映画「PERFECT DAYS」私的考察【ネタバレあり】

雑記
当サイトはアフィリエイト広告を利用しています
¥4,927 (2024/05/20 21:19時点 | Amazon調べ)

wim wendersの作品を見るのはこれで二作目になります。一作目は「パリ・テキサス」。これは確か大学時代にわざわざDVDを買い求め、ことあるごとに観ているほどに好きな作品です。

今回「PERFECT DAYS」を鑑賞して、自らの心の琴線に触れられる思いがしましたので、私的に印象に残っている場面を取り上げて感想を書いてみたいと思います。

主人公の平山の生活には、部屋にテレビもなく、ネットもなく、新聞も読まず、ただ古いカセットテープの音楽と古本とフィルムカメラとトイレ掃除と植物と、日々の規則正しい生活があります。

端的に読み取れるメッセージとしては、

  • 禅的な清貧な生活、ミニマリズム。丁寧な暮らし。東京のような都会の生活の中にあって、世捨て人のような生活を送ることの美しさ、素晴らしさ。
  • 日々の一見単調な繰り返しの中にこそ人生の素晴らしさがあるのだということ。
  • 情報や物に翻弄される現代人への警鐘。

といったところでしょうか。

はたして自分はそこに自らの生活の理想を重ね、共感したのでしょうか。

映画を見終わって、今の自分の生活の方向性が間違ってはいないと認められたような安心感と、本当にこのような生活が完璧な生活なのかという疑いが混在するような、心地よさと不快感が同居するような感覚になりました。

以下で特に印象的な場面を取り上げてコメントしていきたいと思います。

木漏れ日

昼間の神社で毎日同じアングルで「木漏れ日」の写真をフィルムカメラで撮影する。そして、規則正しく現像する。写真を一枚一枚選別して取っておく写真はアルミ缶箱に入れて押し入れに。押し入れは月毎に仕分けられたアルミ缶箱でいっぱいになっている。

エンドクレジットの後で「木漏れ日」の説明文が映し出されます。外国人の視聴者向けに「木漏れ日」という言葉がもつ意味とイメージを説明するような内容だったとなんとなく記憶していますが、映画の最後にわざわざ説明するくらいですから、映画全体の重要なメッセージがこの「木漏れ日」に込められているのでしょう。

平山が日々撮影する「木漏れ日」は、同じ木々が作り出す決して同じになることはないが、同じような写真です。偶然が織りなす無限の異なるパターンの反復という哲学的なモチーフを思わせます。

平山は毎日同じように「木漏れ日」を撮影しますが、出来上がる写真の模様を意識的に決めることはできません。

それを決める権利は平山の側にはなく、「世界」の側に属しています。平山にできるのはただ写しとられたその写真を大切に自分のアルミ缶箱の中にしまっておくことだけです。

毎日同じアングルで「木漏れ日」を撮影する、そして出来上がった写真を保管しておく、という行為そのものが、平山の人生を映し出している、と感じました。

つまりけっして自分の思惑通りにはいかないのだということです。そのようなどうしようもない揺らぎさえも大切な「いま」として噛み締めること、味わうことの素晴らしさを伝えたいのだと感じました。

反復の中にあるかけがえのない差異

できるだけ他人と関係せず、自分自身の生活に閉じこもり、その自らの規則的な生活の中にささやかな自己満足をみつけ、同じことの反復のような毎日の中に、「かけがえのない差異」を見出して暮らしている平山。

どんなに自分だけの完璧な世界に閉じこもろうとも、その完璧な世界は他者によってこじ開けられ、厄介ごとに巻き込まれます。

しかし、そんな厄介ごとさえも、いやむしろそんな厄介ごとも含めて「かけがえのない差異」として受け止め、人生に満足しているような平山ですが、自分の内側に閉じこもっているようにみえて、一方では他人との関係性を求めてしまう人間の本能のようなものも垣間見えます。

日々の反復のなかでなんとなく顔見知りになって会釈するだけのか細い人間関係。

神社で昼食をとるとき隣のベンチで同じく昼食をとるOL風の女性や、奇妙な踊りをしているホームレスの男性。

「この世界には、たくさんの世界がある。つながっているように見えても、つながっていない世界がある・・・・」

姪のニコに対してさとすように話す平山ですが、そのような「つながっていない世界」のなかでさえ、「つながらずにはいられない」世界があるということなのでしょう。そのような逆説の中において、スピノザ的な因果関係の連鎖や、ホワイトヘッド的な有機体の哲学を感じてしまいました。

平山のチャーミングポイント

終始寡黙な人として描かれる平山ですが、一人で過ごすプライベートな時間においてはじつに感情豊かです。自分自身、身に覚えのあるようなハッとするシーンに溢れていました。

印象に残った平山のチャーミングポイントをいくつか挙げておきます。

  • 意中の女性に貢ぐために平山の大切なレコードを売り払おうとする職場の同僚タカシ。平山はそれを許さず無言で財布からお金を渡します。自分の車に戻り運転しながら、自らの感情に対して理解に苦しむようなおどけたような、狂ったような、コミカルな平山の表情。
  • 同僚のタカシが突然仕事を辞めてしまい、急遽タカシの分までトイレ掃除をこなし、くたくたになった表情で雇い主に対して悪態をつく平山。
  • アヤに突然キスされ、わかりやすすぎるくらいに車内で喜びの表情を浮かべる平山。
  • 意中の女性の元夫と初対面で急に影踏みをしよう、と言い出す平山。

まとめ

今回は映画「PERFECT DAYS」の感想を記事にしてみました。

率直にいって、いい映画です。

wim wenders感が滲み出している作品で、私の好みど真ん中、しみじみと人生を考えさせられるような、余白の多い映画でした。

哲学的なテーマにも通ずるものがあったため今回当ブログで取り上げてみることにしましたが、いかがだったでしょうか。

映画を観た感想などコメント欄からいただけると嬉しいです。

ではまた次回。

コメント

タイトルとURLをコピーしました