検証する。
本理論は、個体性を最初から与えられた存在論的事実として扱うのではなく、差異的条件が構造的秩序を形成することによって成立するものとして説明しようとしてきた。
その出発点にあるのが、個体化根拠充足原理Gである。
Gは、個体性の存在論的成立を説明する理論に対して、次の三つの根拠を要求する。
- 数的統一の根拠。
- 他の個体との差異の根拠。
- 個体としての同一性の根拠。
つまり、あるものがなぜ一つの個体として成立し、なぜ他の個体から区別され、なぜ変化を経ても同じ個体として存続するのかを説明しなければならない。
これまでの第一論文では、前個体的差異場Δに内在する差異的規定可能性が、構成的関係Rᶜによって組織化されることで構造が成立し、その内部で差異的契機が構造項として個体化されるという体系を構築してきた。
しかし、ここには説明上の空白が残っていた。
それは、構造的不変項K_D(S)によって構造的同一性を説明することと、その構造が数的に一つの個体として成立することを、十分に区別できていなかったという問題である。
今回の検証では、この問題を出発点として、構造の数的統一、構造間の数的差異、構造の同一性、そしてΔから最初の構造S₀が成立する条件を改めて検討する。
そのうえで、従来の理論体系を維持しながら、構造個体の成立を説明するための新しい概念と原理を導入する。
1.問題の所在――構造的同一性と数的同一性
1-1.K_D(S)は何を説明しているのか
第一論文では、K_D(S)を、対象となる同一性水準Dにおいて、ある構造Sの同一性を維持する構成的制約の体系として定義している。
K_D(S)は、構造がどのような条件を維持している限り、同じ構造的同一性を保持できるのかを説明する概念である。
例えば、二つの組織が同じ目的、同じ規則、同じ権限配分、同じ意思決定方式を持っているとする。
この場合、両者は同じ構造的同一性条件を実現していると考えられる。
したがって、
K_D(S₁) = K_D(S₂)
が成立する。
しかし、両者が数的に同一であるとは限らない。
二つの組織が別々の場所に存在し、それぞれ独立した具体的な制度的実現を持っているならば、両者は同じ構造的同一性条件を持ちながら、別個の構造個体として成立する。
ここで重要なのは、構造的同一性と数的同一性を区別することである。
構造的同一性とは、ある構造がどのような構成的制約を維持しているかという問題である。
数的個体性とは、その構造が具体的な存在の場において、どのように一つの構造個体として成立し、他の構造から区別されるかという問題である。
両者は密接に関係するが、同じものではない。
したがって、K_D(S)だけによって数的個体性まで説明することはできない。
1-2.9.6で示した立場の意味
第一論文9.6では、構造的に区別できない二つのものについて、本理論だけから両者を別個の構造項として成立させることはできないという立場を示していた。
これは、構造から独立した原始的な「このもの性」を無条件に認めないという立場である。
しかし、この立場を維持するためには、逆に、構造的な差異がどのように数的個体性を成立させるのかを積極的に説明しなければならない。
今回の問題は、まさにここにある。
構造的に同じものが複数存在する可能性を認めるなら、それらを区別する根拠が必要になる。
反対に、構造的に完全に識別不能なものの複数性を認めないなら、その存在論的理由を明確にしなければならない。
したがって、今回の課題は次の三つに整理できる。
- なぜ複数の差異的条件が一つの構造を形成するのか。
- 同じ構造的同一性条件を持つ複数の構造は、何によって区別されるのか。
- 構成要素や関係が変化しても、なぜ同じ構造として存続するのか。
これらを一つの存在論的体系として説明する必要がある。
2.個体性の説明に必要な二つの方向性
今回の問題を解決するため、二つの方向性を検討した。
2-1.方向A:個体性の説明対象を構造的に限定する
方向Aは、構造から独立した数的差異を認めず、対象となる同一性水準において構造的に識別可能なものだけを、別個の個体として認める立場である。
この立場では、数的に異なる個体が存在すると主張するためには、両者を区別する非自明な構成的・関係的差異が成立していなければならない。
例えば、二つの構造が同じK_D(S)を持っていたとしても、それぞれの構造的実現領域、構成的境界、関係的位置が異なるならば、両者は別個の構造個体として成立する。
一方、K_D(S)だけでなく、具体的な構造的実現、境界、関係的位置まで完全に同じであり、両者を区別する非自明な関係も存在しないならば、本理論は両者の数的複数性を認めない。
この立場には、個体性を原始的な事実として説明の外に残さず、構造的差異によって説明しようとする利点がある。
ただし、方向Aだけでは、構造全体がどのようにして一つの個体になるのかを積極的に説明できない。
したがって、個体性についての存在論的な制約としては有効だが、構造個体の生成原理としては不十分である。
2-2.方向B:構造の数的個体性を成立させる条件を追加する
方向Bは、構造内部の関係だけでなく、構造とその周囲との構成的関係を含めて、具体的な構造個体の成立を説明する立場である。
候補として、次の四つを検討した。
- より大きな構造との関係。
- 構成的な境界。
- 時空間的な位置関係。
- 因果的・歴史的な連続性。
これらには、それぞれ異なる適用範囲がある。
上位構造との関係は、ある構造がより大きな構造のどの位置を占めているかを説明できる。しかし、上位構造自身の個体性を説明する必要が生じるため、すべての個体化の根拠にはできない。
時空間的位置は、物理的な対象を区別する際には有効である。しかし、あらゆる存在者に共通する普遍的な個体化条件ではない。
因果的・歴史的な連続性は、通時的な同一性を説明するうえで重要である。しかし、それだけでは個体化以前の差異場Δから最初の構造S₀が成立する条件にはならない。
これらに対して、構成的境界は、構造の内部と外部を区別し、具体的な構造的実現の範囲を確定するという点で、より根本的な説明力を持つ。
したがって、方向Bでは構成的境界を中心に採用し、上位構造、時空間的位置、歴史的連続性は、対象となる存在領域に応じて適用することにした。
3.弱い識別可能性による補強
今回の検証では、構造実在論における弱い識別可能性(weak discernibility)の議論も検討した。
弱い識別可能性とは、二つの対象がそれぞれ単独で持つ内在的性質によっては区別できなくても、両者の間に成立する非反射的関係によって数的に区別されうるという考え方である。
非反射的関係とは、自分自身に対しては成立しない関係をいう。
例えば、二つの対象aとbについて、次の関係が成立しているとする。
R(a,b)
そして、
¬R(a,a)
が成立するならば、aとbが同一であるという仮定は、Rの非反射性と矛盾する。
したがって、
a ≠ b
が導かれる。
Simon Saundersは、量子力学における一重項状態の電子を例に、個々の電子の内在的性質だけでは区別できない場合でも、電子間の反対向きのスピン関係によって弱い識別可能性が成立すると論じた。
この議論は、個体性を個体間の関係から説明する可能性を示している。
本理論との関係では、Δに内在する差異的規定可能性がRᶜによって組織化されることで、構造内部の契機が関係的な位置によって区別されると考えられる。
つまり、mᵢを最初から独立した個体として措定する必要はない。
構成的関係によって、構造項としての個体性が成立する。
ただし、弱い識別可能性だけでは、同じ構造的秩序を持つ二つの構造全体の数的区別までは説明できない。
この議論は、構造内部の項の識別には有効だが、構造全体の個体化には、具体的な構造的実現と境界についての別の説明が必要である。
また、関係が成立するためには、最初から関係の項が存在していなければならないというRussell以来の批判にも応答する必要がある。
本理論では、Rᶜを、個体化済みの項を結びつける外的な関係としては理解しない。
Rᶜは、Δに内在する差異的規定可能性を組織化する構造形成の秩序である。
したがって、個体化以前の段階においては、関係が個体を前提とし、個体が関係を前提とするという循環を採用しない。
この点で、弱い識別可能性は、本理論の構造的個体化を補強する議論として位置づけられる。
4.シモンドンの個体化論との接続
最初の構造S₀が成立する問題を検討するにあたって、重要な比較対象となったのが、ジルベール・シモンドンの個体化論である。
シモンドンは、『形相と情報の概念を手がかりとした個体化について』(L’individuation à la lumière des notions de forme et d’information)において、完成した個体を存在論の出発点とする伝統的な考え方を批判した。
彼の個体化論では、個体は最初から存在するものではなく、個体化以前の前個体的な状態から成立するものとして理解される。
そこには、準安定性、潜在的なエネルギー、異質性、緊張などが存在する。
個体化とは、これらの条件が変化し、構造的な秩序を形成する過程である。
特に重要なのが、転導(transduction)という概念である。
転導とは、ある領域で成立した構造化が隣接領域へと伝播し、隣接領域の状態を変化させながら、全体に組織化を広げていく過程である。
結晶化は、その代表的な例である。
結晶が形成されるとき、すでに完成した原子の集合を単純に組み立てるのではなく、局所的な秩序形成が周囲に伝播し、全体的な構造を成立させていく。
ここでは、個体とそれを取り囲む環境が、個体化の過程においてともに成立する。
この考え方は、本理論のΔ・Rᶜ・S₀と重要な接点を持つ。
| シモンドン | 第一性の遡及的成立 |
|---|---|
| 前個体的存在 | Δ |
| 準安定性・潜在的緊張 | 差異的規定可能性 |
| 転導 | Rᶜによる構造形成 |
| 個体化 | 構造的個体化 |
| 個体と付随環境 | 構造とその境界・関係的位置 |
もちろん、両理論が同一であるということではない。
本理論がシモンドンから引き継ぐのは、個体を完成済みの存在者として前提せず、差異的な条件の構造化によって個体化を説明するという基本的な方向性である。
一方、本理論では、構造的同一性、構成的境界、構造的個体化プロフィールを導入し、個体性の成立条件を明示的に整理する。
5.Δから最初の構造S₀が成立する条件
今回の検証で最も重要だったのが、S₀の個体性を説明する問題である。
従来の第一論文では、Δに個体化以前の差異的規定可能性が存在し、それらがRᶜによって組織化されることで最初の構造S₀が成立するとしていた。
しかし、S₀を一つの構造として認めるためには、その数的統一と他の構造との差異も説明しなければならない。
ここで重要なのは、S₀の成立を、すでに個体化された複数の項の集合として説明してはならないということである。
mᵢは独立した個体ではなく、Δに内在する差異的規定可能性を分析上区別したものである。
また、Rᶜも、すでに個体化された項の間に後から成立する外的関係ではない。
Rᶜは、個体化以前の差異的条件を組織化する存在論的な秩序である。
5-1.統合と差異化の同時成立
ここで、Rᶜによる構造形成には、二つの側面があることを明確にした。
第一は統合である。
Δに内在する異質な差異的条件が相互に規定し合い、一つの構成的な制約秩序を形成する。
これは単なる集合や寄せ集めではない。
ある差異的条件の変化が、他の条件の規定にも影響を与え、全体として一つの秩序を形成している。
第二は差異化である。
統合された秩序は、それによって規定される領域と、まだその秩序に組み込まれていない領域との区別を形成する。
ここで成立する境界は、あらかじめ存在する線や物体ではない。
構造形成の過程に内在する、構成的な内部と外部の区別である。
重要なのは、この統合と差異化が、異なる二つの原因によって生じるのではないという点である。
同じRᶜによる構造形成の過程が、一つの秩序の統合と、その秩序の境界形成を同時に実現する。
これによって、最初の構造の数的統一と他のものとの差異を、一つの生成過程から説明できる。
5-2.基底的個体化I₀の導入
この考え方を既存の個体化体系に接続するため、基底的個体化という関係を導入する。
その表記を次のように定める。
I₀(Δ, Rᶜ → S₀)
これは、個体化以前の差異場Δに内在する差異的規定可能性が、Rᶜによって組織化され、最初の構造個体S₀として成立することを表す。
I₀は、既存のIやCと同じ関係ではない。
それぞれの役割は次のとおりである。
- I₀:Δから最初の構造個体S₀を成立させる基底的個体化。
- I:成立した構造Sの内部において、差異的契機を構造項xᵢとして個体化する関係。
- C:個体化された下位構造項によって上位構造を具体的に実現する関係。
この三つを区別することによって、構造の成立に先行する個体を無限に要求する必要がなくなる。
5-3.S₀の数的統一
S₀の数的統一は、Δの差異的条件がRᶜによって統合され、一つの構成的な閉包を形成することによって説明される。
この閉包は、単に複数の要素が集まったものではない。
その構成的な制約関係が、対象となる同一性水準Dにおいて相互に依存し、一つの秩序を形成している必要がある。
したがって、構造的統一性は、構成要素の数によって決まるのではない。
それらを一つの構造として成立させる構成的関係によって決まる。
ここでいう不可分性とは、物理的に分割できないという意味ではない。
対象となる同一性水準において、構成的な秩序を維持したまま、独立した複数の完全な構造に分割できないという意味である。
5-4.S₀の差異
S₀の差異は、Rᶜによる構造形成に内在する境界によって成立する。
S₀の内部には、その構造的同一性を実現するために必要な構成的関係が存在する。
それに対して、境界の外側には、S₀に因果的に影響することはあっても、その構造的同一性を構成するためには必要でない関係が存在する。
この区別によって、S₀は、他の完成した個体との比較を前提とせずに、Δ内部の構造形成の過程で個体化できる。
5-5.S₀と複数の構造が成立する場合
同じΔの内部で二つ以上の構造形成が生じる場合には、それぞれの構造的実現領域と境界によって区別される。
二つの構造が同じK_D(S)を持っていても、具体的な閉包や関係的位置が異なるなら、別個の構造個体として成立する。
一方、両者が構造的不変項だけでなく、具体的な構造的実現、境界、関係的位置まで完全に同じであり、両者を区別する非自明な関係も存在しないならば、本理論は数的に二つの個体が存在するとは認めない。
この立場によって、構造的な根拠を持たない数的複数性を導入する必要がなくなる。
なお、S₀は時間的に宇宙で最初に生じた構造を意味するものではない。
ここでいう最初とは、個体化された下位構造項を前提としない、存在論的・説明的な基底水準を意味する。
6.構造的個体化プロフィールJ_D(S)の導入
以上の議論を統合するため、新しい概念として構造的個体化プロフィールJ_D(S)を導入する。
6-1.定義D10a:構造的個体化プロフィール
構造的個体化プロフィールとは、対象となる同一性水準Dにおいて、ある構造Sを具体的な一つの構造個体として識別するための、構造的不変項、具体的な構造的閉包、およびその構造が占める構成的な関係的位置の全体である。
基本表記は次のとおりである。
J_D(S) = <K_D(S), B_D^α(S), Π_D(S)>
ここで、
- K_D(S):構造的同一性を維持する構成的制約。
- B_D^α(S):その構造的同一性を実現する具体的な構造的閉包。
- Π_D(S):Δおよび周囲の構造的秩序における構成的な位置・境界関係。
Π_D(S)は、構造の外部にあるすべての関係を含むものではない。
対象となる構造の成立や、他の構造との数的な区別に構成的に関与する関係だけを含む。
また、ここでいう位置関係は、すでに個体化された他の存在者との位置関係だけに限定されない。
Δ内部の差異的領域において、具体的な構造形成がどのような関係的な範囲と境界を持っているかも含む。
これによって、個体化以前の段階におけるS₀にも適用できる。
6-2.同じK_D(S)を持つ複数の構造の区別
二つの構造S₁とS₂が同じ構造的不変項を持つ場合でも、具体的な構造的閉包や関係的位置が異なれば、個体化プロフィールは異なる。
例えば、
K_D(S₁) = K_D(S₂)
であっても、
B_D^α(S₁) ≠ B_D^β(S₂)
あるいは、
Π_D(S₁) ≠ Π_D(S₂)
が成立するならば、
J_D(S₁) ≠ J_D(S₂)
となる。
したがって、両者は別個の構造個体として成立する。
これによって、構造的同一性条件を共有する複数の構造が存在することと、それらが数的に異なる個体であることを両立できる。
6-3.構造的識別可能性原理
ここで、構造的個体化プロフィールに対応する原理を定める。
ある対象が別の対象から数的に区別されるためには、対象となる同一性水準において、両者を区別する非自明な構成的・関係的差異が成立していなければならない。
数的差異そのものを、数的差異の説明根拠として使用してはならない。
また、構造的に完全に識別不能なものを、根拠なく複数の個体として措定してはならない。
この原理は、個体性を構造から独立した原始的事実として残さないための存在論的制約である。
7.個体化根拠充足原理Gの改訂
今回の検証結果を反映し、従来のGを次のように改訂する。
改訂G:個体化根拠充足原理
個体性の存在論的成立を説明対象とする理論は、対象となる同一性水準において、次の三つの構成的根拠を提示しなければならない。
- 数的統一の根拠: 複数の差異的条件が、どのような構成的秩序によって一つの統合された存在者を成立させるのか。
- 数的差異の根拠: 複数の個体が存在すると主張する場合、それらがどのような非自明な構成的・関係的差異によって区別されるのか。
- 個体的同一性の根拠: ある個体が対象となる変化を経ても、なぜ同じ個体として存続するのか。
この改訂では、他の個体との差異という要求を、実際に複数の個体を認める場合の数的差異の根拠として明確化した。
一つしか個体が存在しない世界を想定することも論理的には可能であるため、複数性を主張する場合に識別根拠を要求するという形にした。
この改訂によって、Gは対象となる個体の種類や存在領域にかかわらず、個体性の説明に必要な三つの条件を要求できるようになる。
8.構造個体の成立を示す命題P2a
今回の改訂を第一論文の命題体系に反映するため、次の命題を追加する。
命題P2a:構造個体の数的個体化
前個体的差異場Δに内在する差異的規定可能性が、構成的関係Rᶜによって組織化され、対象となる同一性水準Dにおいて、一つの統合された構造的閉包を形成するとする。
その閉包が、具体的な構成的境界と関係的位置を備え、他の構造との非自明な差異によって識別される場合、当該構造は一つの構造個体として成立する。
このとき、構造的不変項K_D(S)は、その構造的同一性を維持する条件を与え、構造的個体化プロフィールJ_D(S)は、当該構造を具体的な一つの構造個体として識別する条件を与える。
証明
個体化根拠充足原理Gによれば、個体性の成立には、数的統一、数的差異および個体的同一性の根拠が必要である。
まず、Δの差異的規定可能性がRᶜによって組織化され、対象となる同一性水準Dにおいて、一つの統合された構成的閉包を形成するならば、数的統一の根拠が成立する。
次に、その構成的閉包がΔ内部において具体的な境界と関係的位置を持つ場合、その構造は他の構造から区別される。
構造的に完全に識別不能な複数性を認めないため、数的差異が構造的な差異を超えて無条件に措定されることはない。
最後に、K_D(S)が対象となる変化に対して維持され、具体的な構造的実現の連続性が確保されるならば、当該構造は同じ構造個体として存続する。
以上によって、構造個体の数的統一、数的差異および個体的同一性が、それぞれ構造的な条件によって説明される。
ゆえに、命題P2aが成立する。□
この命題によって、構造全体の個体性を説明するための論証を、第一論文の形式的体系に追加できる。
9.C・I・I₀の体系的な整理
今回の検証によって、構造的個体化には三つの異なる水準があることが明確になった。
| 関係 | 対象 | 役割 |
|---|---|---|
| I₀ | ΔからS₀ | 基底的な構造個体化 |
| I | S内部のmᵢからxᵢ | 構造項の個体化 |
| C | 下位構造項から上位S | 階層的な構造の具体的実現 |
この区別は、本理論にとって重要である。
I₀は、個体化された下位項を前提とせずに、差異的規定可能性から構造個体を成立させる。
Iは、すでに成立した構造の内部で、差異的契機を構造項として個体化する。
Cは、個体化された下位の構造項によって上位構造を実現する。
したがって、これらは同じ個体化作用を異なる名前で呼んでいるのではなく、異なる存在論的水準における成立関係を示している。
理論の生成順序は、次のように整理できる。
Δ → I₀・Rᶜ → S₀ → I → xᵢ → C → S₁
この順序によって、最初の構造形成と、その後の内部的・階層的な個体化を区別できる。
また、T1の論証では、第一性を導く前に、構造全体とその内部の構造項が、それぞれどのように個体化されるのかを明確にできる。
10.今回の検証で確定した理論的成果
今回の検証によって、次の点を確定した。
第一に、構造的同一性と数的個体性を区別した。
K_D(S)は構造的同一性を説明する概念として維持する。
一方、数的個体性は、具体的な構造的実現、境界、関係的位置によって説明する。
これによって、同じK_D(S)を持つ複数の構造個体を認められるようになった。
第二に、構造的個体化プロフィールJ_D(S)を導入した。
J_D(S) = <K_D(S), B_D^α(S), Π_D(S)>
によって、構造的同一性と具体的な構造個体の識別条件を接続する。
K_D(S)、B_D^α(S)、Π_D(S)にはそれぞれ異なる役割を与える。
第三に、方向Aと方向Bを統合した。
方向Aは、構造的に完全に識別不能な数的複数性を認めないという存在論的制約として採用する。
方向Bは、具体的な構造的閉包と構成的境界によって個体性を成立させる積極的な説明原理として採用する。
第四に、基底的個体化I₀を導入した。
I₀(Δ, Rᶜ → S₀)
によって、個体化された下位項を前提としない最初の構造個体の成立を説明する。
これによって、従来のIとCを変更することなく、構造形成の基底水準を体系に位置づけることができた。
第五に、Gを改訂した。
数的統一、数的差異、個体的同一性という三つの説明要求を明確化した。
この改訂によって、個体性の説明を構造内部の関係だけに限定せず、構造全体の具体的な個体化にまで拡張できるようになった。
11.今回の理論的選択の限界と位置づけ
今回の改訂案は、第一論文の存在論的体系を拡張するものであるが、いくつかの概念上の限定を明確にしておく必要がある。
第一に、J_D(S)はK_D(S)とB_D^α(S)を単純に組み合わせたものではない。
具体的な構造的実現と、Δ内部における構成的な関係的位置を区別して記述する必要がある。
特に、Π_D(S)を、すでに個体化された他の構造との位置関係だけで定義してはならない。
そうすると、S₀の個体化を説明する際に、別の個体の存在を前提としてしまうからである。
したがって、Π_D(S)には、個体化以前の差異的領域における構造形成の範囲と境界も含める。
第二に、構造的統一性を単なる連結性と同一視してはならない。
複数の契機が何らかの関係で結びついているだけでは、一つの構造個体が成立したことにはならない。
対象となる同一性水準Dにおいて、それらの関係が一つの構成的な制約秩序を形成していることが必要である。
第三に、今回導入したI₀は、Δから特定の構造が時間的に最初に発生したことを証明するものではない。
I₀が示すのは、個体化された下位項を前提とせず、前個体的差異場の構造化によって構造個体が成立するという存在論的な生成水準である。
第四に、本理論は、ΔやRᶜそのものを無前提から演繹するものではない。
A1・A2によって前提されるΔの差異的規定可能性を、個体化された存在者として先取りせずに、構造形成の根拠として使用する。
したがって、今回の改訂は、本理論の基本的な存在論的前提を変更するものではない。
その前提から、数的統一・数的差異・個体的同一性をどのように説明できるのかを明確化するものである。
結論――個体性は構造形成の内部で成立する
今回の検証で明らかになったのは、個体性を構造的に説明するためには、構造的同一性だけでは不十分だということである。
ある構造がどのような制約を維持しているかを説明することと、その構造がなぜ一つの数的個体として成立しているのかを説明することは異なる。
そこで、構造的同一性をK_D(S)によって説明する従来の立場を維持しながら、具体的な構造的実現、境界、関係的位置を含むJ_D(S)を導入した。
また、構造内部の項の個体化とは別に、個体化以前の差異場Δから構造そのものが成立する基底的個体化I₀を導入した。
これによって、I₀・I・Cの三つの関係を区別し、構造形成から内部的個体化、階層的構成へと至る存在論的な順序を明確にした。
今回の改訂で最も重要なのは、次の考え方である。
個体性は、構造的同一性の維持だけによって成立するのではない。差異的条件が一つの構成的秩序を形成し、その具体的な実現が境界と関係的位置を持つことで、一つの構造個体として成立する。
そして、その構造内部においても、差異的契機は構造的関係によって個体化される。
この意味で、本理論における個体性とは、構造に先立って存在するものではなく、構造形成そのものの内部で成立するものである。
これは、個体性を原始的な事実として扱う存在論とは異なる立場である。
また、構造的同一性と数的個体性を区別することで、同じ構造的条件を持つ複数の構造が存在する可能性を認めながら、構造的根拠を持たない数的複数性を排除できるようになった。
今回の検証によって、第一論文の個体性に関する存在論的な説明は、従来の構造形成・構造項の個体化・階層的構成という体系に、構造全体の数的個体化という水準を加える形で再構成された。
以上を、第一性の遡及的成立における個体性の説明を改訂するための基準的な研究成果とする。
参考文献
- Simondon, Gilbert. L’individuation à la lumière des notions de forme et d’information. Grenoble: Jérôme Millon, 2005. (Taylor Adkins英訳:Individuation in Light of Notions of Form and Information, University of Minnesota Press, 2020)。
- Saunders, Simon. “Are Quantum Particles Objects?” Analysis 66, no. 1 (2006): 52–63.
- Hawley, Katherine. “Weak Discernibility.” Analysis 66, no. 4 (2006): 300–303.
- Stachel, John. “Structure, Individuality, and Quantum Gravity.” In The Structural Foundations of Quantum Gravity, edited by Dean Rickles, Steven French, and Juha Saatsi, 53–82. Oxford University Press, 2006.



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