個体化根拠充足原理の正当化⑪――なぜ個体性を無根拠な事実として置くことを拒否するのか

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はじめに――「第一性の遡及的成立」を完成させるために

これまで私は、「第一性の遡及的成立」という哲学理論を構築し、その存在論的基礎として、あらゆる存在者が構造的な個体化根拠を必要とするという立場を提示してきた。

この理論の中心的な主張は、ある存在者が、あらかじめそれ自体で完結した個体として存在し、その後に構造や他の存在者との関係に入るのではない、ということである。むしろ、その存在者が何であるか、どのように他の存在者から区別されるか、そしてどのような位置を占めるかは、それを成立させる構造的秩序との関係において規定される。

しかし、この主張を厳密な哲学理論として成立させるためには、いくつかの重要な課題を解決しなければならない。

そこで、これから三回に分けて、以下の三つの研究課題を論証する。

第一に、個体化根拠充足原理の正当化。 なぜ個体性を無根拠な事実として置くことを拒否するのか。

第二に、構造的個体化の不可欠性。 なぜ限定性と差異を持つ個体性は、必ず構造的秩序を必要とするのか。

第三に、相互構成の論理。 構造と構造項が相互に成立することは、どのような意味で説明上の循環ではないのか。

これらは独立した問題ではない。第一の課題は、個体性に根拠を要求することの正当性を明らかにする。第二の課題は、その根拠がなぜ構造的なものでなければならないのかを示す。そして第三の課題は、構造と個体が互いに成立条件となるという本理論の中心的な主張を、説明上の循環に陥ることなく定式化する。

この三つの課題を解決することによって、「第一性の遡及的成立」を単なる着想ではなく、明示された原理と論証を持つ存在論として完成させることを目指したい。

第一回となる本稿では、個体化根拠充足原理の正当化を扱う。個体性を無根拠な事実として置くことを拒否する理由を、原始的個体性の立場との比較を通じて明らかにする。

今回の論証では、前回の文章から一歩進めて、個体化根拠充足原理そのものを、より厳密に正当化し直したい。

最初に、論証の到達点を明確にしておこう。

原始的個体性が論理的に不可能であることを証明することはできない。しかし、個体性を存在論的に説明することを目指す理論において、個体性だけを無根拠な基本事実として扱うことには、説明上の代償がある。その代償を明らかにし、構造的な個体化根拠を採用する方が、個体性の成立、差異、同一性をより統一的に説明できることを示す。

ここで重要なのは、個体性に説明を要求する理由を、「説明されていないものは不合理だから」とするのではないことだ。

原始的個体性を擁護する立場は、個体性を説明の終点として認めることができる。説明の連鎖がどこかで終わること自体は、必ずしも欠陥ではない。現代の形而上学でも、あらゆる事実に説明を要求する立場と、そもそも説明を要求することが適切ではない基本的事実を認める立場とのあいだには、明確な論争がある。

したがって、今回の課題は、原始的個体性を論理的に排除することではない。

問うべきなのは、個体性を原始的な事実として置くことが、個体性についての存在論的説明を行うために、どれほど適切な選択なのかということだ。

そのためには、まず個体性が説明を要求する事実であることを示し、次に、その説明を構造的な個体化根拠によって与えることの利益を明らかにしなければならない。さらに、その利益が構造的個体化の理論的負担を上回ることを、原始的個体性の立場との比較によって示す必要がある。

この順序で論証を進めよう。

  1. 1. 原始的個体性の立場を、最も強い形で捉える
  2. 2. すべての事実に説明を要求する必要はない。しかし、個体性は本当に説明不要な事実なのか
    1. 2.1 個体性は、他の存在論的事実に関与している
    2. 2.2 説明に関与する事実を、無条件に説明の対象外にできるのか
  3. 3. 個体性が説明を要求する事実であることを、さらに明確にする
    1. 3.1 数的同一性
    2. 3.2 個体としての同一性条件
    3. 3.3 個体の識別と個体の成立
    4. 3.4 なぜ個体性は自律的な基本事実ではなく、説明可能な事実なのか
  4. 4. 原始的個体性を採用することによって生じる説明上の代償
    1. 4.1 複数性の成立が基本的事実になる
    2. 4.2 個体間の差異が、独立した基本事実になる
    3. 4.3 個体の同一性条件を統一的に説明できない
    4. 4.4 個体性が他の事実から独立した「追加項」になる
  5. 5. 原始的個体性を拒否することは、一般的な充足理由律を採用することなのか
    1. 5.1 一般的な充足理由律と、個体化根拠充足原理は異なる
    2. 5.2 なぜ個体化の事実だけは説明を要求するのか
  6. 6. 個体化根拠充足原理は、なぜ単なる好みではないのか
    1. 6.1 原始的個体性の理論の利点
    2. 6.2 個体化根拠充足原理の利点
    3. 6.3 説明の統一性と存在論的な節約性
  7. 7. 構造的個体化の理論的負担を、正面から評価する
    1. 7.1 構造が独立した実体ならば、説明の負担は増大する
    2. 7.2 構造は、個体性を成立させる内在的な秩序である
    3. 7.3 構造そのものの存在理由と、個体性の成立条件は異なる
    4. 7.4 構造が説明を与えるための条件
  8. 8. 説明上の利益は、理論的負担を上回るのか
  9. 9. 最も強い反論――説明の終点を個体性に置いてもよいのではないか
    1. 9.1 すべての説明の終点が、同じ理論的価値を持つわけではない
    2. 9.2 個体性を説明の終点にすることは、理論の自由度を増やす
    3. 9.3 それでも原始的個体性は論理的には可能である
  10. 10. 個体化根拠充足原理の正当化を、最終的に定式化する
    1. 個体化根拠充足原理
    2. 論証の基本前提
    3. 結論
  11. 11. この原理は、どのような意味で正当化されたのか
  12. 12. 「第一性の遡及的成立」への接続
  13. 13. 最終結論――個体性を無根拠な事実として置くことを拒否する理由
  14. 参考文献・関連する議論
    1. 今回の論証の到達点

1. 原始的個体性の立場を、最も強い形で捉える

原始的個体性を擁護する哲学者は、次のように主張できる。

私の理論の目的は、すべての個体性をさらに別のものから説明することではない。個体性が原始的であることを認めるのが、私の存在論の立場なのだ。

この反論は、論理的に成立している。

たとえば、世界に二つの個体 A と B が存在するとする。その二つが質的にまったく同じ性質を持ち、内部的にも外部的にも区別できないとしても、数的には異なる二つの個体であると主張することは可能である。

この立場では、A と B の違いを、それぞれの性質や関係によって説明する必要はない。

A は A であり、B は B である。その数的な違い自体が、これ以上還元できない基本的事実なのである。

このような立場は、形而上学では一般にヘッキシティズム(haecceitism)と関連づけて論じられる。ヘッキシティズムは、質的な性質や関係に違いがなくても、個体の同一性に関して異なる可能性が成立しうると考える立場である。

したがって、構造的個体化存在論は、まず次のことを認めなければならない。

  1. 個体性を原始的な事実として認めることは、直ちに論理矛盾を生むわけではない。
  2. すべての事実に説明を要求することは、自明な論理法則ではない。
  3. 説明の連鎖が基本的事実に到達すること自体は、必ずしも不合理ではない。

ここを認めずに議論を進めるならば、構造的個体化の理論は、相手の立場を正確に理解していないことになる。

しかし、ここから、原始的個体性を採用する立場が、存在論的な説明という観点でも十分な理論であるとは限らない。

問題は、原始的個体性が論理的に可能かどうかではない。

問題は、個体性を説明の終点に置くことによって、存在論的な理論が何を説明できなくなるのかという点にある。

2. すべての事実に説明を要求する必要はない。しかし、個体性は本当に説明不要な事実なのか

ここでは、まず二種類の事実を区別する必要がある。

第一は、存在論的な説明を要求することが適切な事実である。

第二は、そもそも「なぜそれが成立するのか」と問うことが適切ではない、自律的な基本事実である。

現代形而上学においても、この区別は重要である。たとえば、Shamik Dasguptaは、形而上学的な基礎づけを要求できる事実と、その問い自体が適切ではない自律的な事実とを区別し、すべての事実に無制限に説明を要求するのではなく、基礎づけに適した事実について説明を要求する形で充足理由律を定式化している。

この区別を採用するならば、問題は次のように言い換えられる。

個体性は、説明を要求することが適切な事実なのか。それとも、その問い自体が適切ではない自律的な基本事実なのか。

原始的個体性の擁護者は、後者を選択している。

しかし、その選択を採用するためには、個体性がなぜ自律的な基本事実であるのかを示す必要がある。

単に「個体性は原始的である」と宣言するだけでは、個体性を説明の終点に置くという立場を表明したことにはなるが、なぜそこを終点にすべきなのかまでは明らかにならない。

ここで、重要な論点が現れる。

2.1 個体性は、他の存在論的事実に関与している

ある個体が存在するとき、その個体の個体性は、単独で孤立した事実として存在しているわけではない。

個体性は、少なくとも次のような事実と密接に関係している。

  • どのような性質が、どの個体に属するのか。
  • どのような部分が、どの個体を構成しているのか。
  • どのような関係が、どの個体とどの個体とのあいだに成立するのか。
  • どのような変化を通じて、同一の個体が存続するのか。
  • ある個体が別の個体から数的に区別されるのは、どのような理由によるのか。

これらは、単に個体性を認識するための問いではない。

個体がどのような存在者として成立しているのかを説明するための、存在論的な問いである。

たとえば、ある性質が個体 A に属しているという事実は、性質だけでは説明できない。その性質を担うものが、なぜ A という個体なのかという問いが生じる。

また、ある部分が個体 A を構成しているという事実についても、なぜその部分が A の部分であり、別の個体の部分ではないのかという問いが生じる。

つまり、個体性は、性質の帰属、部分と全体の関係、個体間の関係、時間的な同一性など、さまざまな存在論的事実が成立する際の条件に関与している。

このことから、個体性は、単に説明の対象になりうるだけでなく、他の事実を説明する際にも重要な役割を果たしていることが分かる。

2.2 説明に関与する事実を、無条件に説明の対象外にできるのか

ここで、次の問題を考えよう。

ある事実 F が、他の事実を説明するための重要な前提として用いられているとする。

その一方で、F 自体については、どのような成立条件も問わないとする。

このような理論は、論理的に矛盾しているわけではない。

しかし、その理論は、説明のなかで重要な役割を担う事実について、その成立条件を初めから説明の対象外にしている。

個体性についても同じ問題が生じる。

個体性は、性質の帰属、部分と全体の構成、個体間の関係、同一性の維持などを理解する際に重要な役割を担っている。

それにもかかわらず、その個体性だけは、成立根拠を持たない基本的事実として扱われる。

ここには、説明上の非対称性が生じている。

もちろん、すべての説明の前提が、それ自身について同じ種類の説明を要求されなければならないわけではない。

しかし、個体性が他の存在論的事実を理解するための重要な条件として用いられているのであれば、なぜ個体性そのものについては説明を要求しないのか、その理由が必要になる。

したがって、個体化根拠充足原理は、次のような問題提起から始まる。

個体性が他の存在論的事実の成立に関与し、それらを説明するための条件となるのであれば、個体性そのものだけを無条件に説明対象から除外することには、独立した正当化が必要である。

ここで、個体性を説明対象として維持する理由が生まれる。

ただし、これだけで原始的個体性が反駁されたわけではない。相手は、個体性が他の事実の説明に関わるとしても、個体性自体は自律的な基本事実であると答えることができるからだ。

したがって、さらに、原始的個体性を採用することによって生じる説明上の代償を明らかにする必要がある。

3. 個体性が説明を要求する事実であることを、さらに明確にする

ここで、「個体性を説明する」という課題そのものを明確にしておこう。

個体性についての説明といっても、何を説明するのかが曖昧なままでは、原始的個体性への批判も曖昧になる。

そこで、次の三つを区別する。

3.1 数的同一性

数的同一性とは、あるものが他のものと同一であるか、異なるものであるかという問題である。

ここで問題にするのは、単純な論理的同一性 x = x ではない。

問題は、なぜある存在者が、他の存在者とは異なる一つの個体として成立しているのかということである。

たとえば、ある世界に二つの個体が存在するというとき、そこには単に二つの名前があるのではない。現実に二つの存在者があるという存在論的な複数性がある。

したがって、個体化の説明には、なぜ一つではなく二つの個体が成立しているのか、また、それらがなぜ互いに異なる個体なのかという問いが含まれる。

3.2 個体としての同一性条件

次に、あるものが、他のものではなく、そのものとして成立するための条件である。

これは、対象にどのような性質があるのかという問いだけではない。

ある対象がどのような性質を変化させても同じ個体であり続けるのか、どのような変化によって別の個体になるのかという問いを含む。

つまり、個体性には、あるものが一定の個体として成立するための構成条件と、その個体が同一性を維持する条件が関係している。

3.3 個体の識別と個体の成立

さらに、私たちがある対象を他の対象から識別できることと、その対象が存在論的に他の対象から区別されていることは異なる。

たとえば、私たちが二つの対象を見分けられないとしても、両者が数的に同一であるとは限らない。

反対に、私たちが二つの対象を異なるものとして認識できるからといって、その認識が両者の存在論的な差異を成立させているわけでもない。

したがって、個体化根拠充足原理が対象とするのは、認識上の識別ではない。

それは、数的同一性、個体としての同一性条件、そして個体間の差異が、どのような存在論的根拠によって成立しているのかという問題である。

この区別は、現代の個体化論でも重要である。数学的対象の個体化を論じたAssadianとFraserの2025年の論文は、個体化を数的同一性と相異性の事実を基礎づける問題として扱い、内在的性質、関係、基体という複数の個体化の仕方を比較している。

この点から、今回の議論にとって重要なことが分かる。

個体性の成立は、単に「その対象が存在する」という事実に尽きない。数的に異なるものが存在すること、対象が一定の個体として成立すること、そして同一性が維持されることは、それぞれ存在論的な説明を要求しうる異なる事実なのである。

3.4 なぜ個体性は自律的な基本事実ではなく、説明可能な事実なのか

ここで、原始的個体性の擁護者は、なお次のように反論できる。

個体性が他の事実に関係していることは認める。しかし、個体性そのものは自律的な基本事実であり、説明を要求する対象ではない。

この反論に対して、私たちは、個体性が論理的に必ず説明可能であるとは主張しない。

ここでの論点は、個体性を自律的な基本事実として扱うことが、理論的にどのような選択を意味するかである。

個体性が、性質の帰属、部分と全体の構成、個体間の関係、同一性の維持などに関わるならば、個体性は他の事実から完全に切り離されたものではない。

それらの事実を説明しようとする理論は、個体性を一定の存在論的な役割を担うものとして用いている。

そのとき、個体性についての問いを原理的に停止することは、単に説明の連鎖をどこかで終わらせることではない。

他の存在論的事実を理解するために用いている個体性について、その成立条件を説明の対象から外すという、理論上の選択である。

その選択は可能である。しかし、説明を目指す理論にとっては、個体性を説明する可能性を放棄することになる。

ここに、個体化根拠充足原理を採用する積極的な理由がある。

4. 原始的個体性を採用することによって生じる説明上の代償

ここから、原始的個体性の理論が引き受ける説明上の代償を、具体的に検討しよう。

重要なのは、個体性が説明されていないということだけではない。

個体性を基本的事実として認めることによって、どのような存在論的問題が説明の対象から外されるのかを明らかにすることである。

4.1 複数性の成立が基本的事実になる

まず、なぜ複数の個体が存在するのかという問題である。

二つの個体 A と B が存在するとしよう。

両者の性質が質的に同一であり、内部的な構造にも差がなく、外的な関係にも差異がないとする。

この場合、原始的個体性の理論では、両者が数的に異なることそのものが基本的事実になる。

この立場は、二つの個体が存在することを否定しない。むしろ、それを説明の終点として認める。

しかし、その結果、なぜ一つではなく二つなのかという複数性の成立は、個体性を説明する理論の対象から外れる。

ここで問題にしているのは、二つの個体が存在することが論理的に不可能だということではない。

問題は、個体性を説明する理論が、二つの個体を成立させている根拠を何も示さず、単に二つあるという事実を受け入れることになる点である。

これは、複数性についての説明を放棄するという理論的選択である。

4.2 個体間の差異が、独立した基本事実になる

次に、個体間の差異である。

ある二つの個体が、どのような性質や関係によって区別されるのかを説明できる場合、個体間の差異には何らかの存在論的な根拠が与えられる。

しかし、質的にも構造的にも完全に区別できない個体を認めるならば、その差異は、他の事実によって説明されないものとして残る。

このような差異は、しばしば「裸の同一性」あるいは「裸の個体性」と関連づけられる。

ヘッキシティズムをめぐる議論では、質的な世界のあり方を変えずに、どの個体が存在するかだけが異なる可能性を認めることができる。その一方で、そのような個体の同一性の差異が、何によって基礎づけられるのかという問題が生じる。

ここで、構造的個体化存在論が問題にするのは、この差異が論理的に不可能かどうかではない。

むしろ、個体間の差異を説明することを目指す理論が、その差異を説明せず、独立した基本事実として残すことの理論的な意味である。

原始的個体性を採用すれば、個体間の差異は、それ以上の説明を必要としないものになる。

しかし、その場合、個体性の差異は、個体を構成する性質や関係とは独立した事実として存在論に追加される。

ここで、理論は、個体の性質や構造についての説明と、個体の数的な差異についての説明を分離することになる。

4.3 個体の同一性条件を統一的に説明できない

第三に、個体の同一性条件である。

ある個体が時間のなかで変化しながら存続するとき、何が変化しても同一の個体であり、何が変化すれば別の個体になるのかという問いが生じる。

この問いに対して、原始的個体性の理論は、同一性そのものを基本的事実として認めることができる。

しかし、その場合には、個体の性質、部分、関係、変化の条件とは別に、同一性を保証する独立した原理を措定することになる。

それは可能な立場だが、個体の同一性がどのような条件によって維持されるのかを説明することにはならない。

これに対して、構造的個体化存在論では、個体の同一性を、その個体を成立させる諸規定の組織化や、それらの変化可能な範囲に即して説明する。

この場合、同一性は、諸規定と無関係な追加的事実ではなく、構造的な秩序のなかに位置づけられる。

したがって、構造的個体化は、個体の統一性、差異、同一性を、共通の存在論的な枠組みで扱うことができる。

4.4 個体性が他の事実から独立した「追加項」になる

以上の三点をまとめると、原始的個体性を採用する理論には、次のような構造が生じる。

ある個体には、性質がある。部分がある。関係がある。変化がある。

しかし、その個体が数的にその個体であることは、これらとは独立した基本的事実として残る。

すると、個体性は、対象を構成する諸規定や関係とは別に、さらに追加された存在論的な事実になる。

もちろん、原始的個体性の擁護者は、それを追加的な存在論的負担とは考えないかもしれない。個体性は、そもそも個体という概念に含まれているのだから、別の説明は必要ないと主張することもできる。

しかし、構造的個体化存在論から見ると、ここには説明上の問題がある。

個体性を構成する諸規定や関係について説明を与えながら、その個体性そのものを、それらから独立した基本的事実として残すならば、個体性は構成的な説明の外部に置かれることになる。

その結果、個体の統一性、差異、同一性を一つの存在論的な原理によって説明する可能性が失われる。

これが、原始的個体性を採用することによる、最も重要な説明上の代償である。

5. 原始的個体性を拒否することは、一般的な充足理由律を採用することなのか

ここで、重要な疑問がある。

個体性を無根拠な事実として置くことを拒否するならば、すべての事実には十分な理由があるという、ライプニッツ的な充足理由律を採用しなければならないのではないか。

そのように考えるならば、構造的個体化存在論は、非常に強い形而上学的主張を引き受けることになる。

しかし、今回の理論は、そのような一般的な充足理由律を必要としない。

5.1 一般的な充足理由律と、個体化根拠充足原理は異なる

一般的な充足理由律は、あらゆる事実、あるいは一定の範囲に属するすべての事実について、十分な理由を要求する。

その強い形では、原始的な事実や説明不能な事実を認めない。

これに対して、個体化根拠充足原理は、あらゆる事実に説明を要求するものではない。

その対象は、個体性の成立である。

したがって、次のような主張を必要としない。

  • あらゆる存在者には、外的な原因がある。
  • あらゆる事実には、さらに別の事実による説明がある。
  • 世界全体の存在にも、必ず別の存在者による説明がある。
  • すべての存在論的な事実は、無限に遡って説明されなければならない。

個体化根拠充足原理が要求するのは、あるものが一つの個体として成立することについて、その構成的な根拠を明らかにすることだけである。

この意味で、個体化根拠充足原理は、一般的な充足理由律を限定した原理である。

5.2 なぜ個体化の事実だけは説明を要求するのか

では、なぜ個体性について説明を要求するのか。

その理由は、個体性が、ある存在者を他の存在者から区別し、一つの存在者として成立させるための構成的な条件だからである。

個体性を説明するということは、単に「なぜその対象が存在するのか」を問うことではない。

その対象がなぜ一つの個体なのか、どのような規定によって他のものから区別されるのか、どのような条件によって同一性を維持するのかを問うことである。

この問いは、個体性の概念そのものに関わっている。

つまり、個体性を存在論的に説明するという課題を引き受けるならば、個体性の成立条件を問うことは、その理論の外部から課された余計な要求ではない。

それは、個体性を説明するという理論の目的そのものに含まれている。

したがって、次のように整理できる。

個体化根拠充足原理は、すべての事実に説明を要求する一般的な充足理由律ではない。個体性の成立を説明するという課題を引き受ける理論において、その個体性がどのような構成的条件によって成立するのかを明らかにするための限定的な原理である。

この限定によって、原始的個体性への批判は、一般的な充足理由律の正当性をめぐる論争から切り離される。

6. 個体化根拠充足原理は、なぜ単なる好みではないのか

ここまでの議論によって、個体性を説明することには理論的な意味があることが明らかになった。

しかし、まだ問題が残っている。

説明を求めることに意味があるとしても、なぜ原始的個体性を採用するより、個体化の根拠を求める方が合理的なのだろうか。

ここで、理論の評価基準を明確にしよう。

ある存在論が他の存在論より優れているかどうかを判断する際には、少なくとも次の四つを比較する必要がある。

  1. 説明範囲: どのような存在論的事実を説明の対象にできるのか。
  2. 説明力: それらの事実の成立条件を、どの程度具体的に明らかにできるのか。
  3. 理論的一貫性: 複数の問題を共通の原理によって統一的に扱えるのか。
  4. 存在論的な節約性: 説明のために、どれほど多くの独立した基本的事実を追加する必要があるのか。

これらは、理論の優劣を機械的に決定する基準ではない。しかし、理論的な選択を単なる好みから区別するための合理的な比較基準にはなる。

6.1 原始的個体性の理論の利点

まず、原始的個体性の理論には明確な利点がある。

個体性そのものを基本的事実として認めることによって、それ以上の個体化の説明を要求する必要がなくなる。

この立場は、個体性の説明を行わない代わりに、理論を簡潔に保つことができる。

また、個体性を原始的なものとして認める立場は、個体の性質や関係について、別の種類の説明を与えることもできる。

したがって、原始的個体性の理論は、説明が何もできない理論ではない。

その長所は、個体性そのものについての説明を要求しないことで、理論の基本構成を簡潔にできる点にある。

6.2 個体化根拠充足原理の利点

それに対して、個体化根拠充足原理を採用する理論には、別の長所がある。

個体性を説明の対象として維持することによって、次の問いを共通の枠組みで扱うことができる。

  • なぜ、その対象は一つの個体なのか。
  • なぜ、その対象は他の対象とは異なるのか。
  • なぜ、その対象はそのような性質を持つ個体なのか。
  • なぜ、その対象は一定の変化のなかで同一性を維持するのか。
  • なぜ、その対象はある部分を持ち、別の部分を持たないのか。

これらの問いは、個体性の異なる側面を扱っているが、個体がどのように成立するのかという共通の問題に属している。

個体化根拠充足原理は、それらを独立した基本事実として並べるのではなく、個体化の根拠という共通の観点から検討することを可能にする。

この点で、個体化根拠充足原理には、説明の統一性という利点がある。

6.3 説明の統一性と存在論的な節約性

さらに、個体性を構造的に説明できる場合には、独立した原始的個体性を追加する必要がなくなる。

たとえば、ある対象の統一性、数的な差異、同一性条件が、その対象の内部的な規定や関係の秩序によって説明できるとしよう。

その場合、その秩序とは別に、さらに「この対象をこの対象にしている原始的な何か」を措定する必要はない。

構造的な秩序が、個体性を成立させる根拠をすでに与えているからである。

もちろん、構造的個体化の理論は、その構造の内容を具体的に示さなければならない。

構造が何を意味するのか、どのような関係や規定が個体の同一性を成立させるのかを明らかにできなければ、理論は原始的個体性を別の名前に置き換えただけになる。

したがって、理論の優位性は、単に構造という概念を導入したことによって生じるのではない。

個体性の成立条件を構造的に説明することによって、原始的個体性という独立した基本的事実を追加せずに済む場合にこそ、存在論的な節約性が生じる。

この点で、個体化根拠充足原理は、単に多くの説明を要求する原理ではない。

それは、個体性に関する複数の問題を統一的に説明し、独立した原始的事実を減らす可能性を持つ原理なのである。

7. 構造的個体化の理論的負担を、正面から評価する

ここで、構造的個体化の理論に課される負担を検討しなければならない。

原始的個体性を拒否するならば、構造そのものがどのように成立するのか、そして構造がどのように個体性を成立させるのかを説明する必要がある。

この負担を避けることはできない。

7.1 構造が独立した実体ならば、説明の負担は増大する

構造を、個体とは別に存在する独立した実体として措定すると、構造的個体化の理論は、個体性の説明のために新たな存在者を追加することになる。

その場合、次の問いが生じる。

  • その構造は、なぜその構造なのか。
  • その構造自身は、どのように個体化されているのか。
  • 構造と個体は、どのような関係で結びついているのか。
  • 構造と個体を結びつける関係は、さらに別の構造を必要とするのか。

このような理論では、個体性の説明が新たな存在論的問題を生み出す。

したがって、構造的個体化存在論は、構造を個体とは独立した実体として措定してはならない。

7.2 構造は、個体性を成立させる内在的な秩序である

ここで、これまでの議論を踏まえ、構造を次のように理解する。

構造とは、ある存在者を一定のものとして成立させる諸規定が、相互の差異、限定、統一、同一性の条件において組織化されている内在的な秩序である。

この理解では、構造は、個体と並んで存在する第二の実体ではない。

構造は、個体がその個体として成立していることの構成的なあり方である。

したがって、個体と構造は、互いに独立した二つの存在者として措定される必要はない。

個体は、構造の内部で一つのものとして成立する。構造は、その個体を構成する諸規定と関係の秩序として成立する。

この意味で、構造的個体化は、個体性を説明するために、新たな独立実体を追加する理論ではない。

7.3 構造そのものの存在理由と、個体性の成立条件は異なる

ここで、もう一つの区別が必要になる。

構造的個体化の理論が、個体性を構造によって説明するとしても、その構造自体が存在する理由まで説明できるとは限らない。

しかし、この二つの問いは異なる。

  • なぜ、その構造的秩序が存在するのか。
  • なぜ、その構造的秩序の内部で、あるものが一つの個体として成立するのか。

個体化根拠充足原理が直接扱うのは、後者である。

構造的個体化の理論は、世界全体の存在理由を説明する必要はない。個体が一つの個体として成立するための構成条件を説明できれば、その範囲で理論の目的を果たすことができる。

したがって、構造的個体化の理論が、構造自体の存在理由を説明しないということは、個体性の説明に失敗していることを意味しない。

この区別によって、構造的個体化の理論が引き受けるべき負担を限定することができる。

7.4 構造が説明を与えるための条件

ただし、構造を導入しただけでは、個体性を説明したことにはならない。

構造的個体化が本当の説明として成立するためには、少なくとも次の条件を満たす必要がある。

  1. 非循環性: 個体性を説明する構造が、説明対象である個体の完成した個体性を前提にしていないこと。
  2. 識別力: 構造が、当該個体と他の可能な個体との違いを、何らかの仕方で規定していること。
  3. 構成力: 構造が、単に個体の性質を記述するのではなく、個体の統一性や同一性条件を成立させていること。
  4. 説明の統合性: 可能な範囲で、個体の統一性、差異、同一性などを共通の構成的秩序に結びつけていること。

これらの条件を満たさない場合、構造的個体化の理論は、個体性を本当に説明しているとは言えない。

反対に、これらの条件を満たすならば、構造は単なる説明上の名称ではなく、個体性の成立根拠として機能している。

8. 説明上の利益は、理論的負担を上回るのか

ここまでの議論を踏まえて、原始的個体性の理論と構造的個体化の理論を比較しよう。

比較項目原始的個体性の理論構造的個体化の理論
個体性の成立基本的事実として認める構造的な根拠によって説明する
数的な差異原始的な差異として認めうる構造的な差異や位置によって説明する
個体の統一性個体の基本的なあり方として認めうる諸規定の組織化によって説明する
同一性の条件原始的な同一性として認めうる構造的な秩序や維持条件によって説明する
理論の簡潔さ比較的簡潔になりうる構造概念と個体化の仕組みの説明が必要
説明の統一性個体性自体の説明は必須ではない統一性・差異・同一性を共通の枠組みで扱える
主な理論的負担個体性を説明の終点とする理由が必要構造が個体性を成立させる仕組みの提示が必要

この比較から、構造的個体化の理論が、あらゆる点で原始的個体性の理論より優れていると結論することはできない。

原始的個体性の理論には、簡潔さという利点がある。構造的個体化の理論が具体的な説明に失敗するならば、原始的個体性の理論の方が優れている可能性は残る。

しかし、構造的個体化の理論が、個体の統一性、差異、同一性を、実際に一つの構造的な秩序から説明できるならば、状況は変わる。

その場合、原始的個体性の理論は、構造的な説明によって理解できる個体性を、さらに独立した基本的事実として認めることになる。

それに対して、構造的個体化の理論は、個体性の成立条件を構造的に説明することによって、その追加的な仮定を不要にできる。

したがって、構造的個体化の理論が説明上の利益を得るためには、次の比較が成立しなければならない。

  • 原始的個体性の理論が、説明の終点として残す個体性を、構造的個体化の理論は説明できる。
  • その説明のために導入される構造は、個体性を言い換えたものではない。
  • 構造は、個体性の成立条件を実際に規定する。
  • 構造の導入によって生じる理論的負担は、説明の統一性と存在論的な節約性によって正当化される。

これらを満たす場合、構造的個体化の理論は、説明の範囲を広げながら、独立した原始的個体性を減らすことができる。

ここに、構造的個体化の理論の優位性がある。

したがって、個体化根拠充足原理を採用する理由は、説明を増やすこと自体にあるのではない。

個体性を構造的に説明することによって、個体性についての複数の問題を統一的に扱い、原始的な個体性という独立した仮定を不要にできる可能性にある。

9. 最も強い反論――説明の終点を個体性に置いてもよいのではないか

ここで、原始的個体性を擁護する立場から、最後の反論を考えよう。

個体性が原始的な事実であることを認めることは、説明上の代償ではない。すべての説明がどこかで終わらなければならない以上、個体性をその終点として認めてもよい。構造的個体化の理論は、説明の終点を別の場所に移しているだけではないか。

この反論は、今回の論証にとって最も重要である。

なぜなら、構造的個体化の理論も、最終的には何らかの基本的な構造的秩序を認めることになるからだ。

したがって、個体性を説明の終点とする立場に対して、単に「構造によって説明する」と述べるだけでは、決定的な優位性を示せない。

ここで、説明の終点をどこに置くべきかという問題を考えなければならない。

9.1 すべての説明の終点が、同じ理論的価値を持つわけではない

説明の連鎖がどこかで終わること自体は、必ずしも不合理ではない。

しかし、説明の終点として何を採用するのかは、理論全体の説明力に影響する。

たとえば、ある理論が、個体の性質や部分、関係、同一性について、統一的な構造的説明を与えられるにもかかわらず、個体性だけは説明の対象から除外するとしよう。

この場合、個体性を説明の終点に置くことで、理論は説明できるはずの問題を、説明対象から外していることになる。

もちろん、原始的個体性の擁護者は、その問題を説明する必要はないと答えられる。

しかし、その回答は、個体性の成立条件を説明するという課題を放棄したことを意味する。

これに対して、構造的個体化の理論は、個体性を説明対象として維持する。

そして、その個体性を成立させる構造的な条件を明らかにする。

したがって、両者の違いは、説明の終点がどこにあるかという形式的な違いではない。

どの事実を説明の対象として維持し、どの事実を基本的なものとして認めるかという、説明範囲の違いである。

9.2 個体性を説明の終点にすることは、理論の自由度を増やす

ここで、もう一つの問題がある。

個体性を原始的な事実として認めると、どのような質的・構造的な世界が成立していても、それとは独立して、どの個体が存在しているのかという事実を追加できるようになる。

つまり、質的・構造的な世界のあり方が同じであっても、個体の同一性だけが異なる可能性を認めることになる。

ヘッキシティズムは、まさにこのような可能性をめぐる立場である。質的に同じ世界であっても、どの個体が存在するかによって異なる可能性が成立すると考える。

しかし、構造的個体化の理論から見ると、この自由度は、個体性の説明を放棄することによって生じている。

なぜなら、個体性が構造とは独立した事実であるならば、構造的な秩序がどれほど明らかになっても、個体の数的な同一性をそれだけでは決められないからだ。

この場合、構造的な説明は、個体性の最終的な成立条件を与えることができない。

それに対して、構造的個体化の理論では、個体の同一性は、構造的な秩序に結びつけられる。

そのため、どのような個体が成立するのかという問題は、構造のなかでどのような位置や役割が成立しているのかという問題と結びつく。

この点で、構造的個体化の理論は、個体の同一性を、構造から独立した追加的な事実として残さない。

9.3 それでも原始的個体性は論理的には可能である

ここで、最後に重要な限定を加えておこう。

構造的個体化の理論は、原始的個体性が論理的に不可能であることを証明するものではない。

個体性を説明の終点として認める立場は、ひとつの一貫した形而上学的選択として残る。

したがって、構造的個体化の理論が示すのは、原始的個体性の論理的矛盾ではない。

それは、個体性を説明対象から除外することによって、どのような説明上の可能性が失われ、どのような独立した基本事実が残るのかということである。

そのうえで、個体性を説明の対象として維持し、構造的な成立条件を明らかにする方が、個体性についての存在論的な説明を行うという目的に適していると主張するのである。

10. 個体化根拠充足原理の正当化を、最終的に定式化する

ここまでの議論を踏まえて、個体化根拠充足原理を、より厳密に定式化しよう。

個体化根拠充足原理

ある存在者が一定の個体として成立しているという事実を存在論的に説明しようとする理論は、その個体の数的な同一性、他の個体からの差異、個体としての統一性を、原始的な事実として無条件に措定するのではなく、それらを成立させる構成的な根拠を明らかにしなければならない。

この原理には、四つの限定が含まれている。

第一に、あらゆる事実ではなく、個体性の成立を対象とする。

第二に、個体の外部に別の存在者を要求するものではない。個体の内在的な規定や、構造的な関係による説明を認める。

第三に、個体性を必ず別の個体によって説明するという意味ではない。個体性の成立根拠は、内部的な規定、自己関係的な秩序、全体における位置、あるいはそれらの組み合わせでありうる。

第四に、個体性を構成する根拠を明らかにすることと、存在者がそもそも存在する理由を説明することは区別される。

この限定によって、個体化根拠充足原理は、一般的な充足理由律から独立した、個体性についての限定的な存在論的原理として定式化できる。

論証の基本前提

前提I:個体性の説明可能性

個体の数的同一性、他の個体との差異、個体としての統一性は、存在論的に説明の対象となりうる事実である。

前提II:個体性の説明上の重要性

個体性は、性質の帰属、部分と全体の構成、個体間の関係、時間的な同一性など、他の存在論的事実を理解するうえで重要な役割を持つ。

前提III:原始的個体性による説明の停止

個体性を原始的な事実として無条件に認める立場は、個体性の成立条件についての説明を、理論の必須の課題から外す。

前提IV:構成的説明の理論的利益

個体性を構成的な根拠によって説明できる場合、個体の統一性、差異、同一性を共通の存在論的な枠組みで扱うことができる。また、個体性を独立した原始的事実として追加する必要がなくなる。

前提V:説明上の負担との比較

構造的個体化の理論が、その構造の内容を非循環的かつ具体的に示せるならば、その説明上の利益は、構造を導入することによる理論的負担を正当化しうる。

結論

したがって、個体性を存在論的に説明することを目指す理論は、個体性を無条件に原始的な事実として措定するのではなく、その成立条件を説明する可能性を維持すべきである。

そして、個体性の成立条件を構造的な秩序によって説明できるならば、構造的個体化の理論は、原始的個体性の理論よりも、説明の統一性と存在論的な節約性を両立できる。

これが、個体化根拠充足原理を採用する積極的な理由である。

11. この原理は、どのような意味で正当化されたのか

最後に、今回の論証がどの程度の強さを持つのかを確定しておこう。

今回の論証は、原始的個体性が論理的に不可能であることを証明したものではない。

また、すべての存在論的事実に説明を要求する一般的な充足理由律を証明したものでもない。

その代わり、次のことを示した。

第一に、個体性は、単に存在者を認識するための条件ではない。数的同一性、個体の統一性、個体間の差異、同一性の維持に関わる、存在論的な事実である。

第二に、これらの事実は、個体性についての存在論的説明を行う理論にとって、説明対象となりうる。そのため、個体性を最初から説明対象から除外することには、独立した正当化が必要である。

第三に、原始的個体性を採用することは、個体の統一性、差異、同一性を説明の対象から外し、それらを独立した基本的事実として残すという理論的選択を意味する。

第四に、個体性を構造的に説明することには、個体の統一性、差異、同一性を共通の枠組みで扱い、独立した原始的個体性を追加する必要をなくせるという説明上の利益がある。

第五に、この利益は、構造的個体化の理論が非循環的で具体的な構成的説明を与えられる場合に成立する。単に構造という名前を導入するだけでは、理論の優位性は生じない。

以上から、個体化根拠充足原理を採用する理由は、個体性が論理的に必ず説明されなければならないからではない。

それは、個体性を存在論的に説明するという課題を引き受ける理論において、個体性を最初から説明対象から除外することよりも、その成立条件を構造的に説明することの方が、説明上の統一性と存在論的な節約性を得られる可能性を持つからである。

ここで、原始的個体性を認めること自体が間違いなのではない。

しかし、その立場を採用することは、個体性の成立条件を説明することを放棄するという理論的代償を伴う。

それに対して、構造的個体化存在論は、個体性を説明の対象として維持し、その成立根拠を明らかにしようとする。

この違いによって、個体化根拠充足原理は、単なる好みではなく、個体性を説明する存在論における合理的な原理として正当化される。

12. 「第一性の遡及的成立」への接続

ここで、今回の結論を「第一性の遡及的成立」全体に接続しよう。

これまでの議論によって、個体性を原始的な事実として措定する必要がない理由が明らかになった。

個体性は、あるものが一定の個体として成立するための構成条件によって説明されるべきである。

その条件は、次のような構造的な秩序に求められる。

  • あるものを一定のものとして規定する限定性。
  • 他のものから区別する差異。
  • 複数の規定を一つのものとして成立させる統一性。
  • 変化のなかで同一性を維持する条件。

そして、これらを相互に関係づける秩序が、構造である。

このことは、第一性の問題にも重要な意味を持つ。

あるものが第一であるという事実も、構造から独立した原始的な性質として認める必要はない。

あるものが第一であることは、そのものが一定の構造の内部で占める位置と、その位置を成立させる非対称的な関係に即して理解される。

したがって、個体性と第一性は、いずれも構造から独立した原始的な事実として措定される必要はない。

ただし、両者は同じものではない。

個体性は、あるものが一つの個体として成立することに関わる。

第一性は、その個体が特定の構造において、他のものに対して優先的な位置を占めることに関わる。

この区別を維持すれば、「第一性の遡及的成立」は、次のような存在論的構想として定式化できる。

  1. 個体性の成立: 個体性は、構造的な個体化根拠によって説明される。
  2. 構造の成立: 構造は、差異化された契機とその関係の秩序によって成立する。
  3. 相互構成: 構造は契機によって構成され、契機は構造によって個体化される。この二つは異なる存在論的関係である。
  4. 第一性の成立: 第一性は、構造内部に成立する非対称的な優先関係によって規定される。

ここで、最初の「順番の転倒」は、単に私たちの認識の順序を入れ替えるものではない。

通常、私たちは、あるものが先に独立した個体として存在し、その後に関係や構造のなかに置かれると考える。

しかし、構造的個体化存在論では、個体性そのものが構造的な秩序によって成立する。

そして、第一性もまた、その構造の内部における非対称的な優先関係によって成立する。

したがって、個体性も第一性も、構造に先立って独立に所有される性質ではない。

個体性は構造的な秩序において成立し、第一性はその秩序の内部における非対称的な関係において成立する。

これが、個体化根拠充足原理を「第一性の遡及的成立」に組み込むことの存在論的な意味である。

13. 最終結論――個体性を無根拠な事実として置くことを拒否する理由

今回の論証によって、最初の問いに対する答えが得られた。

なぜ個体性を無根拠な事実として置くことを拒否するのか。

それは、個体性が論理的に原始的でありえないからではない。

また、すべての事実に説明を要求する一般的な充足理由律を無条件に採用するからでもない。

個体性を無根拠な事実として置くことを拒否する理由は、次の点にある。

第一に、個体性は、単に対象を認識するための条件ではなく、数的同一性、個体の統一性、個体間の差異、同一性の維持に関わる存在論的な事実である。

第二に、個体性は、性質の帰属、部分と全体の構成、個体間の関係など、他の存在論的事実を理解するためにも重要な役割を持っている。

第三に、個体性を原始的な事実として認めることは、それらの問題と個体性そのものとの関係を、説明の対象から外すという理論的選択を意味する。

第四に、個体性を構造的に説明することができるならば、個体の統一性、差異、同一性を共通の存在論的な枠組みで扱うことができる。

第五に、その構造的な説明が成功する場合には、個体性を独立した原始的事実として追加する必要がなくなる。この点で、構造的個体化の理論は、説明の統一性と存在論的な節約性を両立できる。

以上から、今回の論証の結論を次のように定式化できる。

個体化根拠充足原理は、個体性を存在論的に説明するという課題を引き受ける理論において、個体の数的同一性、他の個体との差異、個体としての統一性を、無条件に原始的な事実として措定することを拒否し、それらの成立条件を構成的な根拠によって説明することを要求する原理である。個体性を構造的に説明できる場合には、構造的個体化の理論は、原始的個体性を独立した基本的事実として追加する必要をなくし、個体性に関する複数の問題を、より統一的な存在論的枠組みのもとで理解することを可能にする。

この結論は、原始的個体性の立場を論理的に排除するものではない。

しかし、原始的個体性を採用することが、個体性の成立条件を説明することを放棄するという理論的代償を伴うことを明らかにした。

それに対して、構造的個体化存在論は、その説明課題を維持する。

したがって、個体化根拠充足原理を採用する理由は、個体性が説明されなければならないという無条件の要求にあるのではない。

個体性を存在論的に説明するという課題を引き受けるならば、その個体性を無根拠な事実として最初から説明対象から除外するよりも、その成立条件を構造的に探究する方が、より大きな説明上の利益を得られるからである。

これが、今回の論証によって確定した結論である。

そして、この原理によって、「第一性の遡及的成立」の最初の基礎原理が明確になった。

個体性は、原始的な事実として存在するのではなく、構造的な秩序によって成立する。

第一性もまた、構造から独立した原始的な属性として存在するのではなく、構造内部の非対称的な関係によって成立する。

この二つの命題が結びつくことで、「第一性の遡及的成立」は、個体性と第一性の成立条件を構造的に説明する存在論として、その基本的な論証を獲得する。

参考文献・関連する議論

  • “Principle of Sufficient Reason,” Stanford Encyclopedia of Philosophy. 充足理由律の複数の定式化、説明不能な基本事実、原理の射程をめぐる議論。
  • “Metaphysical Explanation,” Stanford Encyclopedia of Philosophy. 形而上学的説明の種類、基礎づけ可能な事実と自律的な事実の区別。
  • “Haecceitism,” Stanford Encyclopedia of Philosophy. 個体の質的性質から独立した同一性、裸の個体性、同一性事実の基礎づけをめぐる議論。
  • Bahram Assadian and Robert Fraser, “The individuation of mathematical objects,” Synthese, 205, Article 6, 2025. 個体化を内在的性質、関係、基体という三つの観点から検討する。

これらの文献は、今回の結論をそのまま証明するものではない。しかし、個体性を原始的な事実として認める立場、個体性に説明を要求する立場、構造や関係によって個体化を説明する立場が、現代形而上学において実際に論じられていることを確認するうえで重要である。

今回の論証の到達点

今回の論証で確定したのは、個体化根拠充足原理が、あらゆる事実に無条件で説明を要求する一般的な充足理由律ではなく、個体性を説明するという理論的課題を引き受けるための限定的な存在論的原理だということである。

また、その原理を採用する積極的な理由は、原始的個体性を論理的に排除することではなく、個体性を説明の対象として維持することによって、統一性、差異、同一性を共通の枠組みで説明できる点にある。

構造的個体化の理論が実際にその説明を与えられるならば、原始的個体性という独立した基本的事実を追加する必要はなくなる。

これによって、個体化根拠充足原理を採用する哲学的理由が、理論的な比較に基づいて確定された。

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