歴史的遡及性と通時的構造編入(第二論文第三稿)――「第一性の遡及的成立」における過去の構成的資格

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  1. 要旨
  2. 1.序論――構造の成立は過去をどのように規定するのか
    1. 1.1.構造的遡及性だけでは説明できない問題
    2. 1.2.二つの遡及性の区別
    3. 1.3.本稿の目的と構成
  3. 2.1.過去の事実と過去の構成的資格
  4. 2.2.定義D11――先行する履歴 H(t₀) と構成的前史 H_S(t₀)
  5. 2.3.定義D12――歴史的遡及性
  6. 2.4.三つの概念の区別
  7. 2.5.後続する構造は過去を変更するのか
  8. 3.1.第一論文の基本原理
  9. 3.2.構造の時間的な境界
  10. 3.3.構造と歴史的履歴の関係
  11. 4.1.構造的遡及性から歴史的遡及性への移行
  12. 4.2.基本前提A3――通時的構成可能性
  13. 4.3.通時的構造編入原理の提示
  14. 4.4.通時的構造編入と構成的依存
  15. 5.1.反事実的依存だけでは不十分である
  16. 5.2.歴史的遡及的構成の五つの条件
    1. 条件1:過去の履歴の実在性
    2. 条件2:後続する構造 S の実在性
    3. 条件3:構造的不変項 K(S) への構成的参与
    4. 条件4:構造的同一性への実在的な効果
    5. 条件5:事後的認識や命名からの独立
  17. 5.3.構成的な前史は最小完全な閉包によって決まる
  18. 6.1.因果的依存と構成的依存
  19. 6.2.通時的基礎づけとの比較
  20. 6.3.関係的変化とケンブリッジ変化
  21. 6.4.社会存在論との関係
  22. 7.1.組織の成立以前
  23. 7.2.過去の活動と構造的資格
  24. 7.3.創設者本人と創設的役割の区別
  25. 7.4.過去のすべてが組織の歴史になるわけではない
  26. 8.1.時間的に先に起きたことは、存在論的に第一なのか
  27. 8.2.時間的に広がった構造内部の第一性
  28. 8.3.歴史的第一性は、すべての前史に成立するわけではない
  29. 9.1.後続する構造が過去を規定することは逆因果ではないか
  30. 9.2.これは単なるケンブリッジ変化ではないか
  31. 9.3.後から作られた歴史的物語とどう区別できるのか
  32. 9.4.同じ構造が別の歴史から成立した可能性はないのか
  33. 9.5.構造的不変項 K(S) の設定自体が循環していないか
  34. 9.6.後続する構造によって歴史が目的論的に決定されるのではないか
  35. 9.7.時間の存在論と歴史的資格の成立は両立するのか
  36. 10.1.定理の提示
  37. 10.2.証明
  38. 10.3.定理T2の論証依存関係
  39. 10.4.定理T2の存在論的意味
  40. 11.1.二つの遡及性を統一する共通原理
  41. 11.2.構造的個体化と歴史的遡及性の関係
  42. 11.3.統一定理を導くための橋渡し条件
  43. 11.4.定理T3――第一性の遡及的成立・統一定理
    1. 証明
    2. 定理T3の依存関係
  44. Ⅰ.主要文献
  45. Ⅱ.関連する形而上学研究
  46. Ⅲ.関連する時間論・歴史哲学
  47. Ⅳ.本研究の関連論文

要旨

本稿の目的は、構造的個体化によって個体性と第一性が成立するという存在論的原理を、時間的・歴史的な次元へ拡張し、後続する構造によって過去の履歴が構成的な前史として確定することを論証することである。

第一論文では、前個体的差異場 Δ に内在する差異的規定可能性が構成的関係 Rᶜ によって組織化され、構造 S が成立することを示した。さらに、構造的不変項 K(S) と構成的依存秩序によって、構造内部の契機が個体化され、特定の規定次元における非対称的な同一性決定関係から第一性が成立することを論じた。

しかし、この議論だけでは、構造が成立する以前に存在していた出来事や活動の履歴が、その構造に対してどのような存在論的資格を持つのかは説明されない。構造内部の契機が構造によって個体化されることと、時間的に先行する履歴がその構造の成立条件として位置づけられることは、異なる問題だからである。

そこで本稿では、過去に実際に存在していた履歴 H(t₀) と、そのうち後続する構造 S の構成的な前史として認められる H_S(t₀) を区別する。H_S(t₀) は、過去の履歴全体ではなく、構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に参与していた履歴である。

本稿では、まず歴史的遡及性を事後的認識や遡及的正当化から区別する。次に、第一論文で定義した構造の境界 B(S) を時間的な次元に拡張し、どの履歴が構成的な前史に含まれるのかを判定する条件を提示する。そのうえで、通時的構造編入原理を明確化し、歴史的遡及的構成が成立する五つの条件を示す。

さらに、因果的依存、通時的基礎づけ、関係的変化および社会存在論との比較を通じて、本理論の歴史的遡及性が単なる事後的な解釈ではないことを論じる。

最後に、第一論文の構造的個体化と本稿の歴史的遡及性を統一し、個体性・同一性・第一性・歴史的資格が、同一の構造的不変項を実現する構成的依存秩序によって説明されることを示す。

キーワード: 歴史的遡及性、通時的構造編入、構成的前史、構造的不変項、構成的依存、時間的先行性、存在論的優先性、第一性

1.序論――構造の成立は過去をどのように規定するのか

1.1.構造的遡及性だけでは説明できない問題

第一論文では、個体性と第一性が構造から独立して成立するのではなく、構造的不変項 K(S) と、それを実現する構成的依存秩序によって成立することを論証した。

その中心的な主張は、あるものが何であるか、また何に対して第一であるかは、そのもの自身に最初から備わっているのではなく、構造 S の成立によって確定するということであった。

構造内部の差異的契機は、構造の成立によって位置や役割を与えられ、構造項として個体化される。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

さらに、構造内部の非対称的な同一性決定関係によって、特定の規定次元における第一性が成立する。

A ≺_{S,d} B

これを構造的遡及性と呼ぶ。

しかし、この原理だけでは、もう一つの問題が残されている。

それは、構造が成立する以前に存在していた出来事や存在者の履歴の問題である。

例えば、ある組織 S が成立したとする。その組織には、創設以前からの活動、参加者の協力、規則の形成、役割の分化など、さまざまな歴史的経緯が存在している。

しかし、その組織が成立する以前に起きたすべての出来事が、その組織の構成条件になるわけではない。

創設者が過去に経験した個人的な出来事の大部分は、組織の成立とは無関係である。

一方、組織の基本的な規則や役割秩序を形成する活動は、組織が何であるかを成立させる構成的条件である可能性がある。

ここで問題となるのは、これらの過去の出来事が、後続する構造にとってどのような存在論的資格を持つのかということである。

単に過去に起きたという事実だけでは、その出来事が後続する構造の成立条件であったことは説明できない。

また、後から歴史を振り返り、重要な出来事として認識するだけでも不十分である。

本稿は、後続する構造の成立によって、その構造の同一性を支えた過去の履歴が、構成的な前史として確定することを論証する。

1.2.二つの遡及性の区別

まず、第一論文で扱った遡及性と、本稿で扱う遡及性を区別する。

第一の遡及性は、構造が成立することによって、その内部の差異的契機が特定の構造項として個体化され、その位置、役割、同一性条件および第一性が確定することである。

これを構造的遡及性と呼ぶ。

第二の遡及性は、後続する構造が成立することによって、その構造の成立以前に存在していた履歴のうち、何がその構造を成立させる構成的な前史であるのかが確定することである。

これを歴史的遡及性と呼ぶ。

両者は同一ではない。

前者の対象は、構造内部の個体性・同一性・第一性である。

後者の対象は、構造に時間的に先行する履歴の存在論的資格である。

したがって、構造内部の項の同一性が構造によって成立するからといって、過去の履歴まで必然的に構成されるとは限らない。

構造の成立と、その成立以前に存在した履歴との関係を説明するためには、追加的な原理が必要になる。

本稿では、その原理を通時的構造編入原理と呼ぶ。Sentire+1

1.3.本稿の目的と構成

本稿の目的は、通時的構造編入原理を明らかにし、それが第一論文の構造的個体化と第一性の理論にどのように接続されるのかを論証することである。

そのため、まず歴史的遡及性を事後的認識や遡及的正当化から区別する。

次に、過去の履歴と後続する構造との関係を分析し、構成的な前史がどのような条件によって成立するのかを明らかにする。

さらに、構造の境界 B(S) と構造的不変項 K(S) を時間的な次元に拡張し、構成的な前史の選別条件を示す。

そのうえで、因果的依存、通時的基礎づけ、関係的変化および社会存在論との比較を通じて、歴史的遡及性の存在論的な意味を確定する。

最後に、歴史的な第一性の適用範囲を限定し、中心定理を提示する。

2.歴史的遡及性の基本概念

2.1.過去の事実と過去の構成的資格

歴史的遡及性を理解するためには、過去に実際に起きた出来事と、その出来事が後続する構造に対して持つ資格を区別しなければならない。

例えば、ある人物 A が時点 t₀ において、後に設立される組織のために活動していたとする。

その活動自体は、時点 t₀ においてすでに実際に行われている。

しかし、その活動が後に成立する組織 S の構成的な前史であるかどうかは、その時点ではまだ確定していない。

なぜなら、組織 S がどのような構造として成立するのか、その同一性条件がどのようなものになるのかが、まだ実現していないからである。

ここで区別すべきものは二つある。

第一は、時点 t₀ における活動が実際に行われたという歴史的事実である。

第二は、その活動が時点 t₁ に成立した構造 S の同一性を成立させる構成条件であったという、構造相対的な資格である。

第一の事実は、時点 t₀ において成立している。

第二の資格は、後続する構造 S と、その構造を成立させる構成的依存関係が実際に成立することによって確定する。

したがって、本稿が問題にするのは、過去の出来事そのものが後から変化することではない。

その出来事が後続する構造に対して持つ存在論的資格が成立することである。

2.2.定義D11――先行する履歴 H(t₀) と構成的前史 H_S(t₀)

構造 S が成立する以前に実際に存在していた履歴を H(t₀) とする。

ここで t₀ は、単独の瞬間だけでなく、構造 S の成立以前に展開していた一定の時間的範囲を表すものとする。

H(t₀) は、単独の出来事だけではなく、複数の出来事、活動、関係、制度的形成過程およびそれらの連続を含む。

しかし、H(t₀) に含まれるすべての出来事が、構造 S の成立条件になるわけではない。

そこで、そのうち構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に参与していた履歴を区別する。

定義D11:先行する履歴 H(t₀) と構造 S の歴史的な構成的前史 H_S(t₀)

H(t₀) とは、構造 S が成立する以前に実在していた出来事、活動、関係およびそれらの連続である。

H_S(t₀) とは、その H(t₀) のうち、構造 S の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に参与していた履歴である。

したがって、

H_S(t₀) ⊆ H(t₀)

が成立する。

ここで重要なのは、H_S(t₀) が単なる歴史的な出来事の集合ではないということである。

それは、特定の構造 S の同一性を成立させる構成的依存関係に参与している履歴である。

例えば、組織の創設以前に、複数の人物が活動していたとする。

その活動の一部が組織の基本的な規則や役割秩序を成立させていたのであれば、それらは H_S(t₀) に含まれる。

一方、創設者の個人的な旅行や趣味など、組織の構成条件と無関係な出来事は、H(t₀) に属していても H_S(t₀) には含まれない。

したがって、H(t₀) と H_S(t₀) は次のように区別される。

記号意味
H(t₀)構造の成立以前に実際に存在していた履歴
H_S(t₀)その履歴のうち構造 S の同一性を成立させる構成的依存関係に参与していたもの

この区別によって、歴史的遡及性は、過去の出来事を無制限に後続構造へ取り込む原理ではなくなる。

2.3.定義D12――歴史的遡及性

歴史的遡及性とは、過去の出来事そのものが後から変化することではない。

また、後続する構造が過去の出来事を因果的に生み出すことでもない。

問題となるのは、後続する構造の成立によって、その構造の成立以前に存在していた履歴が、当該構造の構成的な前史として確定することである。

定義D12:歴史的遡及性

歴史的遡及性とは、実在する後続構造 S の成立によって、その構造の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に参与していた過去の履歴 H(t₀) が、S の構成的な前史 H_S(t₀) として確定することである。

この関係を次のように表記する。

S(t₁) → H_S(t₀)

ここで t₀ は t₁ よりも時間的に先行している。

この矢印は、S が過去の出来事を因果的に生み出すことを意味しない。

後続する構造 S の成立によって、過去の履歴 H(t₀) のうち何がその構造の成立条件であったのかが、構造相対的な存在論的資格として確定することを意味する。

したがって、変化するのは過去の出来事そのものではない。

その出来事が、特定の構造に対して持つ構成的な資格である。

2.4.三つの概念の区別

歴史的遡及性をさらに明確にするため、次の三つを区別する必要がある。

第一:事後的認識

過去に起きた出来事について、後から新しい情報を得たり、その重要性を認識したりすることである。

例えば、ある人物の活動が、後に成立した組織の基礎を形成していたと歴史家が発見する場合である。

ここでは、過去の出来事についての認識が変化している。

第二:遡及的正当化

後続する構造が、自らの成立を正当化するために、過去の出来事を起源として位置づけることである。

例えば、組織が自らの正統性を主張するために、特定の人物や歴史的事件を創設の起源として掲げる場合である。

しかし、そのような主張が行われたからといって、その出来事が実際に組織の同一性を構成していたとは限らない。

第三:遡及的構成

後続する構造が成立することによって、その構造の同一性を成立させる構成的依存関係が確定し、それに参与していた過去の履歴が、その構造にとって構成的な前史として位置づけられることである。

本稿が主張するのは第三の意味である。

歴史的遡及性は、私たちが過去をどのように理解するかという認識論的な問題ではない。

また、後続する構造が自らの起源をどのように語るかという正当化の問題でもない。

問題となるのは、過去の履歴が後続する構造の同一性を成立させる実在的な構成条件となっているかどうかである。Sentire+1

2.5.後続する構造は過去を変更するのか

ここで、本稿の主張に対して次の疑問が生じる。

後続する構造が成立することによって過去の履歴の資格が確定するのであれば、未来が過去を変化させることになるのではないか。

しかし、本稿はそのような逆因果を主張しない。

時点 t₀ における出来事が実際に起きたという事実は、後に成立する構造によって変更されない。

時点 t₁ において成立するのは、その出来事が構造 S の構成的な前史であるという、S に相対的な存在論的資格である。

したがって、

S(t₁) → H_S(t₀)

は、未来から過去への因果作用を意味しない。

過去の出来事と後続する構造とのあいだに、構成的な依存関係が成立していることを表す。

この意味で、歴史的遡及性は、時間的な逆方向の因果関係ではなく、構成的な資格の遡及的成立である。

3.第一論文の構造的存在論と時間的履歴

3.1.第一論文の基本原理

第一論文では、個体性と第一性の成立を、次の構造によって説明した。

まず、個体化以前の差異的条件として、前個体的差異場 Δ が存在する。

その差異的契機が構成的関係 Rᶜ によって組織化され、構造 S が成立する。

構造 S は、構造的不変項 K(S) と、それを実現する構成的依存関係によって統一される。

構造内部の契機は、その構造によって個体化される。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

さらに、同一の構造と規定次元において、ある項 A が他の項 B の同一性条件を完全かつ非対称的に決定する場合、A は B に対して第一のものとして成立する。

A ≺_{S,d} B

この原理によって、構造内部の個体性、同一性および第一性が成立する。

しかし、ここまでの議論は、主として構造内部の関係を対象としていた。

ここで、構造の成立が時間的に先行する履歴に依存している場合を考える。

ある構造 S が時点 t₁ に成立するとき、その成立に必要な構成的条件の一部が、時点 t₀ においてすでに形成されていたとする。

この場合、構造 S の成立を支える構成的依存秩序は、S の内部に現在存在する契機だけでなく、時間的に先行する履歴にも及んでいる。

したがって、構造の境界を時間的な次元にまで拡張して考える必要がある。

3.2.構造の時間的な境界

第一論文では、構造の境界 B(S) を、構造的不変項 K(S) を実現するために必要な構成的依存関係の最小完全な閉包として定義した。

この定義に従えば、構造の境界は、単なる空間的な範囲や、同時点に存在する契機の集合に限定される必要はない。

なぜなら、ある構造の同一性を成立させるために必要な条件が、時間的に先行する履歴に含まれている場合もあるからである。

例えば、ある組織の基本的な規則が創設以前の活動によって形成されていた場合、その活動は現在の組織の内部に同時に存在しているわけではない。

しかし、その組織の構造的不変項を実現する条件として機能している。

したがって、B(S) を構成的依存関係の閉包として理解するならば、その範囲を時間的に先行する履歴へ拡張することができる。

ここで重要なのは、構造の境界を時間的に拡張することが、過去のすべてを構造に取り込むことを意味しないという点である。

構造に含まれるのは、あくまで構造的不変項 K(S) を実現するために必要な構成的依存関係だけである。

この意味で、構造的境界の時間的拡張は、構造的閉包の原理を維持したまま、その適用範囲を通時的な領域へ広げることである。

3.3.構造と歴史的履歴の関係

ここで重要なのは、構造の成立と歴史的履歴との関係が、単純な因果的系列ではないという点である。

例えば、次の時間的順序が存在するとする。

  • 時点 t₀:複数の人物による活動。
  • 時点 t₀:規則や役割秩序の形成。
  • 時点 t₁:組織 S の成立。

このとき、組織 S が成立したという事実は、過去の活動が単に時間的に先行していたということだけを意味しない。

その活動の一部が、組織 S の同一性を成立させる構成的依存関係を形成していた場合、その履歴は S の構成的な前史となる。

ここでは、二つの方向を区別する必要がある。

第一は、過去の履歴が後続する構造の成立条件に参与しているという方向である。

第二は、後続する構造の成立によって、その履歴が当該構造の構成的な前史として確定するという方向である。

前者は、構造の成立を支える構成的依存関係を示す。

後者は、その依存関係に含まれる過去の履歴の構造相対的な資格が確定することを示す。

この二つの方向を区別することによって、歴史的遡及性は、単なる時間的な先行関係や因果的な由来とは異なる存在論的意味を持つ。

4.通時的構造編入原理

4.1.構造的遡及性から歴史的遡及性への移行

第一論文の構造的個体化原理だけでは、歴史的遡及性を導くことはできない。

なぜなら、構造内部の契機が構造によって個体化されることと、構造以前の履歴が構造の構成条件として位置づけられることは異なる問題だからである。

第一論文の原理は、構造 S の内部において、差異的契機が構造項として成立することを説明する。

それに対して、本稿の問題は、構造 S が成立する以前に存在していた履歴が、その構造を成立させる条件としてどのような資格を持つのかということである。

したがって、構造的遡及性から歴史的遡及性を直接導くことはできない。

歴史的遡及性を導くためには、構造の成立範囲を時間的に先行する履歴にまで拡張する原理が必要である。

これが通時的構造編入原理である。

4.2.基本前提A3――通時的構成可能性

ここでは、歴史的遡及性を説明するために必要な前提を明示する。

基本前提A3:通時的構成可能性

構成的依存関係は、時間的に同時に存在する契機のあいだだけで成立するとは限らない。ある構造の同一性条件を実現する構成的関係は、その構造の成立以前に展開していた履歴にまで及ぶことがある。

この前提は、構成的関係が必ず時間を超えるという一般的主張ではない。

構成的依存が時間的な同時性を必須条件としないということを示すものである。

例えば、ある制度の成立において、創設以前に形成された規則や権限関係が、その制度の同一性を決定することがある。

この場合、それらの規則や関係は、制度が成立した時点に同時に存在している必要はない。

重要なのは、それらが制度の構造的不変項を実現する構成的条件となっていることである。

したがって、構成的依存関係を時間的に同時に存在する契機のあいだだけに限定する理由はない。

ただし、時間を超えた関係が存在することと、特定の過去の出来事が構成的な前史になることは、別の問題である。

後者には、さらに具体的な成立条件が必要となる。

4.3.通時的構造編入原理の提示

以上の議論から、歴史的遡及性を成立させる原理を提示できる。

通時的構造編入原理

ある構造 S の同一性が、その成立以前から展開していた特定の履歴に依存している場合、その履歴のうち、S の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に含まれる部分は、S の成立によって、その構造的同一性を支える歴史的な構成条件として確定する。

この原理には、五つの重要な意味がある。

第一に、過去の履歴は構造の成立以前から実在していなければならない。

第二に、後続する構造は実在的な構造として成立していなければならない。

第三に、構造に編入されるのは、構造的不変項の実現に関わる履歴だけである。

第四に、その履歴は構造の同一性条件に実在的な効果を持つ構成的依存関係に参与していなければならない。

第五に、その履歴が構成的な前史であることは、単なる事後的な認識や命名によって成立するのではない。

ここで重要なのは、構造の成立によって過去の出来事そのものが作り出されるわけではないという点である。

過去の出来事は、すでに生じたものとして確定している。

構造の成立によって確定するのは、その履歴が当該構造に対して持つ構成的な資格である。

4.4.通時的構造編入と構成的依存

通時的構造編入原理において最も重要なのは、過去の履歴が構造の成立にどのような形で参与していたかということである。

ある出来事が後続する構造の成立に影響を与えたというだけでは、その出来事が構造の構成条件であるとは言えない。

必要なのは、その履歴が構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に参与していることである。

例えば、組織を設立する際に、創設者の一人が偶然建物を借りたとする。

その行為が組織の設立を可能にしたとしても、建物を借りること自体が、その組織の同一性を構成しているとは限らない。

一方、組織の基本的な規則、目的、意思決定方法および権限配分を形成する活動は、その組織が何であるかを成立させる条件になっている可能性がある。

したがって、構成的依存を判定するためには、ある出来事が構造の原因であったかどうかだけでなく、その出来事が構造的不変項をどのように実現しているかを検討しなければならない。

5.歴史的遡及的構成の成立条件

5.1.反事実的依存だけでは不十分である

構成的依存関係を判定する際には、反事実的な検討が重要になる。

ある出来事が存在しなかった場合、後続する構造 S が同一の構造として成立しえなかったのであれば、その出来事は構造の構成条件に関与している可能性がある。

しかし、反事実的依存だけで構成的な前史を判定することはできない。

第一に、ある出来事が構造の成立に因果的に必要であっても、その構造の同一性条件を構成しているとは限らない。

第二に、ある出来事が別の出来事によって代替可能であっても、その出来事が担っていた構造的な役割は不可欠である場合がある。

第三に、複数の出来事が同一の構成的役割を共同で実現している場合、個々の出来事を単独で取り除く反事実的検討だけでは、その役割の必要性を正しく評価できない。

したがって、反事実的依存は構成的依存を判定するための一つの手段ではあるが、それだけで十分ではない。

必要なのは、構造的不変項 K(S) の実現に対する実際の参与、構造的な役割の必要性、代替可能性および複数の実現経路を総合的に検討することである。

5.2.歴史的遡及的構成の五つの条件

以上を踏まえ、歴史的遡及的構成が成立するための条件を五つ提示する。

条件1:過去の履歴の実在性

対象となる出来事や活動は、構造 S の成立以前に実際に存在していなければならない。

単なる伝説、創作された起源、後から作られた物語は、実在する歴史的な構成的前史とは区別される。

これは、過去の履歴を存在論的な説明対象として扱うための基本条件である。

条件2:後続する構造 S の実在性

過去の履歴を構成的な前史として確定するためには、それが関係する構造 S が実際に成立していなければならない。

構造が成立していないにもかかわらず、その構造の構成的な前史だけが成立するということはできない。

ただし、ある構造の成立が計画されていたが実現しなかった場合、その計画や活動自体には、別の構造的な同一性が成立しうる。

ここで問題にするのは、実際に成立した構造 S に対する資格である。

条件3:構造的不変項 K(S) への構成的参与

過去の履歴は、S の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に参与していなければならない。

単なる因果的影響、時間的先行、偶然的な接触だけでは不十分である。

その履歴が、構造の基本的な規則、役割、関係秩序または同一性条件を成立させることに関わっていなければならない。

条件4:構造的同一性への実在的な効果

過去の履歴の違いが、代替可能な構成経路を考慮したうえで、S の構造的同一性条件に実在的な効果を持っていなければならない。

ただし、ここでいう効果は、個別的な出来事が一つも代替できないことを意味しない。

ある出来事が代替可能であっても、それが担っていた構成的役割が構造の同一性にとって必要である場合、その役割を実現した履歴は構成的な前史になりうる。

したがって、個別的な出来事と、その出来事が担う構造的な役割は区別されなければならない。

また、複数の出来事が同じ役割を実現している場合には、一つの出来事だけでなく、それらの組み合わせが構成条件になっている可能性も検討する必要がある。

条件5:事後的認識や命名からの独立

過去の履歴が構成的な前史として成立することは、後からその出来事を重要だと認識したり、特定の名称を与えたりすることだけに依存してはならない。

例えば、組織が自らを正当化するために、特定の歴史的出来事を創設の起源として掲げたとしても、それだけでは構成的な前史が成立したことにはならない。

その出来事が実際に構造的不変項の実現に参与していたかどうかを独立に検討しなければならない。

以上の五条件が満たされる場合、その履歴は後続する構造の構成的な前史として認められる。Sentire+1

5.3.構成的な前史は最小完全な閉包によって決まる

五つの条件を満たす履歴であっても、過去のすべてを構造の構成条件に含める必要はない。

構造 S の同一性を成立させるために必要な履歴だけが、構成的な前史に含まれる。

ここで第一論文の構造的不変項 K(S) と構造の境界 B(S) の概念が重要になる。

K(S) を実現するための構成的依存関係の閉包が B(S) を定めるのであれば、その閉包に含まれる時間的に先行する履歴も、構造の成立条件として認められる。

したがって、歴史的遡及的構成は、構造の構成的閉包を時間的な方向に拡張することで説明できる。

ただし、最小完全な閉包は、必ずしも一つだけ存在するとは限らない。

複数の構成経路が同じ構造的不変項を実現する場合、複数の構成的な前史が存在する可能性がある。

したがって、本理論は、ある構造の歴史的な成立経路が常に一つだけであるとは仮定しない。

重要なのは、複数の経路が存在する場合でも、それぞれが実際に構造的不変項を実現する構成的関係を備えていることである。

また、ある構成的前史に含まれるすべての出来事が、単独で不可欠な条件である必要もない。

ある出来事が代替可能であっても、その出来事が担っていた役割が構造の成立に必要であれば、その役割を実現した実際の履歴は構成的な前史の一部となりうる。

ここでは、個別的な出来事の不可欠性と、構造的な役割の不可欠性を区別する。

これによって、個別の出来事の代替可能性を認めながら、構造的不変項の成立に必要な歴史的条件を説明できる。

6.先行研究との比較

6.1.因果的依存と構成的依存

歴史的遡及性を現代形而上学における依存関係と比較する必要がある。

まず、因果的依存と構成的依存を区別する。

因果的依存は、ある出来事が別の出来事を生じさせる関係である。

これに対して、構成的依存は、あるものが何であるか、あるいはどのような同一性条件を持つかを成立させる関係である。

例えば、ある組織を設立する際に、創設者の一人が建物を借りたとする。

その行為が組織の設立を可能にしたとしても、建物を借りること自体が、その組織の同一性を構成しているとは限らない。

一方、組織の基本的な規則、目的、意思決定方法および権限配分を決める活動は、その組織が何であるかを成立させる条件になっている可能性がある。

ただし、因果的依存と構成的依存は必ずしも排他的ではない。

ある出来事は、構造を因果的に成立させると同時に、その構造の同一性を構成する条件であることもできる。

したがって、歴史的遡及性の判定では、その出来事が原因であったかどうかだけでなく、構造的不変項の実現にどのように参与していたのかを検討しなければならない。

6.2.通時的基礎づけとの比較

Correia と Merlo は、論文「Cross-Temporal Grounding」において、通時的基礎づけを論じている。

彼らの議論では、現在における過去についての事実が、現在の別の事実によってではなく、時間的に先行する過去の事実によって説明される場合が検討される。

例えば、「カエサルが生きていた」という過去についての現在の事実は、カエサルが実際に生きていた過去の事実によって説明されうる。

この議論は、存在論的な基礎づけ関係が必ずしも同一時点の事実間に限られないことを示す重要な研究である。¹

本稿の歴史的遡及性も、異なる時点に属する事実のあいだの存在論的関係を扱う。

しかし、両者の問題設定は異なる。

通時的基礎づけが、過去についての現在の事実を過去の事実によって説明することを中心に扱うのに対して、本稿が扱うのは、後続する構造の成立によって、その構造にとって何が構成的な前史であるのかが確定するという問題である。

本稿では、過去の出来事と後続する構造の両方を考慮する必要がある。

したがって、本理論は、通時的な存在論的依存関係を認める点でCorreiaとMerloの議論と接点を持つ一方、構造的不変項の実現と歴史的資格の成立という問題を追加する。

6.3.関係的変化とケンブリッジ変化

David Weberman は、1999年の論文「Cambridge Changes Revisited: Why Certain Relational Changes Are Indispensable」において、関係的な性質の変化が真正な変化となる場合を検討している。

伝統的な議論では、ある対象の内在的性質が変化せず、他の対象との関係だけが変化した場合、それは対象自身の実在的な変化ではなく、単なるケンブリッジ変化とみなされることがある。

例えば、ある人物の身長が変わらなくても、他の人物が成長すれば、その人物は相対的に背が低くなる。

しかし、この変化によって本人の内在的性質が変わったわけではない。

Weberman は、社会的現象、歴史的出来事、美術作品などのように、関係的な性質が対象の同定に関与する存在者を検討し、関係的な変化が実在的な変化となりうることを論じている。²

この議論は、本稿にとって重要である。

なぜなら、本稿も、過去の履歴が後続する構造との関係によって新しい存在論的資格を持つことを主張するからである。

ただし、本稿が主張するのは、あらゆる関係的変化が実在的であるということではない。

重要なのは、その関係が構造の同一性条件を成立させる構成的依存関係であるかどうかである。

単に後続する構造と関係づけられたというだけでは不十分である。

その履歴が、構造的不変項 K(S) の実現に実際に参与していなければならない。

したがって、本稿では、関係的な資格の成立が構造の同一性にとって構成的な意味を持つ場合に限って、歴史的遡及性を認める。

6.4.社会存在論との関係

社会的な存在者の成立をめぐっては、Brian Epstein の『The Ant Trap』(2015)が重要である。

Epstein は、社会的事実や社会的対象の成立を、個人の行為や意図だけに還元することができないと論じる。

また、社会的事実の基礎づけと、それらを成立させる枠組みの設定を区別し、社会的存在者の構成条件を分析している。

特に grounding と anchoring の区別は、社会的構造が何によって成立し、どのようにその成立条件が設定されるのかを考えるうえで重要である。

本稿も、組織の個体性を、その構成員の単純な集合に還元しない。

組織が何であるかは、構成員の存在だけでなく、役割、規則、活動原理、相互関係などの構成的秩序によって決まる。

ただし、本稿がEpsteinに加える問題は、組織の構成条件が時間的にどこまで遡るのかということである。

つまり、ある組織が成立したとき、それ以前の出来事のうち何がその組織の同一性を構成する歴史的条件になるのかという問題である。

この点で本稿は、社会存在論の問題を通時的な構造の成立へと拡張する。³

7.歴史的遡及性の具体例――組織の成立と創設者の活動

7.1.組織の成立以前

ここまでの議論を具体的に検討するため、ある組織 S の成立を考える。

組織 S は、時点 t₁ において正式に成立したとする。

しかし、その組織の成立以前から、複数の人物 A、B、C が活動していた。

彼らは、共同の目的について議論し、活動の規則を形成し、役割を分担し、意思決定の方法を整えていた。

時点 t₀ では、まだ正式な組織 S は成立していない。

しかし、その成立を可能にする活動や関係はすでに展開している。

ここで重要なのは、組織 S が成立する以前から、その組織を成立させる条件の一部が形成されているということである。

ただし、この段階では、それらの活動が最終的にどのような組織の構成的な前史になるのかは、まだ確定していない。

時点 t₁ において組織 S が成立し、その組織の同一性条件が実現すると、過去の活動のうち何がその構成条件であったのかが確定する。

7.2.過去の活動と構造的資格

時点 t₀ における A、B、C の活動のすべてが、組織 S の構成的な前史になるわけではない。

例えば、A が個人的に旅行したことや、B が趣味の活動を行っていたことは、組織 S の基本的な規則や役割秩序とは無関係であるかもしれない。

一方、A、B、C が共同で基本規則を作成し、意思決定方法を確立し、それぞれの役割を調整していたのであれば、それらの活動は組織の構造的不変項 K(S) を実現する構成的条件となる可能性がある。

したがって、過去の履歴のうち、組織 S の構成的な前史として認められるのは、後者の活動である。

ここでは、歴史的な重要性と構成的な必要性を区別することが重要である。

ある出来事が歴史的に有名であることは、その出来事が組織の同一性を構成していることを意味しない。

反対に、歴史叙述では目立たない活動であっても、組織の基本的な規則や関係秩序を成立させていたのであれば、構成的な前史になりうる。

7.3.創設者本人と創設的役割の区別

ここで、さらに重要な区別が必要になる。

それは、創設者という人物と、その人物が担っていた創設的な役割を区別することである。

ある組織の成立以前に、A が基本的な規則の形成や役割秩序の確立を担っていたとする。

しかし、その活動を別の人物 B が代わりに行うことも可能であったとする。

この場合、A という人物の個体性そのものが、組織 S の同一性条件を決定しているとは限らない。

むしろ、A が担っていた規則形成や制度設計という役割が、組織 S の同一性条件に関わっている可能性がある。

したがって、A という人物が創設者であるという歴史的資格と、その人物が担っていた役割が構造の成立条件であるということは区別されなければならない。

この区別を行わなければ、特定の個人の重要性を過大評価し、組織の成立を一人の人物に還元してしまう危険がある。

本理論が問題にするのは、人物の歴史的な偉大さや重要性ではない。

その人物の活動が、後続する構造の同一性を成立させる構成的依存関係に参与しているかどうかである。

7.4.過去のすべてが組織の歴史になるわけではない

ここで、歴史的遡及性の重要な限定が明らかになる。

ある組織の歴史的な前史は、その組織の成立以前に起きたあらゆる出来事の集積ではない。

組織 S が成立するために必要な構成的依存関係に含まれる出来事や活動である。

例えば、創設者 A の人生におけるある出来事が、組織 S の成立に偶然的な影響を与えただけであれば、それは S の構成的な前史とは限らない。

一方、A の活動が S の基本的な規範や役割秩序を実現し、その秩序が S の同一性条件を維持しているのであれば、その活動は構成的な前史として位置づけられる。

したがって、本理論では、歴史的な重要性と存在論的な構成性を同一視しない。

歴史上重要な出来事であっても、特定の構造の同一性を構成していない場合がある。

反対に、一般的な歴史叙述では目立たない活動であっても、特定の構造の成立にとって不可欠な構成条件になっている場合がある。

歴史的な評価と存在論的な構成性は、異なる基準によって判断されなければならない。Sentire+2

8.歴史的第一性――時間的先行性と存在論的優先性の区別

8.1.時間的に先に起きたことは、存在論的に第一なのか

ここで、本理論全体の名称に関わる問題に戻る。

ある出来事が他の出来事よりも時間的に先に起きた場合、その出来事は他の出来事に対して第一なのであろうか。

本稿は、そのような単純な同一視を認めない。

時間的先行性と存在論的優先性は、別の関係だからである。

例えば、ある組織の成立以前に、複数の人物がさまざまな活動を行っていたとする。

そのなかで、最も早く行われた活動が、必ずしも組織の同一性を決定する最も重要な構成条件であるとは限らない。

時間的に早いというだけでは、存在論的な第一性は成立しない。

重要なのは、その活動が後続する構造の不変項をどのように実現し、他の歴史的な構成条件の同一性をどの程度決定しているかである。

したがって、歴史的な第一性も、単純な時間的順序ではなく、構造的な依存関係によって理解されなければならない。

8.2.時間的に広がった構造内部の第一性

第一論文では、構造内部の第一性を、特定の規定次元における非対称的な同一性決定関係として定義した。

A ≺_{S,d} B

この定義は、構造内部に現在存在する項だけに限定されるものではない。

歴史的な構成的前史 H_S(t₀) に含まれる契機のあいだにも、同じ規定次元における非対称的な同一性決定関係が成立する場合がある。

例えば、組織 S の成立以前に、A の活動によって基本的な規則が形成され、その規則を前提として B の活動が特定の構成的役割を持つようになったとする。

この場合、A の活動が B の活動の役割や位置を非対称的に決定している可能性がある。

ただし、そのことを示すためには、A の活動が B の活動の同一性条件を特定の規定次元において構成的に決定していること、さらに逆方向の同一性決定が成立しないことを証明しなければならない。

この条件が満たされる場合、歴史的な契機のあいだにも第一性が成立する。

8.3.歴史的第一性は、すべての前史に成立するわけではない

以上から、歴史的な第一性には明確な限定が必要である。

ある履歴が構造の構成的な前史であるということは、その履歴が後続する構造の同一性条件に参与していることを意味する。

しかし、それだけでは、その履歴の内部に存在論的な第一性が成立するとは言えない。

例えば、A と B の活動が、どちらも組織 S の基本的な規則を形成するうえで必要であり、両者が相互に規定し合っている場合、どちらか一方が他方に対して第一であるとは限らない。

一方、A の活動によって B の活動が構造的な役割を持つようになり、同じ規定次元において逆方向の決定関係が成立しない場合、A は B に対して第一である可能性がある。

したがって、歴史的な第一性は、通時的構造編入原理から自動的に導かれるものではない。

構成的な前史の内部において、さらに非対称的な同一性決定関係が成立する場合に限って認められる派生的な帰結である。

この限定によって、時間的に古い出来事を無条件に第一のものとみなすことを避けられる。

9.予想される反論と応答

9.1.後続する構造が過去を規定することは逆因果ではないか

第一の反論は、後続する構造の成立によって過去の履歴の資格が確定するという主張は、未来が過去を変える逆因果を意味するのではないかというものである。

しかし、本稿は、後続する構造が過去の出来事を因果的に生み出すとは主張していない。

時点 t₀ の出来事は、その時点において実際に生じている。

時点 t₁ に構造 S が成立することによって確定するのは、その出来事が S の構成的な前史であるという関係的な資格である。

したがって、時間的な因果関係の方向は逆転していない。

過去の出来事が構造の成立に関与するという構成的依存関係と、構造の成立によって過去の履歴の資格が確定するという関係的な成立を区別すればよい。

なお、ここでは、後続構造が過去の出来事を物理的に変化させることと、過去の出来事と後続構造のあいだに存在論的な関係が成立することを区別している。

9.2.これは単なるケンブリッジ変化ではないか

第二の反論は、過去の出来事そのものには何の変化も起きていないのだから、その出来事が構造の構成的な前史になったというのは、単なる関係的な変化にすぎないのではないかというものである。

この問題については、Weberman の議論が重要になる。

本稿は、関係的な性質の変化がすべて実在的な変化であるとは主張しない。

しかし、関係的な性質が対象の同一性条件に構成的に関与する場合、その関係的な資格は存在論的な意味を持ちうる。

例えば、ある過去の活動が、組織 S の基本的な規則や役割秩序を実現していたとする。

その活動が S の構成的な前史であることは、単に私たちが後からその活動を重要だと評価した結果ではない。

その活動が、実際に S の同一性を成立させる構成的依存関係に参与していたことによって成立する。

したがって、ここで成立するのは、単に外部から付加された関係的な名称ではない。

構造の同一性を成立させる実在的な関係的資格である。

ただし、本稿が主張する存在論的資格の実在性は、単に「関係が変わった」と述べるだけでは証明できない。

その関係が K(S) の実現に参与し、対象の同一性条件に実質的な影響を持っていることを示す必要がある。

この条件を満たさない単なる関係的な呼称は、歴史的遡及的構成には含まれない。

9.3.後から作られた歴史的物語とどう区別できるのか

第三の反論は、後続する構造が自らの歴史を都合よく再構成する可能性がある以上、構成的な前史と後付けの歴史的物語を区別できないのではないかというものである。

この反論に対しては、事後的な認識や正当化と、実在する構成的依存関係を区別する必要がある。

ある組織が、自らの正統性を主張するために特定の人物を創設者として位置づけたとしても、そのことだけでは当該人物が組織の同一性条件を構成していたとは言えない。

構成的な前史として認めるためには、その人物の活動や役割が実際に構造的不変項 K(S) を実現していたことを示さなければならない。

そのためには、実際の活動記録、規則の形成過程、役割分担、意思決定方法などを検討する必要がある。

また、後から与えられた説明が、実際の構造と矛盾する場合、その説明を構成的な前史の根拠とすることはできない。

したがって、歴史的遡及性は、歴史的物語の自由な再構成を認める原理ではない。

実際の構成的依存関係に基づいて、歴史的な前史の範囲を限定する原理である。

9.4.同じ構造が別の歴史から成立した可能性はないのか

第四の反論は、ある構造が別の過去の経路から成立する可能性がある以上、特定の履歴をその構造の構成的な前史とすることはできないのではないかというものである。

この反論は、構成的な前史と唯一の成立経路を混同している。

本稿は、ある構造が一つの歴史的経路からしか成立しえないとは主張しない。

同じ構造的不変項を実現する複数の構成経路が存在する可能性を認める。

ただし、ここでは、同じ種類の構造と数的に同一の構造を区別しなければならない。

例えば、異なる歴史から同じ種類の組織が成立することは可能である。

しかし、それらが数的に同一の組織であるとは限らない。

特定の組織 S の同一性条件に特定の歴史的連続性が含まれている場合、別の歴史から成立した同型の組織は、別の個体である可能性がある。

逆に、特定の歴史的な出来事が代替可能であり、その役割が別の出来事によって実現されても同一性が維持されるならば、その個別的な出来事自体は構成的な前史に不可欠なものではない。

したがって、歴史的遡及性は、歴史的経路の唯一性を前提としない。

9.5.構造的不変項 K(S) の設定自体が循環していないか

第五の反論は、K(S) を過去の履歴に適合するように設定すれば、どのような出来事でも構成的な前史として説明できてしまうのではないかというものである。

この問題を避けるためには、K(S) と H_S(t₀) の特定を区別しなければならない。

K(S) は、対象となる構造が同一の構造として成立し続けるための条件である。

それを特定する際には、対象の同一性条件、許容される変化、構成要素の代替可能性、構造の存続条件および構成的依存関係を検討する。

一方、H_S(t₀) は、その K(S) を実現した実際の履歴である。

したがって、まず対象となる構造について、何がその同一性を成立させているのかを分析し、その後で実際の履歴がその条件をどのように実現したのかを検討しなければならない。

特定の歴史的出来事に合わせて K(S) を自由に設定することは認められない。

ただし、歴史的連続性そのものが構造の同一性条件に含まれる場合はありうる。

その場合でも、なぜその連続性が対象の同一性に必要なのかを、独立した構成的条件として示さなければならない。

したがって、本理論では、構造的不変項の特定と歴史的前史の選別を、相互に検証しながらも区別して行う必要がある。

9.6.後続する構造によって歴史が目的論的に決定されるのではないか

第六の反論は、後続する構造が過去の履歴の資格を確定するのであれば、過去の出来事が最初からその構造の成立に向かっていたかのように説明されるのではないかというものである。

しかし、本稿は、後続する構造が過去にあらかじめ予定されていたとは主張しない。

ある時点における人物の活動や選択は、その時点で成立していた条件や可能性のもとで行われる。

その後、複数の可能性のうち一つが実現し、構造 S が成立する。

このとき、その構造の成立を支えた履歴が、構成的な前史として位置づけられる。

したがって、歴史的遡及性は、過去の出来事が未来の構造を目的として生じたと説明するものではない。

実際に成立した構造と、その成立を支えた過去の履歴との関係を説明するものである。

過去に存在した複数の可能性や、実現しなかった経路を否定する必要はない。

本理論が対象とするのは、実際に成立した構造 S と、それを支えた現実の履歴との存在論的関係である。

したがって、本理論は歴史をあらかじめ決定された目的へ向かう過程として理解するものではない。

9.7.時間の存在論と歴史的資格の成立は両立するのか

最後に、時間の存在論について明確にしておく必要がある。

本稿の主張は、時間的に先行する履歴と後続する構造とのあいだに、構成的な関係が成立しうるというものである。

しかし、過去の存在者が現在も実在するのか、あるいは現在だけが存在するのかという問題については、さらに検討が必要である。

現在主義を採用する場合、過去の事実を現在の存在論の中でどのように扱うのかが問題になる。

一方、永遠主義を採用する場合、過去と現在の双方が時間的に異なる位置に実在するものとして、両者の関係を説明することができる。

ただし、永遠主義を採用すれば、本稿の遡及性がそのまま証明されるわけではない。構成的資格がなぜ単なる関係的記述ではなく、存在論的な意味を持つのかは別途示す必要がある。

そこで本稿では、現在主義または永遠主義のいずれかを無条件に採用しない。

ただし、本理論は、時間的な同時性だけを構成的依存関係の条件とする立場を採らない。

時間的に異なる契機のあいだにも、実在的な構成的依存関係が成立しうることを、本稿の基本的な存在論的前提としている。

したがって、本稿は時間論全般について完全に中立であるというより、通時的な構成的依存を認める範囲で、特定の時間論を前提しない立場を採る。

この点は、通時的基礎づけを扱うCorreiaとMerloの議論とも関連するが、本稿では、歴史的な構成的資格の成立を独自の問題として扱う。⁴

10.定理T2――通時的構造編入定理

10.1.定理の提示

以上の議論を統合すると、本稿の中心定理を提示できる。

定理T2:通時的構造編入定理

ある構造 S が時点 t₁ に成立し、それ以前の時点 t₀ において実在していた出来事または存在者の履歴 H(t₀) が、その構造の成立に関与しているとする。

次の五つの条件が満たされる場合、H(t₀) のうち、構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に含まれる部分は、S の構成的な前史 H_S(t₀) として遡及的に確定する。

第一条件: H(t₀) が実在的な履歴であること。

第二条件: S が時点 t₁ に実在的な構造として成立していること。

第三条件: H(t₀) の一部が、S の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存関係に参与していること。

第四条件: その履歴の違いが、代替可能な構成経路を考慮したうえで、S の構造的同一性条件に実在的な効果を持つこと。

第五条件: その履歴が構成的な前史であるという資格が、事後的な認識や命名だけによって成立しているのではないこと。

この場合、次の関係が成立する。

S(t₁) → H_S(t₀)

したがって、後続する構造 S の成立によって、その構造の同一性を支える歴史的な構成条件が確定する。

10.2.証明

まず、時点 t₀ において、構造 S の成立に関与する存在者または出来事 H(t₀) が実際に存在していたとする。

この時点では、S はまだ構造として成立していない。

したがって、H(t₀) の各契機が、後に成立する S の構成的な前史としてどのような資格を持つのかは、まだ実現していない構造 S との関係において確定していない。

次に、時点 t₁ において、H(t₀) の一部を含む構成的関係によって構造 S が成立するとする。

このとき、S の構造的不変項 K(S) が実現する。

ここで、H(t₀) の内部にある諸契機が、K(S) の実現にどのように参与しているのかを検討することができる。

ただし、H(t₀) のすべてが K(S) の実現に必要であるわけではない。

そのため、構造的不変項を実現する構成的依存関係の閉包に含まれる部分だけが、構成的な前史として認められる。

さらに、反事実的な検討と代替可能性の検討によって、その履歴が S の同一性条件にどのような効果を持っているのかを確認する。

この際、個別的な出来事と、その出来事が担っている構成的役割を区別しなければならない。

特定の出来事が代替可能であれば、その出来事自体は必須ではない可能性がある。

しかし、その出来事が担っていた役割が構造的不変項の実現に不可欠であれば、その役割を実現する履歴は構成的な前史として認められる。

また、その履歴が構成的な前史であるという資格は、後から与えられた名称や歴史的な評価だけによって成立するのではない。

実際の構造的不変項と、それを実現する構成的依存秩序によって成立する。

以上の条件が満たされるとき、H(t₀) のうち、K(S) を実現する構成的依存関係に含まれる部分が、S の構成的な前史として確定する。

したがって、

S(t₁) → H_S(t₀)

が成立する。

ゆえに、定理T2が成立する。□

10.3.定理T2の論証依存関係

論証段階前提・使用概念導かれる内容
第1段階D11実在する履歴H(t₀)の区別
第2段階D4・D5・D6、A3構造の時間的な構成範囲
第3段階P5の五条件H_S(t₀)の選別
第4段階D12、P6歴史的な構成的資格の成立
結論P4〜P6、A3T2:通時的構造編入

ここで重要なのは、A3を暗黙の前提にしていないことである。

P5の条件が満たされたとしても、時間的に離れた契機が構成的依存関係に含まれることを認めなければ、H_S(t₀) は成立しない。

したがって、通時的構造編入の可能性は、基本前提A3によって明示的に支えられている。

この点で、T2は単に歴史的な出来事を後続構造と関係づける定義上の帰結ではない。

通時的な構成的依存を認めるという存在論的前提のもとで、五条件を満たす履歴に構成的な資格が成立することを示す定理である。

10.4.定理T2の存在論的意味

この定理が示すのは、構造の成立が時間的に先行する履歴の構成的資格を決定しうるということである。

ここで重要なのは、すべての過去が後続する構造によって規定されるわけではないという点である。

規定されるのは、構造的不変項を実現する構成的依存関係に参与する履歴だけである。

したがって、歴史的遡及性は、過去を無制限に現在の構造へ取り込む原理ではない。

構造の同一性条件に基づいて、その構造の成立にとって構成的な前史を確定する原理である。

また、この定理は、過去の出来事が後続する構造によって因果的に変化することを意味しない。

過去の出来事は過去の出来事として確定している。

成立するのは、その出来事が後続する構造の成立条件にとって持つ存在論的な資格である。

11.構造的遡及性と歴史的遡及性の統合

11.1.二つの遡及性を統一する共通原理

ここまでの議論によって、二つの遡及性を区別したまま統一することができる。

第一論文で論証した構造的遡及性は、構造 S の成立によって、その内部の項の個体性、同一性、第一性が確定することである。

本稿で論証した歴史的遡及性は、構造 S の成立によって、時間的に先行する履歴のうち、何がその構造の構成的な前史であるのかが確定することである。

両者は、異なる対象に作用している。

しかし、その基本原理は共通している。

それは、構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存秩序によって、個体性・同一性・第一性・歴史的資格が成立するという原理である。

構造の内部にある差異的契機は、K(S) を実現する関係秩序によって構造項として個体化される。

また、構造が成立する以前に存在していた履歴は、その不変項を実現する構成的依存関係に含まれることによって、構成的な前史として確定する。

したがって、構造的不変項は、現在の構造内部だけを規定するものではない。

その構造の成立を支えた時間的な履歴にも、その作用範囲を広げることができる。

11.2.構造的個体化と歴史的遡及性の関係

この関係を整理すると、次のようになる。

第一段階:個体化以前の差異

前個体的差異場 Δ に、個体化以前の異質性と差異的規定可能性が存在する。

第二段階:構造の成立

差異的契機が構成的関係によって組織化され、構造 S と構造的不変項 K(S) が成立する。

第三段階:構造内部の個体化

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

によって、構造内部の契機が構造項として個体化される。

第四段階:構造内部の第一性

A ≺_{S,d} B

によって、構造内部の非対称的な同一性決定関係から第一性が成立する。

第五段階:歴史的な構成的前史の成立

S(t₁) → H_S(t₀)

によって、構造の成立以前の履歴が、その構造の構成的な前史として確定する。

この五段階は、時間的・因果的に単純な一方向の系列を示すものではない。

それぞれ異なる存在論的関係を示している。

しかし、これらはすべて構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存秩序に基づいている。

したがって、個体性、同一性、第一性および歴史的資格は、独立した複数の原理によって説明されるのではなく、構造的不変項を実現する構成的依存秩序によって統一的に説明される。

11.3.統一定理を導くための橋渡し条件

ここで、T1とT2を統合する前に、両者の関係を明確にしなければならない。

T1は、構造内部の個体性・同一性・第一性を説明する。

T2は、時間的に先行する履歴の構成的資格を説明する。

しかし、二つの定理が同じ構造 S と K(S) を扱っているというだけでは、両者が一つの存在論を形成していることは証明されない。

そこで、次の条件を明確にする。

統合条件B1:構造的不変項の同一性

T1とT2で使用する K(S) は、別々に設定された二つの不変項ではなく、同一の構造 S の同一性を成立させる一つの構造的不変項でなければならない。

統合条件B2:構成的依存秩序の連続性

構造内部の個体化に関わる構成的依存関係と、歴史的な構成的前史に関わる依存関係は、同一の K(S) を実現する構成的閉包の異なる部分でなければならない。

統合条件B3:時間的領域の拡張

構造的不変項 K(S) を実現する閉包 B(S) は、構造内部の同時的な契機だけでなく、その構造の成立を支えた時間的に先行する履歴にも及びうる。

この三条件を満たす場合、第一論文の構造的遡及性と第二論文の歴史的遡及性は、同一の存在論的秩序に属する二つの作用として理解できる。

ここで重要なのは、B1〜B3がT1またはT2の結論をそのまま繰り返していないことである。

B1は両論文の対象となる構造の同一性を確定する条件であり、B2はその依存関係の統一性を確保する条件であり、B3はその閉包が時間的な範囲にまで及ぶための条件である。

これらの条件を確認することによって、T3はT1とT2の結論を単純に並べるだけの定理ではなくなる。

11.4.定理T3――第一性の遡及的成立・統一定理

以上の二つの論文を統合すると、次の統一定理を提示できる。

定理T3:第一性の遡及的成立・統一定理

前個体的差異場 Δ に内在する差異的条件から構造 S が成立し、その構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存秩序が、構造内部の契機と時間的に先行する履歴の双方に及んでいる場合、次の関係が成立する。

第一に、構造 S の成立によって、その内部の差異的契機が構造項として個体化される。

I(S, mᵢ → xᵢ^S)

第二に、構造内部において、非対称的な同一性決定関係が成立する場合には、特定の規定次元における第一性が成立する。

A ≺_{S,d} B

第三に、構造 S の成立以前に存在する履歴が、K(S) を実現する構成的依存関係に参与している場合、その履歴は S の構成的な前史として確定する。

S(t₁) → H_S(t₀)

したがって、個体性・同一性・第一性・歴史的な構成的資格は、同一の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存秩序によって統一的に説明される。

証明

まず、第一論文のT1によって、前個体的差異場 Δ に内在する差異的条件が構成的関係 Rᶜ によって組織化され、構造 S が成立することが示されている。

その構造の内部では、差異的契機 mᵢ が構造的不変項 K(S) と構成的関係の秩序によって、構造項 xᵢ^S として個体化される。

さらに、特定の規定次元において非対称的な同一性決定関係が成立する場合、AはBに対して第一のものとなる。

これによって、構造内部の個体性・同一性・第一性が成立する。

次に、本稿のT2によって、構造 S の成立以前に存在していた履歴 H(t₀) のうち、K(S) を実現する構成的依存関係に参与していた部分が、H_S(t₀) として確定することが示されている。

したがって、構造 S の成立は、その内部の契機だけでなく、その構造を成立させる時間的な履歴にも構成的な意味を与える。

ここで、統合条件B1によって、T1とT2において使用されるK(S)が同一の構造的不変項であることが確認されている。

また、B2によって、構造内部の個体化に関わる依存関係と、歴史的な構成的前史に関わる依存関係が、同一の構成的閉包の異なる部分であることが確認されている。

さらに、B3によって、その構成的閉包が時間的に先行する履歴にまで及びうることが確認されている。

したがって、構造内部の個体性・同一性・第一性と、時間的に先行する履歴の構成的資格は、独立した二つの原理によって成立するのではない。

同一の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存秩序によって、異なる領域において成立する。

このとき、すべての構造に第一性が存在するわけではない。

また、すべての構造に歴史的な構成的前史が存在するわけでもない。

構造内部に非対称的な同一性決定関係が成立しない場合、第一性は成立しない。

また、時間的に先行する履歴が構成的依存関係を形成していない場合、歴史的な構成的前史は成立しない。

しかし、それぞれの成立条件が満たされる場合、個体性・同一性・第一性・歴史的な構成的資格は、同一の構成的依存秩序によって説明される。

ゆえに、定理T3が成立する。□

定理T3の依存関係

段階使用する定理・前提結論
1P1〜P3・A1〜A2・G構造的個体化と第一性
2T1構造的遡及性
3P4〜P6・A3歴史的遡及性
4T2通時的構造編入
5B1〜B3両者の同一の構造的基礎
6T1・T2・B1〜B3統一定理T3

ここでのT3の重要な意味は、二つの定理が同じ内容を述べているということではない。

T1は構造内部の個体性と第一性を説明し、T2は構造の時間的な成立条件を説明する。

両者が統一されるのは、同一の構造的不変項と構成的依存秩序が、内部と通時的な履歴という異なる領域に作用しているからである。

12.結論――個体性・第一性・歴史的資格の統一

本稿では、構造的個体化によって個体性と第一性が成立するという存在論的原理を、時間的・歴史的な次元へ拡張した。

最初に、構造内部の項の個体性が成立することと、時間的に先行する履歴の構成的資格が成立することは、異なる問題であることを示した。

構造が成立することによって、その内部の項の位置や役割が確定するだけでは、過去の履歴のうち何がその構造の成立を支えたのかは説明されない。

そこで、通時的構造編入原理を導入した。

この原理によれば、ある構造 S の同一性が、その成立以前から展開していた特定の履歴に依存している場合、その履歴のうち、構造的不変項 K(S) の実現に必要な構成的依存関係に含まれる部分は、S の成立によって、その構造を支える歴史的な前史として確定する。

さらに、歴史的遡及的構成を成立させる条件として、実在的な履歴、後続構造の実在性、構造的不変項への構成的参与、構造的同一性への実在的な効果、および事後的認識や命名からの独立を示した。

特に、反事実的依存だけでは構成的関係を判定できないことを明らかにし、個別的な出来事と、それが担う構成的役割を区別する必要性を示した。

この議論によって、歴史的遡及性は、単なる因果的由来や事後的な歴史解釈から区別される。

また、第一論文で確立した構造的遡及性との関係も明らかになった。

構造的遡及性は、構造内部の項の個体性・同一性・第一性を確定する。

歴史的遡及性は、その構造を成立させる時間的に先行する履歴の構成的資格を確定する。

両者は異なる対象に作用するが、その成立を支える原理は共通している。

それは、構造的不変項を実現する構成的依存秩序である。

この原理によって、個体性、第一性、歴史的資格を一つの存在論的体系に統合することができる。

本理論の結論は、次のようにまとめられる。

あるものが何であり、なぜそれ自身として成立し、何に対して第一であるのかは、そのものが構造から独立して存在することによって先に決まるのではない。

また、そのものを成立させる履歴の意味も、時間的に先行しているというだけでは確定しない。

個体性・第一性・歴史的資格は、それらを成立させる構造的不変項と構成的依存秩序によって遡及的に確定する。

ここに「第一性の遡及的成立」の最終的な存在論的意味がある。

本理論が目指しているのは、単に個体より関係を優先することでも、全体を部分より優先することでもない。

個体が何であるか、構造内部で何が第一であるか、そして時間的に先行する履歴のうち何が構成的な前史であるかを、同じ存在論的原理によって説明することである。

したがって、本理論は、個体・関係・構造のいずれか一つを無条件に第一の存在として措定する立場ではない。

むしろ、それらの存在論的な位置づけそのものが、構造的不変項を実現する構成的依存秩序によって成立することを示すものである。

この意味で、「第一性の遡及的成立」は、個体性・同一性・存在論的優先性・歴史的資格を統一的に説明する、階層的かつ通時的な構造的存在論として位置づけられる。

注

注1 Correia, Fabrice, and Giovanni Merlo, “Cross-Temporal Grounding,” Analytic Philosophy 65 (3), 2024, pp.333–352. 本論文は、現在における過去についての事実が、過去の事実によって基礎づけられる関係を扱う。本稿の歴史的遡及性は、過去の事実と後続する構造との構成的関係を扱う点で異なる。両者は時間をまたぐ存在論的依存を認める点で接点を持つが、同一の理論ではない。

注2 Weberman(1999)の関係的変化論は、社会的現象や歴史的出来事などについて、関係的な属性が実在的な変化に関与する可能性を示す。本稿はその議論を踏まえながら、関係的規定が後続構造の同一性を成立させる構成的前史にまで及ぶ条件を明らかにする。

注3 Epstein(2015)の grounding と anchoring の区別は、社会的構造の成立条件を分析するうえで重要である。本稿はこの区別を踏まえながら、構造の成立以前の履歴が、構造的不変項の実現にどのように参与するかという通時的な問題を追加する。

注4 本稿は、時間の存在論について、現在主義・永遠主義のいずれかを前提としない。ただし、時間的に異なる契機のあいだにも構成的依存関係が成立しうるという前提を採用する。そのため、時間論との整合性については、採用する時間論に応じた追加的な検討が必要になる。

注5 構造的不変項 K(S) は、研究者が任意に設定できるものではない。対象の同一性条件、構成要素の代替可能性、構造の存続条件および構成的依存関係を分析することによって確定されなければならない。

注6 反事実的依存を構成的依存の判定に利用する際には、代替可能性、過剰決定、複数の実現経路を考慮する必要がある。特定の出来事が欠けても同じ構造が成立しうる場合、その出来事が担っていた構成的役割まで不要であるとは限らない。

注7 本稿でいう歴史的な構成的前史は、歴史的に重要と評価された出来事の集合ではない。特定の構造 S の同一性条件を実現する構成的依存関係に含まれる履歴である。

注8 歴史的第一性は、歴史的な前史に属するすべての出来事に適用されるものではない。第一論文で定義した構造相対的な同一性決定の非対称性が、特定の規定次元において歴史的契機のあいだに成立する場合に限って適用される。

注9 歴史的遡及性は、後続する構造が最初から予定されていたという目的論を意味しない。過去の出来事は当時の条件と選択肢のもとで生じ、その後、実際に成立した構造との関係において構成的な前史として位置づけられる。

注10 本稿で用いる S(t₁) → H_S(t₀) の矢印は、後続構造が過去の出来事を因果的に生み出すことを意味しない。構造 S の成立によって、履歴 H(t₀) のうち何が S の構成的な前史であるかが確定するという、構造相対的な資格づけを表している。

注11 構造的遡及性と歴史的遡及性の統合は、両者が同一の対象に作用することを意味しない。構造的遡及性は内部の項に、歴史的遡及性は時間的に先行する履歴に作用する。同一の構造的不変項 K(S) を実現する構成的依存秩序が、異なる領域に及ぶという意味で統一される。

参考文献

Ⅰ.主要文献

Correia, Fabrice, and Giovanni Merlo. 2024. “Cross-Temporal Grounding.” Analytic Philosophy 65 (3): 333–352. https://doi.org/10.1111/phib.12287.

Epstein, Brian. 2015. The Ant Trap: Rebuilding the Foundations of the Social Sciences. Oxford: Oxford University Press.

Weberman, David. 1999. “Cambridge Changes Revisited: Why Certain Relational Changes Are Indispensable.” Dialectica 53 (2): 139–149. https://doi.org/10.1111/j.1746-8361.1999.tb00068.x.

Ⅱ.関連する形而上学研究

Correia, Fabrice, and Benjamin Schnieder, eds. 2012. Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality. Cambridge: Cambridge University Press.

Fine, Kit. 2012. “Guide to Ground.” In Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality, edited by Fabrice Correia and Benjamin Schnieder, 37–80. Cambridge: Cambridge University Press.

Lowe, E. J. 2012. “Asymmetrical Dependence in Individuation.” In Metaphysical Grounding: Understanding the Structure of Reality, edited by Fabrice Correia and Benjamin Schnieder, 214–233. Cambridge: Cambridge University Press.

Schaffer, Jonathan. 2010. “Monism: The Priority of the Whole.” The Philosophical Review 119 (1): 31–76.

Ⅲ.関連する時間論・歴史哲学

Crisp, Thomas M. 2009. “Presentism.” In The Oxford Handbook of Metaphysics, edited by Michael J. Loux and Dean W. Zimmerman, 211–245. Oxford: Oxford University Press.

Sedgwick, Sally. 2023. Time and History in Hegelian Thought and Spirit. Oxford: Oxford University Press.

Ⅳ.本研究の関連論文

OGK. 2026. 「構造的個体化から第一性へ――『第一性の遡及的成立』における構造的存在論」第一論文第二稿・改稿稿。

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